二人の姫と出会った少年は英雄の道を歩む   作:Kkky

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お待たせしました。
前話で原作との乖離があったため先頭にそれを訂正した物を書き記しています。
ご指摘していただいた方、ありがとうございました。


灰被りの栗鼠
デートのち再会


 一人の冒険者が迷宮を歩む。

 それに遅れて大きな荷物を背負ったもう一人の冒険者が歩いていた。

 

「おい! 何してやがる! とっとと荷物ぐらい運べ! この能無しが!」

 

 訂正。

 後ろに続く人物は冒険者ではなかった。

 その人物はサポーター。冒険者を支える専門職の裏方役である。

 

 ただし多くの冒険者の認識はそんな優しいものじゃない。

 

 多くの冒険者にとってサポーターは嘲弄の対象だ。

 荷物を運ぶぐらいしか能がない落ちこぼれ。

 

 荷物持ち(サポーター)を顧みてくれる冒険者など彼女は見たことも聞いたこともなかった。

 

 代わりに彼女はどこかでこんな言葉を耳にしたらしい。

 

 曰く、良きサポーターに恵まれなければ冒険者は真価を発揮できない。

 曰く、サポーターの働きがあってこそ冒険者はダンジョンに潜れる。

 曰く、彼らは縁の下の力持ちである。

 

 それを耳にした彼女は思わず嗤ってしまった。

 確かにサポーターの働きが冒険者の負担を減らすこともあるだろう。

 

「何も出来ねえ奴に払う報酬(カネ)はねえぞ!」

 

 だがそれを一抹でも理解してくれる冒険者など存在しない。

 もしかしたら高レベルの冒険者にはそんな人もいるのかもしれないが彼女からしたらそんな人々は雲の上の存在だ。

 

 彼女が荷物持ち(サポーター)をするのはもっぱら低レベルの冒険者……自身の少し上に存在する【ランクアップ】もできない落ちこぼれなのだから。

 

 今日も彼女はそんな冒険者の荷物を運ぶ。

 自分から金も、尊厳も、希望も、全てを奪っていく冒険者(クソヤロウ)を後ろから見つめる。

 

「モンスターに囲まれた時ぐらいはしっかり働いてくれよ? 役立たず(サポーター)のお前でもそれぐらいはできるだろ?」

 

 いざとなれば囮にちょうどいい。

 誰が聞いてもそう解釈されるだろうその言葉をダンジョンという誰が聞いているかもわからない場所で堂々と口にする冒険者を見て、彼女はフードの下で笑みを漏らす。

 大方誰に聞かれようが全く問題がないと思っているのだろう。

 

 実際その通りだ。

 先ほども言ったがこんな階層で燻っているような冒険者(落ちこぼれ)にとって、サポーターというのは自分たちよりも下の存在でしかない。

 そんな彼女(サポーター)を救ってくれる奇特な冒険者などいないということを彼女は知っている。

 

 だからこそ───

 

「本当に、見限るのに困らない方々ですね…………冒険者というのは」

 

 良心など何も痛まないで彼らを見捨てることができる。

 彼女が漏らしたそんな呟きは迷宮の闇に溶け、誰に届くこともなく消えていった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

【ステイタス】の更新及び【ランクアップ】を終えた僕は足取り軽やかにギルド本部に向かった。

 目的は【ランクアップ】の報告。

 

 ギルドに入ると中は相変わらず多くの人々の喧騒に包まれていた。

 そんな人たちの間を抜けて、エイナさんがいつも座っている窓口へと進む。

 

 幸運にも人が並んでいることはなく、すぐに目的の人が目に入ってくる。

 彼女はこちらに気づくと目を大きく見開いて、椅子から勢いよく立ち上がった。

 

「おはようございます! エイナさん!」

 

「あ、うん、おはよう………いやそれよりも! 身体は大丈夫なのベル君!?」

 

 窓口から身を乗り出してすごく心配そうに身体を見てくる彼女に身を軽く引いて、数回瞬きを繰り返す。

 そこで他のモンスターを探しに行くと言ったっきりそのまま何も報告していなかったことを思い出した。

 

「新種のモンスターに襲われてたってローヴェル氏が言ってて……大丈夫だってあの人は言ってたけど本当に大丈夫だったの?」

 

「えっと、まあ大丈夫です。アリーゼさんに助けてもらいましたし」

 

 重たい一撃を食らいはしたけど身体は全然平気だ。

 あの件もあってか逆に調子が良いくらい。

 

「ならいい……いや全然良くないんだけどね! 私も仕事中だし今あれこれ言っても仕方がないからこれ以上は何も言わないけど………」

 

 そう言って椅子に座りなおして溜息をつく。隣にいる桃色の髪の受付嬢……確かミィシャさんがエイナさんに飲み物を渡して一息を付かせてくれる。

 また余計な心配をさせてしまったことに少し申し訳なくなる。

 

「ふう……ごめんねベル君、君の話を聞く前にまくし立てちゃって。今日はどうしたの? 昨日の報告に来てくれたの?」

 

「えっと……違う用件で来ました……すみません……」

 

「謝る必要なんてないよ。ちゃんと元気な姿を見せてくれたんだからね。これで一週間とか姿を見せなかったらちょっと怒ってたかもしれないけどね」

 

 うふふふふふ、とどこか怪しげに笑うエイナさん。

 何かあったら、特に彼女に心配をかけるようなことをしたらなるべく早く報告しよう。

 この人に怒られるのはあの人の次に怖い。

 

「それで、どんな用事でここに来たのかな? 何かの報告か何かの相談?」

 

「報告したいことがあって来ました。聞いてくれますか?」

 

「もちろんだよ。どんなことがあったの?」

 

「実はですね……」

 

 と、そこでこんな大勢の人がいる前であの話をするのは不味いのでは、ということに思い至る。

 誰が聞き耳を立てているかわからないこんな状況で記録を大幅に更新して【ランクアップ】をしたなど口にするのは流石に危険すぎる。

 

「………すみません。やっぱりここじゃなくてどこか防音が利いてる部屋で二人きりで話をしたいんですけど……ダメですか?」

 

「えっ? 別にダメじゃないけど……他の誰かに聞かれたらまずいことなの?」

 

「はい。こんなに人がいる前で話すのは個人的な問題なんですけど、結構まずいかもしれません」

 

 興奮した頭が冷めていくと同時に自分の浅慮さが際立つ。

 あの人ならこんなミスは絶対にしないだろうに。

 

「そっか……ごめん、ミィシャ。ちょっと席外すね」

 

「はーい。人も少なくなったしゆっくりでいいからねー」

 

 ミィシャさんに一言残し、いつもの面談用ボックスの鍵を手にして立ち上がる。

 エイナさんに続き、面談用ボックスの中に入って【ランクアップ】した旨を伝えた。

 

(場所移動したのは本当に正解だったな……)

 

 エイナさんの部屋が揺れるほどの叫びを受け、身を大きく仰け反らせながら僕はそんなことを思った。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「ごめんっ! 急にあんな大声を上げちゃって……びっくりしたでしょ……?」

 

 場所は変わらずギルド内部にある面談用のボックス。

 申し訳なさそうにエイナは対面にいるベルに謝罪の意を込めて頭を下げていた。

 

「そ、そんなに頭を下げないで大丈夫ですよ。ちょっと驚きましたけど他の人には聞こえてないでしょうし」

 

 面談用のボックスは内装は質素ではあるが防音などの機能面では充実している。

 あれぐらいの叫び声では扉に張り付いて聞き耳を立てでもしない限り、外に届くことはない。

 

「気にしてませんから顔を上げてください。話が進みませんし……ね?」

 

 どこか苦笑気味に笑みを浮かべてベルは言う。

 その言葉にエイナは顔を上げてようやく視線を戻す。

 

「ごめんねベル君、また話を脱線させちゃって。えっと、【ランクアップ】の報告……でいいんだよね」

 

「はい、お願いします」

 

「聞き間違いじゃなかったかー……じゃあまずは今日までの冒険者の活動記録……どんなモンスターと戦ったとかどんな冒険者依頼(クエスト)をこなしたとか……あとあればだけど他の冒険者との交戦記録とかを教えてくれる?」

 

 意識を切り替えたエイナはとりあえず羊皮紙とペンを用意してベルの話を聞く姿勢に入る。

 異例の速度の【ランクアップ】でエイナの個人的な気持ちではまだ隠しておきたい事例とはいえ冒険者の質の向上及び死亡率の減少のためにもこれは聞いておかないといけない。

 

 各【ファミリア】に不都合が生じない程度の情報しかギルドは公開しないが、他の冒険者の参考にできそうな活動記録の場合は匿名でそれが公開されることもある。

 今回のベルの場合は異例の速度の【ランクアップ】のため公開される可能性は高いが…………

 

(あ、ダメだこれ。絶対に公開できないや……ギルド長たちに冒険者たちを殺す気かって絶対に怒られる)

 

 思わず天を仰いでしまうその内容にそう結論付けるエイナ。

 ズキズキと頭痛に襲われる頭を押さえて手元の羊皮紙を見る。

 

 約一週間前、5階層、異常事態(イレギュラー)に巻き込まれミノタウロスと戦闘し、敗走。

(これは知ってるからそこまで驚きはない……かな)

 

 登録してからほぼ毎日、単独(ソロ)でダンジョン探索、基本的に6、7階層、撃破総数2000オーバー。

(これも正直かなりおかしいけど問題は次)

 

 昨日、第一級冒険者でも手こずる新種のモンスターを【紅の正花(スカーレット・ハーネル)】と共闘、撃破(エイナは知らないが魔法も使っている)。

 

(何度聞いてもおかしい。本当に何やってるのベル君!?)

 

 アリーゼから聞き、たった今本人からも聞いたとはいえやっぱり信じられない。

 頭痛が最高潮に達し、エイナは思わず机に突っ伏す。

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

「……大丈夫じゃないよ」

 

 どう考えても第一級冒険者が苦戦する新種のモンスターを共闘したとはいえLv.1のベルが倒す図が浮かばない。

 よほどとんでもない冒険をしたのだろう……あれほど冒険をしてはいけないと釘を刺したのに。

 

 ジロリと非難がましい目でエイナに見つめられ、思わず身を小さくするベル。

 

「ありがと……大体わかったよ。ベル君が私の言うことなんて全く聞く気がないってこともね」

 

 まあそんなことはないんだろうけど、と内心で付け足す。

 ベルは自分の目の前で慌てて弁明しようとしていたが、やがて謝罪と共に気まずそうに頭を下げる。

 

「……ちょっと大人げなかったね。嬉しい報告をするために来てくれたのにお説教になっちゃってごめんね」

 

「いえ……どこか【ランクアップ】したっていうことに浮かれてる僕がいたのも事実ですし……エイナさんの言うことも聞いていなかったですしこうやって怒ってもらった方が良かったと思います」

 

「そっか、そう思ってくれるんだね……じゃあお説教はおしまい。ベル君、Lv.2到達おめでとう。頑張ったね」

 

 ベルが欲しがってるであろうその言葉をエイナは贈る。

 少し落ち込んでいる様子を見せたベルは顔を上げ、エイナの方を見る。

 そして嬉しそうに、年相応に笑った。

 

「ありがとうございます! エイナさん!」

 

 まだ出会って一月も経っていないのにその笑顔に感慨深いものを感じた。

 自分の表情が緩むのを感じながらベルを優しく見つめる。

 

「これで話したいことは終わりかな? まだ私に用事はある?」

 

「いえ、僕からはもうないですね」

 

「そっか、じゃあこれで……」

 

 ピタッとエイナが動きを止める。その視線がベルの身体をくまなく見る。

 不思議そうに彼女を見るベルだったが、彼女はベルの身体を見ているというわけではない。見ているのはベルが身に着けている装備品……貧相な防具だ。

 

 上層域の最終階層である11~12階層の基準【ステイタス】はLv.1のB~S。

 Lv.2となったベルなら【ステイタス】面だけを見れば、単独(ソロ)という不安点を除けば問題なく探索はできるだろう。

 

 問題は装備にあった。

 今ベルが身に着けているものはギルドから支給される最低限の防具。Lv.2の冒険者が使うには物足りない。

 

 (ベル君は基本的に単独(ソロ)異常事態(イレギュラー)が発生したら対応が遅れるかもしれない。それなのにこんな装備でさらに下の階層に行かせるわけには……)

 

 沈黙が走る。

 気まずそうに目を泳がせるベルが耐え切れずに口を開きかけたその時、ようやく黙っていたエイナが口を開いた。

 

「……ベル君、この後少し時間あるかな」

 

「えっ? 今日はこの後ダンジョンに向かうだけですからありますけど……」

 

「そっか……じゃあ私とお買い物に行こっか?」

 

「へっ?」

 

 呆けた声を上げ、置いてけぼりになったベルにニコッと笑みを浮かべてエイナは椅子から立ち上がった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 エイナさんはミィシャさんとギルドの上司の人?に話をつけて僕と一緒にギルドの建物を出る。

 そのまま一緒に北西のメインストリートを歩き、オラリオの北地区……受付嬢達専用の集合住宅に向かった。

 

「少しここで待っててね。何か言われたら私の名前出していいから」

 

 そう言ってエイナさんは集合住宅の敷地内に入っていった。

 僕は門の横の前で待ってるわけだけど……結構居心地が悪い。

 

 ここは先ほども言った通り受付嬢専用の集合住宅の前。

 その門の横に立っている男の僕を道を歩く人々は怪しむような顔でチラチラと見ながら……男性の冒険者達は睨みつけながら去っていく。

 

(エイナさん……早く……早く来てください……)

 

 そんな僕の思いが届いたのかどうかはわからないが、扉が開く音とこちらに向かって誰かが走ってくる音が聞こえた。

 

「ごめんねベル君! 遅くなっちゃって!」

 

 振り向くといつもの受付嬢の姿とは全く違う服装を着たエイナさんがそこに立っていた。

 大人びた雰囲気はガラッと変わり、なんというかとても可愛らしい。

 

「流石にギルドの制服で行くわけにはいかなかったから着替えも一緒にしたんだけど、似合ってるかな?」

 

「……あ、はい、とても良く似合っています」

 

 ありがとう、と笑顔を浮かべる姿が眩しい。

 ただ僕の装備品を買いに行くだけだったはずなのにエイナさんの私服姿を見られたのは他の冒険者の人から見たら思わぬ幸運だったのかもしれない。

 

「じゃあ行こっか。ふふ、誰かとこうやって買い物に行くなんて久しぶりだなあ」

 

「そうなんですか? ミィシャさんとかのギルドの人と買い物に行ったりとかしないんですか?」

 

「実はあんまり行ったことはないんだよね。ギルドに入ってから仕事一筋だったから。こうやって男の人と買い物に行くのはお父さん以外だったらほとんどなかったかも」

 

 天気は快晴。

 道中、気持ちの良い風に吹かれ、色々と役に立つ情報を教えてもらったり、他愛のない話をしながら僕達は中央広場(セントラルパーク)で圧倒的な存在感を放っている摩天楼施設(バベル)へと向かっていた。

 今日どこに行くのかを教えてもらったところで僕達はバベルに辿り着く。

 

 ダンジョンに潜るために何度も見てるのにいつまでたってもこの白亜の巨塔は見慣れる気がしない。

 ちょっとだけ呆けていると柔らかい手が僕の手を握る。

 

「どうしたの? 早く行こう!」

 

「あ、エイナさん! 手引っ張らないでも大丈夫ですから!」

 

 突き刺してくるような殺意交じりの視線を感じながらその手に引っ張られバベルの門をくぐる。

 門をくぐると見慣れた大広間が目に入ってくる。ダンジョンの入り口はこの下にあるけど今の目的はダンジョンではない。

 

 変わらず手を引かれたままエイナさんに連れられてバベルの三階へと向かう。

 着いたところで一つ気づく。四階以降に続く階段が存在していない。

 不思議に思って辺りを見回していると、また手を引かれて広間の中心へと向かう。

 

 いくつか存在している円形の台座の一つに乗るとエイナさんが備え付けてある装置を操作する。

 すると…………

 

「わわ……えっ!? なんですかこれ!」

 

「あはは! 私も最初はそんな感じだったよ。内緒にしておいて良かった!」

 

 楽し気に笑うエイナさんが言うにはこれはフロア間を行く昇降設備……魔石製品の一つらしい。

 その説明を聞いていると少しして、バベルの四階に到着する。

 

 目的地はまだ上の階なのだが、エイナさんの厚意に甘えてちょっと寄って見ることにした。

 ズラリと並ぶ陳列窓(ショーウィンドウ)にある武器の値段に目を白黒させていると店員と思わしき人が近づいてくる。

 

「いらっしゃいませー! 今日は何の御用でしょうかお客様………って、ベル君?」

 

「え? あ、神様?」

 

 聞き覚えのある声だと思って声のした方を向いてみるとそこには赤い制服を着た神様がいた。

 ジャガ丸くんの屋台でもバイトをしているのは知っていたけど、ここでもバイトをしていることは知らなかった。

 

 いや、それよりもだ。

 

「……神様、なんでこんなところにいるんですか? 今日はゆっくりと休むはずでは」

 

「いやーーーー……ハハハ……これにはちょっと事情があって………そ、そういう君もなんでここにいるんだい! 今日はダンジョンに行ってるはずだろう? それなのにアドバイザー君とデートなんて!」

 

「申し訳ありません、神ヘスティア。ベル君の防具が探索階層に比べて少々……いえ、かなり心もとなかったので私が無理を言って防具を新調しに来たのです」

 

「あえ? そ、そうだったのかい? それなら納得はできるけど……」

 

 確認のためか僕に視線を向ける神様。

 肯定の意を込めて頷き、その手首を掴む。

 

「帰りましょう、神様。そんな身体で無理なんてしたらもっと体を壊しちゃいますよ」

 

「だ、大丈夫! 本当に大丈夫だから離すんだベル君! ヘファ……雇い主に誠意を見せないとボクの立つ瀬がないんだ!」

 

 誠意?、と考え、手が緩んだところで神様は拘束を解き、すごい勢いで走り去っていく。

 小さなその姿が店内に消えたのを見届け、思わずため息が出る。

 

「えっと……大丈夫? ベル君」

 

「まあ……はい。帰ったらちゃんと話そうと思います。気になることはありますけど、その時に聞けばいいでしょうし」

 

 困ったような笑みを浮かべるエイナさんに謝罪を一つ入れて、今度こそ目的地であるバベルの八階に移動を始める。

 先ほどと同様に昇降機に乗り、上階へと昇り、目的地である八階に辿り着く。

 

 聞いた通り、ここも【ヘファイストス・ファミリア】の武具の専門店がズラリと並んでいる。

 下の階層と違うのは武具の出来と値段。

 

 ここは熟練の鍛冶師が打った武具ではなくまだ未熟な鍛冶師が打った武具を打っているらしい。

 未熟ゆえに流石に性能は落ちるとのことだが、それゆえに僕みたいな未熟な冒険者でも手が届く値段で売られている。

 

 二人で別の場所を探したほうが良いものが見つかるかも!、と僕よりも張り切っているエイナさんと一旦別れ、手分けして装備を探すことになった。

 店内に入ると多くの鎧が出迎えてくれた。

 周囲にいる冒険者は男も女も関係なく、自分に合う装備を選んでいた。試装もできるらしくかなりわくわくする。

 

 鎧だけでなく盾や兜にも目移りしながら歩いていると、ふと目が引っ張られる。

 店の中の片隅には防具の各パーツを山積みにしたボックスが置いてある。

 目立つようにトルソーで飾られている防具達とは真逆になるべく目立たないように置かれているそれらは一度目に入ってしまえば気になって仕方がなかった。

 

(あ……ちゃんと売り物ではあるんだ)

 

 近づいてみると他にもいくつか似たようなボックスが並べられている。

 値札はついているけど価値が低いと判断されたかなんらかの不備があるものがここに並べられているのだろう。

 証拠に飾られている防具と比べてかなり安価だ。

 

(お金は一応あるしまずは飾られてる防具を見てからでも─────)

 

 ボックスをある程度見て移動しようとしたその時、視界の端に白い金属光沢が入る。

 たまたま見えたそれを手に取ってみる。

 

 それはライトアーマーだった。最低限の箇所を保護している構造で防具としては少し物足りなさを感じるかもしれない。けれども何故か強く、惹かれた。

 ひっくり返して製作者のサインを探す。ロゴはまだ許されていない鍛冶師のようだがちゃんと製作者の名前は刻まれている。

 

「ヴェルフ・クロッゾ……」

 

 思わず呟いてしまったその名に胸が高鳴る。

 僕ではない僕が喜んでいるような……この世界にいるはずのないかつての相棒を見つけたような……そんな気分だった。

 

「おーいベルくーん! 私いいの見つけちゃった……あれ、どうしたのベル君? 君も見つけちゃった?」

 

「探してくれたのにすみません、エイナさん。僕、これにします」

 

 立ち上がり僕が見つけた防具をエイナさんに見せる。

 エイナさんは防具とそれが置かれていた場所を見て、何か言いたそうな顔をしていたがすぐに表情を緩めた。

 

「謝らなくていいよベル君。君の意志でその防具を選んだのならそれが一番なんだから。それに、その防具以外はもう考えられないんでしょ?」

 

「はい」

 

 じゃあ支払い済ませよっか、というエイナさんの言葉に従ってカウンターに向かう。

 ちょっと高い買い物になってしまったけど後悔はない。

 

「あれ?」

 

 エイナさんがいない。

 支払いを済ませてる間に外に出たと思ってたんだけど……

 

 どこにいるのかと辺りを見回しているとエイナさんがお店の中から出てきた。

 まだ店内で何かしていたらしい。

 

「ベル君。はい、これ」

 

「えっ?」

 

 手渡されたのは緑玉石(エメラルド)の色の細長いプロテクター。

 盾の要素も兼ね備えているが、見た感じつけていても動きの邪魔にはならなさそうだ。

 

「あの防具だけだったらちょっと不安な所があったからプレゼント。君の動きの邪魔にはならないと思う物を選んだから良かったら使ってね」

 

「ええっ!? 流石に受け取れませんよ!? プレゼントとはいえこんなもの……」

 

「私がもらってほしいの。キミ自身のため……ううん、私のためかな」

 

「え……」

 

「君も知ってると思うけど冒険者っていうのは本当にいつ死んじゃうかわからないんだ。どんなに強い冒険者でも、誰かに必ず帰ってくるって約束した冒険者も神の気まぐれみたいに簡単に亡くなっちゃうの。私は……私たちは帰ってこれなかった冒険者も沢山見てきたんだ」

 

 誰かを思い浮かべたのかとても辛そうな表情を浮かべている。

 ただその間も僕からは目を逸らしていない。

 

「私は、ベル君にいなくならないでほしい。キミがいなくなったら私はすごく悲しいから。だから、受け取ってくれないかな?」

 

 ……困ったな……そんなことを言われたらもう何も言えないじゃないか。

 改めて手渡された緑玉色の防具を受け取り、こちらを見る彼女に笑みを向ける。

 

「ありがとうございます、エイナさん」

 

「どういたしまして」

 

 胸の中にある防具は温もりに満ちているような気がした。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 昨日は防具を買い終わった後に一緒に食事をして、エイナさんを住居に送り届けて買い物(デート)は終わった。

 その後に探索に向かおうと思ったけど神様とお話をしたかったから探索を中断して教会で待機。

 

 バイトを終えて帰ってきた神様とちょっとだけ口論になったけど、お互いの落とし所を見つけて無事にお話は終わった。

 

「よし……」

 

 鏡に映る自分を見てちょっとだけ嬉しくなる。

 あの人たちのように板についているというわけではないけど、ようやく冒険者らしくなったのではないだろうか。

 

「それじゃあ神様! 行ってきます!」

 

「いってらっしゃ~い……」

 

 疲れが取れていない状態でバイトに行った弊害か神様はベッドに沈んでいる。

 昨日はそんな状態で行ったからかミスを連発してしまい、雇い主であるヘファイストス様に万全になるまで来るな、と言われてしまったそうだ。

 ちなみにバイトの説得は昨日の話し合いの時点で諦めている。

 

 空は今日も快晴。

 青空の下を歩きながらいつも通り裏道を経由してメインストリート、中央広場に向かい、バベルへとたどり着く。

 早速中に入り、ダンジョンの下の階層へと向かった。

 

 今までの探索の中心になっていた7階層のさらに下、8階層、9階層、10階層に来たところで階層を降りるのをやめる。

 理由は様変わりしたダンジョンとダンジョンギミックである濃い霧。

 

 9階層に続く階段から少し歩くと濃い霧が生まれてくる。この視界の中で迂闊に進むのは危険。しかもこの階層から大型級のモンスターも出てくるとのこと。

 

 朝から潜っているが時刻はそろそろ正午を過ぎる頃だろう。

 下に降りるのはここまでにして今日は次に続く階段を探すだけ探しておこうとする僕の出鼻を挫くように霧の中から複数のモンスターが襲い掛かってきた。

 

 姿、形がはっきりと見えたところで腰に携えた『神様の剣』を引き抜き、一閃。

 手ごたえと共に襲い掛かってきたモンスター、『インプ』二体の首と胴体が泣き別れになる。

 

 周囲を見ると霧の中にまだインプの影が見える。

 そしてそのすぐ後ろからインプよりもはるかに巨大な影が様子を伺っていた。

 

「あれは……オークかな」

 

 大きさだけで言えばミノタウロスを越えるであろう『オーク』の影。それが二体。

 周囲には僕を囲むようにインプが六体。

 

 今の【ステイタス】を考えれば全く問題ないモンスター達なのだが、初めて戦うモンスターかつ大型級が混じる集団戦は初めてなのでちょっと緊張する。

 

 地面を蹴り、まずインプに接近。

 防御のため掲げた腕ごとその魔石を斬り裂き、背後から来たもう一匹の身体を蹴りつけ、血煙に変える。

 足を止めずに霧の中に潜むオークに向かう。

 

 飛び上がり、オークが振りかぶる『迷宮の武器庫(ランドフォーム)』から産まれた天然武器(ネイチャーウェポン)ごと斬るように、最上段からの振り下ろし。

 僅かな抵抗があったがそれだけでオークは魔石を残して灰となった。

 

(無駄が多い。この程度だったらもっと楽に倒さないと……あと咄嗟に動かしたら力が入り過ぎちゃうな……)

 

 先ほどまであった緊張はあっという間に消え、効率よく倒す方法だけが頭の中にあった。

 いつの間にかインプたちは全て灰に還り、もう一匹いたオークもたった今物言わぬ灰になった。

 

「ここもこんな感じか……あ、ドロップアイテム」

 

 オークが落としたドロップアイテムと落ちた魔石を回収する。

 周囲に散らばってしまったため、回収が少し面倒だが強化種を生み出さないためにも、生計を立てるにも魔石の回収は重要だ。

 

「ん?」

 

 回収していると戦闘の音を聞きつけたのか中々の数のモンスターがこちらに近づいてきている。

 面倒なことにまだ全ての魔石を回収しきれていない。

 

「今までこんなことはなかったんだけど……遭遇率が上がるからこういうこともあるのか。回収とかもそうだけど一人じゃ厳しいのかな」

 

 帰ったらエイナさんに相談してみよう、と頭の片隅に置いておきモンスターを迎え撃とうとする。

 そこで様子がおかしいことに気づく。すごい勢いでモンスターが減っている。

 

 よく目を凝らしてみると霧の中で一人の冒険者がその集団を次から次に倒しているのが見えた。

 最後の一匹は霧を抜けてこようとしたので倒そうとしたのだけど、それよりも早くその冒険者がそれを両断してその集団は全滅した。

 

 勢いあまって霧の中から飛び出してきたその冒険者を見て思わず声が漏れる。

 同様にその冒険者も僕を見て大きく目を見開いていた。

 

「アイズさん……?」

 

「……ベル?」

 

 金色の憧憬との思わぬ再会。

 霧の中からアマゾネスの少女が出てくるまで僕達は無言で見つめあっていた。

 




いつも感想、評価、お気に入り登録、誤字脱字報告ありがとうございます。

今回から新章に入ります。
中心となるのはあのサポーターの少女ですが、いくつか別の話も混ざってくると思います。

次に更新頻度を二週間から一週間に戻そうと思います。戻ってもまた急に更新頻度が落ちることもあるかもしれませんが、どうかよろしくお願いします。
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