24階層に到達した合同パーティはアイズを中心に戦闘を行いながら、
24階層は広い階層。それを隅から隅まで探索するとなると相当面倒だ。だが
「
「……わからないですけど……あの人が関わってる時点でそんな単純じゃないと思います」
だよなぁ……とげんなりとした表情を浮かべるルルネの脳内に浮かぶのは18階層の出来事。
アイズがいなければ間違いなく死んでいたであろうあの出来事はルルネの中では完全にトラウマになっていた。
会話を交わしながら、時々アスフィに注意されながら多少賑やかに北の
時折現れるモンスターの大群の対応はあの戦闘を見たアスフィの頼みとアイズ自身の事情も重なり、基本的にアイズが受け持っている。そのおかげでベルを含む合同パーティの面々はほとんど消耗することなくその場所に辿り着いた。
「な、なんだこれっ!?」
地図を持って前を歩いていたルルネが驚愕の声を上げる。
パーティの前に現れたのは
不気味な光沢を放ち、近くに存在するダンジョンの壁とは全く異なる材質で出来た不気味な壁。触れると脈動を感じる緑色の正に肉壁という言葉が相応しい壁が通路を隙間一つなく塞いでいた。
「アイズさん、こんなの見たことありますか?」
「……見たことない。『下層』でも…………『深層』でも」
アイズのその言葉にパーティ全体がざわめく。
第一級冒険者である【剣姫】でさえ知らない『未知』。その事実に誰一人例外なく緊張が走る。
「ルルネ、この道で間違いないんですね?」
「あ、ああ。間違いない……はずなんだ。本当ならこんな壁なんて存在しないはずなのに……」
何度も地図と目の前の緑色の壁を見比べるルルネの声が動揺を隠しきれずに震える。
「……ファルガー、セイン。他の者を引き連れて二手に分かれてください。何があろうとも深入りは禁じます。異常があればすぐに戻ってくるように。ベル・クラネル、あなたも片方について行ってもらっても?」
「わかりました」
「なら私も」
「待ちなって。オレ達にはオレ達のやり方ってもんがあるからあんま出しゃばんないでほしいんだよね」
ついて来ようとするアイズを
言い方が冷たい彼のその言葉に雰囲気が嫌な方向に変わりかけたが、
「そんな言い方はダメよポック。【剣姫】にはずっと戦ってもらってたんだから休んでてほしいってちゃんと言わなきゃ。というわけでここは私達に任せてください。あとで取り分で揉めたくありませんしね」
姉であるポットがニコニコとその言葉を本音と冗談交じりで翻訳したことで事なきを得た。
アイズ、ルルネ、アスフィ、ネリーに見送られながらベルはファルガーの班に入り、別の通路へと向かって歩く。
別の通路からならもしかしたら……という考えもあったのかもしれないが……
「ダメだ。どこも塞がれていた」
「こちらもだよアスフィ」
「やはりそうでしたか」
ファルガー班、セイン班共に芳しくない結果となった。
どの通路も同一の壁によって塞がれ、
だがこれでアスフィがことの真相について結論付けることが出来た。
24階層で起きていた
北部の
「大量発生の原因はわかった。だけどさ……この奥には何があるんだ……? 原因はこの壁だとしてもなんでこの壁は
大移動を起こしたこの肉壁こそが
ことの真相に納得していたパーティの面々がルルネのその言葉に表情を硬くする。緊張した面持ちで全員がアスフィの方を向き、彼女の言葉を待った。
「それを知るには……進むしかないでしょう」
【ヘルメス・ファミリア】の団員がそれぞれが渋い反応を見せるが、アスフィが一歩踏み出した瞬間、すぐに意識が切り替わる。
肉壁の中心には大型のモンスターでも通れる大きさの『門』のようなものは存在している。存在はしているのだが、何をしようとも微動だにしない。出入口なのだとしたらいずれ開くその時は来るのかもしれないが、いつ来るかわからないその時を待つ時間はない。
「破壊しましょう。見た目からして炎に弱そうですが……」
「斬りますか?」
「撃ちますか?」
「二人揃っていきなり物騒なこと言うなよな……」
鞘から剣を引き抜いたアイズと腕を前に構えたベルにルルネ達は呆れたような視線を向ける。
ベルは苦笑しながら頬をかき、アイズが頭に疑問符を浮かべていると壁を観察していたアスフィが振り向く。
「いえ、ここはメリルに任せます。斬る前に魔法に対する情報も欲しいですし、貴方の魔法は強力ですが、この壁に穴を開けるには少々威力が足りないかもしれないので」
「僕の魔法は詠唱がない分、威力はそこまでですからね」
「……詠唱がない魔法ってマジで何なんだよ……」
道中ベルの魔法を見ていたルルネが呆れた視線を送っていると
着弾と同時に轟音。肉が焦げるような異臭を放ちながら、緑壁は炎上し『門』どころかその周囲の肉まで完全に焼け落ちた。
中を少し覗き込んだアスフィはパーティに振り返り、一度全員の顔を見る。
「……行きます。陣形は崩さないように」
アスフィの合図で内部に侵入したパーティを迎えたのは緑壁と同じ材質で覆われたダンジョンの道。全員が侵入し、周囲を見回していると背後で妙な動きが起きる。
「アスフィ、壁が……!」
まるで全員が侵入するのを待っていたかのように修復を始めた緑壁は奇妙な音を立てて盛り上がり、時間をかけて完全に塞がった。閉じ込められたという事実ににわかに動揺が広がる。
「落ち着きなさい。脱出できなくなったというわけではないのですから。また穴を開ければ良いことです」
アスフィの冷静な声に動揺が広がり始めていたルルネ達も平静を取り戻す。
そんな彼らを他所にベルとアイズは壁の一角に近付き、緑壁に向けて剣を振る。奇妙な感触と共にあっさりと斬れた割れ目から二人の目に飛び込んできたのは24階層の本来の壁。
「アイズさん、これって……」
「……この変なのが、ダンジョンに覆い被さってる……のかな」
『門』と同様に修復していく様子を見ながらアイズがそう呟く。
ダンジョンと同じ自動修復という性質を持つ緑肉を見て二人で無言で考え込んでいるとアスフィが進行を再開する。それに従い迷宮を進んでいくが、緊張からか全員の動きが固い。
第一級冒険者であるアイズでさえ知らないという緑肉の空間の
誰も喋らず緊迫した空気がパーティに流れる中、ルルネがポツリと独り言を零す。
「……もしこの気色悪い壁が全部モンスターだとしたら……私達、化け物の腹を進んでるってことになるんじゃないか……?」
「おい」
「よせ」
「やめてくださいっ!」
「ははっ、シャレにならないなぁ」
「静かにっ!」
その独り言に【ヘルメス・ファミリア】の団員から非難轟々の嵐が起こり、アスフィの叱責が飛ぶ。ただ予期したことかどうかはわからないが、緊迫していた空気が薄れ、固さが解れる。
そんな彼らに混ざることはできないが、図らずともルルネの一言で雰囲気が良くなったことにベルが感心しているとアイズが天井の一点を見つめていることに気付く。
釣られて見上げるとそこにあるのは緑肉に植え付けられたかのように咲くしおれた花。淡い燐光を放つその花はこの領域内唯一の光源。
その色は…………極彩色。
食人花が思い浮かぶその色にアイズの双眸が細まる。
「ベル……なるべく私から、離れないで」
「……わかりました」
あらゆる出来事を頭の中で思い描きながらアイズはベルの隣を歩く。
最悪はあの
現れた地図にはない分かれ道と長く続く複雑な迷路をルルネに
帰りの道を忘れないように目印として水晶の欠片を背後に落としながら進んでいると開けた道に不自然に散乱している灰を発見した。
「モンスターの、死骸か?」
「そのようです。あの『門』を破りここまで侵入したようですが……何かに殺されたようです。少なくとも冒険者ではありませんね」
灰の中からアスフィが拾い上げたのはモンスターのドロップアイテム。
余程の事情がない限り、冒険者がドロップアイテムをその場に残しておくことはない。そして基本的にだがモンスター同士が戦闘を行うこともない。ならばここにいるのは一体なんなのか。
アスフィの発言を皮切りにそれぞれが得物を構え、周囲の警戒を始める……その時だった。
アイズの鋭敏になっていた五感が頭上から来る
「───上!!」
その声に全員が一斉に顔を振り上げる。
遥か上方の天井、暗闇の中に蠢くのは何本もの長躯、鋭い牙を覗かせる口と
「っ! 【ファイアボルト】!!」
「各自、迎撃しなさいっ!!」
反応の遅れをカバーするベルの速攻魔法が開戦の狼煙だった。
砲身のごとく突き出された左腕から十を超える炎雷が放たれる。前方にいた食人花はそれに対応できず全弾が命中。それを盾に落下してきた後方の食人花の巨躯を回避し、アイズ達はモンスターに斬りかかった。
「レヴィス、侵入者だ」
「モンスターか?」
「いや、冒険者だ」
二人の周囲では『顔無し』に置いて行かれた大多数のローブに身を包んだ者達が慌てたように駆けずり回っている。レヴィスはそれを一瞥し、役に立ちそうにもない者達を置いて行った『顔無し』に向けて一つ舌打ちをした。
「やはり来たか。相手は中規模のパーティ……全員手練れのようだ」
壁に埋め込まれた水膜に映る冒険者の一団を白づくめの男は憎々し気に見つめる。
水膜を見てはいるが興味の欠片も示していないレヴィスだったが、一瞬映った白髪赤目の少年に対してわずかに反応を見せ、次に映り込んできた金髪金眼の少女を見て今度こそ目の色を変えた。
「『アリア』だ」
「なんだと?」
彼女の呟きに男も反応を見せる。
食いつくように水膜を、そこに映るアイズを見ているレヴィスを見て、信じられないと言わんばかりに口元が歪む。
「【剣姫】が『アリア』だと? 信じられん」
「確かだ…………あの『紛い物』もまだ『アリア』と共にいるのか」
アイズと共に戦うベルを見て、レヴィスにわずかながら苛立ちが浮かぶ。
一度睨みつけるように『紛い物』と忌み嫌う少年を見つめるが、すぐにその視線はアイズに戻し、彼女だけを見据える。
「私が出る。他の奴らを引き剥がせ。その後は好きにして構わんが……あの白髪の男だけは何としてでも殺せ」
「……わからんな。なぜあの子供をそこまで警戒する。確かに中々の腕だがそれだけだ。我々にとって何の脅威にもなりはしないだろう。優先すべきは【
「私が深手を負い、帰ってきた時のことを覚えているか」
レヴィスのその過剰と言えるような警戒に男が抗議の声を上げているとそれを遮り、彼女は少し前の話を切り出した。
「……覚えているとも。だがそれがどうした」
宝玉を探しに18階層へ向かった彼女が左腕を失うという重傷を負い、戻ってきたときのことは記憶に新しい。その腕は既に再生されているが、凶悪な強さを持つ彼女がそんな傷を負ってきたことなど忘れられるわけがなかった。
「私の相手をしたのは『アリア』……だが左腕を奪ったのはあの男の一撃だ」
白骨の奥の男の瞳が限界まで見開かれる。
「出来ることならこの手で殺したいところだが……最優先は『アリア』だ。奴は必ず目的の邪魔になる。貴様の元へと辿り着いたその時は必ずここで殺せ。必ずだ」
男の返事を待たずレヴィスは大空洞から歩き出す。
彼女の姿が完全に見えなくなったその大空洞で男はポツリと呟く。
「……あんな子供をそこまで警戒してどうする。腕を奪えたのも【剣姫】の力があったおかげだろう? 敵を大きく見過ぎたな、未熟者め」
男はレヴィスの警告を歯牙にもかけていなかった。
水膜が写す戦場、今もなお前線で活躍しているというのにそんな白髪の少年を脅威になるはずがないと決めつけ、そんな少年を警戒するレヴィスを嘲笑う。
自身の力を過信し、他者を侮り、傲慢な笑みを浮かべる男を紅い光が照らしていた。
「【ファイアボルト】!」
正面から体当たりしてくるモンスターを魔法で迎撃。
その魔力に引き寄せられ、鋭い牙の生えた大口を開くモンスターはその突進の勢いも利用して口腔内の魔石を砕く。
このモンスターの特徴は僕とルルネさん、そしてアイズさんは知っている。おかげで僕達は戦えているのだけど……妙な違和感がある。
なんというか……地上で戦った時のモノに比べると手応えがない……というか弱い……?
「っ!」
と思えばかなり強い個体が襲い掛かってくる。
一体一体の個体差が大きすぎる。本当になんだこれ……
「うわっ!?」
そんなことを考えていると近くのモンスターが爆散した。
見るとアスフィさんが緋色の小瓶をモンスターの口内に投げ込み、魔石を次々砕いている。そしてそれを皮切りに新種のモンスターに苦戦していた【ヘルメス・ファミリア】が加速した。
防戦一方だったはずなのに動きを掴んだのか一気に攻め入り、次々と花のモンスターを灰に変えていく。そして数分後、一匹残らずモンスターは灰に変わった。
「……この人達も、やっぱり強い」
特にアスフィさん。この人は純粋な【ステイタス】もそうだけど判断力とか分析力とか……そういったものが頭一つ抜けている。さっきの戦いでもあのモンスターへの対応が誰よりも早かった。
戦闘の後処理と武装と
歩きながらあのモンスターに関するより詳しい情報を僕とアイズさんで【ヘルメス・ファミリア】に提供する。
まず打撃はほとんど効かない代わりに斬撃の耐性は低いこと。
次に『魔力』に過剰なほどの反応を見せて、『魔法』を撃とうとするとなりふり構わずその術者を狙うこと。
あのモンスターの特に目立つ特徴と言えばそれぐらいだったはず……なのだけどアイズさんは少々迷うように考え込むと念のために、と口を開いた。
「……あと、他のモンスターを率先して狙う習性が、あるかもしれません」
それは僕の知らない情報。
僕が戦った時はそんな姿はなかった。だけどアイズさんがここで話したということは何か気になるようなことがあったのだと思う。
驚きの声が上がる中、その情報を受けてアスフィさんは一つの仮説を話し始めた。
まず最初にモンスターがモンスターを襲う行動についての説明から。
一つ目は突発的な戦闘。これは偶然起きてしまう出来事の為、ここではあまり関係がない。
問題は二つ目。モンスターが魔石の味を覚えてしまった場合。
モンスターが魔石を取り込むとどうなるのか。答えは簡単。
魔石を取り込んだモンスターの能力が飛躍的に上昇する。
これが『強化種』。
同種族の魔石を五つでも取り込めば、モンスターの能力は目に見えて変化するとお母さんから教えてもらったことがある。エイナさんからも同じことを、そして僕がオラリオに来る少し前に討伐された特例である『血濡れのトロール』というギルドの推定Lv.を遥かに超えるまで強化されたモンスターのことを教わった。
アスフィさんの考えはあのモンスターは『魔石』を目的にモンスターを襲っているということ。そしてそれを裏付けるように先の戦闘でも能力差の著しい個体が数体存在していた。
確かにこの考えなら個体差という言葉で判断するには難しいほどに強さに差があるあのモンスター達に納得がいく。
「群れ全体で『魔石』を狙うとかそんなのアリかよ……冗談じゃないぞ」
ルルネさん達の会話の隣でアイズさんは何か考え込むように顔を少し俯かせていた。
殺気に似た雰囲気を纏う彼女に、覚悟を固めるように拳を強く握りしめたアイズさんに何も言えずにいるとパーティの足が止まる。
「まーた分かれ道か……アスフィさん、今度は───」
何度目かの分かれ道。うんざりした様子でキークスさんがどちらへ進むのかアスフィさんに指示を仰いだその時だった。
左右の道からずるずると大きな体を引きずる音を響かせながら花のモンスターがその姿を現した。
「両方からかよ……」
「ははっ……残念。後ろからも、だよ」
呻くルルネさんにセインさんが追い打ちをかけるようにパーティに警告する。
三方向からの挟み撃ち。先ほどよりも多いその数に【ヘルメス・ファミリア】の人達がうんざりしたように顔を顰めている。かくいう僕もそんな感じだ。
全ての通路がモンスターで埋まったことで退路は断たれた。なら戦うしかない。
「【剣姫】、片方の通路をお願いしても?」
「わかりました。そっちは任せたよ、ベル」
「はい!」
アイズさんの強さなら一人で一つの通路を抑え込める。問題になるのは残り二つの通路。
抑え込んでくれてる間に残り二つを倒しきれるのか。だけどこれだけの人がいてそれができないなんて言えない。それに
アイズさんが単独で飛び出した瞬間、アスフィさんの号令で僕達もモンスターに向かって飛び出した。先陣を切り、触手の間を縫って花の頭に斬りかかる。
毒々しい色の首を刎ね飛ばして一緒に戦っているパーティの元へと戻り、次の相手に狙いを定めた次の瞬間だった。
アイズさんが向かった通路の方からドンッ、っという鈍い音が聞こえてくる。一度音が聞こえるとそれは止まらず、さらにドンッ、ドンッ、ドンッ、と何かが叩きつけられるような音が何度も何度も響きやがて止まった。
音の発生源を見ると何本もの巨大な緑柱が通路を塞ぐように地面に突き刺さっており、アイズさんと僕達は完全に分断されてしまった。
「なっ……お、おいっ、【剣姫】!!」
「っ! ルルネさん!!」
緑壁を叩き、アイズさんを呼ぶルルネさんとその背中を襲おうとするモンスターの間に入り、剣でその大口を受け止め、開いた大口の中の魔石を魔法で砕いた。
「どいてくださいっ!」
目を見開き、慌てて避けるルルネさんを尻目に渾身の力を込めて緑壁に斬りかかる。
確かな感触と共に目の前の壁が斬れる……しかし、入り口の『門』とは違って、斬れた端から一瞬で修復されてしまう。
(これは……無理だ)
時間をかければ、二分以上の
だけど状況がそれを許さない。背後では【ヘルメス・ファミリア】の人達が道の奥からどんどん増えるモンスターとの迎撃戦を強いられている。
(……大丈夫だ。あの人なら、何があっても絶対に大丈夫だ)
緑壁に塞がれた通路の奥からは絶え間ない剣戟の音がかすかに聞こえてくる。
アイズさんもこの中で戦っているんだ。
なら僕は何をする?
ここで彼女を待つだけか?
あの時、アイズさんは僕になんて言った?
───任せたよ、ベル。
「【
足を中心に雷の
勢いを利用し、触手などと共に囲もうとしていたモンスターを斬るとアスフィさんと視線が合った。
「……っ! 全員! 道を確保出来次第、この場から移動します!!」
「待てよ! 【剣姫】を置いていくのか!?」
「あんたも見たでしょ! あの子の強さを! 何があったって死なないわよ!」
置いていくことに対して難色を見せるルルネさんもエリリーさんのその言葉に顔を顰めてグッと言葉を飲み込む。
ただそれも一瞬のこと。すぐに表情を切り替え、未だ増え続けるモンスターと相対した。
「各員、魔石をバラまきなさい!」
アスフィさんの指示で全員で壁際に向かって魔石を投げ捨てる。
するとモンスター達はまるで飢えた獣のようになりふり構わずその魔石に食いつき、道が開いた。
「進みます! 全員、前へ!!」
その言葉を合図にパーティが一気に前進。
最後尾に着いたアスフィさんが懐から三つの小瓶を取り出したのを見て、僕は身を翻して背走の状態で左腕を前に突き出す。
「ベル・クラネル!! 魔法を!!」
「【ファイアボルト】!!」
アスフィさんが投擲した三つの小瓶に炎雷が炸裂。
たた撃つだけでは到底迸る事のない大爆炎がモンスターを包んでいく。
「その魔法、やはり便利ですね。威力はそこまでですが、出が速いですし乱戦ではこれほど嫌な魔法はないでしょう。おかげで魔剣を温存できました」
「ありがとうございます。このままどんどん僕を使ってください。必ず役に立ちます」
「……
後ろを見ると先ほど倒しきれなかったモンスターが追いかけてきている。
下がりながら相手をするけど……妙だ。
「なっ……この数は……!」
僕達の想定よりもはるかに多いモンスターの触手が殺到する。
違和感の正体はこれか。あそこで見た時と比べて数が多すぎるんだ。倒しきれなかったのだとしてもここまでの数はいなかったはずなのに……!
(まずい……! アスフィさんでもかわし切れない……!)
いくつか弾いてはいるけど、ダメだ。間違いなく攻撃が入ってしまう。
深手にはならないだろうけど……万が一彼女が深手を負えばこの後の士気に関わる。
(魔法……ダメだ、この距離だったらアスフィさんに……引き付けるのも間に合わ───)
「づぁっ……!!」
「な……キークス!?」
触手がアスフィさんの体を貫こうとした瞬間、その前にキークスさんが躍り出て、彼女を襲おうとした触手の全てをその身で受け止める。
即座に僕は彼の体を貫いた触手を斬り払い、先ほどと同じようにアスフィさんが投げた小瓶に魔法を撃ちこんだ。
「何故こんな真似を!? 私ならそこまで深手にはならないとわかっているでしょう!?」
キークスさんを背負った僕達は爆破の勢いを利用し、一気に前を走るパーティと距離を詰める。
走っている最中にアスフィさんの叱責の声が飛ぶけど、キークスさんはどこか満足げな表情を浮かべていた。
「そう、ですね。でも……万が一があり得るじゃないですか。アスフィさんが、そんなことになっちまったら……オレ達はきっとすぐ死んじまいます」
「キークスさん……」
「アスフィさんは誰が犠牲になろうとも、誰を犠牲にしようとも最後まで生き残らなきゃダメなんです。あんたはオレ達の要…………オレの一番大事な人なんですから」
痛みを堪えながらキークスさんはアスフィさんに微笑む。
その笑み、もしくはその言葉に何かを思い出してしまったのかアスフィさんがその瞳を細める。
「ふごっ!?」
「私が特別に手を加えたハイポーションです。もう一本あるのでそれは傷口に。無駄口を叩いていないでさっさと使いなさい」
バッサリとアスフィさんに言葉を斬り捨てられたキークスさんに他の人達から哀れむような視線が注がれる。
いや、まあ確かに結構な傷だから早く回復させる必要はあるけどちょっと言葉が厳しいというか……
「……アスフィさんが、手を加えたもの?」
「はい。普通のものよりも効果が上の筈ですが何か不満でも?」
「一生宝にしますッ!!!」
「早く使いなさいッ!!」
……まあキークスさんが幸せそうだからいいか。
そんなことをしていると再び前方からモンスターの群れが現れる。
モンスターの攻勢が随分と激しい。この先にある『何か』をよっぽど僕達に見られたくないみたいだ。
パーティ全体で息を切らしながら何度目かわからないモンスターの襲撃を撃退したところでモンスターの出現がピタッと止まった。
通路の先に目をやるとモンスターの代わりに謎の赤い光が漏れ出している。
「……今のうちに態勢を立て直します。ですが周囲の警戒を怠らないように」
サポーターのネリーさんとドドンさんから配られた
「準備が整い次第、突入します。各自戦闘態勢を」
全員で顔を見合わせ、準備が整ったのを確認し通路の奥を進む。
吐きそうになるほどの腐臭の中を歩き、
「宿り木……?」
緑壁に浸食された広大な空間。
赤い光を放っている
そして───
「おい、クラネルっ! あれは……!」
「……『宝玉』」
あの日、18階層で見た……厄災を呼び込む『宝玉』だった。
「おや……やはり
通路に響く男の声。
声の正体はアスフィ達の想定を超えるように追加で
「あの程度の数に負けるようでは興醒めというものですが……」
繰り出した
初めの
「ヴィ、ヴィトー様……我々はどうしたら……」
ヴィトーに連れてこられたはいいものの特に役割を与えられなかったローブの者達が男に指示を仰ぐ。それを興味なさげに一瞥したヴィトーは……
「ああ、そうですね。貴方達は広間での戦闘が始まり次第、ヴィオラスを引き連れてあの冒険者達を襲いなさい。そちらはある程度の
そう指示を出して呼び止める声を無視し、冒険者達が侵入してきた『門』へと足を進める。
出来ることならば、今すぐにでもあの冒険者達の前に出て彼女らを殺したい。だがまだ自分にはやらなくてはいけないこと……いや、やりたいことがある。こんなところで顔がバレてしまえばそれに支障が出てしまうだろう。
「それは避けなくてはいけませんからねぇ……我慢我慢」
加虐の笑みを描き、胸を焦がす殺戮衝動を抑えながら、彼は複雑な緑壁の迷路を歩く。
道中、食人花が現れるが平気な顔でその横を通り抜け、食人花も彼を同族とでも思っているのか反応すら見せない。
やがて『門』に辿り着いた彼は首にかけていた極彩色の宝石のネックレスを掲げる。
その宝石に反応し、『門』が気味の悪い音を立てながら開いた。
「おお……ヴィトー様」
「いやー……ここまで来るのは大変だったよ。まあ俺が来たいって言ったんだけどね。やっほー、ヴィトーちゃん」
その『門』の前に佇んでいるのは数人のローブの者達、そしてその者達を護衛のように侍らせながら軽く手を振り、気安く声を掛けてくるたった一人、黒のローブを身に纏った謎の男。
人ならざる異質な気配を醸し出すその存在に彼は微笑みを浮かべ、恭しく頭を下げながら歓迎の言葉を口にした。
「こんな危険なところまでようこそいらっしゃいました……
ここまで見ていただきありがとうございました。
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