カードの卓についたリュー達は
リューとシルはこの後に行わなければいけない本番の
ここでの目的は
「早速ですが、いくつか聞きたいことがあります」
「おー、いいぜ。だがちゃんとこっちもやってくれよ……ダメだこりゃ」
「あ、フルハウス」
「わぁ! すごいです、ベルさん!」
行われる
「ではまずは、ここの
「ねえな。稼ぎ続ける奴がいればここに顔を出すこともあるらしいが、それぐらいじゃねえか?」
「フォーカードです」
「……二回連続でいい役、すごいわね」
二回連続で不成立の
シルと共にベルを挟む灰髪の女性が彼が出した
「では次です……
「あそこに入りてえのか? だが無茶だぜ、そりゃ」
「ストレートフラッシュ……あははは、運が良いみたいです」
「調子に乗るなよぉ? 調子が良くてもいきなり連敗とかだってあるんだからな」
「それで何回俺達がどれだけ大量の金を失ってきたか……」
またも強い
「ここはオラリオの治外法権なんて言われてはいるが、あそここそが本当の治外法権だ。店側の許可が無けりゃ、ガネーシャの連中でもあそこには近寄れねえし、入れねえ」
「中で何が起ころうが、口も挟めなければ、知ることもできないということですか」
「ああ。酔っ払った
いいご身分だぜ、とモルドが吐き捨てた言葉にリューは確信を深める。
ある二人が自分と彼の話に耳を澄ませている事にも珍しく気が付かぬまま、目を細めた。
「それと……あそこに行く新参者は『洗礼』を受けるんだとよ。声を大きくして言えねえけどよ……
「そうですか……」
「実力的にあんたは大丈夫かもしれねえが、あの嬢ちゃんが一緒ならあんま首を突っ込まない方がいいぜ」
自分の
リューに動揺はない。神々に求婚される程の器量を持つ娘を攫っていった以上、そのような『洗礼』が行われていることは想定の範囲内だ。
今の彼女の中にあるのは
情報を得たリューは当初の予定通り、目立つための行動を始めるためにこの
「…………」
「…………」
「えっと……ファイブカード、です」
「…………嘘でしょ?」
そして、そこで異変に気付いた。
その異変の中心……頬をかく少年に卓につく全員と思わず声を漏らした
先程からずっと彼の
気付けば、この卓の全員がカードゲームの為に当初用意していた
「……シル、何度か
「えっと……フルハウス、フォーカード、ストレートフラッシュ、フォーカード、ストレートフラッシュ、ファイブカード……六回してみたんだけど、全部ベルさんが勝っちゃった……」
ビギナーズラックでは片付けることの出来ない豪運に皆が静まり返る。
全勝もそうだが、あまりに
手元に集まった
「クラネルさんもこの場の雰囲気に慣れた様子。そろそろ別の
「い、いいんじゃねえかな、うん」
「この運が他の
ベルの運に動揺と興奮を隠し切れていない三人の冒険者にリューが白い眼を向けるが、モルド達はそれに気付かず、ベルを抱えるようにして別のゲームテーブルへと向かう。
ぞろぞろと移動したのはルーレットのゲームテーブル。見目麗しい
「ルールはよく知らないんですけど、このシートの上にお金を置けばいいんですか?」
「はい。賭ける方法によって配当は異なります。赤か黒の色に賭けたなら二倍、数字単体に賭ければ最高配当の三十六倍」
「当然だが、一目賭けの場合は当たる確率が低いぜ」
「他にも奇数賭けや偶数賭け、数字縦一列なんかもあるな。制限はねえし、複数賭けてもいい」
「まあ、習うより慣れろだ、とりあえず適当にやってみろ」
ベルを中心に他の者が見守る中、リューが
楽しそうに笑うモルドに促されたベルはじっと赤と黒に分けられたシートを見つめた。
先程の軽い
「なんでぇ、色賭けかよ」
「いいじゃないですか、初めてなんですから。あ、ベルさん、もし勝てたら私達にも
「あははは、いいですよ。元々カードで集まった
背後からモルドの不満げな声、右隣からシルの冗談っぽく語り掛けてくる声を浴びながら、ベルは気楽に笑う。
シートにチップが六枚置かれたのを確認すると、
他に賭ける者は現れず、ベルと店側の一騎打ちとなった勝負は、かたんっ、という音と共に終わりを迎えた。
音を立てて
「赤に落ちたってことは……」
「やりましたね、ベルさん!」
「お見事です」
シルが笑みを弾けさせ、リューも表情を変えずに賞賛する。
「よっしゃ、【リトル・ヒーロー】、じゃんじゃん賭けてこうぜ」
「そう、ですね。せっかく勝てたんですし、負けるまでやってみたいです」
「いいね、やる気じゃねえか! 次はもっとでかい配当で勝負だ勝負!」
「
モルド達に乱暴に囃し立てられたベルはその気になってしまったのか、勝利したことで増えた
その光景にリューは思わず溜息をつくことになるが、その数分後、彼女は信じられないものを見ることになる。
的中。
「すごい、ベルさん!」
的中。
「おっしゃあ、どんどん行け!」
的中。
「…………いやいやいや、流石に……いや、ビビるなもっと行くぞ!」
的中。
「まさか、な……あるのか、この流れなら……?」
高額
的中。
『うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?』
連続的中に野次っていたモルド達が思わず黙り込む中、
瞬間、モルド達は自分のことのように咆哮を上げる。
叫び続ける彼等の横で、シルも、リューも、信じられないものを見るように、灰髪の少女も閉じていた目を見開き、放心していた。
当の本人であるベルも彼女等と同じく驚愕に目を見開いている。その中にわずかな確信を忍ばせながら。
『なんです、なんですかな!?』
『見てください、あのルーレットのテーブルを! なんという
『勝ったのはどなたです!?』
『おおっ、あの白髪は間違いない、ここ数ヶ月、オラリオを賑わせている
『
『ベルきゅん、ベルきゅんじゃないか! あの隣の女性は一体……!?』
『なんという【幸運】……!』
『【幸運】の兎だぁ!!』
モルド達の声、そして周囲の喧騒を聞きつけ、神々を含め他の客から注目を浴びる。
今夜のこの場の主役が確定する程の大勝ちであった。
この時ばかりは
騒ぎの中心となったベルはこの【幸運】の理由に思い至ったのか、背中に手を回し、ある箇所に触れた。
「……!」
この機をリューとシルは逃すわけにはいかなかった。
人々が集まって来る前に、ルーレットが始まる前の約束通り、
「シルさん、リューさん、必要な分だけ持って行ってください」
「えっ?」
「何か事情があるんですよね?
しかし、その前にベルがそのようなことを口走る。
どこで自分達が
「ありがとうございます、ベルさん!」
「クラネルさん、この恩は必ず!」
人が集まる前にベルから譲り受けた大量の高額
去っていく二人の背中を見ていたベルだったが、直後、モルド達に一斉に詰め寄られる。
「【リトル・ルーキー】もう一度やれぇ!? つうか俺達の有り金やるからもう一回当てろぉ!!」
「さ、流石に無理ですって! 調子が良くても突然負けることがあるって教えてくれたのはモルドさん達じゃないですかっ!?」
「い・い・か・ら・やれぇッ!!」
「……私も、やってみても?」
「えっ……あ、はい、勿論です!」
欲に支配されたモルド達の雄叫びと欲のままに【幸運】を使いたくないベルの声が響く中、少年にずっと触れていた灰髪の女性が呆然としていた
彼女が置いたのは高額
賭けたのはなんと、配当三六倍の
「おお、いきなり大勝負ですな」
「先ほどは【リトル・ヒーロー】が当てたようですが、連続は流石に……」
モルド達とベルの言い合いが聞こえていないのか、優雅に彼女の
「まさか……」
「いやいや、流石に……」
灰髪の女性が目を閉じたまま、
「な、なんと!?」
「二連続で的中!?」
「噓でしょ!?」
客達の驚愕と興奮の声が上がり、
なんだなんだ、とテーブルを見たモルド達が愕然と口を開き、ベルは開いた口を隠すように覆った手の下で小さく笑みを浮かべた。
『またも的中!?』
『あの女性は一体誰なんだ!?』
『ベル・クラネルと行動を共にしているのを見るに彼の知り合いなのでは?』
『
先程の興奮が収まらぬうちの大勝利に
「アリ……リアさん」
「危うい賭けだったのだけど……上手く行ったわね。向こう側に与える印象としても申し分なし……どんどん行きましょうか。勝負に出る時は貴方にお任せします」
「……わかりました。でも、卓は変えましょう。相手が店側の人間だと
周囲が盛り上がる一方で、モルド達を
少年に続き、大勝ちをした彼女はここで止まることなく、次々と勝負を仕掛けていくことを選択。当初の予定通り、目立つことを意識し、様々な卓を渡り歩いていく。
先ほどまでやっていた
ベルがの持つ
「フルハウス……また、僕の勝ちですね」
相手がどれだけ良い
「……やり過ぎ、ですか?」
「……あまり言いたくないけど、そうね。目立つって言った手前、こんな事を言うのはあれだけど、ちょっと私もドン引きしてるかも…………勝ち過ぎじゃない?」
「僕もこんなことになるとは……勝つ自信はすごくあったんですけど一回も負けないのは、想定外です……」
ホールの一角に設けられた休憩場所で大量という言葉では表せない程の量の
周囲に人や神はいないが、大量の視線が向けられていることがわかる。
無遠慮に見る者もいれば、隙を窺うように見ている者など、様々だ。
目立つ、という第一目標は達成したと言っていいだろう。
だが、その過程で想定外の出来事が起きてしまっていた。
その一つがベルが語った賭博全勝である。やればやるほど勝ってしまい、あえて負けようと思っても【幸運】がそれを拒否するかのように彼等を勝たせ続けていたのだ。
「ちょっとまずいかもしれないわね……目立ち過ぎて、というか勝ち過ぎて逆に声がかからないなんてことも……いや、それはないか……予想通り黒幕があの男ならむしろ放っておかない……!」
「……?」
声がかからないことを危惧していたリアだったが、すぐにその危惧は不要なものだと首を振る。
直後、彼等の元へ仕立ての良い黒服に身を包んだ男が近付いてきた。
「お客様、
驚いたような演技を見せるベルの隣で、彼女は表情と雰囲気を戻す。
悟られないように自然と表情を戻しながら、リアはベルの言葉を待った。
「いいんですか! ありがとうございます!」
運良く勝てたからか気分が良さげな声音で答えるベルに黒服の男の口元がわずかに歪んだ。
その一瞬の笑みを二人は見逃さず、絶対の確信を持ちながら、男の後を追う。
案内された先にいたのは、大柄なドワーフと……彼に挨拶をされているリューとシルだった。
「おお、貴方が【リトル・ヒーロー】殿ですか!」
何故二人がここに、と揺れかけた瞳をドワーフがこちらに気付く前に抑える。
振り向いた彼は二人のその様子に気付くことなく、両腕を広げてベル達を迎えた。
「私はテリー・セルバンティス、この
「あ、ありがとうございます。僕も今夜は楽しませてもらっています。ベル・クラネルです。こちらはリアさん、今回はお忍びでの参加ということなので詮索はあまりしないで頂けると幸いです」
「…………」
テリーの挨拶にベルが返し、紹介されたリアが令嬢のように礼を取る。
ベルの目から見て、歓迎してくるテリーは愛想の欠かさない人物だった。
強面だが、笑みを絶やさず話す様は冗談を交えて話す明るい口調も相まって相手の警戒心を和らげるのに役立つことだろう。その目だけは隠し切れていないようだが。
「そういうことなのでしたら、そうさせていただきましょう。せっかくの楽しい夜です。余計な話でこの麗しいお顔を曇らせたくありませんからなぁ」
「ありがとうございます」
「いえいえ……ところで、クラネル殿。お聞きしたところ、本日のお二方は相当
挨拶はそこそこに、握手なども交わさず、リアを一瞬舐めるような視線で見たテリーはそれまでの愛想のいい笑顔とは打って変わって、商人のような笑みを浮かべる。
「
「その通りでございます! もちろんそれだけでなく、最高級の
捲し立てるように、言葉の端々に逃がさないという意思の込められた声でテリーは誘ってくる。
断る理由はない。その誘いを丁重に受けるベルにテリーは大きな笑い声を上げた。
そんな彼に引率され、ベル達はリューとシルと共に移動を始める。
道中、リューが何か言いたげな視線を向けてくることもあったが、そんな彼女……今は彼、に探るような視線をテリーが向けていたため、特に会話をすることもなく、屈強な門番が立つ樫の大扉に辿り着いた。
「どうぞ、こちらへ」
きつく閉ざされていた両開きの扉が開かれる。
リューとシル、ベルとリアは互いが同じ目標を持っていることも知らずに、敵の懐へと足を踏み入れるのであった。
ここまで見ていただきありがとうございました。