二人の姫と出会った少年は英雄の道を歩む   作:Kkky

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遅れてしまい申し訳ありません。

また一つ原作のある出来事が変わります。
それでも良ければどうぞ。


『暗黒期』の終わり、『英雄』の始まり

 オラリオに帰ってきた私を待っていたのはギルド及びロイマンによる今後の都市外への外出を禁ずるという言葉だった。

 流石に永遠に禁ずるなどということではないが、少なくとも完全に暗黒期が終息するまでは私は都市の外に出ることはできないだろう。

 ギルドの言い分はわかるが少々……いや、かなり腹立たしい。これでいつ次にベルに会えるか分からなくなってしまった。

 

「なるほど、それで帰ってきてから二人ともずっと不機嫌だったのか」

 

「顔に出ていたか? 出さないように心がけていたのだがな」

 

 その苛立ちはフィンに指摘されて初めて顔に出ていることに気づいた。

 

「……これではダメだな……下の者に示しがつかん」

 

「例の少年と会ってから結構変わったね。ただそれは君にとってもアイズにとっても歓迎してもいい変化なんじゃないかな」

 

「そうか? ……いや、そうだな。特にアイズはあの子と会ってから笑顔を浮かべる回数が明らかに増えた。私たちでそれをできなかったことは少し悔しいがな」

 

「ふふっ、そうだね……さて、話を変えようか。闇派閥(イヴィルス)の残党の話だ」

 

 リヴェリアとアイズが一度目の冒険者依頼(クエスト)から帰還して1年が経過している。

 その間も水面下で残党との戦いは続いていた。

 

「27階層で起きた惨劇……『27階層の悪夢』。あの最中に多くの邪神たちを送還することに成功した。だがそれでもまだ生き残りがいる」

 

「未だに数は多い。そして信者も増え続けている。やはり大元の邪神たちを全て送還しなければ暗黒期は終息しないだろう」

 

『27階層の悪夢』

 言葉通り、27階層で起きた悪夢のような出来事。

 闇派閥(イヴィルス)が起こした出来事の中でも一際凄惨な最悪の事件。

 

 偽情報を流し、27階層において闇派閥の大規模な怪物進呈(パス・パレード)によって有力派閥を嵌め殺した。

 階層中のモンスターに加えて階層主までも巻き込んだ地獄絵図と化したという。

 

「……あの事件の被害者達は僕の選択を恨むだろう。だがそうだとしても邪神たちを叩く機会を逃すわけにはいかなかった」

 

「……お前の判断を責めるつもりはない。報告があった時点でお前は手遅れだと判断し、そして救出以外の最良の選択肢をお前はとった。その選択は間違っていないと私は言ってやる」

 

「ありがとう、リヴェリア。話が脱線してしまったね、戻そう」

 

 それからは今後の対策を中心に話し合う。

 惜しむらくはここにガレスとロキがいないこと。二人だけの対策会議は思ったよりも進まない。

 

「あの惨劇以降、闇派閥(イヴィルス)の活動は控えめになっている。表面上は平和に見えるだろうがまたいつあのような出来事が起こるかはわからない。奴らを表に引っ張り出すいい案がないものか……」

 

 あくまで控えめでしかない。着々と闇派閥の信者は増え、時々都市の人々に襲いかかる。

 ようやく終わりが見えてきた暗黒期、これ以上の被害を出すわけにはいかない。

 

「私の方でも考えておく。巡回の数も【アストレア・ファミリア】と協力して増やしておこう」

 

「ああ、助かる。何か必要なものがあれば言ってくれ」

 

 翌日から【アストレア・ファミリア】の団員と共に巡回をする。リヴェリアだけでなく、負担を減らしたいのかアイズも巡回に参加する。

 初めは二人の参戦に驚かれはしたその日のうちに慣れていった。

 

 そうしてそんな日々がさらに一年続いたある日、ついに我慢の限界が来たのか闇派閥(イヴィルス)の残党が尻尾を出す。

 リヴェリアとアイズはフィンの指示を受け、【アストレア・ファミリア】の団員と共に30階層『密林の峡谷』にて【ルドラ・ファミリア】と対峙する。

 当然夥しい量の罠……火炎石が大量につぎ込まれた罠が仕掛けられてはいたが、目敏くそれに勘付いた【狡鼠(スライル)】ライラの警告によって誰一人の負傷者も出さずに回避に成功する。

 ついに闇派閥(イヴィルス)の主力の一つを追い詰めた【アストレア・ファミリア】とアイズ、リヴェリア。

【ルドラ・ファミリア】を仕留めようとした────その時だった。

 

 ダンジョンが、()()()

 

 そして『27階層の悪夢』……それに匹敵する最悪の事件が巻き起こる。

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「誰か……! 誰か……!」

 

「どうし、な!?」

 

 ダンジョンの入り口前で悲痛な叫びが響き渡る。

 そこでギルド職員が目にしたのは、全身に傷を負い、夥しい量の血を流した【アストレア・ファミリア】……そして【九魔姫】リヴェリア・リヨス・アールヴの姿だった。

 

「リヴェリア様! しっかり、しっかりしてください!」

 

 その姿にまずエルフ達が混乱に陥る。

 次にその混乱がバベル内にいたギルドの職員、冒険者などの次々と伝播していく。

 

「ゲホっ……なんでも、いい……ポーション……を……」

 

 右腕を切断され、未だ血が溢れている【大和竜胆】の声で幾らかの冒険者、職員の冷静さが戻ってくる。

 職員長の指示で次から次へと回復薬(ポーション)などが運ばれてくるが、数が足りない。

 

「おい! 誰でもいい! 【戦場の聖女(デア・セイント)】を連れてこい! 他の治療師でもいい! とにかく急げ! 間に合わなくなる!」

 

「魔法を使える方は治療を手伝ってください! 応急処置も手伝ってください! お願いします!」

 

「なんだ? 何が起きたんだ?」

 

 あまりの騒ぎに野次馬が集まってくる。

 一部の冒険者は魔法による治療を行なっているが、大半の冒険者は興味半分、面白半分で集まっている邪魔者でしかない。

 

「邪魔です! 何もしないならどいてください!」

 

 人混みによって回復薬などの供給が遅れる。

 そのわずかな遅れが助かるはずの命を奪ってしまうかもしれないというのに……

 その時だった。

 

 一筋の雷が大理石の床を焼く。

 その発生源となる方向、バベルの入り口にいたのは……

 

「【フレイヤ・ファミリア】……へ、ヘディン・セルランド……」

 

「何の騒ぎかと思えば……貴様らのくだらない行動のせいでどれだけの時間が奪われた? 高貴の御方の命を奪うつもりか……二度は言わん、どけ」

 

 その言葉と言葉の節々に感じる圧倒的な怒りの前には誰も逆らうことができなかった。

 一瞬で人混みが散り、道ができる。

 

「早くしろ、リヴェリア様を死なせたら命はないと思え……無論貴様らもだ」

 

 万が一があればこの場にいる冒険者を惨殺するとでもいうような威圧感を放ちながら治療の支援を行うヘディン。

 そこに…………

 

「連れてきました! ……なんですかこの空気」

 

「失礼します……これは……すぐに魔法の行使に移ります。念の為精神力回復薬(マジック・ポーション)をいくつか私に」

 

「わ、わかりました!」

 

 できた道を通り、一人の少女が現れる。

 幸運にもバベルへと向かっていた【戦場の聖女】アミッド・テアサナーレだ。

【アストレア・ファミリア】達の容態を見て、すぐさま詠唱を始める。

 治癒能力に関してはリヴェリアでさえも太刀打ちできない都市最高位の治療師。その実力は蘇生の一歩手前の治療まで可能だという。

 

「【聖想(かみ)の名をもって——私が癒す】」

 

 魔法円の範囲内の【アストレア・ファミリア】たちが純白の光輝に包まれる。

 

「【ディア・フラーテル】!」

 

 包まれたかと思うと見るも無惨だった傷が癒えていく。

 鋭い何かに切り裂かれた痕、貫かれた痕、魔法でも撃たれたかのような傷痕など。

 ありとあらゆる傷が塞がり、瀕死だった彼女たちの顔に少しずつ色が戻る。

 

 だが切断された腕や奪われた目などが帰ってくることはない。

 

「予断は許しません。急いで【ディアンケヒト・ファミリア】に……血を流しすぎています。このままでは命はありません。迅速に、かつ丁寧にお願いします」

 

 有無を言わさぬその表情とその言葉を聞き、血相を変えてギルド職員たちが担架などを使い、【ディアンケヒト・ファミリア】へと彼女たちを運んでいく。

 例え傷が塞がったとしても失った血まで戻ってはこない。このまま放置していればいずれ死に至る。

 そんなことをさせるつもりはない。

 

「私も急ぎましょう。どなたでも良いので【ロキ・ファミリア】、【アストレア・ファミリア】への言伝をお願いします。【白妖の魔杖(ヒルド・スレイヴ)】、あなたには感謝を」

 

 そう言い残し、アミッドも自らの本拠へと急いで戻っていく。

 残ったのは一部のギルドの職員、ヘディンを恐れて一歩も動けなくなった冒険者たち、そして───

 

「リヴェリア様に一体何が……他の小娘どもがいたとはいえ、あの御方があそこまでの傷を負ってくるなど考えられん……ダンジョンで何が起きた……」

 

 一人ダンジョン内で起きた事件に思案を重ねるヘディンだった。

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「…………ぅ……ん……………………こ、こは」

 

 リヴェリアはわずかに顔に差し込む光を感じて目を覚ます。

 まず最初に目に映ったのは白亜の天井だった。

 

「目ぇ覚ましたか! 目、見えとるか!?」

 

「…………ロ、キ」

 

 次にはロキの喧しい声がリヴェリアの耳に入ってくる。

 ただその喧しさが今は不思議と心地よい。

 

「ちょっと待っとき、今アミッド呼んでくるからな!」

 

 バタバタと大きな足音を立てて部屋を飛び出していくロキ。

 次の瞬間には、アミッドの叱責の声が飛んでいた。

 その間に辺りを見回す。どうやら大部屋ではなく個室で、この部屋には自分以外いないようだ。

 ふと窓を見て思わずギョッと目を見開く。そこには贈り物が山のように積んであった。

 

「なんだ……これは……」

 

「失礼します、リヴェリア様」

 

 少し動揺しているとアミッドが部屋へと入ってくる。

 頭を抑えたロキも一緒だ。

 

「無事、お目覚めになられたようでなによりです」

 

「……アミッド、私はどれくらいの期間眠りについていた?」

 

「そうですね……おおよそ一月と少しになります」

 

 長い間眠りについていた感覚はあったが、一月という言葉に思わず面食らってしまう。

 

「一月……だと」

 

「はい。あの日、リヴェリア様たちがダンジョンから帰還した日から既に一月が経過しております。リヴェリア様以外の方々は全員無事……目を覚まし、リハビリや普段の日常へと戻っております」

 

 結構長い間眠っていたことに対して衝撃を受けはしたが、【アストレア・ファミリア】の少女たちが全員生きていることに安堵する。

 あの日、命を賭けた甲斐があった。

 

「……そうか……良かった……そうだ、ロキ、アイズはどうしてる?」

 

「無事やで。というかあの子が1番ケロッとしてるな。傷も1番少なかったしなー……リヴェリアが庇ったんか?」

 

「いいや、むしろ庇われたのは……守られたのは私の方だ」

 

「へえ……また今度詳しく聞かせてもらおかな。ウチは一旦本拠に帰るな。フィン達にも伝えんといけんし。アミッド、頼むで」

 

 そう言い残し、ロキは本拠へと帰って行った。

 それを見送った後にアミッドによる診察が始まる。

 

「…………そうですね、あと3日で本拠へと帰っても大丈夫でしょう。無論、帰ってからもしばらくは安静にしてもらいますが」

 

「わかっているさ。そんな無茶はしない」

 

 その診察を経て、三日後の退院が決まった。

 眠り続けてはいたが少し前から傷自体はほとんど癒えていたようだ。

 

「では、私はこれで……それと明日にはフィン団長がこちらに来られるようです」

 

「ああ、わかった。ありがとう」

 

 扉が閉まり、リヴェリア一人が部屋に残される。

 その部屋でアミッドとの会話で覚えた違和感を思い浮かべる。

 

 全員無事だとアミッドは確かに言った。

 だが無事という言葉の後に一瞬間があったことにリヴェリアは気づいていた。

 

「……一応無事ではあるのだろうな。だがただ無事というわけではなさそうだ」

 

 僅かに不安は残されているが、あの地獄から誰も命を落としていないということは確かなことだ。

 その確かな希望を掴めたことを胸にリヴェリアは明日に備えるのであった。

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「やあリヴェリア、元気かい?」

 

「この姿が元気に見えるのであればアミッドに目を治してもらったらどうだ?」

 

 翌日、ベッドの上で本を読んでいると昨日アミッドが言った通り、フィンが姿を現した。

 軽口を交わしながらもその眼の中の光は心から安堵しているような光を宿している。

 

「心配をかけたな」

 

「正直肝が冷えたよ。何でもない闇派閥(イヴィルス)の討伐がこんなことになるとはね」

 

 僅かだが【勇者】の仮面が外れ、フィン・ディムナが顔を覗かせている。

 それほど今回の出来事はフィンにとっても衝撃的なことだったのだ。

 

Lv.6(きみ)が瀕死の状態で地上に帰還したと聞いた時は地上は大騒ぎだったよ。特にエルフたちは取り乱してひどかった」

 

「ああ……目に浮かぶようだ」

 

 あの時の騒ぎは大変だったと後にフィンは語る。

 曰くリヴェリアをこんな目に遭わせたモンスターを絶滅させる。

 曰くこんな重傷を負わせる原因を作った闇派閥(イヴィルス)を根絶やしにする。

 …………など。

 

「その程度の意気込みでモンスターを絶滅させられるのであればこんなことにはなっていない。闇派閥(イヴィルス)もだが」

 

「あははは……まあ結果的にこの暴走は闇派閥の捕縛に繋がったからプラスに考えられるものだよ……ただ」

 

 そこで一度フィンが言葉を切る。

 少し言いづらそうに、言葉を選ぶような表情を見せている。

 

「……昨日のアミッドとの会話である程度の覚悟はしている。躊躇わずに言ってくれ、フィン」

 

「……そうか、じゃあ遠慮なく。まず最初にリヴェリアが眠っていたこの一月で多くの闇派閥(イヴィルス)、もしくはそれに与する組織が壊滅した」

 

「なっ!?」

 

 思ってもいないフィンの言葉に目を見開く。

 その驚きも収まらぬままフィンは続ける。

 

「原因はさっきも言った多くのエルフ達の暴走。だがそれはおおよそ一割。残りの九割はこちらもエルフ。たった一人のエルフが都市内に存在する闇派閥(イヴィルス)に壊滅的な打撃を与えた」

 

 それを聞き、彼女の顔が思い浮かんだ。

 

「……その、エルフの名前は……」

 

 何となく察しはついている。

 あの時の彼女の傷はアイズに次いで浅かった。そしてあの日に起きた出来事。

 彼女ならば動くという確信があった。だが、それでも───

 

「【アストレア・ファミリア】所属、レベル4 【疾風】リュー・リオン」

 

 その確信は……当たってほしくなかった。

【アストレア・ファミリア】の正義の使徒が自らの意思でその身を闇へと堕とした。

 フィンは淡々と、無感情に続ける。

 

「あれは君達がダンジョンから帰ってきてから一週間経った日の出来事だった。闇派閥(イヴィルス)との繋がりが疑われていた商会の一つが全滅した。数十人いた商会の人間に生き残りはいなかった」

 

 商人達はまだ疑わしい段階ではあった。

 しかし、確信はなくとも疑わしいというだけでリュー・リオンの復讐する理由には十分であった。

 

「そこからも何日かおきに闇派閥(イヴィルス)、もしくはそれに近しいものたちが襲撃される事件が起きた。今日まで潰された組織の数は両手の指じゃ足りないだろうな」

 

【ロキ・ファミリア】どころか他の敵味方の【ファミリア】の誰もが手を出すことが出来ないほどの迅速な復讐劇。

 他の【ファミリア】が到着するのは全てが終わった後だった。

 

「始まってまだ一月。この先も潰される組織は増えていくだろう。【アストレア・ファミリア】もなんとかして止めようとしているようだが……本拠にも帰らずに戦い続けているようだ」

 

 会えない以上説得は不可能。

 たとえ出会えたとしてももう【疾風】は止まらない。純粋な魂を持つが故にその魂は影響を受けやすく、今は復讐心により黒く濁ってしまった。

 大切な仲間を、敬愛する王族(ハイエルフ)を傷つけた者たちを滅ぼすか自らが力尽きるまで彼女は止まらない。

 

「……そうか……彼女はその道に進んでしまったのか」

 

「君が気に病むことじゃない……と言っても気休めにもならないかな? ……さて、他に何か聞きたいことはあるかい?」

 

「ああ、【アストレア・ファミリア】の被害状況を教えてくれ」

 

 目を覚ました時からリヴェリアが気にしていたことの一つ。

 全員無事だとは聞いているが傷の度合いは確認していない。

 そしてアミッドがわずかに言い淀んでいた理由も気になる。

 

「……ゴチャゴチャと話さずに結論から言おうか。【大和竜胆】は右腕を失い、【狡鼠(スライル)】は両目を切り裂かれ、ご丁寧にも焼き潰されていた。もう二度と光が戻ることはないだろう。この二人が特に重傷を負っていた。冒険者としての命も危ういだろう」

 

 変わらずフィンは淡々と語る。

 

「次に【紅の正花(スカーレット・ハーネル)】だが、彼女は左目を失っていた。両目ではないだけマシだと本人は言っていたけどね」

 

 語られるたびにリヴェリアの胸の奥が軋む。命があるだけマシではある。だがそれでも彼女たちの未来はほとんど閉ざされてしまった。

 自分の力では彼女たちの未来を守れなかった事実が胸に突き刺さる。

 

「ほかの者達も大なり小なり傷を負っていたがその三人に比べればまだマシなほうだ。ほかにも問題はあるが……リヴェリア、こっちを見てくれないかい?」

 

 思わず顔をうつ向かせているとフィンが視線を合わせるよう言ってくる。

 

「アリーゼ達はこう言ってたよ。『あなたとアイズがいなければ私たちは全滅していた。あなたたちが居てくれて助かったわ、ありがとう』……ってね。だからそんな顔をするな」

 

「…………ふぅ……そうだな。思った以上に体だけでなく心が弱っていたようだ」

 

「僕の方も少し詰め込みすぎたね。もう少し体力が戻ってから話すべきだったかな」

 

「いや、聞きたいと言ったのは私だ。気にしないでくれ」

 

「そうかい? それならお言葉に甘えておこう。じゃあ僕は戻るよ。またいつ【疾風】が動くかわからないからね」

 

「ああ、気をつけろよ」

 

 背を向けて軽く手を振り、フィンは帰っていった。

 それ以降は特に何も起きず、退院の日がやってくる。

 本拠へ帰る道中にエルフに囲まれるハプニングはあったものの無事本拠に辿り着く。

 そしてその日から【疾風】の行動が激化する。

 

 闇討ち、奇襲、罠。高潔なエルフであった『疾風』らしからぬ行動で次から次に日を空けることなく、闇派閥(イヴィルス)を襲っていく。

 その中にギルドの職員が含まれていることもあったが、疑わしい行動をした者は全て復讐対象だった。

 そしてそれに同調するようにフィンも指揮を執り、闇派閥(イヴィルス)を追い詰める。しかしまるで邪魔をするなと言わんばかりに追い詰めた端から【疾風】が全てを刈り取っていく。

 

【疾風】の行いにより天に還った神の数は四、【疾風】が潰した組織の数は二十七。

 単独で動いた戦果にしては圧倒的なモノだった。その漆黒の衝動が闇派閥(イヴィルス)に関する全てを道連れにする。

【疾風】の復讐劇。皮肉にもそれが都市の『暗黒期』の終焉の引き鉄となった。

 

 こうして『暗黒期』は【疾風】の暴走により終焉を迎える。

 歓喜に沸く都市に住む人々と冒険者達。

 その裏では力尽き倒れた【疾風】が一人の少女と出会っていた。

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「二体行ったぞベル! 頼む!」

 

「はい!」

 

 村に近い森の中、何人かの初老の男性と一人の少年が村を襲おうとしていたモンスターと戦っていた。

 地上で村が壊滅する最大の要因であるモンスター、『ルー・ガルー』の群れだ。

 

「ふっ!」

 

「オォオ!?」

 

 駆け引きなど一切なく魔石を一直線に狙う。

 数は多いが速さも力も判断力も大したことはない。

 一匹の魔石を切り裂いた返す刃でもう一匹の首を狙う。

 白い剣が煌めき、首を斬り飛ばす。返り血が飛ぶが軽く後ろに飛ぶことで回避。

 

「片付きました!」

 

「相変わらず早いな! じゃあ他の奴を手伝ってくれ!」

 

「はい!」

 

 苦戦してる人の所へ向かい、隙だらけのモンスターの背中に剣を突き刺す。

 順調に群れが減ってるのが目に見えてわかる。

 

「次!」

 

 アイズに比べればこの程度のモンスターなどベルの敵ではなかった。

 そうして森を駆けて戦っている内に群れの掃討に成功する。

 

「お疲れ! やっぱベルは強えな!」

 

「お疲れ様です! ありがとうございます!」

 

 村の人たちと森や山を歩き、モンスターの群れなどを倒す。

 それが10歳から始めて14歳の今まで続くベルの訓練兼日課となっていた。

 

「ベル坊……ああいや、ベルももう14歳かあ……そろそろ向こうに行っても良いんじゃないか?」

 

「うーん……行きたいですけど、最近は村を襲うモンスターも増えてきましたし今僕がいなくなったら大変じゃないですか?」

 

「あれぐらいだったら俺達でもなんとかできるぞ。まあ気が変わったらすぐにでも誰かに言ってくれよな」

 

 今のベルは村を守るためにアイズから師事を受けた剣技を使い、訓練と合わせてモンスターの討伐を行っていた

 村の人間達はそれに感謝はしているもののそれ以上に素人目に見ても卓越した技術を持ち、ある目標を持つベルをこんな辺境の村に留めず、なんとか送り出してあげることはできないものかと考えていた。

 そんなある日のこと、戦いとその後始末を終えて、村の人々と話しながら帰ってきたベルを妙な雰囲気に包まれている村が出迎えた。

 

「どうしたんですか?」

 

「……お前にとって辛いことが起きた。聞くか?」

 

 ぞわぞわと胸のあたりに気持ちの悪いものが上がってくる。

 思わずあたりを見回すと全ての村人が暗い表情を浮かべていることに気づく。そしてその中に大切な祖父がいないことにも。

 

「何が、あったんですか…お祖父ちゃんは、どこですか…?」

 

「……お前の爺さんは…モンスターに襲われて、死んじまった…」

 

 ガツンと、ベルは頭を殴られたような感覚に襲われた。

 最も当たっては欲しくなかった嫌な予感が当たってしまった。

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 そのあとはどうやって家に帰ったのか覚えていない。

 気づいたら月の明かりが差し込む家にたどり着いていた。

 

 家に入り、少し家の中を見回す。

 祖父がいない家の中は思ったよりもずっと広くてずっと寒かった。

 

「……なんでだろ…あんまり涙出ないや」

 

 とても悲しいはずなのになぜか涙はあまり出なかった。

 死体は見ていなかったからどこかでまだ祖父が生きているという淡い期待をどこかで抱いているのかもしれない。

 祖父が死んでしまうところを見た人がいるというのに。

 

「……七年前はアイズちゃんとお母さんがいなくなって、今日はお爺ちゃんがいなくなっちゃった。手紙も、一年前から……寂しいな」

 

 二人が帰ってから心の支えになっていた手紙は一年前からパッタリと来なくなってしまった。

 何かあったのかと心配もしていたが、ベルにその二人の現況を知る術はなかった。

 そして今日、祖父もいなくなってしまい、ベルはついに一人になってしまった。

 

「……一人は……いやだな…………やっぱり迷宮都市(オラリオ)に行こう、かな…」

 

 村の人たちは優しく温かい。でも家族とは違う。

 祖父以外の家族の愛を知ってしまったベルはより一層孤独感に苛まれ、半端な覚悟で迷宮都市に向かう決意をしそうになる。

 

 そんな中途半端なベル・クラネルを叱咤するように祖父の言葉が蘇る。

 

『迷宮都市には何でもある』

 

『見目麗しい可愛い女子達は勿論、お前が大好きだったエルフ、ボンキュッボンな女神……そして運命の出会いも存在する。お前があの日、あの子と出会ったような出会いもあるだろう。それが女子とは限らん。行きたきゃいけ』

 

 あれはアイズちゃんとお母さんが帰ってからしばらく経ったある日のことだった。

 迷宮都市について聞いたボクにお祖父ちゃんは話してくれた。

 

『上手く立ち回れば、富も名声も手に入れることができるだろう。だが、足を踏み入れた者は否応なく時代のうねりに巻き込まれていく。あそこはそういう場所だ』

 

 じっと黙って話を聞くぼくを見下ろしながら話すお祖父ちゃんの顔は今でもよく思い出せる。

 あの時のお祖父ちゃんは笑うでも怒るわけでもなく、ただ淡々と無表情で話していた。

 

『だからこそ……お前が憧れた英雄にもなれる。覚悟があれば、行け』

 

 あの時の祖父は確かにそう言った。

 よく思い出せた。あんな話を忘れて、寂しいからと迷宮都市に向かおうという半端な覚悟をした自身に腹が立つ。

 そしてその言葉を思い出せたことで覚悟は固まった。

 

 覚悟が固まってからしばらく経ち、祖父の遺体のない墓を作ったベルは村長や村の人と話し、オラリオに向かうという旨を伝えた。

 急にこんなことを言ったため何か言われるかと思ったが、誰もが暖かく背中を押してくれた。

 

 そこからは早かった。

 大切な母からもらったたくさんの物と家に残った財産を持ち、村の人々に見送られながらあっさりと村を発った。

 

 「…………」

 

 小さくなっていく村を見ながら祖父が言っていたある言葉を思い浮かべる。

 

『他人に意志を委ねるな。精霊だろうが神々であろうが同じだ。ましてや儂は何も言わん』

 

 あの人の言葉を覚えている。

 

『誰の指図でもない。自分で決めろ』

 

 あの人の眼差しを覚えている。

 

『これは───』

「これは───」

 

 あの時、あの人がくれた最後の言葉を僕は思わず口にしていた。

 

『お前の物語(みち)だ』

「僕の物語(みち)だ」

 

 あの人の浮かべた笑みを、決して忘れない。

 

 もういなくなってしまったあの人の沢山の言葉を、共に過ごした大切な思い出を。

 僕はこれからもきっと、ふとした拍子に思い出していくのだろう。




感想、評価、お気に入り登録ありがとうございます。
お陰様でついに評価のバーが赤MAXになることができました。
本当にありがとうございます。

次の話からオラリオに向かい原作の話に入っていきます。
そこからも独自要素が入ってくると思いますがどうかよろしくお願いします。

また前回の話のあとがきで言った通り、不安定な投稿になることが増えると思います。
どうかご理解いただけると幸いです。
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