二人の姫と出会った少年は英雄の道を歩む   作:Kkky

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お待たせしました。
待たせた割には話は進みませんがどうぞ。


『神の宴』

「いやあ……あそこも中々美味しかったねベル君!」

 

「そうですね。値段も結構お手頃価格でしたし良いお店でした」

 

【ロキ・ファミリア】での要件を終えた僕は神様と一緒に昼食を済ませて本拠である廃教会に戻った。

 

「ベルくんはこれからどうするんだい? 今日バイトは休みだし買い物したりゆっくりしようと思ってるんだけど」

 

「うーん……時間はありますしダンジョンに潜ろうと思ってます。この剣も試してみたいですし」

 

 壁に立てかけてある赤い剣を手に持ち、鞘から少し抜く。

 アイズさんたちの本拠で少し振らせてもらったけどまだ振り回されている感覚がある。

 

「そうかい? 気を付けていくんだよ。そうだ! 念のため【ステイタス】の更新はしておこうか」

 

 さあ脱いで脱いで、と神様に急かされながら服を脱ぐ。

 少し前に更新したばかりだしあまり伸びるとは思わないけど……

 更新した後にやったのもアイズさんとの戦闘という名の訓練だし……

 

(まあ念のためにやってもらった方がいいよね。せっかく言ってくれたんだから)

 

 そんなことを考えながらベッドにうつ伏せになる。

 背中に神様の血が広がるのを感じながら僕は【ステイタス】が更新されるのを待った。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 ベル・クラネル

 

 Lv.1 所属:【ヘスティア・ファミリア】

 

 力 :B 776→SS  1027 

 耐久:S 901→SSS 1343

 器用:A 809→SS  1096

 敏捷:A 899→SSS 1187

 魔力:D 503→S   901

 

《魔法》

 

【ケラウノス】

 

 ・付与魔法(エンチャント)

 ・雷属性。

 ・詠唱式【目覚めよ(ブロンテ)

 

《スキル》

 

風精誓約(エアリエル・オース)

 

 ・誓いを交わした者の魔法の発現(魔法スロットには現れない)

 ・行使条件:詠唱文と対象魔法効果の完全把握。

 ・怪物種に対し攻撃力高域強化。

 ・誓いを違えた時、効果消失。

 

妖精王絆(アールヴ・ヴィンクルム)

 

 ・妖精王の魔法の発現(魔法スロットには現れない)

 ・行使条件:詠唱文と対象魔法効果の完全把握。

 ・魔法効果増幅、射程拡大。

 ・戦闘時、発展アビリティ『魔導』の一時発現。

 

英雄運命(アルゴノゥト)

 

 ・能動的行動(アクティブアクション)に対するチャージ実行権。

 ・発動時、周囲の味方の戦意高揚

 

 

 

 

 約二週間。

 ベルが『神の恩恵』を得てからまだたったのそれだけだ。

 それだけしか経っていないのに【ステイタス】の伸びが明らかにおかしい。

 

 明らかにおかしいがヘスティアはそれが何故なのかを知っている。

 例の成長補正スキルだ。

 それがあったからこの伸びに対してはわずかに動揺するだけで済んでいる。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

(【ステイタス】オールS……大部分はSSにSSSだって……!? こんなのボクは知らないぞ! しかもこれは…………まだ二週間程度しか経ってないんだぞ!?)

 

 成長どころか『飛躍』としか言いようがない【ステイタス】の伸び。

 それに加えて【ステイタス】の『限界突破』。

 さらにさらに上位の【経験値(エクセリア)】……つまり『偉業』がほぼ溜まり、【ランクアップ】が間近だということ。

 特に最後の事実のせいでもうヘスティアの頭はどうにかなってしまいそうだった。

 

(何かがあったとしたら昨日か今日、もしくは両方。このたった二日でベル君に何があったんだよ……!)

 

 動きを止めたヘスティアに不思議そうな目を向けているベル。

 笑って誤魔化そうとするが上手く笑えない。

 更新自体は終わっている。終わっているが……

 

 一瞬虚偽の【ステイタス】を伝えようという心がヘスティアに芽生える。

 驕りを持ってしまう可能性を危惧したからだ。

 一つ前の【ステイタス】で驕りを持たなかったベルに限ってあり得ないことだがほんのわずかに持ってしまう可能性が100%ないとは言い切れない。

 

 そのほんのわずかの驕りがベルを奪っていったら……そう考えると迷いを捨てきれなかった。

 だがそこでベルが眷属になった日に語ってくれたベルの『夢』が頭を過ぎる。

 

(─────ベル君の夢は……『英雄』になること…………そうだ、ボクはあの子が全力で走れるように支えるって誓ったじゃないか。そのボクがあの子を騙すような真似をしてどうするんだ)

 

「遅くなってごめんよ、更新が終わったよ。ベル君、今日は口頭で君の【ステイタス】の内容を伝えてもいいかい?」

 

「? 構いませんけど……」

 

 語られる【ステイタス】に驚くベルを視界に入れながら、ヘスティアは己がベルのためにできることを考える。

 今のヘスティアにできることは限られてくるはずだ。

 

「とまあ、こんな感じだね。あ、【ステイタス】の限界突破なんてボクも初耳だから聞かないでおくれよ。すごい伸び方をしているけど今回は何があったんだい?」

 

「うーんと……昨日酒場で冒険者の人と喧嘩をしたことと今日の朝にある人と力試し……というか訓練をしましたね」

 

「喧嘩ぁ!? 君に限って!? 昨日何があったんだい!?」

 

「えっと、ミノタウロスの件とその他諸々で色々あって……今日の朝、僕とその人たちの間で解決したので帰ってきてから伝えようと思ったんですけど……」

 

「むむ……ちゃんと後でその話は聞かせてくれよ? 今は【ステイタス】の話をしようか」

 

 ヘスティアが考えるに酒場での喧嘩というのはこの上昇量とはあまり関係はないだろう。

 この上昇量の大部分を占めているのは今日の朝の訓練というやつだろう。

 ヘスティアの推測が正しければ…………

 

「ベル君、朝の訓練の相手は君にとってどんな人だい?」

 

「…………僕の大事な人です」

 

 ビンゴ、とヘスティアは内心で思う。それならばこの上昇量にも納得がいく。

 憧憬との訓練を経たことによってその訓練において【憧憬一途(リアリス・フレーゼ)】が効果を向上させたのだろう。

 

「なるほど……よっぽど大事な人なんだね」

 

 たった一度の訓練、しかも朝に行って昼に帰ってきたことから、訓練の時間はそんなに取れなかっただろう。それなのにこの効果だ。

 

「はい、とても大事な人です。命を懸けられるぐらいに」

 

(……妬けるじゃないか)

 

 内心とは裏腹にヘスティアの表情は穏やかだった。

 その想いは何者も汚せないものだと心が理解したからだ。

 

「ベルくん、君はこれからどんどん強くなっていくだろう。きっとそれを君は望んでいる。そしてその大事な人のためにも強くなるという意志は消えないだろう」

 

 ヘスティアから目を逸らさずにベルは無言で頷く。

 そんなベルの両手をそっと優しく包み込む。

 少し不安になった心がバレないように丁寧に。

 

「……約束してほしい、無理はしないって。ミノタウロスに挑んだというような無茶はしないってボクに誓ってほしい」

 

「…………」

 

 時間にしてみれば大した時間ではなかったかもしれない。

 だが、あの僅かな時間、最悪の想像が何度も襲い掛かってきた。

 恩恵の反応が消えていないから大丈夫だと考えた。けれど帰ってこない限りその反応が次の瞬間、消えてもおかしくないということがその考えを邪魔した。

 

 原因が格上の敵に挑んだことで死にかけたと知った時は平静を装ったが、正直意識が飛びそうだった。

 

「君の強くなりたいという意志をボクは否定しないし否定させない、むしろ肯定しよう。応援だってするしボクが使えるすべての力を君に貸そう。…………だから」

 

 少しだけ握る手に力を、心の底からの願いを込める。

 

「お願いだから……ボクを一人にしないでおくれ」

 

 握った手に視線を落としているヘスティアにベルの顔は見えない。

 静寂が二人の間に流れる。二人にとって長い沈黙だった。

 

「はいっ」

 

 ベルのその返事に顔を上げる。

 決意を、誓いを新たにしたような笑みを浮かべたベルの顔が目に入る。

 

 満面の笑みではない。けれどもその穏やかな、こちらを安心させる笑みが多くの言葉で飾るよりも遥かに信頼を預けてくれる。

 目の前の少年は約束を守ってくれると、ヘスティアは確信することが出来た。

 

「約束します。強くなることに必死にはなりますけど、絶対に神様を一人にしないって。神様を蔑ろなんかにしないって」

 

「……その言葉が聞ければ安心だよ。ありがとう、ベル君」

 

 その笑みに応えるようにヘスティアも穏やかな笑みを浮かべる。

 ベルは約束をしてくれた。ならば自分も動こう。

 

(どこにおいたっけな……ああ、ここだったか)

 

 備え付けてある食器棚の引き出しからある封筒を取り出す。

『ガネーシャ主催 神の宴』と書かれた招待状だ。

 

(ボクなんかにも届いたんだ。きっとヘファイストスにも届いてるはず……)

 

 広大な都市を飛び回り、たまに都市外まで足を向ける大事な友人の顔を思い浮かべる。

 何を隠そうこの部屋もバイトもヘファイストスが恵んでくれたものだ。

 

 当然そんな忙しい友人が簡単に捕まるわけがない。

 確実に会おうとするのならこの催しを利用するしかない。

 

 開催日は……明日の夜。

 

「ベル君っ、予定変更だ! ボクは明日の夜……いや、何日か部屋を留守にするよっ、構わないかい?」

 

「えっ、あ、はい。明日って何かあるんですか?」

 

「ああ、ちょっと友人の開くパーティーに顔を出そうと思ってね。たった今出席するであろう友人に用事もできたしね」

 

「そういうことなら是非とも行ってください! 留守は僕が預かりますので!」

 

 笑顔でむしろ勧めてくるベルに感謝する。

 絶対に目的を達成しようという気持ちがより高まる。

 

「ベルくんはもうダンジョンに向かうのかい?」

 

「そうですね。更新もしてもらいましたしそろそろ向かおうと思います」

 

 そう言って必要なものを持ってベルが扉に手をかける。

 見送ろうとしたところであることを聞いていなかったことを思い出す。

 

「あ、ごめんベル君。行く前にもう一つ。昨日の酒場のことについて教えてもらってもいいかか?」

 

「そういえば話してませんでしたね。でも今日の朝に解決しましたし長くなりそうですし少し省略してもいいですか」

 

「うん、それでいいよ」

 

 ベルからその話を聞いたヘスティアは思わず怒りで叫びそうになった。

 が、もう当人たちの間で解決したということでグッと堪える。

 解決したのならその人物たちにそれ以上言うべきではないだろう。

 

「なるほどね……これはまた一つ用事ができたみたいだね」

 

「か、神様?」

 

「気にしないでいいよ。君たちの間で完結した以上ネチネチ言わないさ。ただ君の主神として少しロキと話すだけだから」 

 

 だが主神(おや)同士の話なら別だ。

 少しロキと話すぐらいなら問題はないだろう。

 

「あ、あと今日の帰りにこの宝石をもらったんですけど……神様これが何かわかりますか? どこかで見たことがあるんですけど思い出せなくて……」

 

(……へファイストスのところで何回か見たことがあるな……確か……)

 

「魔宝石というやつじゃないかな。『杖』の素材になる宝石だよ」

 

「これが魔宝石……実物は初めて見ました」

 

 興味深そうに魔宝石を見ているベルとベルの【ステイタス】を見て一つ思い浮かんだ。

 

「ベル君、それ、ボクに預けてくれないかな。悪いようにはしないから」

 

「あ、はい。良いですよ」

 

 あっさりと渡してきたベルに思わず面食らってしまう。

 思わず交互にベルと手元の魔宝石を見るとベルが少し笑う。

 

「きっと神様にも考えがあるんですよね? それなら僕はそれを全面的に信頼します。神様が僕を信頼してくれたように僕も神様を信頼しています。これはまず最初の証ということで……」

 

 最後は少し照れ臭そうに頭をかきながら。

 それを見てヘスティアの胸がいっぱいになる。

 何としてでもベルの力になると決意がより強固になる。

 

「…………引き留めて悪かったね。気を付けていくんだよ。訓練の傷も残っているみたいだしね」

 

「バレてましたか……はい! 気を付けて行ってきます!」

 

 嬉しそうに今度は満面な笑みを浮かべたベルを見送ってヘスティアは今夜の準備に取り掛かるのだった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「ここには初めて来たけど…………ええ……何考えてるんだいガネーシャ……」

 

 ヘスティアは昨日の招待状に書かれていた宴の会場となる【ガネーシャファミリア】の本拠に来ていた。

 そしてその本拠を目にしてドン引きしていた。

 

 本拠の建物自体も象の頭を持つ巨人象という奇怪な形をしているがヘスティアがドン引きしたのはそこではない。本拠の入り口の位置だ。

 入り口はなんと胡坐をかいた股間の中心だ。

 

『ガネーシャさんなにやってんすか』

 

『ガネーシャさんマジパネェっす』

 

 不思議な気配を纏った美丈夫達が、慣れたものだと言わんばかりに笑いながら股間の中をくぐっていく。

 彼らは皆、ヘスティアと同じ神だ。

 ヘスティアと同様、ガネーシャに招かれた来賓たちである。

 

 その中に見知った顔は近くに見当たらなかったのでヘスティアも意を決して像の股間をくぐっていった。

 

『本日は良く集まってくれたみなの者! 俺がガネーシャである! 今回もこれほどの神々に出席していただいてガネーシャ超感激! さて、積もる話はあるが、今年も例年通りフィリア祭を────』

 

(あ、これ長くなるな)

 

 途中まで全部聞こうと思っていたヘスティアだったが長くなると判断して他の神と同様にスピーチを聞き流して、会場内を歩く。

 会場は外見とは異なりとても落ち着いた内装の大広間。そこに似つかわしくない馬鹿でかい声が響き渡る中、立食パーティの形式を取って『神の宴』は開かれていた。

 

 見たところ都市内のほぼ全ての神がここに集まっている。

 これだったら目当てのヘファイストスも来ている可能性が高い。

 

 だがヘファイストスを探す前にやっておくべきことがある。

 

「これもいける……あ、これもあれも日持ちしそう…………む! テーブルが高い! 給仕君、踏み台を持ってきてくれないか!」

 

「えっ、あ、はい!」

 

 持参したタッパーに日持ちがしそうな料理を詰めることだ。

 貧乏【ファミリア】の主神であるヘスティアからしたら立食形式(タダメシ)など節約の大チャンスでしかない。

 そんなことをしていたら当然目立つがそんなものどこ吹く風だ。

 

(ベルくんの負担を減らすためならなんだってやってやるさ!)

 

 恥も外聞も知ったことかとすごい速さで食事を詰めていく。

 そんなことを繰り返しているとどこか脱力したような声がヘスティアに投げかけられる。

 

「何やってるのよアンタは……」

 

「むん?」

 

 振り向くと燃え上がるような紅い髪と真紅のドレス、そして真っ黒な眼帯をした女神がいた。

 

「ヘファイストス!」

 

「久しぶりねヘスティア、元気そうで何よりよ。元気そうなのはいいのだけどもう少しまともな姿を見せれなかったのかしら」

 

 呆れたような目つきで見下ろされるが、ヘスティアは逆に嬉しそうな顔で彼女に駆け寄る。

 

「良かった! 来ていたんだね! ここにきて正解だったよ!」

 

「…………言っておくけどお金は1ヴァリスも貸さないからね?」

 

「へ? ああ、うん、大丈夫。もうヘファイストスからお金は借りるつもりはないよ。散々迷惑をかけたから信用はないと思うけど」

 

 今度は怪訝そうな目で彼女に見られる。

 不思議そうな顔を浮かべるヘスティアと思わず面食らったような表情を浮かべるヘファイストス。彼女が何かを言う前にまた一人、神が声を掛けてくる。

 

「あら? そこにいるのはヘファイストスと……もしかしてヘスティアかしら?」

 

 振り向く温和な笑みを浮かべた胡桃色の髪を持つ女神が歩み寄ってきていた。

 

「あら、アストレアじゃない。あなたも来ていたのね」

 

「ええ、ガネーシャとその【ファミリア】には数年前からお世話になっているしせっかく招待状をもらったんですもの。それにガネーシャとフィリア祭の警備について少し話しておきたかったしね」

 

 少しヘファイストスと話すと彼女はヘスティアに目を向けてきた。

 実を言うとヘスティアは下界に降りて来てからアストレアと会ったことがない。

 天界で過ごしてた頃と同じように接していいものかと悩んでいると安心させるような声で彼女は語り掛けてきた。

 

「天界以来ね、伯母……ヘスティア。元気だったかしら?」

 

「ああ! 君がボクを伯母様って呼んだら張っ倒してやろうと思う程度には元気さ! そういう君も元気……そうに見えるけど……大丈夫かい?」

 

 どこか笑顔に陰があるような……そんな違和感を覚える。

 少し首をひねっていると彼女の笑顔がわずかに曇ったように見えた。

 

「数年前に色々あってね……それがまだ尾を引いてるみたい。顔に出ないようにはしていたのだけど……出ていたかしら」

 

「ううん、なんとなくの勘だよ。天界にいたころのような笑顔じゃなかったような気がしたんだ。君の性格が捻じ曲がったとは思えないし……」

 

 そこまで言って今更ながらこれは聞かれたくないことなのではないかと思い至る。

 ヘスティアが顔を百面相しているとアストレアが手を叩き、自身に視線を向けさせる。

 

「……流石伯母様! そんな些細な変化に気づいてくれるなんて!」

 

「あ─! 伯母様って言ったなこんにゃろう!」

 

 そしてそんなヘスティアを気遣うかのようにアストレアは気丈に振る舞った。

 暗い雰囲気を無理矢理払うためであろうその言葉に気づいたヘスティアもそれに乗る。

 飛び掛かろうとするヘスティアをヘファイストスが抑え、それを見て自然な笑顔をアストレアが浮かべる。

 とりあえず雰囲気を元に戻すには十分であろう。

 

「ごめんなさい、ヘスティア、ヘファイストス。せっかくの楽しい時間を妙な雰囲気にしてしまって」

 

「……ううん、ボクがスルーすべきだったんだから君は気にしなくていいよ」

 

「気づくのはすごいけど、私たち相手だったら結構ズカズカと踏み込んでくるわよねアンタ。気遣いとかもう少し勉強した方がいいんじゃないかしら」

 

「うるさいよヘファイストス! そんなことはわかってるんだい!」

 

 じとーっとした目で見るヘファイストスと悔しそうに唸るヘスティアを見てくすくすと笑うアストレア。

 和やかな雰囲気が漂ってきたところでコツコツ、と靴を鳴らす楚々とした音が三人に近づいてきた。

 

「ふふ……相変わらず仲が良いのね」

 

「えっ……フ、フレイヤ!?」

 

「あら、フレイヤも来ていたのね」

 

 美男美女が揃う神々の中でも一線を画していると言っていいほどの美貌を持った女神が視界に入る。

 まさかこんなところに来ているとは思っていなかったヘスティアは思わず面食らってしまう。

 

「ど、どうして君がここに?」

 

「ヘファイストスと一緒に会場を回っていたのよ。少し離れていたのだけど、二人がいたから思わず来ちゃったわ」

 

 男だったら……いや、女でも思わず見惚れてしまうだろうそんな笑みを浮かべ、フレイヤは佇んでいる。

 だが『美の神』であるフレイヤとは対極に位置する神であるヘスティアはそれに対して苦い表情を浮かべるだけで特に見惚れはしない。

 

「天界の知己との再会だったみたいだし、もしかしてお邪魔だったかしら?」

 

「そんなことはないわ、ねえヘスティア」

 

「お邪魔ではないけど……ボクは君のこと……というか『美の神』たちが苦手なんだ。あんまり良い反応はできないよ」

 

「あら、私は貴方のこと大好きなのに残念ね」

 

 大して残念とも思っていないような口調で優雅に微笑む。

 神は大抵何を考えているかわからないが、『美の神』は特にそれが顕著だ。

 真逆と言える権能を司っているからというのもあるかもしれないが、こういう食えないところがヘスティアが『美の神』を苦手としている原因である。

 

「ヘスティア」

 

「……やあロキ。やっぱり君も来ていると思ってたよ」

 

 またもヘスティアたちの元へ神が現れる。

 次に現れた神は朱色の瞳を持ち、朱色の髪を束ねた女神。

 ヘスティアが探そうと思っていた一人だ。

 

「ファイたんとフレイヤはちょくちょく会っとるしまあええやろ。久しぶりやなアストレア」

 

「久しぶりね、ロキ。元気だったかしら」

 

「まあボチボチやな……っと、もうちょい話したいんやけどその前にヘスティアを借りてってもええか? ちょいと話があるんや」

 

「奇遇だね。ちょうどボクも君と話しておきたいことがあったんだよ」

 

 ヘスティアとロキを除いた周囲の神がざわつく。

 二人の仲が最悪なのは周知の事実だ。そんな彼女たちが二人っきりで会話など、絶対平和に終わるはずがないと誰もがそう思った。

 

「一応言っておくわね。喧嘩は駄目よ? せっかくの宴の席なんだから」

 

「ああ、わかってるよ」

 

「ん、大丈夫や」

 

 そう言って会場の端の方へと移動する二人。

 そんな二人を心配そうに見つめる三人の女神。内一人はどちらかというと愉快なことが起きることを期待している顔だったが。

 周りの神々が彼女たちを題材に賭け事をする中、壁を背に二人は話し出す。

 

「で、話って何だい?」

 

「ダンジョンの件と酒場での件、ベル……ジブンの子から聞いとらんか?」

 

「……ああ、聞いてるよ。それがどうしたんだい?」

 

「そのことについての謝罪をしたい」

 

 話とはヘスティアが予想していた通り、ベルから聞いたあの出来事についてだ。

 ロキは普段細めている目をうっすらと開き、真摯にヘスティアを見つめる。

 そして腰を折り曲げ、深く頭を下げる。

 

「ウチらの失態でジブンらに大変な迷惑をかけた。本当にすまんかった」

 

 遠目から見ていた神々がざわつく。

 先ほども言ったように二人の仲が悪いのは周知の事実。出会えばすぐに喧嘩になるほどに。

 特にロキからヘスティアに対する態度はある理由もあって中々ひどい。

 

 そんなロキがヘスティアに対して頭を下げたのだ。

 娯楽として二人の諍いすらも楽しんでいる周りの神々が興味を持つのも当然だろう。

 

「……あの子から君たちとの間で起きたことを聞いた時、正直すごい腹が立ったよ。というか今でもちょっと怒ってる」

 

 顔を上げてくれ、というヘスティアの声にロキが顔を上げる。

 ロキが目にしたのは普段の幼い、子供じみた雰囲気とはかけ離れた雰囲気を醸し出す神の姿。

 神威を放つなどしていない。だが、ただそこにいるだけで周囲が張り詰めるのをロキは感じた。

 

「でも、もう君たちとベル君の間で話は終わったんだろう? それならボクは今回の件に関しては何も言わないよ。せっかく無事に解決したのを蒸し返しても何もならないからね」

 

「……本当にそれでええんか?」

 

「良いって言ってるじゃないか。あ……もしかしてボクに叱ってほしかったとかかい……? ごめんロキ……ボクにそういう趣味はないんだ……」

 

「んなわけあるかド阿呆!!」

 

 ドン引きしながら身を守るようにしてロキから離れるヘスティアを見てロキの顔がかっと赤くなる。

 そこからはいつものような取っ組み合いだ。

 周りでワクワクしながら見ていた神々も『なんだ、いつもの二人か』といった顔に戻り、周りから離れていく。

 

 残ったのはゼーハーと肩で息をする二人と初めから見守っていた三人。

 

「…………気ぃ遣わせてすまんな、ドチビ」

 

「気なんて遣ってないさ。ボクはボクの考えで動いているだけだからね」

 

 ヘスティアはにこやかに笑う。

 もうこれ以上話すこともないのだろう。

 だが最後に…………

 

「ああ、ロキ。最後に一つ言い忘れてた。……またあんなことが起きて、ベル君が傷ついたり……死んじゃったりしたら、ボクは君たちを絶対に許さない」

 

 ヘスティアから今回のことで言うことはもうないがそれはそれとしてだ。

 次はない、と釘をさしておく。

 結成したばかりの【ファミリア】の主神と世界に名を轟かす【ファミリア】の主神。主神としての二人の間には大きな差がある。

 だが今は(おや)(おや)の話だ。

 

「たとえどんな偉業を達成しようとも……それこそ【救界(マキア)】を成し遂げて色々な人から称えられたとしてもボクは君たちを認めない。憎んだりはしないけどね。頭の片隅にでも入れておいてくれ」

 

「……ああ、わかった」

 

「それじゃあボクはこれで。ヘファイストスにも用があるからね」

 

 一足先に三人の元へと戻る。

 ロキはどうするのかと見てみたが、既にその場を移動しており、会場を後にする姿だけが見えた。

 

「貴女とロキがほとんど喧嘩もしないで話すなんてね……余程大事な話だったのかしら」

 

「……まあそうだね」

 

「うーん……子供たちの話かしら?」

 

 ヘファイストスからもらった飲み物を口にする。

 ここからでは話は聞こえていなかったのか疑問符を浮かべるアストレアの問いに答える。

 

「そうだよ。ボクの子とロキの子の間でトラブルがあってね。それに関して謝罪を受けてたんだよ」

 

「貴女の子って言えば前に話してくれたベルっていう子のこと? オラリオに来たばかりでそんなことになるなんてその子も災難ね」

 

「あはははは……確かにそうだね。素直でボクにはもったいないくらい良い子なのになんでなんだろうね」

 

「確か、()()()()()()()()()()()()()()だったかしら。あんたみたいなグータラな神の眷属になるなんて物好きな子もいたものね」

 

「ひどいよヘファイストス! でも悲しいけど否定はできないんだよね……ボクみたいな神を見つけてくれて、しかも選んでくれるなんてあの時は本当に嬉しかったな」

 

 その時を思い出すように微笑むヘスティアの前でフレイヤが動きを見せた。

 手に持っていたグラスをテーブルの上に置いてその場を後にしようとする。

 

「じゃあ、私もそろそろ失礼させてもらうわ」

 

「あら、もう帰るの? 貴方何か用事があったんじゃないの?」

 

「もう用事は済んだからいいの。それじゃあね」

 

「あ! ちょっと! ……貴方ここに来てから私たち以外の誰とも話してなかったじゃない……」

 

 神の宴の初めからフレイヤと行動していたヘファイストスは怪訝そうな顔を隠さない。

 去っていく際にフレイヤはヘスティアを見下ろして、どこか不機嫌な雰囲気を感じ取れる笑みを残していった。

 

「……?  なあへファイストス、アストレア。ボク、フレイヤに何かしたかなぁ……心当たりはないんだけど……」

 

「………貴方に心当たりがないのなら気にしなくていいんじゃないかしら。それにしても…………何を考えてるのかわからないわね……」

 

 短くため息をつき、細い指でカリカリと右眼の眼帯をかく。

 ヘスティアなどのヘファイストスに近しいものならわかるが、これは彼女の癖だ。

 言葉では装っていても、納得していなかったり不満があったりするとこの仕草をする。

 今回は言葉でもあまり装えていないところからフレイヤの言動やヘスティアに対しての行動に相当納得がいっていないのだろう。

 

「アストレアは何か心当たりはあるかしら」

 

 アストレアに視線を移すと何かを思い出すかのように彼女は薄く微笑んでいた。

 

「……良かった。あの子は本当に良い出会いが出来たのね……あの子たちにも教えてあげなきゃね」

 

「アストレア?」

 

「ううん、なんでもないわ。私も特に心当たりはないわね。フレイヤ、何かあったのかしら」

 

 うーん、と三人は顔を見合わせて考える。

 だが天界時代、下界時代の両方を含めても全くと言っていいほど心当たりはなかった。

 

「考えても意味ないか……今度会ったら直接聞いてみることにするよ」

 

「そう……まぁ、あんたがそれでいいのならいいけど」

 

「…私もそろそろ帰ろうかしら。遅くなったらみんなも心配するしね」

 

 それじゃあまたね、と手を振り、アストレアも会場を後にした。

 残った二人で思わず顔を見合わせる。

 

「私はもう少し他のみんなを見て回ろうと思うけどあんたはどうするの? 帰る? 帰らないんだったらこの後久しぶりに飲みにでも行かないかしら」

 

 ぴくり、とヘスティアの肩が揺れる。

 ここからだ。ここからの話がこの神の宴に来た本来の目的になる。

 

「それもいいんだけど、その前にボクの話を聞いてくれないかい?」

 

「話? 何かしら」

 

「……えっと……ヘファイストスに頼みたいことがあるんだけど……」

 

 スッ、とその紅い左眼が細まる。

 先ほどまでの親しみやすい雰囲気が消え、剣呑な雰囲気を纏う。

 

「お金は借りないんじゃなかったかしら? お金の話じゃなかったとしてもこれ以上私に何を頼むつもりかしら」

 

 言葉に詰まっているヘスティアをヘファイストスは見つめる。いや、睨みつける。

 過去に彼女の手を焼かせまくった前例がある。そのことからヘファイストスのヘスティアに対する信はもはや0となっていた。

 

「…………一応聞くだけ聞いてあげるわ。あんたが、私に、何を頼みたいのかしら」

 

 そんなヘスティアの話だけでも聞こうとするヘファイストスは本当に友人に対して甘い神なのだろう。

 

 ヘスティア自身もこれ以上彼女に頼みごとをするなどあまりにも面の皮が厚く、図々しいのは重々承知だ。

 もしかしたらこれがきっかけとなって、今度こそ完全に彼女に愛想をつかれて縁を切られるかもしれない。

 それは悲しいしとても辛い。でも、そうなってしまうのだとしても、天界時代からの親友を失ってしまう可能性があったとしても、動かないわけにはいかなかった。

 凄まじい速度で成長し、『英雄』を目指す少年の力になるためにも。

 

 様々な覚悟を固めて、ヘスティアはヘファイストスに……鍛冶の神である彼女に自身の望みを言い放った。

 

「ベル君に……ボクの大切な子に武器を作ってほしいんだ!」

 

 




いつも感想、評価、お気に入り登録、誤字脱字報告ありがとうございます。
皆様の声がいつも励みになっております。

結局投稿は前回から二週間経ったこの日になってしまいました。
今後しばらくはこんな感じの投稿が続きます。申し訳ありません。

それとアンケートの結果、次話以降は基本的に7000~10000文字で書かせていただこうと思います。
あくまで基本的になので越すこともあります。
アンケートのご協力、大変ありがとうございました。
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