アイズとの四日目の訓練が終わったある日のこと。
訓練を早めに切り上げてもらったベルは世話になっている【ミアハ・ファミリア】のナァーザの
報酬は【ミアハ・ファミリア】が作製する新薬。
先日、ナァーザから受けたもう一つの
早朝から卵を集め、帰還した後すぐに全員で製薬に取り掛かったおかげで新薬が完成し、なんとか【ミアハ・ファミリア】が抱えている今月分の借金の返済に成功した。
そしてその
「これが
「液体の色が違うぐらいだからね。でも効果は確かだよ。急いでたから一本しか余分には用意できなかったみたいだけど」
『
その効果は体力と
外界と
「ではこれはベル様のレッグホルスターに。ダンジョン内で消費する
「うん、わかったよ。ただ一本しかないから大事に使わないとね」
「危険だって思ったらすぐにでも使ってくださいよ?」
二人で昨日の
「よっ! 悪いな、急に呼んじゃって」
そこで待っていたのは【ヘルメス・ファミリア】のルルネ。
アイズとの5日目の早朝訓練が終わった直後に彼女に声を掛けられ、ここに来てくれと言われたベルはダンジョンに潜る前にリリと共に先にルルネの用事を済ませるためにここに来ていた。
「いえ、大丈夫ですけど……どうしたんですか?」
「あの
「あ」
つい数日前の黒衣の人物からの
そんなベルを見てルルネはマジかよ、と呆れた笑顔を、下からはリリが報酬を受け取るまでが
「す、すみません。すっかり忘れてました!」
「忘れてたってお前……どれだけお前が苦労したと思ってるんだよ。ちゃんとそこまで見ないといつか誰かにカモにされるぞ?」
「もうされてましたよ。ええ、つい先日まで」
「……なんというか、抜けてるところもあるんだな」
リリの言葉にルルネは頬を掻き、困ったような笑顔を浮かべていた。
一旦そこで話は終わり、ルルネについていくと689番の小さな金庫の前で止まる。
彼女から渡された小さな鍵を差し込み、金庫を開けると目に入ってきた光景にベルとリリが目を大きく見開き、驚きを露わにした。
「な、なんですかこれ!?」
中に入っていたのは様々な色の宝石、指輪などの宝飾品、貴重な魔物の素材、数冊の
全てを換金したら総額がどれほどになるのかもわからないその宝物の山を見て、二人はそっと金庫を閉じた。
「なんで閉じるんだよ?」
「……ちょっと、その……額が額なのでしばらくここに置いておこうかなー、って」
「あー……まあヤバい奴らにバレたら大変なことになるなこれ」
ベルとリリは結局鍵だけをルルネから渡してもらい、金庫内の物はしばらく……【ファミリア】がある程度自衛できるようになるまで預けておくことにした。
ここならギルドの金庫ほどではないがかなり安全ではある。バレなければ、の話だが。
「じゃあ、私はこれで……っとそうだ。クラネルに一つ言っておきたいことがあるんだった」
「なんですか?」
「24階層でお前が使ってた魔法のことなんだけどさ……」
ベルの表情が強張り、空気がわずかに張り詰める。
触れられたくない話題なのだと察したのか、ルルネが言葉に詰まったが、すぐに表情を緩めて続く言葉を口にした。
「私達は誰も話す気もないし聞く気もないから安心していいぞ。気になりはするけど、訳ありなんだろ? 恩を仇で返すつもりなんて微塵もないからな」
ルルネの話を聞いたベルの表情が和らぐ。
同時に安心したように一つ息を吐いた。
「……ありがとうございます。他の人に知られたら迷惑をかけてしまうのでそう言ってくれると本当に助かります……信じていいんですよね?」
「もちろんだ。主神のヘルメス様にだって話すつもりはないからな」
不安そうに自分を見てくるベルにそう返して、用を終えたルルネはその場から去っていった。
どこか安心したような表情を浮かべたベルにリリが何の話をしていたのかと聞くと、少し迷うような素振りを見せながらも隠していたその話を彼女にも聞かせる。
ベルの隠し事であるその話を聞いたリリは目を白黒させながらも絶対に誰にも言いません!、と声を上げていた。
それを最後に東区画での用事を終えたベル達はダンジョンへと足を運び、いつものように迷宮探索を始めるのであった。
「………ん」
体が訴える鈍い痛みと頭の裏の柔らかい感触にゆっくりと目を開ける。
まず目に入ってきたのは雲一つない綺麗な青空。そして心配そうに僕を見ているアイズさん。
眉を下げ、落ち込んでいるようにも見えるその顔に僕はすぐに起き上がった。
「大丈夫……?」
「は、はい。すみません、また気絶しちゃって」
記憶はアイズさんが凄まじい速度で攻撃を繰り出してきた所で止まっている。
何度目かは数えていないけど、また彼女の攻撃を防ぐことが出来なくて意識を刈り取られてしまったんだと思う。
「……?」
不甲斐ない自分に思わずため息が漏れる。
それを見たアイズさんは不思議そうな顔を浮かべて自分の膝の上をぽんぽんと叩いていた。
「も、もう大丈夫ですから」
「ん……わかった。でも少し、休もう」
意識を失った僕を膝枕してくれていたアイズさんが手招きしていたのでその隣に座る。
太陽の位置を見るともう既にいつもの早朝の時刻帯は過ぎているが、僕達の訓練はまだ終わらない。僕の予定とリリの予定にアイズさんの予定が色々と噛み合って、今日は一日中訓練をつけてくれることになっているからだ。
肩が触れ合う距離で僕は空を眺めて、少し考え事をする。
(少しずつアイズさんの動きに反応できるようにはなってるけど……アイズさんが動きを少し速くしただけで一気に反応出来なくなるな)
速くなった攻撃を捌き切れなくて直撃してしまうことが気絶する大半の理由でもあるしどうにかしたいけど……今の僕じゃ無理だろうな。
当然のことだけど僕とアイズさんには隔絶した力の差がある。差のあるそんな彼女と鍛錬をしているのだから何も出来ないで倒れることなんて当然のことなんだろうけど────
(そんな姿は……)
憧れの人に、初恋の人に、守ると誓った彼女に情けない姿は出来ることなら見せたくない。
隣に座って一緒に空を眺めていたアイズさんに視線を移す。
(守るって約束した人に師事を受けてる時点で余計な思考、か…………やっぱり弱いな、僕は)
僕が見ていることに気付いたのかアイズさんは首を傾げて僕のことを見る。
何でもないです、と笑ってごまかす僕を見つめた彼女は僕の手にそっと触れてきた。
「どうしました?」
「……大丈夫、だよ。ベルは、ちゃんと強くなってる」
静かにそう呟いたアイズさんは僕を正面から見つめ直して続ける。
「ベルが気絶しちゃうのは、その……少しずつ私の動きについてこれるように、なってくのが嬉しくて……少し本気になっちゃうせい、だと思うから」
「本気……ですか?」
アイズさんが思わず本気になってしまう動きなんて出来てるとは到底思えない。
ただ彼女のその真剣な表情を見ると冗談や世辞で言っているとも全く思えなかった。
「一対一の戦いで、今のベルに勝てるLv.2とかLv.3の人は、そんなにいないと思うよ。魔法を使えば、Lv.4の人とも戦えるかも……だから、落ち込まないでいいよ」
確信を持った口調でアイズさんはそんなことを僕に向かって話す。
彼女の言っている通り、少しは強くなれているのかもしれない。だけど少しじゃダメなんだ。
だって僕が求めてるのは目の前のこの人を守ることのできる力なんだ。簡単に手に入るものじゃないってわかってはいるけど、だからこそ止まれない。止まってる余裕なんてない。
冒険者になったんだからいつまでもこの人に、ま────
「続き、やろうか」
「……はい!」
顔を両手で叩いて鍛錬に必要のない思考を頭の奥に押し込む。
じんじんと頬が痛むけど、その痛みがちょうどいい。余計なことを考えないで済むから。
途中アイズさんの提案で昼寝の訓練という名の長時間の休憩を取り、僕達は鍛錬を続けた。
「何度見ても変わらない……あの光はあの娘のモノで確定ね」
バベルの最上階。
都市を囲む市壁の上で鍛錬に励む二人の姿をフレイヤは静かに見守っていた。
あの二人が訓練する姿を初めて目にした時は何の因果があって都市最強の一角を担う剣士と自分が見初めた少年があのようなことになっているのかと面白い演劇を見るような表情で見守っていたが、今のフレイヤの顔に笑みはない。
その理由は少年の透明な魂に寄り添う金色の光と一人の少女が放つ魂の輝きが瓜二つだということに気付いてしまったからだ。
ただの少女であればこんな苛立ちをフレイヤが覚えることもなかったかもしれない。だがあの光を持つ少女だけはダメだ。少年の魂に寄り添うあの金色の娘だけは近づけてはいけない。
あの少年と少女の絆が深まるほど自分の目的は遠ざかる、と女神の勘がそう騒いでいた。
「でもあの子の目的にはこれ以上ない人材だし……」
何度あの二人の訓練をやめさせようと画策したかはわからない。
だが少年の真剣な目を、自らの弱さを呪うその瞳を目にしてしまえばそんなことなどできるわけがなかった。自らの癇癪で少年の強くなりたいという思いを邪魔するなど言語道断だ。
「ただ……」
眼前に広がる光景にフレイヤは目を細める。
姉弟または恋人のように側で寄り添って眠る二人の姿。その光景に胸の奥がざわめく。下界の子供に嫉妬しているのだと気付き、そんな自分を滑稽だと思いながらもその感情を抑えることが出来ない。
「少し『警告』が必要みたいね」
幸せそうな表情で眠っている二人に黒い思いが芽生える。
そして嗜虐的な微笑みを浮かべた美の神は待機していた従者にある命令を下した。
「じゃあ、今日はこれで終わり。お疲れ様」
「あ……ありがとうございました……」
昼寝の訓練を終え、軽食を取ったベルとアイズは昼寝の訓練の分を取り戻すかの如く訓練に撃ち込み、夜が更け始めたそんな時間帯に訓練を終えた。
少し休んだおかげで頭がすっきりしたのか昼寝後は一度も気絶すること、させることなく順調に進み、お互いに今までで一番の手応えを感じていた。
「いやー……ベル君も結構強くなったと思ってたんだけど……君は本当に規格外だね。あんな風になるベル君なんて初めて見たよ」
市壁内部の階段を降りながら、そう話し始めたのはベルでもアイズでもなく。
軽食としてジャガ丸くんを買いに屋台に向かった時にその屋台でバイトをしていたベルの主神であるヘスティアだった。
アイズとの訓練を了承したとはいえ、どんなことをしているのか気になっていたヘスティアは二人と偶然出くわしたその機会を利用して、訓練を見学していたのだ。
「でも、ちゃんと強くなってます。ベルは頑張って、ますから」
「へぇ……君がそう言うならそうなんだろうね。えらいぞベル君!」
「か、神様っ」
背が低いヘスティアはベルより上の段に上り、その髪をわしゃわしゃと両手で撫でる。
恥ずかしそうなベルだったが、どことなく嬉しさがにじみ出ている。そんな二人の姿、ベルの途中まで暗かった表情が明るくなったのを見てアイズも隠れて微笑んでいた。
市壁の階段を降りた三人は閑散とした裏通りを進んでいく。
月と無数の星々の輝きが三人の歩く道を照らしているが……。
(…………)
明らかにおかしい。
強烈な違和感を覚えたアイズとベルは談笑をピタリと止め、立ち止まり、戸惑うヘスティアを挟むように背中合わせで周囲を見回す。
場所は裏通り。
物静かな場は月と星の輝きで照らされてもなお薄闇が包んでいる。明かりはそれだけだ。裏通りとはいえ設置されているはずの魔石灯の光が全くない。
加えて周囲から音が一つも聞こえてこない。まるで人払いがされているかのように。
「……ベル」
「わかってます……」
二人が一瞬向けた視線の先にあるのは光が消えた魔石灯。
その魔石灯はまるで鈍器で壊されたかのように破砕していた。
アイズが一歩前に、ベルは一歩下がりヘスティアを庇いながら彼女の背中を追う。
歩く三人の目に入る魔石灯は全て破壊されており、この異常な状況は誰かが作り上げたモノだという確信が生まれる。
そして────
「っ!」
「……もう少し下がって」
二人の視界の先、建物と建物の間から一人の男が姿を現した。
その男はアイズの良く知る人物だった。故にその警戒が最大まで高まる。
(
バイザーで目を覆っているためその視線が誰に注がれているかわからないはずなのにその目が自分に向いているということをベルは直感的に理解していた。
ただならぬ威圧感を迸らせる男はベル達の姿を確認すると、ゆっくりと歩み始める。
この異常な状況を作り上げた人物なのかとベルが考えを巡らせていると男はベル達の間に20M程の距離を残して、立ち止まった。
無音の空間にトンッ、という軽い音が響く。
次の瞬間、その男はベルの反応も反射も振り切り、闇に隠されていた槍を少年に撃ち出した。
「────────えっ?」
「ベルッ!!」
少年の命を奪うその槍は神速で抜剣された銀の細剣によって弾かれる。
ベルの頬に一筋の赤い線を残し、槍は少年の後ろに受け流されていた。
(見え、なかった……アイズさんが弾いてくれなかったら今頃────)
止まっていたベルの時が動いたのはアイズが勢いよく踏み込んだ瞬間だった。
槍を撃ち込んだ相手が離れた位置に飛び、着地した直後の隙をアイズが狩る。一切の迷いなく自分に襲い掛かってきたアイズに男は防戦を強いられたが、それも僅かな時間。
すぐに自らのペースを取り戻し、アイズと凄まじい戦闘を繰り広げる。
「速過ぎる……速さだけなら、アイズさん以上……?」
目の前で繰り広げられる戦闘をベルは必死で追うが目が追い付かない。
黒い影と金の輝きが何度も交差しているということぐらいしかわからない。
「……っ!? 増援!!」
その戦闘を目で追うことなど出来なかったが、アイズと謎の男の頭上で四つの影が揺らめくのが目に入ってきた。
その影が握っているのは当然武器。剣、槌、槍、斧の四種類。
アイズを狙う新たな刺客にベルは叫ぶことしかできなかった。
「アイズさんッ!!」
ベルが叫びよりも早くアイズの身体がブレる。
キャットピープルの男の攻撃を受け止め、崩れるように体勢を低くした彼女は奇襲を仕掛けてきた四人の刺客と男の五人を視界に収める。
そしてタイミングを見計らい、剣を振り抜くことで五人全員の武器を一振りで弾き飛ばした。
「マジか」
「マジかよ」
「マジだな」
「バカげてるな」
「ちっ……化け物が」
吐き捨てるように言った男はバイザー越しにアイズを睨みつける。
無言を貫くその姿に焦りはない。五人で攻めたというのに余裕がある姿に男の感情が荒ぶる。
「……っ!」
「ダメだベル君! 君じゃ勝ち目がない!」
男と四つの影……四人の
せめて援護を、とベルが一歩踏み出すがそれ以上足が出ない。
その戦闘に参加するには絶望的なまでに力が足りない。
参加したところでアイズの邪魔になるだけだ。
中途半端に実力をつけ、ある程度の死線を潜り抜けてしまったからこそ、本能も理性も激しい警鐘を鳴らし、そこから動くことを許さない。
立ち尽くすベルの視界の先で並外れた連携を繰り出す四人と一人。
そしてそれをたった一人で凌ぎ、隙あらば反撃まで繰り出す金色の少女。
赤髪の
「べ、ベル君!!」
最悪な思考に傾きかけていたベルがヘスティアの悲鳴と腕を掴む感触によって引き戻される。
ベルが顔を上げるといつの間に近付いたのかあの五人と同じようなバイザーをつけた四人の男女が少年とヘスティアを包囲していた。
(しまった……! ここまで近付いてたのに気が付けなかった……!)
必要のない思考を重ね、周囲の警戒を怠っていた自分に内心舌打ちをする。
思考を放り投げ、鞘から剣を引き抜いたベルは包囲する四人組を迎え撃つ。
「神様、僕の後ろにいてくださいっ!」
どこでこんな恨みを買ったのか異常な量の敵意をぶつけてくる女性冒険者を迎え撃つ。
確かな『技』を持っているであろう女の攻撃に対してベルは踏み込み、鋭く剣を突き出した。
「ちっ……なっ!?」
突き出した剣を避けようと横に逸れることを強制したベルはそれに合わせて突きの勢いごと体を捻り、高速の回し蹴りを叩き込む。
防具が破壊される音と共に女は吹き飛び、建物の壁に埋め込まれる。回し蹴りが当たった時には既にベルは走りだしており、次の相手へ先制するべく自分から向かっていく。
(この人たちは……全員Lv.2か)
なら勝てる、とベルは確信を持った。
同時に絶対に一人で勝たなくてはダメだ、とも。
アイズが相手している男達ほど自分に襲い掛かってきた相手は規格外の存在ではないのだから。
この程度の相手はたとえ多対一であろうと圧倒しなくてはいけない。
(一人は動けなくなってる……あと三人)
鋭い瞳を三人のうち一人に向け、肉薄する。
風のようにいきなり目の前に現れた少年に男は武器を構えるが、重装備の男と軽装備のベルとでは相性が最悪だった。
自然と大振りになる大剣をギリギリで回避したベルは大きな隙を晒した男の鎧を峰で撃ち抜く。
甲高い音と共に鎧が砕け、その衝撃を全て浴びた男はよろめき、意識を失った。
「あと二人……!」
一対一では少年には勝てないと判断したのか数を減らされた残りの二人が同時に飛び掛かる。
ヘスティアを後ろに庇ったベルは数分前のアイズの動きを思い描く。
(二人なら、僕でも……!)
タイミングを計り、ベルは剣を振り抜いた。
しかし、その剣は武器に当たることなく、二人の防具を強かに撃ち抜くに終わった。
「そう、うまくはいかないよね」
四人を撃退することに成功したが、すっきりしない終わり方。
すぐにそれを頭の片隅に放り投げ、今もなお剣戟の音が鳴り響いてる場所へ顔を向ける。
「っアイズさん!!」」
警鐘を鳴らす本能と理性を感情で捻じ伏せ、ベルは右腕を男達に向かって構える。
アイズが飛び退いたのを見て、全
「【ファイアボルト】ッッ!!!」
解き放たれたのは都合十五条の炎雷。
限界を越えた魔力のアビリティから放たれるそれは威力の落ちる速攻魔法といえど決して無視することのできない威力となる……というのに。
ベルの視界の先で裏通りに生まれた炎の海の中を傷一つない
「詠唱を抜いて魔法を撃ちやがった……加えてこの威力か」
「あの四人を簡単に倒した実力といい予想以上だな。あの方に報告するぞ。きっと今か今かと待ち望んでいられるだろう」
そう言って襲撃を仕掛けてきた男達は四人組を回収し、闇の奥へと消えていく。
男たちの会話が耳に入ってしまったベルは顔を曇らせていた。
(狙いは……僕? 僕を試すためにそれの邪魔になるアイズさんを狙ったのか?)
「ベル、大丈夫だった?」
ベルが顔を上げると心配そうに見つめてくるアイズの姿が。
言葉を返そうと口を開くが、彼女に何度も守られてしまう申し訳なさと自分への不甲斐なさに平常心を保てず、言葉に詰まる。
「……ベル君は大丈夫だよ。ただちょっと疲れたのかもしれないね……君の方こそ大丈夫だったかい? なんか凄い戦いをしてたけど」
「私は、平気です。こういうことには慣れてますから……」
「慣れてるって……物騒だなぁ」
何も言えずに黙り込んでしまったベルに代わり、ヘスティアがアイズと言葉を交わす。
人が集まる前にここから離れよう、というアイズの言葉に従って三人でその場から移動を始めるが、その道中でもベルは一つも言葉を発することなく、二人から少し遅れて俯きがちに歩く。
始まりの約束はベルの胸の奥で何があろうともどれだけ迷おうとも敗れることなく存在している。この約束だけは何があろうとも決してブレはしない。
ただブレないからこそ、目の前に広がる現実というモノにその心が押し潰され始めていた。
(本当に僕は……この人を守れるぐらい強くなれるのか?)
彼女の強さはよく知っている。その強さが一朝一夕で手に入るようなものではないとわかっていてもどうしてもその心は深く沈んでいく。そして沈んだ先で幼い頃に生まれてしまった枷がその心をより強く縛り付ける。
そんなベルを見つめる一つの無遠慮な視線。
普段なら気付けたはずの視線に気が付けないほど、今のベルは精神的に追い詰められていた。
「そろそろ、その枷から解き放たれる時よ……ベル?」
遥か空の上からその視線の主は揺らぐ少年のその揺らぎすらも愛おしいと言わんばかりに熱を帯びた瞳で見つめ、妖美な微笑を浮かべる。
宿命の対決は少年の苦しみ、迷いなど関係なく、すぐそこまで迫って来ていた。
ここまで見ていただきありがとうございました。
今後ともよろしくおねがいします。
ちょっと暗くなりましたが次と次辺りはそこまで暗くはならないと思います。