それでもよければどうぞ。
「ベル!! 無事じゃったなんじゃその血塗れの姿はああああ!!!」
「大丈夫、魔物の血がかかっちゃっただけだから! 怪我はしてないよ!」
「あああああ……ん? そうなのか?」
「うん……魔物に襲われてるぼくをあの子が助けてくれたんだ」
ベルが顔を向ける方に目を向けるとそこにいたのは一人の少女と一人の女。
女の名前はリヴェリア、少女の名前はアイズ。
共に自分を……ではなく、ベルを尋ねにきた
「怪我がないのは何よりじゃ……だがベル、なぜ一人で家から離れてしまったんだ?」
「……おじいちゃんがいなくても大丈夫だと思って…………」
「馬鹿者、せめて村の中で遊べ。わざわざ森の近くに行く必要もなかったろうに」
「うん……ごめんなさい」
「……まっ、そんなに気にすることでもないわい。ちゃーんと無事に帰ってきたんじゃからな。まああの子がおらんかったらもうこの場にはおらんかったかもしれんがのう」
「ううっ……」
血塗れのベルの頭をガシガシと荒く撫でる。
血に濡れているというのに相変わらずもふもふとしているのが少しおかしい。
「……そろそろいいか、神ゼ───」
「わーわーわーわー!!!!」
リヴェリアの声を大声で遮り、その腕を取り二人とは少し離れた場所に移動する。
「なんだ神ゼウス」
「その呼び方やめてくれん? ベルの前では神ではないただの祖父で通っておるんじゃ。どうか頼む」
「訳ありというわけか。わかった、上手く合わせるとしよう。アイズにも……いや、問題ないな」
アイズにも情報を共有しようと考えるリヴェリアだがあの天然っぷりを思い出し、やめておくことにした。
隠そうとした方がうっかり話してしまうか気付かれる可能性がある。
密約を交わし、二人の元へ戻っていく。
「ねえおじいちゃん、何話してたの?」
「んー……大人の会話ってやつじゃな」
「大人の……会話?」
「変なことを教えるな、ご老人」
きょとんとした顔を向けてくる少年にそんなことを教えるゼウスの頭を殴る。
「ぐおっ!? ごおおおおおおお……!!」
「全く……すまないな少年、君の祖父を借りて」
「え、いやいまの……何でもないです」
祖父を殴りつけたことに流石に何か思うところがあったのか少年が口を開くがなぜかすぐに閉じる。
「大丈夫だ、加減はした。大袈裟に騒いでいるだけだろう」
「おおおお……なーんだ、わかっておったか」
「ああ、そんなに余裕があるならもう一発行っておくか?」
「勘弁勘弁、まだ死にたくないからのう」
頭を摩りながらゼウスが立ちあがり軽い口調で話しかけてくる。
そんなゼウスから視線を外し、改めてリヴェリアはベルという少年を見つめる。
背丈はアイズより少し小さいぐらい。特徴的な処女雪のような真っ白な髪はドス黒く汚れてしまっているが本来の白さは垣間見えている。
ただそれよりも気になるのはその紅い瞳だ。こちらを見つめてくる
「ふむ……」
「あ、あの……どうしましたか……?」
「ん? ああ、すまない、何でもないよ。だが……ご老人、流石にこの状態が続くのは酷だ。湯は張ってないのか?」
「んあ? 張ってあるぞい。少し温くなってるかもしれんが……」
「……少年、私は少し君のお祖父さんと二人きりで話がしたいんだ。話も長くなるかもしれないからお風呂に入っててくれないか? そんなものを浴びて気持ち悪いだろう?」
少年を気に掛けている部分もあるが、ゼウスと話をしておきたいという部分もある。
少年を気に掛けていた存在……アルフィアに関することも話さなければいけない。会ったこともない肉親ではあるだろうが、それでも少年を愛していた人物が亡くなったという話をこの歳の冒険者でもない子供に聞かせるのは中々心苦しい。
「え……でも……」
「これはお主にはまだ早い大人の話だ。心配するな……必ず生きて戻る」
「おじいちゃん……うん、わかった」
「まるで戦地に行くかのような会話はよせ」
そんなリヴェリアの言葉にゼウスがニヤニヤとした笑みを浮かべる。
イラッとするが今ここでまた少年を不安がらせるわけにはいかないのでグッと抑える。
「大丈夫だ、少年。君の祖父が何かをしてこない限りは手荒い真似はしない」
「そうだ、ベル」
「……わかりました、じゃあ入ってきます。あとおじいちゃん、絶対
「はっはっはっはっはっ……儂って信用ないのね……」
「貴様の今までの行動を振り返ってみろ」
思わずかつてゼウスに向けていた口調が飛び出すが、あまり気にしてはいないようだった。
話が纏まり、少年は家の中へと入ろうとする。
それに続き、同じく入ろうとするがアイズの思わぬ言葉で再び足が止まる。
「ねぇリヴェリア……お風呂あるなら私も入りたい」
「なに?」
足を止め、アイズを見る。
少年のわかりやすいほどの返り血塗れの姿に気を取られていたが、改めてアイズを見ると、夜の闇であまり目立っていなかっただけでアイズも思いの外返り血に濡れていた。
「珍しいな……お前がそんなに血を浴びるなんて」
「……油断してた」
「そうか……じゃあ少年が入った後にでも入らせてもらおう」
「うーむ……」
そんな提案をしたのだが、ゼウスが少し渋い顔をしている。
「どうした? ご老人」
「あー……風呂を使うのは別にいいんじゃが、ベルが入ってる間はどうする?」
「隣の部屋で過ごさせてもらうことができないのか?」
「うむ……儂等の家狭いんだよねー。それに小声でも隣に聞こえるぐらい防音性能はない」
「思わぬ弊害がここに……流石に外で待機させるのは可哀想だ」
空にはすっかり夜の帳が下り、星が瞬いていた。
それに加えて少し肌寒く、明かりは月明かりか
どうしたものか……と頭を悩ませていると────
「……ねぇ、一緒に入っちゃダメなの?」
「えっ」
「何……?」
「なぬっ!?」
上から
他の二人も私と似たような反応を見せるがアイズは気にせず続ける。
「お風呂がそんなに狭くないなら……二人でも入れそうだけど、それはダメなの?」
「うーん……流石に子供とはいえ男と女が一緒に入るのは不味くね?」
「う、うん、そうだよ! 一緒に入るならぼくが後から───」
「いや、それで行こう。アイズ、嫌じゃないんだな?」
「うん……早く入れるなら何でもいい」
子供同士とはいえ男女の違いに無頓着なのは少し気になるが、今後もっとちゃんと教えていくとしよう。
それよりもあたふたしている少年が気になるが……まさか───
「少年、入ると言ったのはアイズだ、迷惑をかける。そして理不尽であるとわかっているが……アイズに変な真似をしたら……わかっているな?」
「はい!!!!!」
「ならばいい。まあご老人と違って君はしっかりとした子のようだからあまり心配はしていない。この家の主人ではない私が言うのも何だが、話が終わるまでゆっくりしていてくれ……ただゆっくりしすぎてのぼせないようにな」
「はい!!」
「お風呂……どこ?」
「えっと……こ、こっちだよ!」
少年に着いていくアイズに続き、ゼウスと共に今度こそ家の中へと入っていく。
中は質素な作りとなってはいるが居心地が良さそうな家だ。
「中々良い家だな」
「だろう? 村の人たちが儂等のために建ててくれたんじゃ……普通の茶でも問題ないか?」
「ん? ああ、あまり気にしないでもいいぞ」
「仮にも客人じゃ。そうはいかん」
木製のテーブルの上に二つのカップが置かれる。
横にはミルクや砂糖など様々なものが用意されている。
「頂こう……ゼウス、このお茶はどこで?」
「美味いだろう? この村で採れた茶葉を使っておる。気に入ったのなら買っていってくれ」
「……ああ、そうしよう」
しばし、穏やかな空気が流れる。
カップの音か、お互いの息遣い、そしてお風呂場から響いてくる水音だけがこの部屋に入ってくる。
「……さて、もういいじゃろう。あの子たちもいつ出てくるのかはわからん……ここに来た目的……そして
コトっと静かにカップをテーブルの上へと置く。
ゼウスが向けてくる真剣な目を少しだけ見つめ、懐からアストレアより渡されたアルフィアについて書かれた紙を取り出す。
「……それはなんじゃ」
「私達があの少年……ベル・クラネルを知っていた理由の一つだ」
「ふむ……そうか。やはりアルフィアが……いや……この文字は……」
静かにその紙に目を向けていたゼウスが少し目を細めるが、何事もなかったかのようにその紙を折りたたむ。
気になりはするが、まずは事の顛末を話さなければ。
「まずは……何から話すべきか」
「どんな事でもいい、儂に教えてくれ。あの子たちの結末と……大抗争についてを」
まず話し始めたのはあの戦い…………暗黒期『死の七日間』のことからだった。
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