二人の姫と出会った少年は英雄の道を歩む   作:Kkky

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ちょっと詰め込みすぎました。
目が滑る部分、口調に怪しい部分もあると思いますがそれでも良ければどうぞ。


再会と母の魔法

「リヴェリア、早く」

 

「そう焦るな。誰も逃げやしない」

 

 オラリオの街並みを二人が歩いていく。

 アイズはソワソワと今にも走り出しそうな様子で、リヴェリアはそれを嗜めながらも微笑ましいものを見るような目で。

 

「ねえリヴェリア、私が選んでもいいんだよね?」

 

「その方があの子も喜ぶだろうからな。それに私が何言ってもそこは譲らないだろう?」

 

「うん」

 

 アイズが楽しそうにしているのには理由がある。それは───

 

「ベルが使う初めての剣だもん。私が選ぶ」

 

 昨日の夜、リヴェリアの提案で明日、巡回がてらベルに贈る武器などを選ばないかと言われたからだ。初めは巡回を渋っていたアイズもその提案にすぐさま飛びつき現在に至る。

 

「予算は決まっているからな。それと武器に振り回されないようベルの身に合ったものを選ぶんだぞ」

 

 現在リヴェリアとアイズが来ているのはゴブニュ・ファミリアのホーム。

 アイズが振るう剣を作成した神ゴブニュが率いるファミリア内で打ち終わった売り物となる剣をアイズが見ている。

 

「珍しいな。こんな朝早くからここに来るとは」

 

「神ゴブニュ、早朝から申し訳ない」

 

「気にするな。武器でも失ったのか? 見たところ腰には携えているようだが」

 

「いや、実は───」

 

 なぜこんな朝早くから工房に来たのかの理由を話す。加えてアイズが剣を見ている理由も。

 それを聞いてゴブニュは少し驚いたような表情を見せ、微かに笑みを浮かべる。

 

「あの娘……【剣姫】が他者のために武器を選ぶか……」

 

「他者に目を向け、興味を持つのは良い傾向ではある。ただ少し不安なところもあるが……」

 

 リヴェリアが言う不安を聞こうとしたところ、少し悲しそうな表情をしてアイズがリヴェリアに近づいてくる。

 

「む? どうした、アイズ」

 

「……どれも良い武器だけど……今のベルには合わない。良い武器過ぎる」

 

「武器が良過ぎると使い手の成長を妨げる。ちゃんとわかっているようだな……しかしここでは見つからないか……」

 

 リヴェリア自身も薄々わかっていたことだが、ここでは武器の性能が良過ぎる。

 ここはゴブニュ・ファミリア。鍛治系のファミリアの最大派閥の一つだ。

 上手いことここで駆け出しが使うにはちょうど良い武器が見つからないかと思っていたが流石に難しかったようだ。

 

「仕方ない、バベルの方に行くとしよう。すまない神ゴブニュ、邪魔をしたな」

 

「俺が打ってやっても構わんぞ」

 

 ゴブニュのその言葉にリヴェリア達の足が止まる。

 

「今のお前達が求めているのは駆け出しに持たせる一級の武装。俺やへファイストスならば打つことができる。あとは【単眼の巨師(キュクロプス)】だな」

 

「いいのか?」

 

「なに、ただの気まぐれだ。剣そのものだったその娘がそこまで気にかける人間……それが少し気になった。打ってほしいのならついて来い。詳しい話は向こうでするとしよう」

 

 ゴブニュが工房の奥に下がる。

 少し顔を見合わせる二人だったが、アイズが向かったことでリヴェリアもそれに続く。

 工房の奥で武器の形、種類などの打ち合わせをして完成する日時や受け取りの日時を決めて、二人はそこを後にした。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「リヴェリア、少しいいかい?」

 

 巡回を終えたその日の夜、手記に文を書いているとフィンに部屋に呼び出され、二人で話をする。軽い報告のようなものなので先日はいたロキとガレスはこの場にはいない。

 

「疲れているところすまない。少し聞きたいことがあってね」

 

「聞きたいこと? 報告は終わらせたはずだが……」

 

「そのことじゃない。君たちが向かった冒険者依頼(クエスト)に関するものについてだ」

 

「ふむ……何が聞きたい?」

 

「少年のことについてもう少し踏み入ったことが聞きたくてね」

 

 リヴェリアが顎に手を当てて、少し考え込む。

 流石に仲間とはいえベルのことについて踏み入ったことについて話して良いものなのかと。

 

「リヴェリアから見た少年の印象についてでもいい」

 

「それならば……まあいいだろう」

 

 先日話したのはあくまで冒険者依頼のことと起きた出来事のみ。

 ベルの個人的な印象はあまり話していない。

 相当ベルに興味が湧いたのかフィンはどんな情報でもいいと言わんばかりの目をリヴェリアに向けてくる。

 

「第一印象は……兎だな」

 

「兎……?」

 

「処女雪のような真っ白の髪に深紅の瞳が強い印象に残ってな……そうだな───」

 

 そこからリヴェリアは少し饒舌になり、ベルのことを話しだす。

 どことなく嬉しそうに、まるで子供の話をする母親のように。

 

「あとは…………むっ、少し話過ぎたか」

 

「ハハハハ、そうだね。あのままだったら聞いてはいけないことまで聞いてしまいそうだったよ。前も思ったけど随分とその子を気に入ったようだね。もしかしてさっき書いていたのはその少年のためのものかい?」

 

「見えていたか……そうだな、次に会うときに渡したいものの一つだ。言葉では伝えきれないから本にでも書いておこうと思ってな」

 

「リヴェリアが執筆した本か……エルフに知れ渡ったら面白いことになりそうだね」

 

「流石に他者に贈ったものに何かを言う輩はいない…………はず……はずだ」

 

 エルフの暴走は恐ろしい。

 特にそれが王族(ハイエルフ)が関わっているものなら尚更だ。

 

「随分と歯切れが悪いね。まあ気持ちはわかるけど。あまり口外しないようにその少年にも言っておいたらいい。君が見ていないところで何が起きるかわからないからね」

 

「無論だ……全く、こういう時にも王族であるということが足枷になるとはな……少しばかり腹立たしい」

 

 少し不愉快そうに眉を顰めるリヴェリア。

 とはいえ───

 

「腹立たしいがいざとなればこの立場をせいぜい使い尽くしてやろう。極力使いたくはないがな」

 

「あのリヴェリア・リヨス・アールヴがそうまでしたいと思えるほどの逸材か……本当に数年後が楽しみだよ。今の君の中に逸材だからそこまでしてあげたいという気持ちがあるのかどうかはわからないけどね?」

 

 全てわかっていると言わんばかりの目から思わず目を逸らす。

 こうまでしようと考えるのがほとんど私情であることはどうやらお見通しらしい。

 

「……この話はここまでにしようか。そこまで色々わかりやすいリヴェリアは珍しいけど下手に揶揄えばこちらがまずそうだ」

 

「それを口に出すお前も珍しいがな。お前はお前で随分と機嫌が良さそうだ」

 

「そう見えるかい? まあ楽しいさ。色々未来の楽しみが増えたしね……その楽しみのためってわけじゃないけど、早いところ残党共はどうにかしないとね」

 

「明日はどうする? 引き続き都市の巡回か?」

 

「んー……そうしてもらおうかな。流石に一日で都市中に広まるのは難しいと思うからね。今日行ったところとは別の地区に行って欲しい、頼めるか?」

 

「もちろんだ……そういえばアイズはどうする?」

 

「僕からは何も。明日は君に任せるよ」

 

 それより先はフィンは何も言わずに机の上に置いてある資料に目を向ける。

 リヴェリアもそれを見てフィンの部屋を後にする。

 

「さて……しばらくは巡回が中心の生活になりそうだな。アイズは……声はかけるがあまり乗り気ではないだろうな」

 

 部屋に戻り、ベルを想いながら少しだけ本の続きを書く。

 そうして今日の1日は終わった。

 

 翌日の朝食後、アイズに声をかけようとその姿を探すが見当たらず、ラウル曰く───

 

「えっと……朝食をとってすぐに食堂を飛び出して行ったっス」

 

 とのことだ。

 リヴェリアは少しキレた。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「ねえリヴェリア、次はいつベルに会いに行くの?」

 

 都市に戻ってから数ヶ月が経過したある日の食堂、少し不機嫌そうにアイズがそんなことを聞いてくる。

 

「剣も結構前に完成したし……早くベルに会いたい」

 

「そうか……そうだな。ちょうど良い。私もそろそろ会いに行こうかと思ってたところだ。フィンやロキ達と相談して、了承を得てからにはなるが準備をしておこうか」

 

 そう言うとアイズは目を輝かせてすごい速さで自室へと戻っていく。

 一応後ろから声掛けはしたもののあのアイズには聞こえていないだろう。

 

「さて、了承を得られるかどうかが問題だな……今を逃したらまたしばらく会いに行けないかもしれないからな」

 

 足をフィン達が座るテーブルへと向ける。

 ちょうどタイミング良くフィンとロキのみがそのテーブルについていた。

 

「フィン、ロキ、少し良いか」

 

「んー? どうしたんやリヴェリアー」

 

「そろそろ来ると思ってたよ。例のあの子のことかな?」

 

「……まだ何も言っていないがまあそうだ。アイズがまた会いたいと言っている。かくいう私もだ。都市の状態も落ち着いている今、短期間ならどうだろうか」

 

 出来ることなら今度は初めから家族として前回以上の期間を過ごしたい。

 だがそんな長い期間いられるほどの余裕がなくなってきているのが今のオラリオだ。

 少し無理な相談かと思っていたが、

 

「……そうだね。僕としては行っても構わないと思っているよ。ロキはどうだい?」

 

「ウチも別にええで。あ、茶葉の土産頼んでもええか?」

 

 思った以上にあっさりと了承を得られて思わず面食らう。

 

「どうしたんだい? そんな顔して」

 

「いや……もう少し渋られると思っていたんだがな……」

 

「今の都市の状況で渋るのは流石に可哀想やろ。ただ一つ言っておくでリヴェリア」

 

 ロキがケラケラと笑ったかと思うとその薄く細められた目を少しだけ開き、真面目な声音で語りかけてくる。

 

「伝えられることは全部伝えておくんや。多分やけど次リヴェリアが帰って来たあたりから一年……下手したら数年、最悪その少年が都市に来るまで会えなくなる可能性もある。あくまでただの勘やけどな」

 

 ロキの声音は至って真面目。こちらを揶揄っているような雰囲気は一切感じ取れない。

 

「……何が起きる?」

 

「勘やからな。何が起きるかまではわからん。嫌な予感がするっちゅうだけや」

 

「わかった。肝に銘じておこう」

 

「ん、ならええわ。せっかくの都市外の遠出なのに不吉なこと言ってすまんな」

 

 申し訳なさそうにロキが頭を掻くがむしろ感謝しているぐらいだ。

 ロキが忠告をしてくれなければ、ベルに全てを伝える努力をせずにその嫌な予感に呑み込まれていたのかもしれないのだから。

 

「気にするな。忠告はありがたく受け止めるよ。次にロイマンか……面倒だがまあなんとかなるだろう。ギルドに行ってくる。今話したことはガレスにも伝えておいてくれ」

 

 ここにはいなかったガレスへの情報の共有を託してギルドへと足を運び、ロイマンと許可を得るための面談をする。

 当然顔を青くして止めてくるロイマンだったが、期間の短さを聞くと少し顔色を戻して、思案する。

 数秒後にその期間ならばと顔を顰めながらなんとか許可を得ることに成功する。

 

 出立は明日の夜。

 闇派閥の残党に都市外へ出る姿を見られないために深夜に都市を立つようにとギルドからの指示だ。

 

 少し眠そうにしているアイズと大量の積荷を載せて都市を出る。

 荷物が大量のため、移動が遅くなることを危惧したが、フィンの手によってより良い馬車に代えられていたため前回以上の速さで進んでいく。

 

 そうして数日が経過してようやくベル達が住む村が見えてくる。

 ここまで来たらもう少しだ。

 

 逸るアイズを制止しながら自分自身も少し心を落ち着かせる。

 たった数ヶ月、されど数ヶ月ぶりの村に到着した。

 

 景色も風も何も変わらない。出迎えてくる村人達の姿もだ。

 ただ少し変わったことがあるとすれば───

 

「えっ!? アイズちゃんとお母さん!? どうしてここに……」

 

 出迎えてくれた村人の中にいた少し背が伸び、顔つきが僅かに変わったように見える息子(ベル)の姿だろうか……。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「元気だった……? ベル」

 

「う、うん。アイズちゃんも元気だった?」

 

「うん」

 

 まだ頭が追いついていないようなベルだったが、目の前で嬉しそうな表情をしてるアイズの顔を見て少し落ち着く。

 なんで急にここに来たのかはまだわかっていないようだが、二人にまた出会えたことはすごく喜ばしいことだ。

 

「急に連絡もなく済まないな、ベル。元気そうで何よりだ」

 

「うん、リヴェリアさ……お母さんも元気そうで良かった!」

 

 ベルがお母さんとリヴェリアを呼ぶとリヴェリアは嬉しそうに、しかしそれを隠すように手で口元を隠す。

 ロキなどに母親やママと呼ばれるのは忌避感があるようだが、ベルにそう呼ばれると嬉しさの方が勝つようだ。

 

「コホン……さて、早速で申し訳ないが一緒に家へ行ってくれるか? ここでは目立つからな」

 

 咳払いを一つ挟み、周囲の人を見てリヴェリアは少し気まずそうにする。

 元々人は集まっていたが、少し話しているうちにさらに集まっていたようだ。

 

「うん、わかった!」

 

 ベルが走り出す。

 気持ちが昂っているのかベルの足取りは非常に軽く、そして速い。

 

「足、早くなってる……待って、ベル」

 

「転ぶなよ二人共」

 

 アイズも見失わないうちに走り出す。

 リヴェリアは集まった村人に軽く挨拶をして走っていく二人の元へ歩いていく。

 

 そして歩いていくうちに数ヶ月前と何ら変わらないベルの住む家が見えた。

 その近くの畑で働いている老人……神ゼウスもだ。

 

「ふぅ………………ん!? 何故ここに!?」

 

「驚かせてすまないな。ベルに会いに来たんだ。先にベルとアイズが走っていったが気付かなかったのか?」

 

「見ておらんのう……まあ大丈夫じゃろう。で、何しに来たんじゃ?」

 

「言っただろう、ベルに会いに来たのだと。ここを逃したらしばらく会えそうになかったからな」

 

「ふむ、まあ来た理由なんてなんでもいいわい。その大量の荷物は?」

 

 流石に気になったのかリヴェリアが運んできた大量の荷物に目を向ける。

 探索用のバックパックに限界まで詰め込んだそれは───

 

「ベルの教育や生活の支援のためのものが7割、私たちの荷物が2割、オラリオから持ってきた土産が1割といったところだな」

 

「7割って親バカ過ぎん?」

 

「誰が親バカだ」

 

 心外だと言わんばかりのリヴェリアにゼウスが呆れ顔を見せる。

 そこに、

 

「あ! こっちにいた! お爺ちゃん!」

 

 先に行ったはずのベルが何故かリヴェリアの後ろから現れた。

 その隣にはアイズもいる。

 

「見当たらないから村の方に行ってるのかと思って戻っちゃったよ。こっちにいたんだね」

 

「そういえば伝えておらんかったか。すまんことをしたな、ベル」

 

「んーん、気にしないで! 走るのは好きだから!」

 

 そうやって笑うベルをじっと見つめるリヴェリア。

 変わったのは背丈と顔つきだけではないことに気づく。

 

(身体がかなり鍛えられているな。特に脚。だが少々不安定な筋肉の付き方だ。矯正できる人物がいないなりに相当頑張ったようだな)

 

 そんなベルの成長を喜んでいると隣のアイズから何やら妙なものを見る目で見られていることに気づく。

 なんだ、という意思を込めて見つめるが、慌てて目を逸らされる。

 

「まあ立ち話もあれだ、家に入るとしよう。今日はこれで仕事は終わりにする。ベルもそうしておけ」

 

「わかった!」

 

 そんな二人に気づかず、ゼウスとベルは家に帰っていく。

 少しそんなアイズを見つめていたが、耐えられなくなったのかベルの元へと風のような早さで走っていく。

 

「……顔がニヤけていたか……私もまだまだだな」

 

 少し反省したような声音で一人呟き、リヴェリアも三人が帰って行った家へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 そこからはあの日のような生活が再開した。

 朝食を済ませて、ゼウスの仕事を手伝いと村の仕事の手伝いが少なくなり、リヴェリアと共に勉学に励み、アイズと共に野山を駆け巡ったりなど二人と共に過ごすことが増えた。

 そして到着した次の日、そんな生活が始まる前にベルにとってとても嬉しい贈り物が二人から贈られた。

 

「ベル、渡したいものがあるんだ」

 

 リヴェリアが荷物の中から一際丁寧に包まれた箱を取り出す。

 ベルがその箱を手に持つとずっしりとした重さがベルの手に伝わってくる。

 

「これは……?」

 

「開けてみて」

 

 アイズに促され、机に箱を置き、布を外し、箱を開く。

 その箱の中に入っていたのは……

 

「これは……剣だ!」

 

 美しい白い刀身を持つ以外はごく普通の片手剣。

 神ゴブニュが自らの手で打ってくれた剣だ。

 

「銘はない。だが今のベルが成長しても扱える剣に仕上げてくれているはずだ」

 

「こんなすごいのを……! ありがとうお母さん! アイズちゃん!」

 

 心の底から嬉しそうにするベルを見てまたリヴェリアの頬が緩む。

 それを指摘しようとしてきたゼウスには鋭い視線を投げかける。

 

「わっ……重たい……でも思ったよりは軽い?」

 

「今のベルでも使えるようにって……打ってもらったから……」

 

 鞘に納めたまま軽く剣を振る。

 軽やかな風切り音を響かせ風が舞う。

 

「……ちゃんと訓練してたんだね」

 

「うん、強くなるって約束したからね」

 

 二人だけが知っている二人だけの約束。

 リヴェリアとゼウスも知ってはいるが、そんなことこの二人は知らなくていいことだ。

 剣をもう一度箱に収め、改めてリヴェリアとアイズに向き合う。

 

「こんな良いものをありがとう! お母さん! アイズちゃん!」

 

「気にするな。気に入ってくれたようで何よりだ」

 

 まだ少し興奮しているのか上気した頬をそのままに笑顔を浮かべる。

 それを見たリヴェリアは満足そうに頷き、顔を綻ばせた。

 

「ベル、その剣は成長しても使えるように長めに打ってもらってはいる。お前の成長と摩耗次第でその剣を扱える期間は増えるだろう。だが必ず物足りなくなる日がやってくる。その時が来たら躊躇わず次の武器へと視野を向けるんだ。合わない武器を使ってモンスター共に殺されるなどあってはならない……約束できるか?」

 

 綻ばせた顔を引き締め、真剣な眼差しでベルを見つめる。

 贈った武器を長く大切に使ってくれるのは贈った側としては非常に嬉しいこと。だが合わなくなってしまった武器を使い、ダンジョンやモンスターに挑むのは命取りになる可能性が高い。

 今口にした約束をしないのであればリヴェリアは武器を渡すつもりはない。部屋に飾り、大切に保管するつもりだ。

 

「……大丈夫だよ、お母さん。ちゃんと、その約束を守るよ」

 

 リヴェリアの不安とは裏腹にベルは真摯にこちらを見つめて言葉を紡ぐ。

 その顔を見てリヴェリアの不安は吹き飛ぶ。

 

「そうか……余計な心配だったみたいだな」

 

「ベルなら大丈夫じゃ。ちゃーんと約束は守る。それにお前さんたちが帰ってからそこまで無茶な行動はしておらんからな」

 

 安心させるようにゼウスも口を開く。

 言葉通り、ベルは二人が帰ってからはそこまで無茶な行動はしていなかった。あくまでそこまで、だが。

 

「少し気になるが……まあ良しとしよう。さて、話が長くなってしまったが要件はこれで終わりだ。もう好きにして良いぞ」

 

 そう言うとベルとアイズは家を飛び出して行った。もちろん剣を持って。

 少し経ってからリヴェリアはゼウスに向き合い、オラリオからの土産を手渡す。

 ついでにロキに頼まれた茶葉を融通してくれないかという旨も伝えると、取りに行ってくると言い、止める間もなく外へと向かってしまった。

 

 三人がいなくなった部屋でポツリと呟く。

 

「…………期間は短い。どれだけのことをベルに伝えられるだろうか」

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 ここに二人が来てから三日が経過した。

 ベルとアイズは毎日のように外へ向かい、訓練、そして遊んで回っている。

 リヴェリアからしたら訓練はしないで二人で平和に過ごして欲しいところなのだが、二人が非常に楽しそうにしているのでそれに関しては口は挟まない。

 だが深夜の訓練はやめさせた。まだ成長できる二人の肉体に悪影響が出過ぎるからだ。

 

(前回に止めておくべきことだったのだがな……)

 

 そんな二人は今は並んで机の前に座っている。

 ベルは楽しそうに。アイズは非常に嫌な顔をして机の上に置いてある本を見ている。

 

「……なんで、私まで……」

 

「ここ最近お前に授業をしてやれていなかったからな。ちょうどいい機会だ、もう一度色々教えておこう」

 

 少し嫌な顔をしているアイズ。

 そんなアイズをチラチラと見てはいるが、なんとか目の前のものに集中するベル。

 

 到着した次の日から行なっているのは『魔法』に関する授業だ。

 一般的な教養は前回この家に来た時にほとんど教えている。そしてそれをベルは今もしっかりと身につけている。

 ならば教えるのは戦闘に関するものやダンジョンで生き残る術だ。

 

「お母さん、これは───」

 

「そこは───」

 

「なんで……ベルはしっかりできるの……」

 

 少し羨ましそうにアイズが見つめる中、ベルは次々にリヴェリアに質問していく。

 他のエルフどころか魔導士が見れば垂涎ものの都市最強の魔導士の授業。

 そんなこと知る由もないベルはとにかく質問を重ねていく。

 

「お母さん、魔法はその人その人で発現する魔法が違うみたいだけど同じ魔法が発現することはないの?」

 

「少なくとも私は見たことがないな。エルフ特有の魔法ならばともかく全く同じ魔法が別の人物に発現することなど基本的にはないと考えていいだろう。そもそも魔法とは詠唱を含めて本人の資質、そして心に抱える想いが反映される。それが同じ者など、この世に二人といないだろう」

 

「そう、だよね」

 

 ふとベルが残念そうな顔をしていることに気づく。

 

「……どうした、そんな顔をして」

 

 真面目な声音を少し変え、優しく諭すように残念そうな顔をしたベルに語りかける。

 少し待つと残念そうな顔はそのまま、少し恥ずかしそうに、

 

「えっと……その……お母さんとアイズちゃんの魔法が使えたらな……って思っちゃって……」

 

 少しの間、三人に沈黙が走る。

 数秒後、沈黙に耐えられなくなったベルが口を開こうとする。

 だがそれよりも早く、

 

「そんなことを、考えてくれていたのか」

 

 ベルと会ってから表情筋が緩み続けているリヴェリアが、緩む顔をまた手で隠して嬉しそうな声をあげる。

 アイズも少し思うところはありそうな表情だが、満更でもない。

 

「……そう思ってくれて私はすごく嬉しいよ、ベル。だがやはり同じ魔法を扱うというのは難しいだろうな。何か特別なスキルでも芽生えない限りは……な」

 

「うーん……そうだよね」

 

 やっぱりそうか、と残念そうにため息を一つ吐くが顔はすぐに切り替わる。

 ベルに落ち込んでいる暇はないのだ。

 

「お母さん、次はこの並行詠唱のことを───」

 

 そう、ベルに落ち込んでいる暇などない。

 貪欲に必死に学んでいかなければ『英雄』になどなれない。

 最終的にその日の授業は朝から始まり、夕食の時間ギリギリまで続いた。

 

 そして次の日───

 

「ここならば特に問題はないとのことだ」

 

 リヴェリアはベルとアイズを引き連れて山のさらに向こうに位置する広大な平野にいた。

 ベルとアイズには剣を持たせ、リヴェリアも杖を持ち武装している。

 

「お母さん……何するの?」

 

「昨日は中途半端にしか教えられなかったからな。続きだ、『並行詠唱』を見せてやる」

 

 昨日の授業では並行詠唱の有用性、そして危険性にしか触れることはしなかった。

 実戦で教えた方が手っ取り早いからだ。

 

「二人で全力で私を倒しに来い。心配は無用だ、掠りもしないさ」

 

 リヴェリアの挑発にアイズがムッとしたような表情を見せて、剣を引き抜く。

 ベルもそれに倣い剣を抜く。

 アイズと訓練をしてきてはいたが、アイズ以外の人と戦うのは初めてだ。

 

「……行くぞ。【終末の前触れよ、白き雪よ。黄昏を前に風を巻け】」

 

 詠唱を始めた瞬間、アイズが飛び出す。それに続きベルも走る。

 剣が閃く。アイズの剣がリヴェリアの身体に襲いかかる。

 

「……っ!」

 

 しかし、軽い音を立ててリヴェリアの杖に受け流され、勢いのまま転びかける。

 踏ん張り、振り向きざまに剣を振るが、身体を逸らされ空を切る。

 その間も詠唱は続き、あっという間に───

 

「【閉ざされる光、凍てつく大地。吹雪け三度の厳冬───我が名はアールヴ】!!」

 

 ゼウスを氷の中に閉じ込めた魔法が放たれる。

 身構えるベルとアイズだが……詠唱は終わらない。

 

「【間もなく、()は放たれる】」

 

「リヴェリア!?」

 

 アイズの相貌が驚愕に染まる。が、すぐに再びリヴェリアに斬りかかる。

 ベルもそれに合わせるように剣を振るが、仕方がないこととはいえ遅すぎる。そして躊躇いが見える。

 そんなベルを軽く小突き、襲いくるアイズは杖と体術で対応。

 攻め手を欠き、一瞬の間が空いた瞬間、ベルでもわかるほどリヴェリアの魔力が増大した。

 

 そして詠唱は完成する。

 

「【焼きつくせ、スルトの剣───我が名は…………ここまでだな」

 

 しかし、最後の詠唱は紡がれず、膨れ上がった魔力は霧散していった。

 

「大丈夫か?」

 

「…………本当に撃ってくるのかと思った」

 

「お前たちに撃つ訳がないだろう。撃ったとしてもお前達に被害が及ばない場所に撃っている」

 

 アイズの顔色が少し悪い。

 魔法を使っていないとはいえ本気でかかったのに宣言通り掠りすらしなかったことの悔しさと最後の魔力の増大への恐怖によるものだ。

 

「さて、今のが並行詠唱だ。扱えれば魔法を構えながら、回避や防御、加えて攻撃に転ずることもできる。戦略は非常に広がるが危険な戦略であり、高難度であることを忘れるな。迂闊にやれば死ぬのは敵ではなく自分だ」

 

 最後に注意点をもう一度確認して、ベルの方を見る。

 ベルの表情は至って真剣だった。

 何も出来なかった自分と例え魔法を持っていても今の自分では到底出来っこない技術を見てもベルの表情に暗いものは何一つとしてなかった。

 

「少し休憩をしてから戻ろう。この辺には危険なモンスターは出ないらしいからな」

 

 ベルの表情にも内心にも暗いものは何一つとしてない。

 ベルの内心にあったもの……それは───

 

「かっこいいなぁ……」

 

 アイズに抱いたモノとは似て異なる憧れ、そして母と同じ魔法を使いたいという子供としての純粋な思いだった。

 そのポツリと呟いたはずの声は確かにリヴェリアに届いていた。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 楽しい時間というものはあっという間に過ぎる。

 先日こちらに着いたと思えば、もう一週間が経過してしまった。

 

「早すぎるな……もう少しゆっくりしたかったが……」

 

「向こうで色々あるんじゃろう? 贅沢は言えんわい」

 

 わかっていたことではあるが、それでもここにいられた時間の短さに不満が漏れる。

 しかし、その不満は一度胸の内にしまっておく。

 

「お母さん、出発の準備できたみたいだよ」

 

「そうか……ベル、寂しくはないか?」

 

「うん、大丈夫! 寂しくなんてないよ!」

 

 寂しがるような素振りは一切見せず明るい笑顔を浮かべるベル。

 その笑顔を見て逆にリヴェリアが寂しさを覚えてしまうが、ベルの手前なんとか抑える。

 

「帰ったら手紙を書いて送ろう。またしばらく会えない日が続くかもしれないが許してくれ」

 

 全盛期の暗黒期ほどではないが、今の都市も危険な状態にある。

 何が起きて自分たちに何が起きるかなど誰にもわかるはずがない。

 

「それと持ってきた物の中には教本以外にも普段の生活を楽にできるようなものも入っている。有効活用してくれ。あと私が書いた教本はくれぐれも私が書いたものなどと言ってはいけないぞ。特にエルフにはな……最後に本に一つあることを書き足しておいた。それで満足できるかどうかはわからないがな」

 

「? ありがとう……?」

 

 最後に少し気になることを言い、まだ少し心配そうな顔をしながら、なんとか馬車へとリヴェリアは乗り込む。

 隣でアイズも顔を見せて、別れの挨拶を済ませる。

 

「ベル、どうか元気で。何かあったらすぐに手紙を送ってくれ」

 

「バイバイ、ベル。私も頑張るから、ベルも頑張ってね」

 

「うん! お母さんもアイズちゃんも元気でね! 怪我しちゃダメだよ!」

 

 そして馬車は村を旅立つ。

 前のようにベルはアイズとリヴェリアの姿が見えなくなるまで手を振り続ける。

 空に輝く太陽の下で軽やかに走る馬車をベルは最後まで見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それが冒険者ではないただのベル・クラネルが見るアイズとリヴェリアの最後の姿になった。




感想、評価、お気に入り登録ありがとうございます。
本当にモチベにつながります。

今回先に進もうと詰め込み、場面転換が多かったと思います。
今後の展開に少しでも納得できるように今回の話に詰め込みました。
分けるのも少し考えたのですが、話の数がかなり増えてしまうためこういった形を取らせてもらいました。

あまりこのような形を使いたくはなかったのですがどうかご容赦していただけると幸いです。

そして私事になりますが次回以降の投稿がまた不安定になることがあります。
どうかお待ちいただけると幸いです。
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