すみません。
24階層の激戦を乗り越えた僕達は『リヴィラの街』を経由してその日のうちに地上に帰還することが出来た。
神様とリリが待つ
『次からはちゃんとボク達に相談するように!』
神様達が特に怒っているのはやっぱり僕が何の相談もなく、危険な
……手紙を送ったとはいえ、事後報告にしちゃったのは正直僕もダメだと思う。神様達と同じ立場に立たされたらきっと僕もすごい怒るし心配する。
誠心誠意神様達に謝罪をしてなんとか許してもらった僕は気が付くと丸一日寝込んでいた。
神様達の顔を見て緊張が解けてしまったのかもしれない。
丸一日寝込んだことで神様達にはまた心配をかけてしまったけど、思いっ切り休んだおかげで
ただ左腕の動きがあまり良くない。
だから今日はリリの腕の経過を診てもらうついでに僕の腕も診てもらうことにした。
向かうのは【ディアンケヒト・ファミリア】だ。
そこでアミッドさんにこっぴどく叱られた僕はそのまま帰路に就いた。
「腕の調子はどうだった?」
「リリの方はもう特には。無茶はまだできませんが通常の探索でしたら明日から行けますよ!」
リリの腕ももうほとんど回復したと言ってもいい。
嫌な折れ方をしていたからもっと時間がかかると思っていたけど、【
そうでもないと冒険者なんて危険な職業で生計なんて立てられないかもしれないけど。
「ベル様、これからどうしましょうか」
「うーん……今日はこのまま地上にいようか。まだ少し体も重たいし」
「わかりました! では今日一日は完全休養ということでよろしいですか?」
「うん、そうしよう。明日からまた探索は再開ってことで」
そこで僕とリリは別れた。
お世話になっていたおじいさんにしばらく顔を見せることが出来ていなかったから自分の現況を伝えに行きたい、とのことだった。
リリと別れた僕は一人、喧騒の中を歩きながら昨日の壮絶な一日を思い浮かべた。
「……明日、早起きしなくちゃ」
時は少し遡り昨日、『リヴィラの街』から少し離れた場所にある木々と水晶に囲まれた広場。
ベル達はそこで帰還前の休養を取っていた。
「ベル、大丈夫……?」
「ちょっとふらふらしますけど、大丈夫そうです。レフィーヤさん達も大丈夫そうでしたか?」
「……ベルと同じ感じ、だから……大丈夫なのかな」
少しふらついているベルの隣に座るアイズは少し離れたところで休息をとっているレフィーヤと似た症状を起こしているベルを心配そうな表情で見つめていた。
ベルはそんな顔をさせてしまったことに胸を痛めながら心配はいらないと気丈に笑う。
「アイズさんの方こそ大丈夫でしたか? ずっとあの女の人と戦ってたんですよね?」
「私は大丈夫。あの人は強いけど、ベートさんも力を貸してくれたから……」
アイズの言葉にベルが静かに奥歯を噛み締める。
守りたいと思っている人が危険な目に遭っていたというのに彼女のために何もできなかった自分の力不足が腹立たしかった。
無力感に苛まれるベルに気付いたのかアイズがそっとベルの右手に自分の手を重ねる。
恋人のように指を絡めたりなどはしない。ただ手を重ねただけ。ただその手から伝わる優しい温もりがベルの心を癒していた。
しばらく二人でそうしていると【ヘルメス・ファミリア】の団員達が動き始める。
地上へ帰還するようだ。
「ベルは、私達と一緒でいいんだよね?」
「はい。ご一緒させてください」
彼女達が動き出したのを見てベルとアイズも立ち上がる。
二人が少し離れた場所にいるレフィーヤの元へと移動すると【ヘルメス・ファミリア】の団員達が姿勢を正してベル達と向かい合った。
「貴方達のおかげで誰一人欠けることなくこの
アスフィを筆頭に【ヘルメス・ファミリア】の団員達は感謝の言葉を笑顔と共に口にし、地上へと帰還していった。
それから少し、レフィーヤがある程度回復した頃合いを見計らってベル達も地上への帰還を始める。ちなみにベートはここに着くや否やベルをじっと見つめ、すぐに何も言わずに帰ったためここにはいない。
道中に現れるモンスターを一人ですべて引き受けるアイズの動きを目に焼き付けながら、ベルは24階層の出来事を……漆黒の猛牛のことを思い浮かべる。
食人花の大群が産み出された直後、階層の天井を突き破り現れた真正の怪物。
自らの力を、他者の力を、モンスターの力を、ありとあらゆる全てを利用しても越えることが出来なかった
記憶の中の漆黒の猛牛と何度も戦闘を繰り返すが、ただの一度たりとも討伐するどころか致命傷を与えることすら出来ない。
何度も何度も何度も様々な手段を用いて戦いを挑むが、結末は全て同じ。自らの死である。
今のベルの実力ならば通常のミノタウロスであれば問題なく討伐は可能だ。昨日までであれば一対一で戦い、勝利することが出来ればトラウマを乗り越えることも出来ただろう。
だがあの怪物と出会い、敗北したことで心の奥底のトラウマが捻じ曲がる。
漆黒の猛牛が記憶に焼き付いてしまった今、もはや通常のミノタウロスを討伐した程度では心の枷が解き放たれることはない。
ベルがトラウマを乗り越えるにはあの怪物に勝利する、もしくはそれに匹敵する実力を持つミノタウロスに勝利するしか手段がなくなっていた。
(あいつにあの場で勝つ方法は今考えてみれば色々と思いつく。じゃああの場じゃなかったら? 一人で何もない空間で戦って勝つにはどうしたらいい?)
自らの心を縛る枷の圧が強まっていることなど露知らず、アイズのことを目で追いながらベルは一人で模索を続ける。
自分がこんなことを考えている間にも憧れの少女はその実力を十全に発揮し、モンスターを斬り伏せていた。ずっと戦い続けているというのに汗をかくどころか息一つ乱れていない。
「やっぱりすごいなあ……」
憧れは未だその影すら踏むことが出来ないほどの高みにいる。
その現実に胸の奥が軋んだ。『誓い』は未だ果たされることなく二人の中で息づいている。
結局ベルは18階層を発った後一度も戦闘をすることなく、地上へと帰還した。
辺りには既に夜の帳が降りており、柔らかな月の光が少年を照らしていたがその心は晴れない。
「お疲れベル。体は、大丈夫?」
アイズはベルに微笑みと共に労いの言葉をかける。
そこで何やら浮かない表情を浮かべる少年に気付いて首を傾げた。
「腕、痛むの?」
「……えっ? あ、い、いえ……大丈夫ですよ」
戦闘が終わった直後に見たベルの焼け焦げた腕を思い出したのかアイズが眉を顰めてそっと壊れ物を扱うように左手に触れる。
考え込んでいてアイズの言葉に気が付かなかったベルは今度は左手から伝わる温もりに慌てて取り繕うが、彼女はジトっと目を細め、隠し事をしている少年を逃さない。
「嘘。痛いなら、痛いって、ちゃんと言って」
「ほ、本当に痛くないですからっ」
「……じゃあなんで、そんな辛そうな顔、してるの?」
少し悲し気な表情を浮かべたアイズを見て、ベルの言葉が詰まる。
硬直したベルの両手をとり、アイズはさらに続けた。
「何かあったなら、話してほしい……ベルの力に、なりたいから」
アイズはベルの両手を包み込み、上目遣いで見つめる。
なおも言い淀むような素振りを見せていたベルだったが、やがてポツリと呟いた。
「何をしたらアイズさんや……ベートさんみたいに強くなれるのかなって」
見上げる形になっているアイズから目を逸らし、ベルは続ける。
「少しは戦えるようになったと思ってたんですけど……18階層の戦いと今回の戦いでそれが間違いだったって痛感しました。今の僕じゃアイズさんの力になる事なんてできないってことも」
18階層ではアイズが追い込まれるまで何もすることが出来ず、24階層に至っては彼女と赤髪の
24階層の戦いの時の自分には役割があったことはわかっている。だがそれでも、彼女が傷ついていくところを遠目で見ることしかできなかった自分に酷く腹が立っていた
「まだ冒険者になって間もないお前が何を言っているんだって思われるかもしれませんけど……僕はアイズさんの力になりたい。貴女を、守りたい」
ベルが少し俯いていた顔を上げるとアイズは真剣な表情で見つめてきている。
激しい戦いを乗り越えた後にここでこんな話をするのは失敗だった、と内心悔やみながらベルは苦笑を浮かべ、続けた。
「あ、でもどうやったらもっと強くなれるのかわからないんですよね。こんなこと言ってますけど。七年前はアイズさんとおか……じゃなくてリヴェリアさんにおかしなところを指摘してもらってたので成長を実感できていたんですけど……」
二人がベルに訓練を付けた日数は恐らく一月にも満たない。
強くなりたいと願ったベルの為に本などで教えを残したとしてもたった一人、手本となる人が近くにいない鍛錬には限界があった。
恩恵を授かった後は恩恵の力と七年間、教えの反復と独学で続けた鍛錬が繋がり、確かな手応えを感じることができたが、満足なんてできるはずがない。
「アイズさん達に鍛えてもらったのにこれじゃあ全然だめですね。アイズさんも疲れてるはずなのに話を聞いてもらっちゃってすみません」
話を切るためか捲し立ててくるベルをアイズは変わらずじっと見つめる。
変わらないその表情と少し握る力が強くなったアイズの手に困惑した様相を見せるベルを前にして、彼女は少年に切り出した。
「じゃあ……また一緒に訓練、する?」
「……えっ?」
「ううん、するじゃなくて……しよ?」
その提案にベルは目を見張る。
彼女に再び師事することが出来れば、間違いなく強くなることが出来るが……
何故またそんな提案を、とベルが戸惑っているとアイズは伏し目がちに言葉を紡いだ。
「今のベルは、少し焦ってる。そのままダンジョンとか行ったら、多分死んじゃう、よ」
ベルが酷い焦燥感に駆られていることは先ほどの話から十分に察することができる。
そんな状態で探索など進めてしまえば、自分だけでなく他のパーティメンバーまで巻き込んで全滅する、ということをアイズが口にするとベルはさっと顔を青くして頭を抑えていた。
「それにこれは、私の為でもあるから……私はベルに死んでほしくない。強くなることで、その可能性が少しでも減るなら、助けてあげたい」
アイズの心からの言葉を受け、ベルの顔に浮かんでいた焦燥が消えていく。
顔色も元に戻り、落ち着いたことを確認したアイズはそっと微笑み、ベルの言葉を待った。
「本当に良いんですか? またアイズさんに教わっても……」
まっすぐ見つめてくるその瞳にもう答えなど決まっているというのにベルは確認を重ねる。
アイズが頷いたのを見たベルはここで初めて苦笑ではない笑みを見せて、アイズに頭を下げた。
「また、どうかよろしくお願いします」
七年振りに始まる本格的なベルとの訓練。
これからの日々に少し心を躍らせながらアイズは笑みを深めていた。
「うん……よろしくね。ベル」
訓練の始まりは24階層から帰還して十分な休養を取った三日後の今日。
アイズさんに教えてもらった『秘密基地』である市壁の上で行うことになる。
大派閥の幹部である彼女が他派閥である僕に指南するとなっては多くの問題が生まれるため、それを回避するために人目がないこの市壁の上に僕達は来ていた。
「準備は、できてる?」
「はい、バッチリです」
この訓練の期間はアイズさんが【ロキ・ファミリア】の『遠征』に向かうまで。
そこまで長い期間ではないため、一瞬一秒たりとも無駄にすることはできない。
「アイズさん、まずは何をしますか?」
「……まずは、戦おうか」
初めて【ロキ・ファミリア】に行ったあの日と同じようにアイズさんは鞘のみを僕に向けて構える。ただ構えただけだというのに僕と彼女の間にある空気が引き締まった。
それに合わせて僕も剣を抜き、同じように彼女に向けて構える。
「こっちの方が口で教えるよりずっと、強くなれる。私は、リヴェリアに比べたら教え方は下手だし、今のベルならこれが一番」
自分は話すことが苦手だからとアイズさんが提案した訓練の形式は模擬戦。
実戦を通して自分から必要な技術、動作の全てを盗んでいけと彼女の瞳は告げていた。
「時間がもったいないから、すぐにやろう」
目の前のアイズさんが一歩進み出る。
携えるのは何の変哲もないただの鞘。少し前の僕だったらこの鞘一本に気圧されていた。
だけどあの時とは違う。雰囲気に圧されることもないし、思考も晴れている。
「……っ!」
鞘を構えたアイズさんに勢いよく踏み込んだ。
今できる最速の踏み込みで懐に迫り、剣を振るが彼女はそっと剣の腹に鞘を当て、逸らす。
それを認識した瞬間、右肩と胸に強い衝撃を受け、勢いよく後方に吹き飛ばされた。
「相手の近くまで無防備に寄りすぎ、かな。速さはよかったけど、防がれたら今みたいなことに、なっちゃうから」
肩と胸を襲った強い衝撃の正体は彼女の鞘。
この戦いが命を懸けた戦いだったら僕の腕と心臓はなくなっていた。
(あの戦いのときも、同じことをして一気にひっくり返されたっけ)
勝負を焦り、漆黒の猛牛の
今のはあの時と同じ失敗……懐に潜り込むのは少し考えたほうが良いな。
「どんどん行くよ」
とんっ、と勢いのない軽い踏み込み。次の瞬間、彼女は僕に肉薄し鞘を横に薙いでいた。
剣の防御は間に合わないと咄嗟にプロテクターで防ぐ。受け止めた衝撃で体が浮き上がりかけるが、なんとか踏み止まる。
「反応は出来てる……いいよ。でも、反応だけじゃなくて相手の動きも、読めるようになって。最初は反応出来てても、傷を負ったり、負わなくても戦いが長引いちゃったら、鈍くなっちゃうから」
縦横無尽に走る斬閃を全力で弾きながら、彼女の動きをよく観察する。
だけど隙は無い。動きもあまりに速過ぎて全く読むことができない。
「どんなに強い冒険者も、モンスターも、生き物だから、絶対に何処かに隙が生まれる。それを逃さないで。勝ち目がなくても、そこを突くことが出来たら生き残れるかもしれないから」
膝をついて肩で息をする僕とは対照的に汗一つ掻いていない彼女は僕に語り掛けてきた。
話すことが苦手だと言っていたのにアイズさんはなるべく僕が理解しやすいように、自分が得てきたものを伝えようと必死に言葉を紡いでくれている。
それに応えたい。応えなきゃいけない。
アイズさんを守りたいならこの貴重な時間を一秒たりとも無駄になんてできない。
「ちゃんと考えて戦えば、君はもっと強くなれる、と思う。だから自分の中で課題を持って、頑張ってみて。強くなりたいなら」
真摯に見つめてくるその瞳に背中が熱く燃え上がる。
その熱に引っ張り上げられるように僕は立ち上がり、アイズさんと正対した。
立ち上がった僕に彼女は微笑みを浮かべ、無言で鞘を構える。
僕はそれに立ち向かい、終わりの時間が来るまで彼女の剣をひたすら受け続けた。
ダンジョン17階層。
適正Lv.2のその階層を歩くのは
神フレイヤの命、そしてある男との約束を果たすために都市最強と名高いその男は自身の力に釣り合わない階層を探索していた。
「…………」
オッタルの歩みが止まる。
その瞳が岩盤に空いた一つの横穴を睨む。少ししてその横穴から赤黒い皮膚を持つ巨大なモンスターが姿を現した。
そのモンスターの目玉がオッタルを捉えると巨大な咆哮を放った。
彼は一切怯むことなく、そのモンスターの観察を続ける。
現れたのは牛頭人体のモンスター……『
オッタルが自分の実力に見合わないこの階層にいた理由。
それはミノタウロスを捕獲することだった。
この猛牛以外にも数体、別の個体とは出会っている。
だがそのどれもがオッタルの眼鏡に敵わず、全て一撃のもとに粉砕されていた。
では目の前に現れたこの個体はどうだろうか。
その手には『
恐らくはどこかで冒険者と一戦交え、勝利したのだろう。ただ目立った傷はない。
その二つにオッタルの目が細められる。
口の中で
それを見たミノタウロスが地面を踏み砕き、勢いよく石斧を大上段に構える。
並の冒険者ならばその一撃で簡単に命を散らすであろうミノタウロスの石斧が無防備に立つオッタルに振り下ろされた。
「……こんなものか」
しかし、その一撃はただ掲げられた左腕に受け止められる。その体は1Cたりとも動いていない。
石斧を握り砕いたオッタルは目の前で驚愕を露わにするミノタウロスを無表情で見つめ、その頭を一撃で粉砕した。
「中々見つからないものだな……」
灰となったミノタウロスから魔石を抜き取ったオッタルは背嚢を背負いなおして再び歩き出す。
先ほどのミノタウロスに光るものを感じはしたが足りない。あのミノタウロスを鍛え上げたところで約束の子供の鎖を解くことはできない、とオッタルは判断していた。
「…………む」
根気強くまた探そうと歩き出したその時。
18階層に続く階段から異様な気配を感じ取った。
目的の怪物である可能性は低いだろうが、その気配を無視することは出来ない。
しばらく進むと『嘆きの大壁』が続く大広間に辿り着く。
そこでオッタルは見た。
「……ほう」
視界の奥に存在するのは
そのさらに奥に陣取る漆黒の影……階層主を喰らう片角の
身に纏う圧倒的な威圧感。その実力は計るまでもない。
「お前に決めたぞ」
あえて大きな音を立て、背負っていた背嚢を地面に落とす。
その音に気付いた漆黒の猛牛の瞳がオッタルを捉えた。
『ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!」
大広間を揺らす
進路上に存在する全てを薙ぎ払う漆黒の突撃。対してオッタルは左手をゆっくりと掲げた。
「──────ッッッ!?」
「強化種か。階層主の魔石以外にもかなりの量を喰らっているな? 上々だ」
漆黒の猛牛の一撃を微動だにせず受け止めたオッタルはその実力を値踏みし、認めた。
ミノタウロスとは思えない高い実力と実力差を察するやいなや後退し様子を伺う判断力もさることながら、オッタルが認めたのはその瞳だ。
自他の間にある実力差に一切怯むことなく、隙あらばその命を奪おうとギラギラと輝くその瞳が何よりも気に入った。
「そのままぶつけてもいいが……いや」
オッタルは自分の腰の所で交差させていた二本の大剣のうち一本を放り投げる。
自分の目の前に突き立った大剣とオッタルを交互に見比べた猛牛はそれを引き抜き、構えた。
「使いこなしてみろ。出来なければここで貴様は終わりだ」
ベルがアイズとの訓練を始めたほぼ同時刻。
迷宮内でオッタルによるミノタウロスの教育が始まろうとしていた。
主君の命、そして果たすべき約束の為、オッタルは少年を縛る鎖を砕く糧を作り始める。
教育に手心を加えるつもりはない。手心など加えてしまえばあの少年が殻を破るきっかけにはならないのだから。故にオッタルは全力を以て漆黒の猛牛を調教する。
目の前の猛牛がただの強化種ではないことなどオッタルも理解している。
この怪物が武器を持ち、『技と駆け引き』を学べばどうなるのかということも。
だがこれでいい。過去を乗り越えるために命を懸けることが出来ない者に何も果たすことなどできないのだから。
オッタルが作り上げるのは残酷で過酷な道だ。一歩間違えれば命を落としてしまうほどに。
(あの御方に見初められたのなら、貴様が『英雄』などというモノを目指しているというのなら……この程度の壁など超えて見せろ)
約束の子供に対する決して届くことのない激励を心の中で呟き、教育が始まる。
主君の命を、そして『覇者』との約束を果たすため、オッタルは宿命の対決が始まるその日まで、その怪物を鍛え上げた。
ここまで見ていただきありがとうございました。
今後ともよろしくおねがいします。
また、本小説をお気に入りに入れてくれている方の数が現時点で3000人を超えました。
皆さんありがとうございます。今後とも皆様が楽しめる話を書けるよう精進していきます。