二人の姫と出会った少年は英雄の道を歩む   作:Kkky

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書きたいことが多くて本編軸に行くまで随分と時間がかかってしまっています。
もう少しかかりそうですがそれでもよければどうぞ。


母親

 翌朝、いつもとほとんど変わらずに4人で朝食を摂る。

 少し変わったことと言えば……

 

「アイズちゃん、ちょっと食べ辛いかな……」

 

「……食べさせてあげる」

 

「だ、大丈夫だから」

 

 ベルとアイズの距離が物理的にも精神的にも近くなったことだろうか。

 リヴェリアは眉間を揉み、ゼウスは苦笑いと羨ましがるような笑みが混ざったような表情で二人を見ている。

 

「アイズ、行儀が悪いぞ。それにベルも困っている。やめなさい」

 

「む……わかった。ごめんね、ベル」

 

「あははは……いいよ、気にしないで」

 

 変わったことと言えばもう一つ。

 どことなくベルの雰囲気が大人びたものになったことだろうか。

 

 表情や顔つきは今までと同じ子供のもの。

 しかし、その身に纏う雰囲気の中から子供らしい無邪気さが顔を隠し、代わりにこの歳の子供にはあるまじき落ち着いた雰囲気を漂わせていた。

 

「はぁ……今日でここを離れるというのにそんなことでどうするんだ。仲が良いことは別に構わないが」

 

「離れるからこそじゃろう。次いつ会えるかはわからんのなら思い出は作っておきたいだろうからな」

 

 少し呆れたように溜息をついたリヴェリアだったがそれ以上は何も言わなかった。

 深夜に起きたあの出来事を知っているからだ。

 

 そうやって話をしながらアイズとリヴェリアにとってひとまず最後になる朝食を終えた。

 今回はベルとゼウス……偽名ゼニスに食器の片付けを任せてアイズとリヴェリアは持ち帰る荷物の最終チェックを行う。

 

「おじいちゃん、これで最後だよ……? その顔何?」

 

「いいや、たった一日……というか数時間じゃな。見ないうちに随分と落ち着いたと思ってな。朝のあの状況、前までのお前じゃったら顔を真っ赤にして慌てていたじゃろうに」

 

「顔と行動に出さなかっただけだよ? あの時はずっと心臓ドキドキしてたから」

 

「ありゃ、そうだったの?」

 

 神に下界の子供達の嘘は通じない。

 ベルは自分の祖父が神だということは知らないがその言葉に嘘はなかった。

 

 自分の予想が外れたことにちょっとショックを受けたようなゼウスを無視して水音と食器が当たる音を鳴らしながらベルはテキパキと片付けを進めていく。

 固まっていたゼウスも立ち直り、すぐにベルに続く。

 しばらく無言で進めていた二人だったが終わりに近づいた時、再びゼウスが口を開く。

 

「そういえばお前はあの子の母親(リヴェリア)についてどう思っとるんじゃ?」

 

「…………どういうこと? リヴェリアさんはリヴェリアさんじゃないの?」

 

「そうじゃなくてな……あー……しばらく一緒に過ごしたがあやつと過ごした時間はどうだったかと思ってな」

 

 一瞬呆けたような表情を見せるベルだったが少し後に視線を食器へと戻して口を開く。

 

「すごく、楽しかった。色々なことを教えてくれてすごい勉強になったしご飯も美味しかったし……あとボクが変なこととか危ないことをした時はちゃんと怒ってくれて嬉しかった……お風呂はちょっと恥ずかしかったけど」

 

「儂にとってはちょっとどころか死ぬほど羨ましいんじゃがな」

 

 その言葉を無視してベルは続ける。

 

「……リヴェリアさんには失礼かもしれないけど……お母さんがいたら、あんな感じなのかな……ってちょっと考えちゃった」

 

 最後の食器を洗い終わりそれを置く。

 その言葉と共に寂しそうな笑顔を浮かべたベルをゼウスは見逃さなかった。

 

(……ふむ、全てが良い方向に行くとは限らんか……いや、これを良い方向に変えるのが今の儂の仕事じゃな)

 

「のう、ベル────」

 

 ゼウスが放った言葉にベルが大きく目を見開く。

 それに少しゼウスも安心する。一気に大人びたように見えたがまだまだ子供でいてくれてるようだ。

 

「で、でも……そんなこと、リヴェリアさんに失礼じゃ……」

 

「嫌がられたら儂のせいにしたらいい。まあ精神的に少しきついかもしれんが大丈夫じゃ。きっとな」

 

 まだベルが何かを言おうとしたが寝室の扉が開き、会話の中断を余儀なくされる。

 

「なんじゃ、もう準備が整ったのか」

 

「昨日のうちに大体は整理しておいたからな。さて、都市に向かう馬車もそろそろ到着する頃だろう。見送りを頼んでもいいのか?」

 

「当たり前じゃろう。さあ行くぞ、ベル…………しばらく会えんからのう。言いたいことがあるのなら全部言っておくんじゃぞ」

 

「うん……わかった」

 

 最後の言葉はベルにだけ聞こえる声量で話し、四人で村の入り口へと向かう。

 道中この期間で知り合った村人が話しかけてきたり、ついてくるなどしたが特に問題も起こることなく馬車へと辿り着いた。

 

「世話になったな、ゼニス殿」

 

「それはこっちのセリフじゃな。短い期間だったが楽しい日々だったわい」

 

「ベル、元気でね」

 

「うん、アイズちゃんも元気でね」

 

 最後の会話はあっさりと終わり、二人は……アイズは名残惜しそうにベルの手を握った後に馬車に乗り込もうとする。

 ゼウスは何も言わない。元より選択を強要するつもりもない。そもそも急に言われても困惑する可能性の方が高い。

 しかし、ベルは一歩を踏み出しリヴェリアの名を呼んだ。

 

「おか……リヴェリアさん」

 

「おか? ……どうした、ベル」

 

 ベルの声に反応し、足を止めてこちらを見つめてくるリヴェリア。

 そんなリヴェリアに向けて何かを喋ろうとするも上手く言葉が纏まらない。

 見かねたゼウスが手を貸そうとベルの方に向かうよりも早くリヴェリアはベルの前にしゃがみこむ。

 

「少し大人になったと思っていたが、まだまだ子供だな」

 

「……ごめんなさい」

 

「謝る必要なんか何もないさ……何か言いたいことがあったんだろう? ゆっくりで良い、話してみなさい」

 

 落ち着かせるようにその翡翠の瞳でベルの深紅の瞳を優しく見つめ、頭を撫でる。

 心が乱れていたベルも少し落ち着きを取り戻し、なんとかして言葉を紡ぐ。

 

「今まで、ありがとうございました! 色んなことを教えてくれて、えっと……ご飯も美味しくて……危ないことしたら怒ってくれて……ええと……すごい楽しかったです!」

 

 大人びた雰囲気はどこかへ行ったことに加え、先ほどゼウスと話した時とは違い、言葉が詰まったりしてはいるがリヴェリアに対する感謝の気持ちを語っていく。

 

「楽しかったか……そう言ってくれるとこちらとしても嬉しいことだ。母親……家族でもないのに君に構いすぎたからな……鬱陶しいと思われていないかと少し不安だったんだ」

 

 母親、家族という言葉にベルの体がぴくりと反応する。

 

「存外、君に嫌われるのが嫌だったみたいだ」

 

「嫌いになんてなるわけないです」

 

 今度はベルが訴えかけるように深紅の瞳でリヴェリアの翡翠の瞳をじっと見つめる。

 そして少し迷いながらその言葉を口にする。

 

「ボクはリヴェリアさんのことを……お、母さん……みたいに思ってましたから……」

 

 頬を赤く染めて、恥ずかしそうに、不安そうにベルがリヴェリアを見つめる。

 そんな顔を向けられたリヴェリアは───

 

「───そうか……こんな私を母と呼んでくれるのか……まだ会って間もない私を……そんなに信頼してくれているのか」

 

 嬉しそうに、けれども胸に込み上げてくる何かを堪えるような表情でベルの頭を撫でていた。

 それを気恥ずかしそうにしながらもベルは受け入れる。

 

「……そんな話を聞かされたら戻りたくなくなってしまうな」

 

「残ってくれたら嬉しいですけどダメですよ。仲間の人達が待っているんですよね?」

 

 寂しそうだがどことなく満足したような表情でベルは話す。

 だがリヴェリアはちょっと気に食わなさそうな表情を浮かべる。

 

「えっと……どうしました?」

 

「私は君に母と呼ばれたことが嬉しい……いや、嬉しいは嬉しいがまだ未婚なんだがな……」

 

「?」

 

 最後に何か言ったような気がしたがリヴェリアは軽くかぶりを振り、もう一度ベルを見つめる。

 

「嬉しいが、その敬語は気に食わん。ベル、私を母と……そう呼んでくれるのならその敬語を外してほしい。何もすぐとは言わんがな」

 

「……わかりま……わかった!」

 

「よし! ……さて、流石にこれ以上は待たせられないな。ベル、最後に」

 

 リヴェリアがもう少し近づきベルのことを抱きしめる。

 それに気づいたアイズも馬車から飛び降りてそこに混ざる。

 

「ではまたな、ベル。どうか元気で」

 

「またね、ベル」

 

「うん、またね! アイズちゃん! ……お母さん!」

 

 二人を乗せて、今度こそ馬車は行く。

 ベルはその馬車が見えなくなるまでずっとその手を振り続けていた。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「どうした? アイズ、そんな顔をして」

 

「……最後ベルに抱きついてスッキリしたと思ったけど、なんかすごいモヤモヤする。ベルがリヴェリアをお母さんって言ったあたりからずっと……なんで?」

 

「…………ふふっ!」

 

 少し不機嫌そうなアイズの表情を見て一瞬動きを止め、次の瞬間珍しくリヴェリアが吹き出す。

 一瞬ガーンとショックを受けたような表情をしたがすぐに怒ったような表情に変わる。

 リヴェリアをポカポカ叩くアイズと嬉しそうな笑顔でそれを受け入れるリヴェリアの姿はどこからどう見ても母と子のそれだった。

 

「もうリヴェリアなんか知らない!」

 

「悪かった、謝るから許してくれ、アイズ」

 

 途中でアイズの機嫌を直すことになってしまったがそれ以外特に問題もなく馬車は進む。

 そうやって馬車に揺られていると時間はあっという間に過ぎてもう都市(オラリオ)が目に入る位置まで来ていた。

 

「行きは長く感じたが……帰りはあっという間だな」

 

 そうしてまたしばらくして馬車は都市に到着する。

九魔姫(ナインヘル)】と【剣姫】が帰ってきたことがあっという間に広まり、少し騒ぎになりはしたが二人はとくに気にすることなく、家族が待つホーム……『黄昏の館』へと帰って行くのであった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「入るぞ、ロキ」

 

 到着後、ファミリアの仲間たちに……特にエルフたちに囲まれることになったが会話を程々に切り上げ、二人で主神であるロキの待つ部屋に入る。

 予想はついていたがその部屋で待っていたのはロキだけではなかった。

 

「姿が見えないと思っていたがやはりここに揃っていたか。戻ったぞ……ロキ、フィン、ガレス」

 

「ただいま」

 

 二人の声に三人がこちらに目を向ける。

 中で待っていたのは主神ロキに加え【勇者(ブレイバー)】フィン・ディムナ、【重傑(エルガルム)】ガレス・ランドロック。

 リヴェリアと共にファミリア最古参に位置するメンバーだ。

 

「やあ、お帰り。そこまで長い期間ではなかったけどゆっくり休めたかい?」

 

「ああ、おかげさまでな」

 

 冒険者依頼(クエスト)の軽い報告と雑談をする。

 久々の三人との会話になるが特に変わった様子も疲れた様子も見受けられない。

 リヴェリアたちが都市外に出ている間には都市に異変はなかったようだ。

 

「ねぇリヴェリア、ダンジョン行ってもいい?」

 

 そうやって話していると痺れを切らしたのか椅子に大人しく座っていたアイズがそんなことを言う。

 

「帰ってきたばかりだぞ? 今日は…………いや、条件付きにはなるが行ってもいい。条件は今日は身体を慣らす程度にすることと潜るのは18階層までだ。それを守れるのなら行ってもいい」

 

「ん、わかった。行ってきます」

 

 アイズはリヴェリアの出した条件に即頷き、部屋から飛び出していく。

 その様子にロキたちが少し驚く。

 

「アイズたん随分と素直やな。機嫌も良さそうやし向こうで何かあったんか?」

 

「実はな───」

 

 所々ぼかしつつあの村で起きた出来事、出会った少年と老人の話をする。神ゼウスが居た事とあの夜の話は話題にすら出さない。なんとなく気づいていた深夜の訓練の話はするが。

 フィンとガレスは興味深そうにその話を聞いていたがロキは顔を顰めて不満そうな様子だ。

 

「なんだその顔は」

 

「アイズたんが楽しそうなのはええけどそれが男と出会ったからってのがちょっと気に食わん。いや、その子にはアイズたんのこと気にかけてくれたことの感謝はしとるんやけどな?」

 

「いいじゃないかロキ。せっかく嬉しそうにしてるんだ。それを邪魔したら嫌われるよ」

 

「その話もそうじゃがアイズが訓練をつけたのも気になるな……あのアイズが他人に訓練なんぞ出来たのか?」

 

「ああ……まあ……そうだな」

 

「……その小僧には苦労をかけたようじゃのう」

 

 リヴェリアの苦い表情にガレスが何か察したような顔を浮かべる。

 ただ少し訂正が入る。

 

「アイズとその少年の名誉のために言っておくがあの二人はアイズが加減していたとはいえ最後までしっかりとやり遂げたぞ。少年は一太刀も入れることは出来なかったようだが、それでも何度もアイズに食らいつき、その態度を示し続け、アイズもそれに応えていた。中々いい組み合わせだった」

 

「恩恵も持たん子供がアイズたんの訓練についてきたんか?」

 

 ロキが驚いたような表情を見せるが間違いないとリヴェリアが頷く。

 フィンはより興味が湧いたのかもっと話をしてくれと言わんばかりの視線を投げかけてくる。ガレスはというと、

 

「そんな見込みのある小僧がまだ都市外にもいるとはな! あと何年か経てばウチに入るんじゃろう? 楽しみじゃわい!!」

 

 見込みのある少年がロキ・ファミリアに入るのが確定したとでも言わんばかりの豪快でかつ心底楽しそうな笑顔を浮かべていた。

 

「待て、あの子が決めることだ。ここに入るとは限らん」

 

「む? そうなのか?」

 

「出来ることなら私の元で育てたいがそれを強制するつもりは私にはない。あの少年にロキは合わない可能性もあるからな」

 

 出来ることならとは言ったがリヴェリアの内心は8……9割は同じファミリアで共に暮らしていきたいということが占めている。

 あの日々の思い出、特に最後の別れの会話がリヴェリアの親心を爆発させた。

 

「まっ、リヴェリアがそう言うんなら何年か後にオラリオ(ここ)に来たら特に勧誘とかせんで流れに任せよか。そこでウチのファミリアに来るようだったら面談やらなんやらして見極める……それでどうやろ」

 

「……そうだな。それがいい……いや、しかし……」

 

 あんなことを言ってはいたが物凄く渋ったような顔を浮かべるリヴェリアにガレスが大笑いする。

 

「がっはっはっはっは!! 随分と入れ込んだようじゃな!! 珍しい顔を見た!!」

 

「あくまで都市に来たらだよリヴェリア。しばらくしたらまた向こうに行ってその少年と相談して決めればいい」

 

 フィンの言葉に考え込んでいたリヴェリアが顔を上げる。

 

「しばらく……大体どの程度の期間だ? そもそもまた行っても良いのか?」

 

「冒険者依頼は終わっていないんだろう? それと期間だが……そうだね、状況にもよるかな? 今の都市の状態ならもう少し落ち着くまでリヴェリアたちには都市に残ってもらいたい」

 

「……手紙にもあったが残党が暴れだしているのか?」

 

 リヴェリア達が急遽都市に戻ったのは闇派閥(イヴィルス)の残党の動きが目立ち始めたと言う理由だ。

 現在はロキ・アストレア・ガネーシャの尽力で被害は出ていないが予断を許さない状況に置かれている。

 

「おそらく生き残っているヴァレッタ、そしてアストレアファミリアと戦っていたというもう一人の闇派閥の主力、生き残った邪神達。この三つの首格を上げなければ暗黒期は終わったとは言えない。特に邪神が一人でも残っていれば奴らは増え続ける。たとえそれが雑兵に過ぎないとしてもダンジョンを知らない民衆からしたらモンスター以上の脅威になる」

 

「確かにな……それで? 私はどうしたらいい」

 

「お主とアイズにはしばらく都市の中を歩いてほしい。まあ都市の巡回じゃな」

 

「アイズもか?」

 

「リヴェリアとアイズたんが帰ってきてるってのが都市中に知れ渡るだけでも効果はある。姿を見れば一層効果大や」

 

 思いの外簡単な指示。少し拍子抜けなような気もするが都市の巡回ついでに現在の都市の状況を知る良い機会だ。

 ただ───

 

「アイズも共にか」

 

「ダメそうだったら最悪リヴェリア一人でもいい」

 

「そうだな……いや、いいことを思いついた。今のあの子ならば食いつくだろう」

 

 何かいいことを思いついたとリヴェリアが笑みを浮かべる。

 三人は内心? を浮かべるがリヴェリアの自信満々の顔を見て、特に何も言うことはなかった。

 

 次の日の朝、食事後にアイズがリヴェリアの手を引いてホームを飛び出していくのをファミリア内の多くのメンバーが目撃した。

 そのアイズの顔は普段の無表情、無感情とは違い、ほとんどの人間が見たことがないほど非常に楽しそうな……嬉しそうな様子だったという。




感想、評価、お気に入り登録ありがとうございます。
毎度毎度励みになります。

前書きでも言いましたがもう少し本編へ進むには時間がかかりそうです。
どうかお待ちいただけると幸いです。
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