それでもよければどうぞ。
「……見つかんない」
別れてから数刻、今もなお捜索は続いていた。それでもベルという少年は見つからない。
リヴェリアとゼウスが焦りを顔に浮かべながら必死の捜索をする中、アイズはいつも通りの無表情で村の中を歩き回っていた。
そこでふと、まだ森の中を探していないことに気づき、森へと足を進める。
視界は中々悪いが、かなり静かな森で子供が泣いていれば簡単に聞き分けができそうだ。
草の根を掻き分け、道なき道を進んで行くが、特に何かが起こるといったことはなかった。
ここにもいないのかな……と少し落胆しつつあるその時、アイズの前方を白い髪の少年が走り去り、その後を牛型のモンスター……ミノタウロスが追いかけていった。
───おじいちゃんがいないけど一人で遠くに行っても大丈夫!
そう考えて家から離れた過去のぼくを思いっきりぶんなぐりたい。
「うわあああああ!!?」
「ブモオオオオオ!!!」
そうやって遠くに遊びにいった結果がこれ。
見たことのない……ぼくが知る由もないことだがここにいるはずがない種類の魔物に追われ、殺されようとしている。
攻撃? ……かすり傷すらつかない。
防御? ……その上から殴られて終わりだ。
じゃあ逃げ続ける? ……なんとか逃げてるけどぼくの体力はもう無くなりそうだ。
対抗策を考えようとしてもどれも却下される。
「ヴぉオオオオオオオ!!」
「うあっ!」
奇跡的に逃げることに成功しているぼくに苛ついたのか牛の怪物の拳が土を抉る。
その土が礫となり、ぼくの周りを飛んでいくがまたも奇跡的に当たらなかった。
けど、幸運もそこまで。
それに気を取られたぼくは地面に張った木の根に気付けなかった。それに足を引っ掛け、顔から地面へと転ぶ。痛みで思わず涙が出てくるけど、今はそれどころではない。
慌てて立ちあがろうとするがぼくの頭に生暖かい息がかかる。
「…………ひっ」
「フゥー、フゥーッ……!」
立ち上がることができず、そのまま後退りをする。立ちあがろうにも足が言うことを聞かない。
やがてドンっと背中が木にぶつかる。周りには他にも木があり、別に行き止まりではないが今のぼくにそんなことを考えられる余裕はなかった。
(ああ…………だめだ……助からない……)
恐怖で歯の根が噛み合わず、ポロポロと涙が溢れる。
そんなのお構いなしに牛の怪物がその口を開き、近づいてくる。
英雄譚を見てる時におじいちゃんが教えてくれた。“人は感情が限界を越えたら思わず笑ってしまうのだ”……と。
あの時は何も意味がわからなかったが、今となればわかってしまう。
「は……はは…………」
だってぼくは今泣きながら笑っているのだから。
(ああ……いやだ…………たすけて……しにたくない…………おじいちゃん…………)
「……おかあさん」
死が近づく瞬間、ぼくが助けを求めたのは、顔も見たことのない母親だった。
牛の魔物の腕が振り上げられ、その拳がぼくを叩き潰す。
次の瞬間、牛の怪物の胴体に一筋の線が走った。
走って走ってまた走る。
木々の隙間をスルスルと軽やかに抜けていく金色の少女。
無表情ではあるがその心は少し驚いていた。
(追いつけない……恩恵なんて持ってないはずなのにすごい速い)
すぐに追いつき助ける予定だったのに少年はどんどんと遠くへと逃げていく。
小さな体と地の利を活かして逃げていく姿は見応えがある。そんなことをしている場合ではないが。
「あっ……!」
もう少しでアイズが追い付くその時、少年が木の根に足を取られ転んでしまった。
ミノタウロスが獲物を甚振るようにゆっくりと少年に近づき、少年は後ろへ下がるが背中が木にぶつかる。
距離はまだ少しある。今のままでは間に合わない。
ならば───
「……【
少年を救うため、風を纏う。
風になったアイズは一瞬で彼我の距離を詰め、鞘から引き抜いたデスぺレートを一閃。
ミノタウロスが間抜けな声を漏らすが気にも止めず次から次へと切り刻み、細切れにする。
追いついた瞬間に魔法を解除したため少しだけ返り血を浴びてしまったが、それよりも襲われていた少年だ。
剣はそのままに目の前の少年を見つめる。
かなりの量の返り血を浴びてしまってはいるが大きな傷はなさそうだ。
それに安心し、アイズは手を差し伸べた。
「………………大丈夫?」
「……ヴォ?」
「…………えっ?」
その線は胴体だけでは済まず次々と全身に走り、牛の怪物は断末魔を上げることすら許されず、細切れになりその命が尽きる。
身体から溢れた大量の血がぼくにかかるがそれに対する嫌悪よりも助かったことに対する安堵と何故助かったのかという困惑が勝る。
そしてそんなぼくの目に一人の女の子が映った。
「………………大丈夫?」
女の子が話しかけてきて、手を差し伸べてくるがぼくは返事も手を取ることもできなかった。無視をしたわけではない。
ただ、目の前の少女に見惚れていたからだ。
年齢はぼくと同じ、もしくは少し年上くらいだろう。
幼さの中に確かな美しさを持ったよくおじいちゃんが話す女神様に匹敵するであろう美貌。
その手にはそんな美貌には似つかわしくない血の滴った剣が握られている。
けどそんな物が目に入らないくらい、何度も言うがぼくはその女の子に見惚れていた。
腰辺りまでまっすぐ伸びた金色の髪、そしてぼくを見つめてくる金の瞳はぼくが今まで見たどんなものよりも美しく綺麗だった。
「…………ねぇ、大丈夫?」
「うっひゃあああ、はい!!」
ずいっとその顔を近づけてきた女の子に思わず間抜けな声を出して飛び上がってしまう。
心臓が凄まじい早さで動いているのがわかる。それは今驚いたから? いいや違う。
「大丈夫なら、立って……おじいさんが探してたから……」
すっともう一度差し伸べられた手を取り、立ち上がる。
手に触れた瞬間、さらにぼくの心臓が早く動く。体に電流が走ったかのようにぼくの身体は震えている。
ああ、だめだ。この想いは抑えられない。
言葉にならない感じたことのない想いが心を埋めていく。でもそれは全然イヤじゃなかった。
ぼくは……どうしようもないぐらいこの少女に心を奪われた───
この日ぼくは、恋をした。
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