前回と同様、話はあまり進んでいませんがよければどうぞ。
「うん、いい感じかな」
ダンジョン6階層。そこにベルはいた。
【ロキ・ファミリア】から譲渡された銘のない紅剣を携え、周囲にモンスターの灰を残しながら魔石とドロップアイテムの回収を行う。
あの日以降、ベルの潜る階層はもっぱら5階層、もしくは6階層となっていた。
それより上の階層はもう今のベルには不相応すぎるのだ。それどころかおくびにも出さないが、この6階層もベルは内心物足りなく感じていた。
「明日、7階層に行ってみようかな。エイナさんに相談したいけど最近忙しそうなんだよな……」
今日ダンジョンに潜る際も彼女は書類を持って【ガネーシャ・ファミリア】の人たちやギルドの職員の人と真剣に話しているのを見かけた。
その近くにモンスターらしきものが入れられていたカーゴが置いてあったことと他の冒険者が『始まりの道』で話していた
「気にしても仕方ないか。今日はもうちょっとだけ……荷物一杯だ」
これ以上戦っても魔石などを回収できないことに気づき、ベルは帰路につく。
道中襲い掛かってくるモンスターたちは魔石ごと粉砕して、回収は出来なくても強化種が産まれないようにしておく。
そうしているとあっという間に『始まりの道』に辿り着いていた。
(……あ、エイナさん。こんな時間まで働いてるんだ)
地上に続く階段を上がる際に見知った顔がまだあったことに気づく。
声を掛けようかとも思ったが、やはり真剣な表情で書類を睨みつけ、同僚と思わしき人物と会話をしていたのでやめておく。
「…………そういえば神様……いつ帰ってくるんだろう」
地上に帰り、本拠へと戻る道中で少しヘスティアのことを考える。
ヘスティア自身が何日か空けるとは言っていたのであまり心配することじゃないかもしれないが、音沙汰がないのは心配になる。
心配もあるが、ベル自身、少し心細く思っているところがあるのかもしれない。
「おや? そこにいるのはベルではないか?」
「あっ! ミアハ様!」
考えながら歩いていると正面から来た人物に声を掛けられる。
その人物とは、ベルの交友関係の中では数少ない神であるミアハという神だった。
「こんにちは、ミアハ様。お買い物ですか?」
「うむ、店の方はナァーザに任せて私は夕餉の買い出しだ。ベルはダンジョン帰りか?」
「はい! 今さっき地上に帰ってきてホームに戻ろうとしてたところなんです」
「そなたの話はヘスティアから聞いているぞ。随分と頑張っているとな」
二人の神から褒められていることに照れそうになる。
そう話しているとふとヘスティアと旧知の仲であるミアハなら、最近のヘスティアのことについて知っているんじゃないかと思い、ベルは少し尋ねてみることにした。
「あの、ミアハ様。神様……ヘスティア様について何か知っていませんか? 先日、ご友人のパーティに出席したんですけどまだ帰ってきてなくて……」
「ヘスティアが? ……ううむ……パーティというのはガネーシャが主催したもののことだろうが……生憎私はその宴に出ていないものでな」
「そうなんですか? ミアハ様ならご招待されてると思ったんですけど……」
「招待はされていたのだが、今は新製品の開発が忙しくてな。そのようなものに参加する暇もなかったのだ」
ミアハの【ファミリア】もヘスティアの【ファミリア】に負けず劣らず貧しい。
問題もあってのことだが、その問題を解決するために日夜製品開発などに勤しんでいる故、参加を断念したのであろう。
「力になれなくてすまない。代わりと言っては何だがこれを渡しておこう。出来立てのポーションと開発途中の新薬だ。新薬の方はちゃんとしたポーションの効果を持っているから安心してくれ。身体に害もないことも確認済みだ」
懐から取り出した濃い青の液体が入った試験管二本と淡い紺色の液体が入った試験管一本を取り出してベルに手渡す。
有無を言わさずに手渡してきたそれをベルは思わず受け取ってしまう。
「いやいやいや! 受け取れませんよミアハ様!」
「力になれなかったのだからそれぐらいは受け取ってくれ。それにちゃんと打算もあるのだぞ。その紺色の方のポーションはちゃんと効果はあるとはいえまだ未完成でな? 完成に近づけるためにベルの力も貸してほしいのだ」
「そ、そういうことなら……いやでもせめてこっちの二本の代金を……!」
「良き隣人に胡麻をすっておいて損はあるまい? それではな、ベル。そのポーションを使ったあとに時間があればウチに来てくれ、いつでも待っているからな。今後とも我が【ファミリア】の御贔屓を頼むぞ」
そう言ってミアハは雑踏に消えていった。
その後ろ姿を見送り、一度お辞儀をしてからレッグホルスターに
その道中に武具屋が見え始める。見え始めるがどのみち今の自分の資産ではほとんど買うことなどできないため、チラリと見るだけで我慢する。
そんな武具屋たちを通り過ぎたところである店に飾られている商品が目に入る。
(…………神様のあの服……パーティに行くって言ってたけど、ドレスとかではなかったような……)
思い出すのは準備をすると言って取り出していたヘスティアの服。
あの服は正直に言って普段着に近いもので、ドレスとは言い難いものだった。
目の前の
ひと際目立つところに置いてあることから、このドレスは恐らくはこの店の看板商品なのだろう。
当然だが値段もそれ相応に高い。
「足りないなあ……謝礼金を使えば今すぐ買えるけど……でもこういうのは……」
自分で稼いだお金だけで買って贈りたい。
その方が神様にも気持ちはより一層伝わるかもしれないし……
そういう気持ちがある以上、今は買うことはできない。
ドレスをプレゼントするためにも改めて探索を頑張ろうと心を新たにした。
一方ヘスティアといえば、
「あんた、いつまでそうしてるつもり?」
机に座るヘファイストスの前で床に跪き、頭をこれでもかと下げていた。
「私、これでも忙しいのよ。あんたが騒がなくてもそこにいるだけで気が散るの。わかる? ……聞いてんの、ヘスティア」
神の宴から二日。何を言ってもうんともすんとも言わない親友の姿に思わず溜息が出る。
頭を下げてから経った時間は丸一日。窓から差し込む光は薄まり、もう夜が近づいてきていることからほぼ二日と言っていいだろう。その期間、食事も睡眠もとることなくヘスティアは頭を下げ続けていた。
何を言おうと突っぱねようと思っていたヘファイストスが先に弱ってしまうほどだ。
「何があんたをそうさせんのよ……というかあんたのそれ、何? なんなのよその恰好は」
「……土下座…………これをしたら何をしても何を頼んでもどんなことをしても許してもらえる最終奥義だってタケが……タケミカヅチが言ってた……」
はぁ、と本日何度目かわからない溜息が漏れる。余計なことを教えた親交のある神には今度文句を言おうと心の中で誓う。
もはや執念すら感じるその姿。今までのヘスティアからは考えられないその姿に困惑を隠せない。
追い出してしばらく経って自身が追い込まれた時ですらこんな姿は見せていなかった。
「……誰かに騙されてるとか、脅されてるって訳じゃないわよね?」
「うん、これはボクの意志だよ」
真剣な声音からそれが真実だとわかる。
「じゃあもう一度ちゃんと聞いてあげる。ヘスティア、何があんたをそこまでさせているのか教えてちょうだい」
「……あの子の、力になりたいんだ」
土下座の体勢は崩さずにヘスティアは答える。
ヘファイストスは無言でその続きを促す。
「このままいけばあの子は間違いなく強くなる。ボクの予想なんか軽く超えるほどに。でも……強くなるということはその分危険なことが間違いなく起きる。そんな時にあの子を助けられる力が欲しい! あの子の未来を切り開いてくれる、そんな武器が!」
ヘファイストスはまだ何も言わない。
ただひたすらに真剣な目つきでヘスティアに覚悟を問う。
「ボクはあの子に助けられてばかりだ! ボクはまだあの子の神様として…………何もしてあげられてないんだ……あの子に何もしてあげられないのはもう、嫌なんだ……ボクができることだったらなんだってする! だから……お願いだよ…………ヘファイストス……」
絞り出すようなそんな言葉が執務室内に消えていく。
もしもここでヘスティアが何か偽りでもしたらヘファイストスはその時点でもう話を聞くつもりはなかった。
だがヘスティアのその想いに嘘偽りはない。その想いは彼女の心を動かすには十分だった。
「顔を上げなさい、ヘスティア」
「…………」
「私の気が変わらないうちに顔を上げなさいって」
「…………えっ?」
「作ってあげるって言ってんの。あんたの子に、武器を」
目の前で肩をすくめるヘファイストスに一瞬呆けたような顔を浮かべるヘスティア。
その顔は次の瞬間には満面の笑みに変わっていた。
「ありがとうっ! ヘファイストス!!」
一気に立ち上がり、目の前の親友に抱き着こうとしたヘスティアだったが、ずっと土下座をしていたせいだろうか身体がぐらつき、その場に倒れそうになる。
倒れそうになるがその笑みは消えずにむしろ輝きが増しているような気がした。
(甘やかし過ぎかしら……でもまあ、少し前のこの子ならともかく今のこの子になら手を貸すのもいいかもしれないわね)
「作ってあげるけどちゃんと代金は払ってもらうわよ。何十年何百年何千年……何万年かかったとしてもこのツケは絶対に返済しなさい。あんたが、自分で、全額よ?」
「もちろんだよ! 代金を踏み倒すなんてそんな失礼な真似はしないさ。それにそんなことをしたらボクのベル君への愛が霞んじゃうからね。信用はないだろうけど、ボクだってやる時はやるんだ! 頑張るから見ててくれ! ヘファイストス!」
「はいはい、期待してるわ…………あのグータラだった子が……本当に変わるものね……」
?を頭の上に浮かべるヘスティアを横目にヘファイストスは壁の飾り棚へと向かう。
そこには使い込まれてはいるものの新品も同然に磨き抜かれ、輝いている数点のハンマーが飾られている。
「さて、あんたの子が使う得物は? ナイフ? 片手剣? それとも槍かしら?」
「えっと……片手剣だけど……」
「そう……その子、魔法は発現してる? その子の個人情報だから答えなくてもいいわよ」
「いいや、答えるよ。君なら悪用はしないだろうしね。使えるよ、分類は付与魔法」
「じゃあこれと……魔法が使えるなら素材はあれでいこうかしら」
ヘファイストスが取り出したのは装飾などの余計なものが一切ない機能重視の紅い鎚。
近くのクリスタルケースから取り出した金属塊は白銀に輝く『ミスリル』。
『ミスリル』を選んだ理由は鉄よりも軽く堅く、それに加えて魔力伝導率が非常に高いこと。
そして特別な力を持たない女の鍛冶師でも比較的容易に扱える上等級金属だからだ。
「もしかして、君が打ってくれるのかい!?」
「当たり前でしょ。これは私とあんたの個人的な依頼なんだから。それに他の子を巻き込むわけにはいかないでしょ。私が打つことに何か文句でもあるのかしら?」
「何も文句なんかないさ! 神匠とも呼ばれる君に打ってもらえるなんて大歓迎だよ!」
「……一応言っとくけど、ここでは『
「構うもんか! ボクは君に打ってもらえるってことが一番嬉しいからね!」
ツインテールをゆらゆら揺らして屈託のない笑顔を浮かべるヘスティア。
自分の腕を一切疑ってないであろうその笑みに認めるのは悔しいが、非常に悔しいが、悪い気はしなかった。
元々期待を裏切るような武器は打たないつもりだったが、より一層目の前の親友の笑みを曇らせるような武器は打たないという気持ちが高まる。
「あんたにも手伝ってもらうわよ。疲れてるだろうけど弱音なんて吐いたら許さないから」
「ああ! もちろんだ! 好きにこき使ってくれヘファイストス!」
自分の隣に機嫌良く並ぶ親友を横目に鍛冶師として、ヘスティアが望む武器の形を考える。
求めるのは危機から子を救い、その未来を切り開いていける武器。
(かつ駆け出し冒険者に持たせる、一級品装備)
かつてない無理難題に思わず唸る。
武器の威力が強すぎればそれに頼りきりになり、冒険者が腐る。かといって中途半端な武器を作るのは鍛冶師としての矜持が許さない。
やるからには全力で最高の武器を作るのがヘファイストスの矜持だ。
(我が親友ながらなんとも厄介な依頼を持ってきたものね…………駆け出し……成長……初めてやる事だけどやってみる価値は……ありそうね)
神匠とまで呼ばれるヘファイストスの中に一つのアイデアが思い浮かぶ。
前例はないものだが、駆け出しに持たせる一級品装備という時点で既に前例などないのだから大して気にしない。
「じゃあヘスティア、準備を─────」
「あ、そういえばヘファイストスに見てもらいたいものがあったんだよね」
隣でケースの中を興味深そうに見ていたヘスティアが懐から何かを取り出す。
思いついた武器を打つために準備に入ろうとしたヘファイストスはその輝きを見て動きが止まる。
「…………あんた、こんなとんでもないのどこで手に入れたの?」
「ベル君が持ってたのをもらったんだよ。魔宝石ってやつなんだろう? これ、武器の素材に使えたりしないかな?」
ヘスティアが見せたその魔宝石はヘファイストスですら見たことがないほどの高純度の魔宝石。
それを見た時、ヘファイストスの中で形となっていた武器のイメージは崩れ、それを超える武器の形が浮かび上がってきていた。
「……ヘスティア、ケースからこの紙に書いてある
必要な素材を書き記した紙をヘスティアに有無を言わさずに渡す。
ヘスティアはその紙とどこか興奮しているような彼女の顔を交互に見て戸惑ったような顔を浮かべる。
「それで打つんじゃなかったのかい?」
「打つつもりだったわ、さっきまでね。でもたった今、今回の武器には『ミスリル』をベースに他の
崩れてしまったが駆け出しに持たせる一級品装備の形は浮かび上がっていた。
ならば次はこの魔宝石を活かすこととそれを掛け合わせて進むだけだ。
その二つが調和した武器の形はもう既にできている。
「さあ、忙しくなるわ。あんたの力が重要になってくるから、頼んだわよヘスティア」
恐らく最も重要になってくる親友の肩を軽く叩き、武器を打つ準備に取り掛かるヘファイストスだった。
「まだ帰ってこないのかな……神様」
ヘスティアが神の宴に参加してから三日が経過した。
朝、いつも出発する時間のギリギリまで待ってもヘスティアは帰ってこなかった。
「……心配だけど、探索に集中しないと」
きっと大丈夫と自分に思い込ませながら、バベルに続く道を歩く。
道中に見慣れたカフェテラスが見えてくる。今日はシルの姿はなかった。
シルの姿はなかったが、歩くベルの姿に気づいたキャットピープルの少女が大きく手を振ってベルの前に出てくる。
「ちょっと待つニャ! そこの白髪頭ー!」
「し、白髪?」
酒場から出てきたことからシルの同僚であることはわかる。
だがベルの中で顔と名前が一致しない。
あの日に色々あったから仕方がないかもしれないが。
「おはようございます、ニャ。いきなり呼び止めて悪かったニャ」
「あ、はい、おはようございます。それはいいんですけど、僕に何か用ですか?」
綺麗なお辞儀をしてくる目の前の店員のアーニャとその隣にいつの間にか立っていたエルフの店員のリューから用件を聞く。
初めは言葉足らずのアーニャの言葉に話が見えてこなかったベルもリューの補足の言葉でなんとかアーニャの要件を理解する。
今日シルは店を休み、祭りへと向かったとのことだ。
だが向かった後にアーニャたちがシルが財布を店に忘れて行ったことに気づいたらしい。
そのシルの財布を届けてほしいとのことだ。
「そういうことなら任せてください。これをシルさんに渡してきたらいいんですね?」
「はい、お願いしますクラネルさん。本当なら私が行きたいところなのですが、あまり人前に出ることはできないので……」
「……?」
「シルは出かけたばっかりだから人波に付いていけば会えるはずニャ。頼んだニャ白髪頭!」
そう言い残し、アーニャは店の前の掃除へと戻っていった。
残ったリューはじっとベルを見つめている。
その目はどこか責めているような攻撃的な目だった。
「それともう一つ……クラネルさん、シルはあの日から貴方のことをとても心配していました。届けた後で良いので何か一言でもシルに声を掛けてくれませんか?」
「……はい、わかりました」
リューに対して気になる点があったがそこは追及せずに、ベルはダンジョンの入り口がある
二つの要件を得たベルは酒場を後にした。
そんなやり取りがあった少し後。
ある店で一人の少女が見守る中、二人の女神の無言の争いが巻き起こっていた。
店内はそんな二人の圧に押されたのかその三人を除いて客はいなくなっていた。
「男か」
「…………」
無言を斬り裂き、一人の女神……ロキが確信を持った声音でもう一人の女神……フレイヤに向かって声を打つ。
フレイヤは肯定の意を込めて美しい微笑みを浮かべていた。
「年がら年中発情期の色ボケ女神が……」
「あら、心外ね。私にだって分別はあるのよ? 色んな人と繋がってるのはその方が色々融通が利くからだけよ?」
「じゃかあしいんじゃこの魔女が。アイズたんに悪影響や」
「貴方が連れてきたんじゃない」
ふふっ、と美しく笑うフレイヤ。
アイズから見ても思わず見惚れそうになるほど美しい笑みだったが、どこか恐怖を感じる……そんな笑みだった。
そんな笑みからアイズの視線を外すようにけっ、とロキが吐き捨てフレイヤを睨む。
「で、どんなヤツや、ジブンの目に止まっちまった不幸な子供ってのは。そんぐらい教えてくれてもええやろ。つか教えんと帰さんわ」
「………強くはないわ。私や貴方の【ファミリア】の子に比べればね。ただ、いずれ間違いなく『英雄』なんてものに肩を並べる……そんな可能性の塊みたいな子よ」
それだけじゃない、とさらに続ける。
「綺麗だったの。透き通っていた。私でも見たことがないほどに。そこに金と翡翠の色が混じっているのが気にならないほどに」
語る口が止まらずにさらにフレイヤは続ける。
金と翡翠という単語にロキが反応を見せるが、それにも気づかずに続ける。
「見つけたのは本当に偶然だった。都市を歩くその子が本当にたまたま視界に入っただけ。あの時もこんな─────」
ピタッとその口が止まる。
フレイヤはまるで時が止まったかのように窓の外を見つめている。
その視線だけが誰かを捉えたかのようにゆっくりと動いている。
「ごめんなさい、急用ができたわ。また今度ね」
「はぁっ? ちょ、待て……何なんや急に」
まるで何かを見つけたかのように席を立ったフレイヤ。
ロキはただフレイヤが去っていった階段を見つめることしかできなかった。
そこでアイズもフレイヤが見ていた方向を見つめていたことに気づく。
「アイズもか……なんか面白いもんでも見えたんか?」
「……ううん、なんでもない」
ロキも窓の外を見てみるがただ人波があるだけでこれといって特徴的なものはない。
だがフレイヤとアイズ、その二人の瞳は特徴的な白い髪を持つ少年の姿を追っていた。
「見当たらないなあ……闘技場の方に行っちゃったのかな」
東のメインストリート、シルが向かったというその場所で人混みをかき分けながらベルはシルを探していた。
だが人は増える一方でシルは影も形も見当たらない。
とりあえず人波に身を任せて進んでいると、
「あ! 見つけた!! おーーーーい! ベールくーん!」
ベルにとって聞き馴染みのある声が聞こえてくる。
聞こえた方向を見るとそこには特徴的なツインテールを揺らし、人混みをかき分けながら向かってくるヘスティアの姿が見えた。
「神様!? どうしてここに!?」
「そこで会った知り合いの神にこの辺りに向かう白髪赤目の少年を見たって聞いてね。それを信じて進んできたというわけさ!」
「そ、そうですか……いや、それよりも! 一体今までどこに行ってたんですか! しばらく空けるとは言ってましたけども!」
「三日も連絡できなくてごめんよ! 色々忙しくてね。今度からはちゃんと連絡はするから許しておくれよ」
「許すも何も……」
別に怒ってなんていないけど……
そうやって考えていると人に当たらないように跳ねたり、くるくるベルの周囲を回ったりとヘスティアが随分と機嫌が良さそうなことに気づく。
「神様、この三日間で何か良いことでもありましたか?」
「ん? そう見えるかい?」
「はい。今まで見てきた中で一、二を争うぐらいには……その荷物が関係してるんですか?」
「へへへ……実はね………やっぱり今は教えてあげなーい! ホームに帰ってからじっくりと話そうじゃないか!」
期待した状態から急なお預けを食らったベルはがくっと俯く。
そんなベルに微笑ましいものを見る視線を向けながら、その手を取る。
驚いたようなベルを軽く引っ張って微笑みながらヘスティアは言う。
「ベル君! せっかくのお祭りだし、デートしようぜ!」
「デ、デート!? いや、でも今探している人がいて」
「じゃあお祭りを楽しみながら探そうじゃないか! 楽しみながら探したら一石二鳥だぜ?」
上機嫌な女神とそんな女神に戸惑いが隠せない眷属。
対照的な二人だが、時間が経つにつれて振り回されていた眷属もやがて自然と笑みを浮かべ始めた。
時々苦笑いを浮かべはするものの。
そんな二人を祭りの賑やかな喧騒が楽しげに迎えた。
そんな喧騒の裏である神が動いていた。
そこはモンスターの『檻』が大量に置いてある闘技場の舞台裏、いわゆる控室だ。
そこでは異様な光景が広がっていた。
「…………」
そこを任されていたはずの【ガネーシャ・ファミリア】の団員たちが全員同じような姿で床にへたり込んでいる。
どの団員もまるで糸が切れた人形のように脱力し、虚ろな目で何もない宙を見つめていた。
「ちょっとやりすぎちゃったかしら? ごめんなさいね、八つ当たりなんてしちゃって」
許してね、とその神がうっすらと微笑む。
その呟きは誰にも聞かれることはない。その瞳に宿っている苛立ちに誰も気づくことはない。
檻へとその神が近づく。
それに気づいたモンスター達がけたたましい吠え声を浴びせかける。
だが、そのフードから覗く瞳を見た者から次々に静まっていく。
気づくとその神に敵意を向けるものはいなくなり、全てのモンスターが彼女に釘付けになっていた。
「…………貴方にしましょうか」
その声が届いたのか目の前のモンスター……シルバーバックが歓喜の雄叫びを上げる。
くすっとそれに微笑み、倒れている団員から捧げられた檻の鍵を懐から取り出す。
そして目の前の檻を開けてモンスターを開放する。
「あの話が本当なら貴方では力不足かもしれないけど……頑張ってあの子を輝かせてね?」
まるで愛しい相手にするようにシルバーバックの頬を撫でる。
そしてあの少年を輝かせるための踏み台になるよう、祈りとほんのわずかな激励を込めて、シルバーバックの額に唇を落とす。
歓喜に震え、より巨大な咆哮を轟かせるシルバーバックを尻目にいくつかの檻を開けてモンスターを開放する。
シルバーバックを開放する目的があの少年との戦闘ならば、他のモンスター達を開放する目的はそこに邪魔者が入らないようにするための足止めだ。
モンスターを都市に開放するなど非常に危険な行為だ。ともすれば被害者が出るかもしれない。
それでも神は……女神フレイヤは止まらない。その胸に湧いた衝動がフレイヤを突き動かす。
悪意なんてそこには欠片もない。これはただの傍迷惑な自由過ぎる神の悪戯、神の気まぐれ。
(さあ、見せてみなさい。あなたの『強さ』、あなたの『勇姿』、そして……あなたの『魂の輝き』)
「ふふっ……待っていてね?ベル……」
蠱惑的に微笑み、その時を楽しみに待つフレイヤ。
だが事態はフレイヤの予想を上回る方向へ向かっていくこととなる。
そしてこれは余談だが……この悪戯が闇に潜むある存在を妨害したという奇跡を起こすことを、人も、神も、誰も予想なんてできなかった。
いつも感想、評価、お気に入り登録、誤字脱字報告ありがとうございます。
二話連続であまり話が進んでおらず申し訳ありません。
こんな感じで進んでいくことが多々ありますが、どうかご了承ください。
前回、前々回も言った通り、しばらく更新は二週間おきになります。
元の投稿ペースに戻すときはあとがきで書かせていただきますのでよろしくお願いします。