「リリ殿……ヴェルフ殿……どうしてここに?」
ふざけ半分で命達にちょっかいをかけてくる大勢の男神を退け、遠い目で見送ったヴェルフとリリの姿に命がうろたえながら、声を絞り出す。
姉妹のように一緒にうろたえる命と千草に向き合った二人は嘆息した。
「命様の様子がおかしかったので、失礼ですが付けてきました」
「一蓮托生の【ファミリア】になったんだ。隠し事はするな」
リリ、ヴェルフと言葉を告げられ、肩をすぼめる命。
「あ、あのっ、命を責めないでください……元はと言えば私のせいで……」
彼女を庇うように前に出て謝罪を繰り返す千草に己の赤い髪をかくヴェルフはそんな二人に謝罪ではなく、説明を求めた。
命と千草によると、極東の知り合いに似た人物をこの歓楽街で見たと聞いたらしい。
その人物が数年前から行方知れずとなっている者だったため、真偽を確かめに来たとのことだ。場所が場所なだけに誰にも相談することが出来ずに二人でここに向かったという。
「真偽を確かめるため、ですか。それは人伝に聞いた話だけで判断がつくようなものなのですか?
他人の空似という可能性の方が高いと思いますが……」
「そのお方の種族は珍しく……聞いた限りでは特徴も無視できないものばかりだったので……」
リリの疑問に命が答える。
結わえた黒髪を揺らす命は思いを持て余しているかのように、視線を地面に落とした。
「彼女は、自分達と違って高貴な身分です。そんなお方が歓楽街にいるなど、とても信じられず……この目で確かめずにはいられなかったのです」
「……高貴な身分、か」
歓楽街に訪れた動機を語る命。
一方で彼女の話を聞いていたヴェルフが高貴な身分という言葉に目を細める。
鍛冶貴族の血族である彼の反応を横目にリリが話を切り上げるように喋った。
「事情はわかりました。ですが、不用意です。この第三区画は歓楽街であると同時にあの派閥の勢力圏です。人探しでも難癖をつけられる可能性だってあります」
「はい……迂闊な行動をして申し訳ありませんでした……」
リリの注意に命と千草はしゅんと項垂れた。
十分に反省をしている二人を見遣りながら、余計な誤解を招く前にとりあえずここを離れようとヴェルフが提言する。
「……おい、ベルはどうした」
「えっ?」
そこでヴェルフは気付く。
ベルの姿がどこにもないことに。
「ベル殿もいらっしゃっていたんですか? 先程からお二人しかいませんでしたが……」
命の後に、千草が頷く。
自分達と彼女達が合流する前からいなかったという事実にヴェルフとリリは凍り付いた。
四人の間だけ音を奪われたかのように静まり返る。辺りから街の喧騒や娼婦達の笑い声が通り抜けていく。
ヴェルフは声を失い、リリは蒼白となり、全く同じことに同時に思い至った。
────まさか。
迷子になったと気付き、思わず道の中央に突っ立ったまま、僕は動けなくなった。
何とか平静を取り戻そうとしても、立ち並ぶ石造の娼館の中から聞こえてくる娼婦の黄色い声────嬌声を強化された聴覚が拾い、甘ったるい匂いが嗅覚を侵し、取り戻そうとする平静を奪い続ける。
(落ち着け……こんなの、ダンジョンの
「ぼーく? 迷子なの?」
「うわああっ!?」
奪われ続ける平静が体の動きを鈍らせる中、耳をくすぐった甘い声が体を強制的に跳ねさせる。
振り向くと、そこにはエルフが立っていた。大きく胸元を開けた服と深い
「だ、大丈夫ですっ!?」
声が裏返ったことを自覚しながら、その場から全力で逃走。
心の中で必死にみんなの名前を呼びながら、一心不乱に逃げる。
気を抜けば『夜の街』の雰囲気に押し潰される予感をひしひしと感じながら、当てもなく、僕は歓楽街の中を走り続けた。
「はぁっ……はぁ……ここは……?」
ダンジョンの中でも戦ったわけでもないのにヘロヘロになってしまい、僕は立ち止まった。
道の端で息を切らす僕に奇異の視線が向けられるのに気付かない振りをしながら、汗を拭って何とか息を落ち着かせて顔を上げる。
「極東の、建物?」
顔を上げると、周囲の景色は様変わりしていた。
これまでの灯りの光が抑えられた歓楽街と異なり、灯りの光に溢れ、明るさに包まれている。
まるでお祭りみたいだ、なんて祖父から教えられた記憶に誘われるように、僕は朱色に塗られた形ばかりの門をふらふらとくぐっていった。
(確か……遊郭、だっけ)
上手く回らない頭で記憶のページをパラパラと捲りながら、とても明るい街路を歩く。
雰囲気が変わろうともやっぱりここも歓楽街なようで、ドレスとは異なる服……確か『着物』を着る妖艶な女性達が歩いたり、男の人達と話をしては建物の中へ消えていく。
迷宮から持ち帰られた
「これは……?」
朱色に塗られた建物の一階。通りに面した格子状の大部屋に沢山の娼婦が並んでいた。
着物で着飾り、にこやかに客引きを行なう女性達とその中の誰かを選んだ男性が店の中に入っていく……そんな光景。
歩きながら、何故か目を離せずにそれを眺めていると。
大部屋の奥にいる、一人の少女と目が合った。
光沢を帯びる金色の髪と翠の瞳。
髪の色と同じ獣の耳と太く長い尻尾が彼女が獣人だということを教えてくれる。
耳と尾の形状からわかる獣の属性は、狐。
「……
初めて目にするその種族の名を思わず呟いてしまう。
極東を始めとした限られた地域にしかいない、少数種族。
艶やかな紅の着物を纏い、他の娼婦達に場を譲るように部屋の隅で座している彼女は……似つかわしくない黒い
まるで夜空と格子の外────牢の外にいる僕に、羨望と憧れを抱くような眼差し。
視線を絡ませている彼女は、唇を綻ばせ、笑った。
「…………!」
その笑みに、僕は固まった。
だって、今の笑みは────
「────もしかして、ベル君かい?」
ぽんっ、と肩を叩かれ、体が飛び上がる。
思考を強制的に中断させられた僕は仰天しながら背後を振り向く。
目の前に立っていたのは、橙黄色の髪と瞳を持つ男神様。
「ヘルメス様!?」
「はは、やっぱりか」
驚く僕にヘルメス様が一笑する。
見知った顔に安堵……なんてことは出来ず、むしろ少しの警戒を覚えながら、僕は普段とは装いが異なるヘルメス様に向き合った。
「こんなところで会えるとはね。フフ、ベル君もお年頃ってことかな?」
「冗談はやめてください……ヘルメス様なら僕に事情があることぐらいわかっているでしょう?」
「その割には張見世を熱心に見ていたようだけど、気になる娘でもいたんじゃないのかい?」
からかってくるヘルメス様に思わず溜息を零しそうになっていると、さっきまでの僕の姿も見られれていたのか面白そうに例の娼館の店先を見やる。
釣られて僕も視線を戻すと、先ほど目にした
「……あの人は……なんで」
「もしよければオレが選ぶコツを教えてあげても……ってそんな気分じゃなさそうだね」
店からこちらに振り返ったヘルメス様の顔からからかうような笑みが消える。
心の内を覗き込んでくるような瞳に頭を振り、改めてヘルメス様と向かい合う。
「……ヘルメス様はどうしてここに? あと、その
「おいおい!
その質問をヘルメス様はニヤリと笑ってはぐらかしてきた。
……これ、アスフィさん達に内緒で来たんだろうなあ……。
「くれぐれもアスフィ達には内密に頼むよ。約束だぜ?」
案の定、その通りだった目の前の神様に今度こそ溜息が漏れる。
バレたらとんでもない折檻が待ち受けているだろうにヘルメス様は飄々としていて、アスフィさん達が苦労している姿が目に浮かぶ。
ただ、見知った人と会話を重ねて少し落ち着けたかもしれない。
落ち着いた心のまま、自分が迷子になったという有無を伝え、帰り道を訪ねようと口を開く。
「それにしても、あのベル君が歓楽街にねぇ~……」
が、その前にまた笑みを……あのからかうような、面白がるような笑みを浮かべたヘルメス様に肩を組まれ、耳元に口を寄せられる。
「こーいう場所に興味津々なようで、オレも嬉しいよ。もちろんベル君も内緒で来たんだろう?」
「だから、それは勘違いだって……!」
釈明の言葉も虚しく、ヘルメス様は僕の言葉に自分の声を被せてくる。
「照れる必要はないさ。ヘスティアには何も言わないよ。ほら、これは
こういう時に限って全知零能を発揮せず、無駄な理解力を示すヘルメス様がごそごそと先ほど言及をはぐらかした
横顔だけでもイイ笑顔だということがわかる笑みで僕の懐に取り出した何かを忍ばせた。
一瞬見えたのは
「今、何を取り出したんですか……?」
「精力剤さ♪」
思わず体が硬直し、唖然とする。それが良くなかった。
ヘルメス様はその間に密着していた体を離し、清々しい笑顔で軽快に立ち去ってしまった。
薬を返すために慌ててその姿を追おうとするも、もう既にヘルメス様の姿はどこにもなく、こっち側に行ったはずという予想だけを立てて僕も走り出した。
遊郭をとっくに後にし、時々見えることがあるヘルメス様のすばしっこい姿と予測を頼りに激走に激走を重ねる。
「──いいっ!?」
路地の曲がり角に飛び込んだ時だった。
対面から歩いてきた人物に、出会い頭、ぶつかりそうになる。
「おっと」
「す、すみません!?」
僕はその場を蹴り、相手も素早い身のこなしで避けてくれたおかげで衝突することはなかった。
慌てて振り返り、アマゾネスの娼婦と見られる人に謝罪を告げる。簡潔ではあるが、謝罪を告げ、再び走ろうとしたところで僕の足は止まった。
「み、見失った……」
あの一瞬、視界から外れたことでヘルメス様を追うことが出来なくなってしまった。
真っすぐ走ったのか、曲がったのか……曲がったとしてもどこで曲がったのか。
また一人になったことで周囲の音が鮮明に聞こえてくるようになる。同時に遊郭の辺りから気にならなくなっていたあの香りも鼻腔を擽ってくる。
(とにかく……帰り道を探さなきゃ……)
「待ちな」
またくらっとする頭でそれだけを意識して歩き出した僕の手を誰かが掴む。
抵抗できず、引っ張られた僕の視界一杯にぶつかりかけたアマゾネスの女性の顔が広がった。
「見ない顔だね……だが、そそる顔をしてるじゃないか」
至近距離で見つめてきた彼女の瞳に熱が宿るのがわかった。
ペロリと自分の唇を舐めた彼女に働かない頭が警鐘を鳴らす。
「あんた、名前は? 私はアイシャ」
「えっ……?」
「……この雰囲気と香りにやられてるのか、反応が鈍いね。特段、変わった香りじゃないんだけどねえ。これだけでふらふらになるほど初心な男は初めて見たよ……それとも、鼻が良いのか?」
アイシャと名乗った女性は呆れたような顔をする。
ただ、それも一瞬。一層強く抱き寄せられると彼女は良い獲物を見つけたかのように笑った。
「今日は不作ー」
「何だか青い男の匂いがする!」
「アイシャ、誰それー?」
更に畳み掛けるように周囲からわらわらと、沢山の人影、いや、沢山のアマゾネスが姿を現す。
見目麗しい彼女達に囲まれ、突然彼女達の瞳が獲物を狙う獣のようにギラギラと豹変したことでようやく、僕の意識は最大の警鐘によって半ば強制的に覚醒した。
「ま、待ってください! 僕は、ここにそういう目的があって来たわけじゃなくてっ、
「でもさあ……そんなこと言って準備万端じゃない、ほら」
何とか互いに平和的に解放してもらえるよう言葉を捲し立てるけど、一人のアマゾネスの少女に懐から例の薬を掠め取られ、僕の言葉から説得力が失われる。
胸の内でこの薬を渡してくださいやがった神様に大絶叫していると、あれよあれよという間に大勢のアマゾネス達に周囲を完全に囲まれる大移動が始まってしまった。
場所が場所なだけに今は強引な手段を取ることが出来ずに喚く僕が連行された場所は、この歓楽街で最も大きな娼館……というか、宮殿だった。
「お、お城……?」
「ここは私達【イシュタル・ファミリア】のホーム、『
広過ぎる玄関ホールの中を引っ張られる僕にアイシャさんが笑みを浮かべる。
ただ、僕は彼女達の派閥名に気を取られ、その説明が耳に入ってこなかった。
「なんだ、お前達。ぞろぞろ集まって」
上階から声が投じられる。
その声に顔を振り上げ、声の主が目に入った瞬間、後ろから目を、耳を塞がれてしまう。
何やら話をしているが、ぼんやりとしか聞こえてこない彼女達の会話と行動に疑問符を浮かべていると、なんとこの状態のまま集団は歩き出した。
移動の最中、何も見えず聞こえない状況が出来たおかげでより一層平静を取り戻せた僕はここが歓楽街の中でも一番来てはいけない場所だということを改めて認識する。
抜け出す方法を考えていると、僕は誰かに突き飛ばされていた。
「いてっ!」
柔らかい感触に身を包まれ、身を起こすと周囲は薄暗かった。
この感触が高級そうな
「部屋が空いていないみたいだから、しばらくここで待ってもらうよ。別にここでおっぱじめてもいいんだけどね」
不敵に笑うアイシャさんとアマゾネス達に思わず顔が引き攣る。
何を始めるのかは聞くまでもない、というか想像もしたくない。
「……僕は別の
「別に構いやしないよ。他派閥の冒険者なら毎晩のように連れ込んでる」
何とか説得のようなものをしてみるが、効果は薄い。
それどころか好戦的な笑みを見せてくる。今のは間違いだったかもしれない。
呆然と言葉を失う振りをして周囲のアマゾネス達を見る。
ここにいるのは基本Lv.3、最低でもLv.2かそれに近いLv.1。その中心にいるアイシャさんはLv.3の最上位か4だろう。数は多いけど、手段を選ばなければ今の僕なら正面から逃げ出すことは出来る。
「…………」
ただ、周囲には恩恵をもらっていない娼婦もいる。
巻き込めば、間違いなく重傷あるいは命を……そうなればたとえ逃走に成功したとしても僕は【イシュタル・ファミリア】から報復の対象になり得る。
(みんなを巻き込むわけにはいかない……何とか穏便に……)
「私達に捕まった以上、穏便に……なんていかないよ。私達はアマゾネス。
そんな僕の内心を読み取ったのかアイシャさんが獰猛な笑みを浮かべる。
硝子細工のグラスに入ったお酒を飲み干し、彼女は身を乗り出した。
「
────無理だ。
穏便に、なんて絶対に無理だ。
彼女の囁きにここに連れてこられてしまった以上、穏便に、平和的に、なんて終わることは絶対に出来ないと確信してしまった。
友好的でいてくれたティオナさんとティオネさんが初めてのアマゾネスの知り合いだったから、この種族を僕は舐めていたのかもしれない。
「…………」
「へえ……さっきまで腑抜けてたくせに良い眼をするじゃないか。あんたは久々の上物だ。絶対に逃がしはしないよ」
いつでも飛び出せるように体に力を込める。
アイシャさん達もとっくに気付いているのか、スッとその双眼を細めた。
いつ始まってもおかしくない……その時、不意に。
何やら、地響きが響いてきた。
「……?」
「やばい、アイシャ!? フリュネがここに来る!!」
その音に臨戦態勢に入ろうとしていた僕もアマゾネス達も怪訝な顔をしていると、酷く焦燥した顔のアマゾネスが部屋の中に飛び込んできた。
誰かの名を叫ぶ彼女に僕が変わらず怪訝な顔をしていると、アイシャさん達の雰囲気が変わる。
先ほどまでとは一転し、まるで僕を庇うようにアマゾネス達が僕の体を引っ張り、身を隠すよう凄まじい形相で捲し立ててきた。
ただ、僕が身を隠すよりも早く、分厚い樫の扉が吹き飛び、ソレは現れた。
「────若い男の匂いがするよ~」
(モ、モンスター!?)
ものすっごく失礼なことを何とか内に留めながら僕はそれはもう驚愕を露わにした。
たった今現れた彼女?は、とてつもなく巨大で手足と胴体の比率がおかしく、かろうじてアマゾネスとわかるその姿は失礼ながら、先ほどまで周囲を囲んでいたアマゾネス達とは一線を画しているとしか言いようがない。本当に失礼だけど、悪い方に。
「ゲゲゲゲゲッ! 男を捕まえてきたんだって、アイシャァ~?」
破壊した貴賓室の入り口から悠々と歩む彼女にアイシャさんは舌打ちをした。
「何しに来たんだ、フリュネ」
「お前達が寄ってたかってガキを連れてきたって耳に挟んでね、興味がわいたのさぁ~」
蛙のようなしゃがれた笑い声を上げながら、彼女は進路上にある椅子や机を薙ぎ倒しながらアイシャさん達……その後ろに隠されていた僕に近付いてくる。
そして、僕に気が付くと────にぃ~、と思わず怖気が走る笑みを浮かべた。
「【ヘスティア・ファミリア】の『兎』じゃないか! まだまだ青臭いガキだけど……アタイの好みだよ!!」
高らかな笑声を響かせながら、彼女の瞳が先ほどのアマゾネス達のように爛々と輝く。
「押し倒した体に跨って、その顔を滅茶苦茶にして……そそられるじゃないかぁ~」
本当になんだ今日は……厄日にもほどがあると思うんだけど……。
思わず遠い目をしながら、絶対にこの場では起きてはいけない失神をなんとか堪える。
僕を隠すようにアイシャさん達が前に出る、さっきまで敵だったというのに今はものすごく頼もしく見えた。勝った方が僕の敵になるだけだけど。
「味見させなよぉ、アイシャ? 少し食ったら帰してやるからさぁ」
「ふざけんじゃないよ、これは私達が獲ってきた獲物だ」
フリュネ……さん、と対面したアイシャさん達から戦意……というか殺気が溢れる。
同じ派閥の仲間だというのに険悪過ぎる空気が普段の彼女達の仲を想像させる。
「アタイに相応しい雄が最近めっきり減って、退屈なのさぁ。少しくらいイイだろう?」
「ずっと大人しく館の奥に引っ込んでろ。どれだけの男を使い物にならなくさせる気だ」
僅かな距離を置いて、アイシャさん達とフリュネさんが舌戦を繰り広げる。
しかし、容赦なく、冷たいアイシャさん達の言葉を聞いても彼女はどこ吹く風だった。
「美しい、っていうのは罪だねぇ。アタイ以外の女じゃあ満足できなくなって……
……本気で言ってる……正気なのか、この人は。
「何度も言うがいっぺん、自分の顔でも見てきた方がいいんじゃないか? その顔で良くもまあ堂々としていられるもんだと私は思うけどね」
「あーやだやだ。不細工共の嫉妬は醜くて聞けたもんじゃない」
「はっ、お前がそれを言うのかい。【剣姫】に嫉妬して無様に負け続けてるお前がさ」
そのアマゾネスの言葉にフリュネさんの瞳が血走った。
【剣姫】……アイズさんに負け続けてる……?
「……他人を引き合いに出さなきゃ言葉でもアタイに勝てない不細工がほざくじゃないか」
「あぁ!? 図星だろうがこのバーカ!!」
「どうでもいいのさぁ、あの気に食わない
絶対に言われたくないことでも言われてしまったのか、目の前の女は耳障りな叫びを上げ、アイシャさん達も完全に一戦を交える構えを見せている。
目の前で切れてるこの女は間違いなくこの場にいる誰よりも強い。恐らく、第一級冒険者。
でも、それがどうした。
「イイ機会だ! 二度と逆らえないよう、その醜い顔をさらに醜くしてやろうじゃないか! 不細工極まったその顔でアタイがアンタらの獲物を食うところをげべぇ!?」
「うわっ!?」
アマゾネス達の戦いが始まろうとするその瞬間、僕は全力でフリュネさんを蹴り飛ばした。
蛙のようにひっくり返ったフリュネさんを何が起きたのかわからないというように見つめていたアイシャさん達はすぐに彼女を蹴り飛ばした僕に視線を集中させた。
「へぇ……どういうつもりだい?」
「どうもこうもないですよ。ただ、あの人に一発蹴りを入れなきゃ気が済まなかったんで」
逃げる隙が出来れば、別にこの戦いがどうなろうかなんてどうでもいい。でも、あの女は絶対に言ってはいけないことを言った。
アイズさんが不細工?
アイズさんを潰す?
ふざけるな。
あの人はこんなことを言われても全然気にしない。でも、僕は
好きな人が馬鹿にされたら、守りたい人を潰すなんて言われたら、冷静でなんていられない。
だから蹴った。一発だけ、全力で、後先なんて碌に考えずに。
「ゲゲゲゲゲ……やるじゃあないかぁ、兎ぃ~?」
全力で蹴り飛ばしたはずなのに、蹴られた箇所を摩りながら平然と立ち上がるフリュネさん。
第一級冒険者って本当に硬いんだな……容赦なく蹴ったつもりだったんだけど。
蹴り飛ばされたことで逆に冷静になったのか、血走っていた瞳に熱を宿した彼女が僕を見つめてくる。アマゾネスの習性かどうかはわからないけど、絶対に逃がさないという意思を感じ取れた。
まさか、惚れたなんてことはないと思う。一回蹴っただけだし。
「貴女達の喧嘩にこれ以上付き合うつもりはありません。もう帰らせてもらいます」
一発しか蹴ってないけど、ある程度溜飲は下がった。
この状況で戦うことを選ばない程度には冷静にもなれた。
だから僕は全力で部屋の奥にある大きな窓を割り、外へ逃げ出した。
「逃がすんじゃないよ!!」
アイシャさんの声が引き鉄となり、アマゾネス達が鬨の声を上げる。
大宮殿の外へ飛び出した僕は屋根の上を駆けた。すぐに背後から無数の足音が聞こえてくる。
歓楽街を舞台に、僕はアマゾネス達との逃走劇を開始した。
グランカジノの話についてですが、現状だと今章終了後にズラす予定になっています。
あくまで予定かつ何か問題があれば前章と今章の間にこの話を追加することになる場合もありますのでお待ちいただけると幸いです。
ここまで見ていただきありがとうございました。
次回も良ければよろしくお願いします。