「へえ、噂では聞いてたけどそんなに小さな子なのかい? 随分と頑張っているみたいだね」
ヴィトーと名乗った男が『豊穣の女主人』に訪れたその日の夜。
眠る前にベルは今日あった出来事と共に最近噂となっているノエルについてヘスティアとリリに話をしていた。
「うーん……ベル様から詳細を聞いてもやっぱり不思議な話ですね」
「ん? どういうことだい?」
「親の名前も自分の名前も住んでいる場所もわからないのはひとまず置いておくとして……これだけ噂になっていてその子の親を名乗る人物や妙な行動を起こすような人物がいないのはやっぱり気になりますよ」
純粋にヘスティアがノエルに感心しているのに対してリリはその素性に懐疑的な様子を見せている。自分が似たような立場だったのもあってか何か隠し事をしているんじゃないか……と。
「捨てられた……とか、そういう事情があるのでしたらリリの考えは杞憂なんですけどね……」
言い辛そうにリリはボソッと呟く。
ベルもその可能性が高いということが分かっているため、何も反論せずに口を紡ぐ。
「……たとえそうだったとしてもあの酒場の子達はみんなその子を受け入れてくれてるんだろう? それなら大丈夫さ。その場合はボクも力になれるしね」
二人の間に流れた重い空気をかき消したのはやはり二人の主神であるヘスティアの言葉だった。
楽観的だったが、その態度が今の二人には刺さる。
「僕も、出来るだけノエルの力になってあげたいです。あの子を拾った責任もありますから」
今ノエルは『豊穣の女主人』にその身を寄せている。ただベルもノエルを見つけ、シルと共にそこへ連れて行ってしまった。そのまま彼女達に任せるというわけにもいかない。
「予想通りの言葉です。ベル様はご自分を罠に嵌めたリリも救い出してくれましたからね」
「とはいえ、だ。気を付けるに越したことはない。リリルカ君が懸念する理由も十分わかるからね。色々と気を付けるんだよ」
「はい!」
ノエルに対するその懸念に意味がないことを、彼女が中心の事件が起こることを、それにベルが首を突っ込むことを三人はまだ知らない。
「ノエル―! 休憩ニャ!」
「わーい」
「手、汚れたでしょ? こっちにおいで」
「はーい」
『豊穣の女主人』の一員としてノエルは今日も元気に過ごしている。
彼女の失敗で仕事が増えてしまうことはあれど、店員達は誰もノエルを邪険にすることはなく、そんな少女を優しく見守っていた。
「おはようございます、シルさん」
「あ、ベルさん! おはようございます!」
「ベルだー、おはよう……」
「ノエルもおはよう」
開店の準備の途中、軽食を皆で食べていたところにベルが訪れた。
シルとノエルに朝の挨拶を、奥で食事をとっている店員達には会釈をしたベルはいつも通りシルから朝食のバスケットを受け取る。
中に入っているのはパンやチーズといった軽食。これを渡し、受け取るのがベルとシルの日課となっていた。
「いつもありがとうございます」
「私が好きでやっていることですから……あれ? 今日はお一人なんですか? ベルさんのパーティメンバーの方はお休みでしょうか?」
「リリは先にバベルに向かいました。少し顔色は悪かったですけど体調は大丈夫だと思います」
リリが顔色を悪くした理由が『豊穣の女主人』もといシルにあることをベルは知らない。
「それならいいですけど……体調が悪そうだったら気付いてあげてくださいね?」
「もちろんです。それじゃあこれで失礼します」
「頑張ってください!」
「きをつけて……?」
手を振るシルとノエルに見送られながらベルはバベルに向かって歩き出す。
その姿が小さくなるまで見つめ続けていた二人は他の店員が待つ店内へと戻っていった。
「毎日毎日ご苦労なことだニャ。で、愛しの少年は今日も喜んでいたのかニャー?」
「はいはい、喜んでもらえましたよー……あ、しまった。あの話するの忘れてた……」
店内へ戻ったシルを待っていたのはニヤニヤと笑うクロエ達だ。
ベルに朝食もしくは昼食を渡すと毎回からかわれていたシルは慣れた態度でそれをあしらうが、その話にノエルが興味を持ってしまった。
「いとしの、しょーねん……?」
「お、気になるのかニャ? 教えてほしいのかニャー?」
「クロエッ!」
「……なんで、おこってるのー? クロエ、わるいことしたの?」
「え、ええっと……」
面白がっているクロエならともかく、よくわからずに純粋な眼差しを向けてくるノエルに強く出ることが出来ず、シルは顔を赤くして口ごもってしまった。
その隙を逃さず、キラン、と目を光らせたクロエは音も立てずにシルの隣に立つノエルを優しく抱き上げ、自分の膝の上に乗せる。しまった、とシルが行動に移ろうとするがクロエが口を開く方が早い。
「つ・ま・り・シルはあの少年のことがふぎゃっ!」
「シルの許可なくそれ以上話すのは流石に見過ごせません」
が、それよりもさらに早く静観していたリューの手刀がクロエの頭を打つ。
なお膝の上で彼女を見上げていたノエルはリューが動き出した瞬間にアーニャがかっさらっていたため、特に被害はなかった。
「ぐぅおおおおおおお……!」
「クロエ……だいじょうぶかな?」
「気にすることないニャ。あれで大丈夫じゃニャかったらミア母ちゃんの拳骨でとっくに天に還ってるニャ」
アーニャの膝の上に座るノエルは悶絶するクロエを心配そうに見ていたが、頭上から聞こえてくる言葉に安心したような表情を見せる。その顔を見たのはアーニャただ一人。
「ねえシル……いとしのしょーねんって、どーいうことー?」
「の、ノエル……それは、その……ね?」
「?」
リューの手刀でうやむやになるかと思われたその会話はアーニャの膝の上からもう一度聞いてくるノエルの声によって再び話題の中心に持っていかれる。
クロエや他の店員達なら話は別だが、子供であるノエルを無理矢理止めることなんて出来ず、シルと彼女に感情が寄っている店員達をどうしたものかと大いに悩ませた。
「いつまで休んでるんだい! 休憩は終わりだよ!」
「ミ、ミアお母さん!」
なんとか誤魔化そうと試みていたシル達、それをニヤニヤと楽しそうに見ていたクロエ達がその怒号に飛び上がる。怒号の方向を見るとミアが腕を組んで立っており、彼女達を睨みつけていた。
普段なら恐れてやまないミアの怒号もノエルから逃げられなかった今のシルにとっては救世主のようなものだった。
「ほら、いつまでもくっちゃべってないでさっさと────」
「ねえミア……クロエが言ってた、シルのいとしのしょうねんってどういうことー?」
「あん?」
シルがほっと一息を吐いたのも束の間、ミアに近付き、彼女にまで聞き始めたノエルに他の店員達共々ぎょっと目を見開く。
少しの間、自分を見上げてくるノエルを見つめていたミアだったが、その視線をジロリとハラハラと事を見守っている店員達に向け、溜息を一つ吐き、ノエルの言葉に答えた。
「簡単なことさ。シルはあの坊主のことが好きなんだよ」
「ミアお母さん!?」
それはもう真っすぐ答えた。
「すき……すきって、なーに?」
顔を真っ赤にしたシルがミアを止めようとしたが、ノエルの不思議そうに聞いてくるその声を聞き、それをやめる。
「なんて言えばいいのかね……なあノエル、アンタはシルと一緒にいてどんな感じだい?」
「シルと……? んーとね……あったかくて、ポカポカする!」
「そういうのを“好き”っていうんだよ……まあ他にも色々とあるが今は置いておこうか。ノエルが感じてるそんなことをシルはあの坊主に感じてるのさ」
「……そーなの?」
興味の矛先を『シルの愛しの少年』から『好き』という言葉にずらしたミアの手法にその場にいた店員達が内心舌を巻く。バレていたとしても隠していたい好意をノエルにバラされると焦っていたシルは特にそうだった。
「そ、そんな感じかなー。それはそうとノエルは私といてそんなことを思ってくれてたんだね」
「うん! シルといるとー、すごくポカポカして……えっと、すきー?」
ニコニコと覚えたての言葉で自分の想いを口にするノエルをシルは我慢できずに思わず抱きしめてしまう。その一連のやり取りを見たアーニャの動きは速かった。
「ミャーは!? ミャーといるとどんな感じがするニャ!?」
「アーニャと……? んーとね……すごく、たのしい! えがおに、なれる!」
それを聞いたアーニャの眼が輝き、心の底から嬉しいと思っているような満面の笑みを浮かべる。そして顔だけを後ろに向け、ノエルを見守っていた店員達をじっと見つめ、フッ、と先ほどの笑みからは考えられないほど自慢げなドヤ顔を浮かべた。
そんなものを向けられて黙っていられる彼女達ではない。音を立てて勢いよく立ち上がるとアーニャの視線の先にいた皆がノエルに殺到する。
「わぁっ」
あっという間に囲まれ、様々な方向から声を掛けられるノエル。
聞き分けるのが大変なはずなのにその顔はどことなく嬉しげだ。
「────いい加減にしなこの馬鹿娘どもぉおおおおおおおッ!!」
休憩時間はとっくに過ぎているというのにミアの目の前でノエルを囲むアーニャ達。
そんな彼女達にミアの怒号が飛んでくるのは時間の問題だった。
「ベル様、そろそろ『中層』を見てみるのもいいのではないでしょうか」
そんな話をリリから持ち掛けられたのはシルさんから貰った昼食をダンジョンで食べていた時のことだった。
「『中層』かあ」
最後のサンドイッチを口の中に投げ入れ、咀嚼しながら少し考えてみる。
今僕達が居るのはダンジョン12階層、『上層』の最終階層。この辺りのモンスターはもう相手にもならないしどれだけ倒しても基礎アビリティはほとんど伸びない。
正直言って僕もそろそろ『中層』に向かうべきだとは思ってるんだけど…………
「ベル様の実力があれば『中層』もある程度進んでいけるとリリは確信を持っています」
「僕もそう思うよ……あくまで単純な実力なら少なくとも『中層』のモンスターには負けないよ。でも……」
問題は
「モンスターはまあどうにかなるとしてもダンジョンの地形とか発生する
『上層』と『中層』は違う。教本で学んで実戦で見たからよくわかる。
あそこを今の僕達二人で進んでいくのはまず無理だ。
「はい。リリもそう思っています」
「……え、そうなの?」
思わず間抜けな声が出る。
リリをまじまじと見ると彼女は苦笑を浮かべて口を開いた。
「ベル様一人ならたとえ『中層』であろうとある程度の階層までは攻略できるとリリは思っています。ですが、ベル様が言っていたものを対処して、リリを気にしながら戦ってとなるといくらベル様でもまず無理です。絶対に無理です」
「そんなに言われたらやってみたくなるけどなあ……」
「ダメです。上手くいったとしてもベル様が酷く傷ついてしまいますから」
僕の冗談にビシッと勢いよく指を差したリリはさらに続ける。
「まあ冗談は置いておいてリリが何を言いたいのかと言いますと……ベル様、パーティを増やしませんか?」
「パーティを?」
聞き返した僕の声にコクリとリリは頷く。
……まあそれができたら話は早いんだけど、そう簡単に上手くいくとは思えない。
「ベル様単体の実力に問題はありません。ですがリリを気にしながら『中層』で戦うとなるとベル様の負担があまりにも大きくなってしまうのはお分かりですね?」
「まあ……そうだね」
僕が前で戦っている時にリリを狙われてしまえば僕は何があっても優先して後衛のリリを守りに行く。一度や二度程度なら問題はないけど、それが階層を攻略する間ずっと続くとなると身体よりも先に精神が疲れ切ってしまう。
「リリがベル様の助けが必要がないほど強ければよかったのですけど、情けないことにリリはそんなに強くありません。笑っちゃうほど弱いのです」
「そ────」
そんなことはない。
笑うリリにそう言おうとした僕を目の前の彼女がその小さな手を突き出して止める。
「大丈夫です。卑屈になっているわけではないので……弱いリリが強くなるほどの時間があれば二人で『中層』の攻略にも行けるのでしょうけど、そんな時間はありません。ベル様の時間をそんなことで浪費させるわけには行きません」
僕の胸の奥の真意を見抜いているような瞳で僕を見るリリ。
確かにそんな時間はない。少しでも早く強くなることが僕の目的の一つなのだから。
「だったらどうしたらいいのか……そこで最初の話に戻ります」
「パーティを増やすって話だね」
「はい。今のリリ達は
例の一つとして、今までは前で僕が戦っていても後ろのリリに何かあれば、すぐに下がって僕が対処していた。ただその場面でもう一人……つまり中衛に位置する誰かがいればその対応をその人物に任せて僕は本当の危機的状況以外はずっと前で戦うことが出来る。
「どうでしょうか? ある一点を除けばよく考えるべきことだとリリは思うのですが……」
「……その一点が僕の考えと同じものなら探索が終わった後、神様と三人で話してみようか。僕としてはその点を踏まえても前向きに考えていきたいな」
神様と要相談、ということでこの話は一旦ここで終わった。
休憩していたとはいえ探索の途中で思わず話し込んでしまったけど、中々いい時間になったと思う。ただダンジョン内で無防備な時間をかなり作ってしまったのは反省しないといけない。
「そろそろ再開しようか。話し込んじゃったけど十分休めた?」
「はい! リリは大丈夫です!」
元気な返事をするリリに一つ頷いて僕も立ち上がる。
時間はお昼を過ぎて少し経ったあたりだろうか。想像通りならまだまだ進んでいけそうだ。
僕にとっての成長の糧にはあまりならないとはいえ、生きていく上でのお金を稼ぐためにもこういうところで怠けるわけには行かない。
「よし、行こう」
「パーティを、ね」
ダンジョン探索を終わらせた二人は換金やシャワーなどを済ませてそのまま帰路に就いた。
途中ベルがノエルの様子を見に『豊穣の女主人』へ寄ったことを除いて、寄り道一つせず本拠に戻った二人はヘスティアの帰りを待ち、帰ってきた彼女との夕食を済ませてその話を切り出した。
「ダンジョンのより下の階層に向かうには僕とリリだけじゃちょっと……いえ、かなり手が足りないんです。なのでもう一人誰か僕達と組んでくれる人を探したいと思ってるんですけど……」
その話というのはもちろんパーティの話だ。
【ヘスティア・ファミリア】ではない誰かをパーティに加えたいというなら主神であるヘスティアに話を通しておく必要がある。何の報告もなくどことも知らない誰かがいつの間にかパーティに加わりでもしたら、流石にヘスティアを心配させてしまうからだ。
「……うん、いいんじゃないかな。ボクはダンジョンの中のことはよくわからないけど、そこで戦ってる君達が必要だと判断したのであればそれを否定する理由はないよ。ただ……」
ヘスティアはあくまでダンジョンで戦ってるベル達が必要だと判断したのであれば、よほど妙なことを言わない限りはそれを頭ごなしに否定することはない。
今回の二人から出た話も反対することなく肯定するつもりだったが、パーティを増やそうとする上で生じる一つの問題をどうしていくのか二人に視線を向けた。
「その誰かに当てはあるのかい? 過保護だと僕自身もそう思うけど、はっきり言って君達……いや、今のベル君がよく知らない他の子と組んでほしくないって気持ちが結構ある」
子を心配する
「今のベル君は良くも悪くも都市中で噂になってるだろ? そんな君に悪意を持った人間がそれを隠して近付いてくるんじゃないかって不安がボクの中にかなりあるんだ」
【ランクアップ】最速到達記録を大幅に更新、たった一月でLv.1からLv.3に到達、二つ名とは別に【
万が一にでも神として下界の子の嘘を見抜ける自分の眼をすり抜け、二人に被害が行ってしまったらと考えると彼女は気が気ではなかった。
「あ、だからってパーティを増やすなっていうことじゃないからね。一つ条件を付けたいんだ」
「条件……ですか?」
「うん。その条件っていうのはまあ、気持ち的なことなんだけど……君が心から信頼できると思えた人とパーティを組んでほしい」
時間がかかるかもしれないけど、と一つ付け加えたヘスティアは続ける。
「
ヘスティアの言葉を最後まで聞いた二人は一度顔を見合わせ、一つ頷く。
そして改めて彼女と向き合い、ベルが口を開いた。
「大丈夫です。僕達も心から信頼できる人が見つかるまでパーティを増やすつもりはありません。それに僕達もそこが一番の懸念点だと思ってましたから」
二人が話していたある一点とは『信頼できる人物を見つけることが出来るのか』というもの。
ダンジョン内で何が起こるかわからない以上、パーティ内の不和や不信など決してあってはならない。いくら早く強くなりたいと考えていても、そこは慎重に判断しなければ遠回りになってしまうどころか命が危ない。
「神様が不安になるようなことは僕達はしません…………その、僕の言葉じゃあまり説得力はありませんけど」
頼もしい宣言をした直後に自分が何をしてきたのか思い浮かべたのか、そっと目を逸らしたベルの反応を見て、ヘスティアが呆れた顔を見せ、すぐに声を出して笑い始める。
重くなり始めていた空気もその声とそれに釣られてくすくす笑い出したリリの声にかき消され、普段の和やかな空気が少しずつ戻り始めていた。
「ごめんごめん。ちょっと深刻にして空気を重くしちゃったね。あんなことを言ったけど、ボクは君達が選ばれたんじゃなくて君達が選んだというのであればそれだけで不安にならないよ。君達は人を見る目があるからね」
パーティを増やすのはベルとリリの二人が信頼に値すると思えるような人物を見つけてから、という三人の意見が一致したことでこの話は早々とまとまった。
そのような人物がそう簡単に見つかるのかどうかはわからないため、どれだけの時間がかかるかどうかはわからないが、探索と並行して二人は仲間を探すことになる。
「じゃあこの話はここで終わりとして……ちょっと二人にお願いがあるんだけど聞いてくれないかな」
「お願いですか?」
「うん。ボクがバイトしてるジャガ丸くんの露店があるだろ? この急な天候変化で体調を崩しちゃった人が多くてね。ベル君かリリルカ君のどっちか一人に臨時でボクと一緒にシフトに入ってほしいんだ」
ヘスティアの頼みとは温かくなってきた所で降り始めたこの大雪で体調不良が続出しているバイト先のヘルプに来てほしいというものだった。
「それでしたらリリが入ります。リリ一人が残っても探索に向かうことはできませんしベル様もそれでよろしいですか?」
「リリが良いって言うなら僕もそれで大丈夫だよ。期間はどれくらいになりそうですか?」
「うーん……体調がいつ治るかわからないしまだ不明かな。あ、でもそこまで長い期間にはならないと思うよ」
「わかりました。じゃあ僕は装備とかアイテムを整えたり……あとそういうことでしたら僕もちょっとミアさん達の手伝いに行ってきますね」
ベルの言葉に二人が眉を上げる。
「ミア様は確か『豊穣の女主人』の……そちらでも何かあったのですか?」
「何かあったってわけじゃないんだけど、ノエルの噂を聞いた人がすごい来ちゃって人手が足りてないみたいで……それでシルさんに遠回しに手伝ってくれないかって頼まれちゃって……」
「断れなかったんだね……」
苦笑を浮かべるリリとヘスティアの視線から逃れるように身を小さくするベル。
それを見た二人が乾いた笑みを深めるが、ヘスティアが一度咳払いし話を続ける。
「君はちょっと人が良すぎるな。悪意を持つ人間に利用されないように気を付けるんだよ? これからパーティに入る人を探すんだから本当に」
「はい……」
「まあそれが君の良いところでもあるんだけどね。ベル君がこんな子じゃなかったらリリルカ君はここにはいないだろうしね」
そう言って視線を隣に座るリリに向けるヘスティア。
視線を向けられた彼女はベルの瞳をじっと見つめ、何度も何度も頷いていた。
「……じゃあ明日からはそんな感じで。二人とも、ダンジョンとは違う疲れ方をするかもしれないけど頑張ろう!」
『はい!』
それ以降は話もほどほどにそれぞれ寝所に入り、眠りにつく。
信頼に足る人物をなるべく早く見つけることができるのかという不安とわずかな焦燥がベルの胸の内に芽生えて始めていたが、そんな不安は無用な物であったことを知るのはもう少し先の話。
いつもより少々短くなってしまい、申し訳ありません。
ここまで見ていただきありがとうございました。