二人の姫と出会った少年は英雄の道を歩む   作:Kkky

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【幸運】の兎

 カードの卓についたリュー達は大賭博場(カジノ)初心者のベルを見守りながら、賭博(ゲーム)を始めた。

 リューとシルはこの後に行わなければいけない本番の賭博(ゲーム)に備えて賭札(チップ)は少なめに、モルド達はベルに合わせ同じく賭札(チップ)は少なめに。

 ここでの目的は賭博(ゲーム)ではなく会話の為、カードが配り始められた瞬間、リューはベルとモルド達へ話を切り出した。

 

「早速ですが、いくつか聞きたいことがあります」

 

「おー、いいぜ。だがちゃんとこっちもやってくれよ……ダメだこりゃ」

 

「あ、フルハウス」

 

「わぁ! すごいです、ベルさん!」

 

 行われる賭博(ゲーム)はドローポーカー。

 大賭博場(カジノ)初心者であるベルがビギナーズラックを発揮し、シルが喜ぶ横で大賭博場(カジノ)常連のモルド達から情報を聞き出そうとリューは手元のカードを見ながら彼等に声を掛ける。

 

「ではまずは、ここの経営者(オーナー)に会う方法について。あちらから声をかけられる以外の方法はあるのですか?」

 

「ねえな。稼ぎ続ける奴がいればここに顔を出すこともあるらしいが、それぐらいじゃねえか?」

 

「フォーカードです」

 

「……二回連続でいい役、すごいわね」

 

 二回連続で不成立の手役(ハンド)に一瞬視線を落としたリューはモルドの答えに特に落胆することもなく、予想通りだと目を細める。

 シルと共にベルを挟む灰髪の女性が彼が出した手役(ハンド)と自分のものを見比べてどこか悔し気にしているのを横目に、リューは本命の問いを彼等に問いかけた。

 

「では次です……貴賓室(ビップルーム)について知りたい。何か知っていますか?」

 

「あそこに入りてえのか? だが無茶だぜ、そりゃ」

 

「ストレートフラッシュ……あははは、運が良いみたいです」

 

「調子に乗るなよぉ? 調子が良くてもいきなり連敗とかだってあるんだからな」

 

「それで何回俺達がどれだけ大量の金を失ってきたか……」

 

 またも強い手役(ハンド)を成立させた少年にスコットとガイルが経験者としての失敗談を語る。

 進行役(ディーラー)が困惑した表情を浮かべ、ベルに意識を割き始めたのを見たリューはより深く、貴賓室(ビップルーム)についての情報を得ようとモルドに続きを促した。

 

「ここはオラリオの治外法権なんて言われてはいるが、あそここそが本当の治外法権だ。店側の許可が無けりゃ、ガネーシャの連中でもあそこには近寄れねえし、入れねえ」

 

「中で何が起ころうが、口も挟めなければ、知ることもできないということですか」

 

「ああ。酔っ払った招待客(ゲスト)が言うには噂通り高額の賭博(ゲーム)を楽しむらしい……後は、好色の経営者(オーナー)が囲っているすげえ美人の愛人どもを客に見せびらかすんだとよ」

 

 いいご身分だぜ、とモルドが吐き捨てた言葉にリューは確信を深める。

 ある二人が自分と彼の話に耳を澄ませている事にも珍しく気が付かぬまま、目を細めた。

 

「それと……あそこに行く新参者は『洗礼』を受けるんだとよ。声を大きくして言えねえけどよ……経営者(オーナー)が好色の時点で、まあ、わかるだろ?」

 

「そうですか……」

 

「実力的にあんたは大丈夫かもしれねえが、あの嬢ちゃんが一緒ならあんま首を突っ込まない方がいいぜ」

 

 自分の手役(ハンド)に何度目かの舌打ちをしながら、モルドは彼女にそう忠告した。

 リューに動揺はない。神々に求婚される程の器量を持つ娘を攫っていった以上、そのような『洗礼』が行われていることは想定の範囲内だ。

 今の彼女の中にあるのは経営者(オーナー)と彼に攫われた少女と接触できるあの扉の奥へ向かう方法だけ。

 情報を得たリューは当初の予定通り、目立つための行動を始めるためにこの賭博(ゲーム)を終わらせようと、自分とモルド以外の者達に声を掛けようとした。

 

「…………」

 

「…………」

 

「えっと……ファイブカード、です」

 

「…………嘘でしょ?」

 

 そして、そこで異変に気付いた。

 その異変の中心……頬をかく少年に卓につく全員と思わず声を漏らした進行役(ディーラー)の視線が集まる。

 先程からずっと彼の手役(ハンド)は素晴らしいものであり、思わず初心者を乗らせるための不正(イカサマ)でもしたのかと、リューは進行役(ディーラー)を見たが、彼女は唖然としながら首を何度も横に振っていた。

 気付けば、この卓の全員がカードゲームの為に当初用意していた賭札(チップ)はベル一人に集まっていた。

 

「……シル、何度か賭博(ゲーム)をしたようですが、クラネルさんの手役(ハンド)は……」

 

「えっと……フルハウス、フォーカード、ストレートフラッシュ、フォーカード、ストレートフラッシュ、ファイブカード……六回してみたんだけど、全部ベルさんが勝っちゃった……」

 

 ビギナーズラックでは片付けることの出来ない豪運に皆が静まり返る。

 全勝もそうだが、あまりに手役(ハンド)が強い。

 手元に集まった賭札(チップ)を見ながら何やら考え込む少年を見つめていたリューはこの卓に座る者達に一つ提案をする。

 

「クラネルさんもこの場の雰囲気に慣れた様子。そろそろ別の賭博(ゲーム)もしてみませんか?」

 

「い、いいんじゃねえかな、うん」

 

「この運が他の賭博(ゲーム)でも続くのかちょっと試してみたいしな」

 

 ベルの運に動揺と興奮を隠し切れていない三人の冒険者にリューが白い眼を向けるが、モルド達はそれに気付かず、ベルを抱えるようにして別のゲームテーブルへと向かう。

 ぞろぞろと移動したのはルーレットのゲームテーブル。見目麗しい兎人(ヒュームバニー)の女性に笑みを以て迎えられる。

 

「ルールはよく知らないんですけど、このシートの上にお金を置けばいいんですか?」

 

「はい。賭ける方法によって配当は異なります。赤か黒の色に賭けたなら二倍、数字単体に賭ければ最高配当の三十六倍」

 

「当然だが、一目賭けの場合は当たる確率が低いぜ」

 

「他にも奇数賭けや偶数賭け、数字縦一列なんかもあるな。制限はねえし、複数賭けてもいい」

 

「まあ、習うより慣れろだ、とりあえず適当にやってみろ」

 

 ベルを中心に他の者が見守る中、リューが賭博規則(ゲームルール)を説明し、モルドやスコット、ガイルが合いの手を入れる。

 楽しそうに笑うモルドに促されたベルはじっと赤と黒に分けられたシートを見つめた。

 先程の軽い賭博(ゲーム)で集まった賭札(チップ)を手に、ベルが賭けたのは赤────回転盤(ホイール)ポケットの半分を占める最も低い配当だ。

 

「なんでぇ、色賭けかよ」

 

「いいじゃないですか、初めてなんですから。あ、ベルさん、もし勝てたら私達にも賭札(チップ)分けてくれませんか?」

 

「あははは、いいですよ。元々カードで集まった賭札(チップ)は返すつもりでしたし……」

 

 背後からモルドの不満げな声、右隣からシルの冗談っぽく語り掛けてくる声を浴びながら、ベルは気楽に笑う。

 シートにチップが六枚置かれたのを確認すると、進行役(ディーラー)は慣れた手付きで回転盤(ホイール)を回転させ、(ボール)を投げ入れる。

 他に賭ける者は現れず、ベルと店側の一騎打ちとなった勝負は、かたんっ、という音と共に終わりを迎えた。

 音を立てて(ボール)が転がり込んだ先は赤。ベルの勝利だ。

 

「赤に落ちたってことは……」

 

「やりましたね、ベルさん!」

 

「お見事です」

 

 シルが笑みを弾けさせ、リューも表情を変えずに賞賛する。

 進行役(ディーラー)から増えた賭札(チップ)を渡されたベルもそれを見て笑みを浮かべた。

 

「よっしゃ、【リトル・ヒーロー】、じゃんじゃん賭けてこうぜ」

 

「そう、ですね。せっかく勝てたんですし、負けるまでやってみたいです」

 

「いいね、やる気じゃねえか! 次はもっとでかい配当で勝負だ勝負!」

 

賭札(チップ)も増やしてガンガン行こうぜ!」

 

 モルド達に乱暴に囃し立てられたベルはその気になってしまったのか、勝利したことで増えた賭札(チップ)にさらに追加して再び賭けを始めた。

 その光景にリューは思わず溜息をつくことになるが、その数分後、彼女は信じられないものを見ることになる。

 

 賭札(チップ)二〇枚、横二列(ダブルストリート)数字六つ賭け。配当六倍。

 的中。

 

「すごい、ベルさん!」

 

 賭札(チップ)四〇枚、線上(コーナー)数字四つ賭け。配当九倍。

 的中。

 

「おっしゃあ、どんどん行け!」

 

 賭札(チップ)八〇枚、横一列(ストリート)数字三つ賭け。配当十二倍。

 的中。

 

「…………いやいやいや、流石に……いや、ビビるなもっと行くぞ!」

 

 賭札(チップ)一〇〇枚、線上(スプリット)数字二つ賭け。配当十八倍。

 的中。

 

「まさか、な……あるのか、この流れなら……?」

 

 高額賭札(チップ)三〇〇枚、一点(ストレート)数字一つ賭け。配当三十六倍。

 的中。

 

 

『うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?』

 

 

 連続的中に野次っていたモルド達が思わず黙り込む中、(ボール)は吸い込まれるかのようにベルが賭けた数字へと転がり込んだ。

 瞬間、モルド達は自分のことのように咆哮を上げる。

 叫び続ける彼等の横で、シルも、リューも、信じられないものを見るように、灰髪の少女も閉じていた目を見開き、放心していた。

 当の本人であるベルも彼女等と同じく驚愕に目を見開いている。その中にわずかな確信を忍ばせながら。

 

『なんです、なんですかな!?』

 

『見てください、あのルーレットのテーブルを! なんという賭札(チップ)の山!』

 

『勝ったのはどなたです!?』

 

『おおっ、あの白髪は間違いない、ここ数ヶ月、オラリオを賑わせている超有望新人(スーパールーキー)、【リトル・ヒーロー】、ベル・クラネル!』

 

戦争遊戯(ウォーゲーム)の覇者!!』

 

『ベルきゅん、ベルきゅんじゃないか! あの隣の女性は一体……!?』

 

『なんという【幸運】……!』

 

『【幸運】の兎だぁ!!』

 

 モルド達の声、そして周囲の喧騒を聞きつけ、神々を含め他の客から注目を浴びる。

 今夜のこの場の主役が確定する程の大勝ちであった。

 

 この時ばかりは初心者(ニュービー)の勝利を微笑ましそうに祝っていた進行役(ディーラー)も顔を引きつらせ、信じられないと笑みをひくつかせている。

 騒ぎの中心となったベルはこの【幸運】の理由に思い至ったのか、背中に手を回し、ある箇所に触れた。

 

「……!」

 

 この機をリューとシルは逃すわけにはいかなかった。

 人々が集まって来る前に、ルーレットが始まる前の約束通り、賭札(チップ)を返してもらう……いや、貸してもらうための交渉を始めようと口を開く。

 

「シルさん、リューさん、必要な分だけ持って行ってください」

 

「えっ?」

 

「何か事情があるんですよね? 賭札(チップ)で力になれるかは分かりませんけど、必要なら持って行ってください」

 

 しかし、その前にベルがそのようなことを口走る。

 どこで自分達が賭札(チップ)を必要としていることを見抜かれたのか、それを問い質すことなどせず、その厚意に二人は躊躇いなく甘えることとした。

 

「ありがとうございます、ベルさん!」

 

「クラネルさん、この恩は必ず!」

 

 人が集まる前にベルから譲り受けた大量の高額賭札(チップ)を持って二人はテーブルを後にした。

 去っていく二人の背中を見ていたベルだったが、直後、モルド達に一斉に詰め寄られる。

 

「【リトル・ルーキー】もう一度やれぇ!? つうか俺達の有り金やるからもう一回当てろぉ!!」

 

「さ、流石に無理ですって! 調子が良くても突然負けることがあるって教えてくれたのはモルドさん達じゃないですかっ!?」

 

「い・い・か・ら・やれぇッ!!」

 

「……私も、やってみても?」

 

「えっ……あ、はい、勿論です!」

 

 欲に支配されたモルド達の雄叫びと欲のままに【幸運】を使いたくないベルの声が響く中、少年にずっと触れていた灰髪の女性が呆然としていた進行役(ディーラー)に声をかけ、賭博(ゲーム)を始める。

 彼女が置いたのは高額賭札(チップ)六〇〇枚。

 賭けたのはなんと、配当三六倍の一点(ストレート)数字一つ賭け。

 

「おお、いきなり大勝負ですな」

 

「先ほどは【リトル・ヒーロー】が当てたようですが、連続は流石に……」

 

 モルド達とベルの言い合いが聞こえていないのか、優雅に彼女の賭博(ゲーム)を見守る集まった客達。

 回転盤(ホイール)の上で踊る(ボール)を気楽に見守る客達だったが、勝負(ゲーム)が終わりに近づくにつれ、その表情が強張っていく。

 

「まさか……」

 

「いやいや、流石に……」

 

 灰髪の女性が目を閉じたまま、進行役(ディーラー)、他の客達が固唾を飲んで見守る中、かたんっ、と音を立てて(ボール)は落ちた…………彼女が賭けた場所へと。

 

「な、なんと!?」

 

「二連続で的中!?」

 

「噓でしょ!?」

 

 客達の驚愕と興奮の声が上がり、進行役(ディーラー)の取り乱した声が響き渡る。

 なんだなんだ、とテーブルを見たモルド達が愕然と口を開き、ベルは開いた口を隠すように覆った手の下で小さく笑みを浮かべた。

 

『またも的中!?』

 

『あの女性は一体誰なんだ!?』

 

『ベル・クラネルと行動を共にしているのを見るに彼の知り合いなのでは?』

 

【幸運】の兎(ベルきゅん)は一緒にいる人にも幸運を分けてくれるのかよ……』

 

 先程の興奮が収まらぬうちの大勝利に大賭博場(カジノ)全体が大いに沸き、二人にあやかりたいとばかりに神も人も関係なく、賭博(ゲーム)がさらに活発化していく。

 

「アリ……リアさん」

 

「危うい賭けだったのだけど……上手く行ったわね。向こう側に与える印象としても申し分なし……どんどん行きましょうか。勝負に出る時は貴方にお任せします」

 

「……わかりました。でも、卓は変えましょう。相手が店側の人間だと()()される可能性もあります」

 

 周囲が盛り上がる一方で、モルド達を賭博(ゲーム)に押し付けて何とか抜け出したベルはリアと呼んだ女性の側に近寄り、指示を求めるように囁く。

 少年に続き、大勝ちをした彼女はここで止まることなく、次々と勝負を仕掛けていくことを選択。当初の予定通り、目立つことを意識し、様々な卓を渡り歩いていく。

 

 先ほどまでやっていた進行役(ディーラー)との直接対決をする賭博(ゲーム)は避け、客同士で戦うポーカーなどを選択。

 ベルがの持つ賭博(ゲーム)の知識は基本の規則(ルール)ばかりであり、賭博(ゲーム)の駆け引きなどはできるはずもなかったが、今の彼にそんな駆け引きは必要なかった。

 

「フルハウス……また、僕の勝ちですね」

 

 相手がどれだけ良い手役(ハンド)を持っていたとしても少年はその一歩先を行き、仮に少年の手役(ハンド)が悪かったとしても、周囲はそれ未満の手役(ハンド)しか成立させることが出来なかった。

 不正(イカサマ)を疑われることもあったが、当然そんなことはしていないため、無罪。その直後、疑われた事に憤るようにベルとリアの二人組が今まで以上の荒稼ぎを見せたからか、彼等を疑う者は徐々にいなくなり、さらには彼等が卓に近付くだけでそこにいた客は蜘蛛の子を散らすかのようにどこかへと逃げるようになってしまった。

 

「……やり過ぎ、ですか?」

 

「……あまり言いたくないけど、そうね。目立つって言った手前、こんな事を言うのはあれだけど、ちょっと私もドン引きしてるかも…………勝ち過ぎじゃない?」

 

「僕もこんなことになるとは……勝つ自信はすごくあったんですけど一回も負けないのは、想定外です……」

 

 ホールの一角に設けられた休憩場所で大量という言葉では表せない程の量の賭札(チップ)を携えたベルとリアが肩を寄せ合い座り合う。

 ()()が外れかけている隣の彼女にベルは笑う事しか出来ず、彼女が向けてくる視線に思わず目を逸らして周囲を見渡した。

 

 周囲に人や神はいないが、大量の視線が向けられていることがわかる。

 無遠慮に見る者もいれば、隙を窺うように見ている者など、様々だ。

 

 目立つ、という第一目標は達成したと言っていいだろう。

 だが、その過程で想定外の出来事が起きてしまっていた。

 その一つがベルが語った賭博全勝である。やればやるほど勝ってしまい、あえて負けようと思っても【幸運】がそれを拒否するかのように彼等を勝たせ続けていたのだ。

 

「ちょっとまずいかもしれないわね……目立ち過ぎて、というか勝ち過ぎて逆に声がかからないなんてことも……いや、それはないか……予想通り黒幕があの男ならむしろ放っておかない……!」

 

「……?」

 

 声がかからないことを危惧していたリアだったが、すぐにその危惧は不要なものだと首を振る。

 直後、彼等の元へ仕立ての良い黒服に身を包んだ男が近付いてきた。

 

「お客様、経営者(オーナー)のセルバンティスが、ぜひお会いしたいと」

 

 驚いたような演技を見せるベルの隣で、彼女は表情と雰囲気を戻す。

 悟られないように自然と表情を戻しながら、リアはベルの言葉を待った。

 

「いいんですか! ありがとうございます!」

 

 運良く勝てたからか気分が良さげな声音で答えるベルに黒服の男の口元がわずかに歪んだ。

 その一瞬の笑みを二人は見逃さず、絶対の確信を持ちながら、男の後を追う。

 案内された先にいたのは、大柄なドワーフと……彼に挨拶をされているリューとシルだった。

 

「おお、貴方が【リトル・ヒーロー】殿ですか!」

 

 何故二人がここに、と揺れかけた瞳をドワーフがこちらに気付く前に抑える。

 振り向いた彼は二人のその様子に気付くことなく、両腕を広げてベル達を迎えた。

 

「私はテリー・セルバンティス、この賭博場(カジノ)経営者(オーナー)を努めておる者です。貴方のような将来有望な冒険者が足を運んでくださるなんて、夢のようです」

 

「あ、ありがとうございます。僕も今夜は楽しませてもらっています。ベル・クラネルです。こちらはリアさん、今回はお忍びでの参加ということなので詮索はあまりしないで頂けると幸いです」

 

「…………」

 

 テリーの挨拶にベルが返し、紹介されたリアが令嬢のように礼を取る。

 ベルの目から見て、歓迎してくるテリーは愛想の欠かさない人物だった。

 強面だが、笑みを絶やさず話す様は冗談を交えて話す明るい口調も相まって相手の警戒心を和らげるのに役立つことだろう。その目だけは隠し切れていないようだが。

 

「そういうことなのでしたら、そうさせていただきましょう。せっかくの楽しい夜です。余計な話でこの麗しいお顔を曇らせたくありませんからなぁ」

 

「ありがとうございます」

 

「いえいえ……ところで、クラネル殿。お聞きしたところ、本日のお二方は相当()()()()()ご様子……そこでご提案なのですが、あちらの貴賓室(ビップルーム)に来られませんか?」

 

 挨拶はそこそこに、握手なども交わさず、リアを一瞬舐めるような視線で見たテリーはそれまでの愛想のいい笑顔とは打って変わって、商人のような笑みを浮かべる。

 

貴賓室(ビップルーム)……確かここよりずっと高額の賭博(ゲーム)が出来る場所でしたっけ」

 

「その通りでございます! もちろんそれだけでなく、最高級の奉仕(サービス)やあの部屋でしかできない賭博(ゲーム)なども揃えております。金満家の方々が揃われていらっしゃるので、話が合わないこともあるかもしれませんが、あくまで本題は賭博(ゲーム)。そこに身分の違いはありません。貴方にもお気に召してもらえるかと」

 

 捲し立てるように、言葉の端々に逃がさないという意思の込められた声でテリーは誘ってくる。

 断る理由はない。その誘いを丁重に受けるベルにテリーは大きな笑い声を上げた。

 

 そんな彼に引率され、ベル達はリューとシルと共に移動を始める。

 道中、リューが何か言いたげな視線を向けてくることもあったが、そんな彼女……今は彼、に探るような視線をテリーが向けていたため、特に会話をすることもなく、屈強な門番が立つ樫の大扉に辿り着いた。

 

「どうぞ、こちらへ」

 

 きつく閉ざされていた両開きの扉が開かれる。

 リューとシル、ベルとリアは互いが同じ目標を持っていることも知らずに、敵の懐へと足を踏み入れるのであった。




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