二人の姫と出会った少年は英雄の道を歩む   作:Kkky

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もう少し前日譚的なものが続きます
それでもよければよろしくお願いします


九魔姫の報告とお風呂場の事件

「そうか……やはりあの二人は……」

 

 まずリヴェリアが話したことは『死の七日間』で起きた出来事、その全容ではなく、ゼウスが欲しかったであろう最後の一日の出来事。

 

 迷宮都市(オラリオ)が揺れた猛者(オッタル)暴喰(ザルド)の死闘。

 

 迷宮(ダンジョン)に潜り、【アストレア・ファミリア】と共に神獣の触手(デルピュネ)静寂(アルフィア)を相手に繰り広げた死闘。

 

 主に話したのはリヴェリア自身が経験したアルフィアとの戦い。

 そして、その今際の際に託された冒険者依頼(妹の息子)のこと。

 

 初めのうちは神妙な顔をしていたゼウスだが、ザルドの最期、アルフィアの最期の話の際は少しだけ顔を伏せ、何かを悔やむような、何かを堪えるような……そんな表情をしていた。

 

「……あの時、無理矢理にでも引き留めておけば……そんなことをしてもあの子らは止まらんか……」

 

「ザルドとアルフィアに会えたのか?」

 

「いいや、こちらに背を向けて去る二人……そして一柱の神がいたのを遠目から見ただけじゃな」

 

「……そうか」

 

 二人の間に沈黙が流れる。

 リヴェリアの内心には少し後悔の念があった。

 

(もう少し順序を考えるべきだったか……いくら何でも性急過ぎたな……)

 

 いくらゼウスがもっとも知りたがっていたであろう情報とはいえ、自身が恩恵を授けた恐らく最後の子供が天に還ったことを知らせるには心の準備ができていなかったのかもしれない。

 

「恩恵の反応が消えた時から覚悟はしておったが、いざ直面するとやはりきついのう……」

 

「……私達を恨んでいるか?」

 

 そんな私の言葉にゼウスがキョトンとした顔を向けてくる。

 失言だったと慌てて口を噤むが、一度出てしまった言葉はしまうことはできない。

 うっかり漏らした言葉は彼のファミリアが聞けば激昂してもおかしくない言葉だった。

 しかし、ゼウスは大して気にしていないと言わんばかりに豪快に茶を飲み干す。

 

「ぷはっ……追い出したことを言っているんなら恨むわけがないじゃろう。儂等が黒竜に負けた事で今まで溜めに溜めた鬱憤(ヘイト)が爆発し、儂等は追われることとなった……つまり因果応報ってやつじゃな。アルフィアとザルドのことについて言っておるのなら───」

 

 そこでゼウスは一度口を閉じ、目を伏せる。

 目を開けた次の瞬間、思わず平伏しそうになるほどの神威のようなものが放たれる。

 

「舐めるなよ、リヴェリア・リヨス・アールヴ。どんな理由があったのかは予想しかできん。それでもあの子たちは自分の意思でお前たちに立ちはだかることを選び、そして散っていった……恨みなどというちっぽけなもので片付けてたまるか」

 

「っ! ……舐めるなどとそんなつもりはなかったが、そう聞こえてもおかしくないことを言っていたようだ……すまなかった、神ゼウス」

 

「気にせんでいい。儂も神経質になり過ぎたわい……茶が切れたか、少し待っておれ」

 

 そう言うとゼウスが席を立ち、キッチンへ向かう。

 テーブルの上を見るといつの間にか茶菓子やお茶が無くなっていた。

 少しばかり心臓が早く動いているが、深呼吸をいくらか繰り返し平常に戻す。

 

 戻したもののただ待っているのも何か居心地が悪いので手伝おうとゼウスの元へ向かう。

 

「手伝おう」

 

「んあ? 別に座っておってもいいんじゃぞ?」

 

「黙って座っているのも落ち着かないんだ、手伝わせてくれ」

 

「……そういうなら手伝ってもらおうかのう。そろそろあの子らの風呂上がりの飲み物も用意しておきたいしな……ああ、それ持ってきてくれん?」

 

 茶葉以外にも二人が飲みやすい飲み物と氷を手に取り、ゼウスは元の位置へと戻っていく。

 リヴェリアも飲み物ではなく、茶菓子や氷菓子を持ちゼウスに続く。

 

「この氷菓子は溶けてしまうのではないか? 

 

「大丈夫じゃ、ちゃんと魔石製品(れいとうこ)を用意してある」

 

 ゼウスが取り出した魔石製品(れいとうこ)の中に氷菓子を入れる。これでいつでも冷えた氷菓子を食べさせてあげることができる。

 

「こんな山奥だというのによく手に入れたものだ……」

 

「まあ色々伝手があるからネ」

 

 ふざけた神ではある。だがそれ以上に人脈や神格を持ち合わせた大神だ。

 リヴェリアが思っている以上にゼウスやそのファミリアに世話になった者もいるだろう。

 そういった伝手も彼らの強みの一つでもある。

 

「さて、次はどの話をしてもらおうかのう」

 

「私が知っているものでよければ喜んで提供しよう……そろそろ出てきてもおかしくないがあの少年に聞かれたくないことはおそらく全部話した。いつ出てきてもこれで問題ない」

 

「ふむ……では次は───」

 

 次の話に進もうとした時、ガチャリとゼウスが座るソファの後ろに位置する風呂場へと続く扉が開いた。

 扉の音に反応したゼウスが後ろを振り向こうとするが、ギョッと目を見開いたリヴェリアの杖によって顔を固定される。

 

「な、何を……!」

 

「少しだけそのままでいろ……いいな?」

 

「はい……」

 

「タオルを貸してもらうぞ」

 

 有無を言わさぬ視線を投げかけ、ゼウスの行動を抑止。そのまま箪笥の中に入っているタオルを手にして後ろに回る。

 扉から出てきたのは───

 

「なぜ髪も体も拭かないで出てきたんだ、アイズ」

 

 少年とお風呂に入っているはずのアイズだった。

 ポタポタと髪や身体から水滴を落とし、何も着ずにそこにいた。

 身体の水滴を拭きつつアイズにも話を聞く。

 

「……ごめんなさい……でも急いでたから……」

 

「急いでた? 何かあったのか?」

 

 タオルの隙間から顔を覗かせ、僅かに焦燥感を漂わせアイズがそんなことを言う。

 身体をタオルで隠してアイズの話を聞いてみる。

 

「……あの子が……お風呂に沈んじゃった」

 

「………………何?」

 

「引き上げたけど……多分……のぼせたんだと、思う」

 

「な────」

 

「なにぃいいいいいい!!?」

 

 ゼウスの叫びが家中にこだまする。

 アイズは身体を隠したままビクッと思わず飛び上がっていた。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 時間は少し遡り、ゼウスとリヴェリアが話している間のお風呂場。

 そこでは一人の少年と一人の少女が共に入っていた。

 

 身体を洗い、湯船に入る……それだけのはずだったが、

 

「あ……シャワー……一つしかない……」

 

「あっ……そういえばそう……だね」

 

 この家にシャワーは一つしかない。

 つまりどちらかは片方が身体を洗い終わるまで待たなくてはいけない。

 

 ベル・クラネルは隣にいる裸身の少女から必死に視線を逸らし、アイズのそんな言葉に答える。

 

「ぼ……ぼく、後ろ向いてるから先に洗っていいよ!」

 

 無難な提案のはずだ。

 この子もほぼ初対面の人に裸なんて見られたくないだろうしこれが最善のはず……! 

 そんな考えを巡らせるベルだったが、そんな考えなど簡単に崩すのがベルが恋した少女(アイズ)だった。

 

「……じゃあ私が洗ってあげる」

 

「え゛」

 

「後ろ向いてるなら、そっちの方が早く済む」

 

 そんなことを言いながらアイズはシャワーを手に取り、その温度を確かめる。

 程よい温度だとわかったのかこっちに来いと言わんばかりに風呂場に用意されてる椅子をぽんぽんと叩く。

 

「いや、あの……」

 

「?」

 

(あ……かわいい)

 

 コテっと首を傾げるアイズに思わずそんな感想を抱く。

 どうにかして回避したいが、おそらくは何を言ったところで時間の無駄だろう。

 仕方ないと自分に言い聞かせ、椅子に座る。もちろん少女の身体は見ないように。

 

「じゃあ……お願いします」

 

「ん、任せて」

 

 赤黒く染まった髪にシャワーのお湯が掛かる。

 少し濡らし、通しやすくなった髪に石鹸を泡立てたアイズの手が通る。

 わしゃわしゃと少し雑だが、なるべく丁寧にといった気持ちがこもっているのがわかる手付きで髪が洗われる。

 

(少し痛い……けど、気持ちいい)

 

(ゴワゴワしてる……けど……モフモフ)

 

 お互いそんなことを考えながらベルはアイズにその手に身を委ねる。

 十分血の汚れが落ちたところで再びシャワーのお湯がベルの頭にかかる。

 温かいお湯とアイズの優しい手つきがベルの心を癒す。

 

 洗い終わったのかシャワーのお湯が止まる。

 少し顔を拭い、下を見ると流れ落ちた血と脂で赤黒く床が汚れていた。

 一瞬意識が遠のくが迷惑をかけるわけにはいかないと堪える。

 

「あの……ありがとう、綺麗にしてくれて」

 

「……私の失敗だから……」

 

 少し落ち込んでいそうな声音だがその表情は窺えない。

 何故なら後ろを見ることができないからだ。

 

「あの……じゃあ端っこにいるから終わったら呼んでね」

 

 今度こそ端っこに移動しようとするがすごい力で左腕を掴まれる。

 

「あの、何を……」

 

「身体……」

 

「…………えっ?」

 

「まだ身体、洗ってない」

 

「か、身体は流石に……」

 

「ダメ」

 

「あ、ちょ、待っ───」

 

 その日、女の子に簡単に力で負け、強引に身体を隅々まで洗われたぼくは男として大事なものを失ったような気がした。

 実際はそんなことはない…………はず、うん。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「……………………」

 

「……………………」

 

 そんなこんなでぼくらは湯船に入っている。

 湯船に入る前に少女に髪を洗ってくれと頼まれたが、思いの外ぼくが下手すぎて結局少女は自分で洗っていた。

 

「ねぇ……」

 

「はい……」

 

 ゆっくりと温まっていると隣で浸かっている少女が話しかけてくる。

 

「君のこと……なんて呼べばいいの?」

 

「えっ?」

 

「君の名前……」

 

「ええ、っと……好きに呼んでいいよ」

 

 そんなぼくの言葉に少女は少し考える素振りを見せて、やがて口を開く。

 

「じゃあ……ベル?」

 

 “ベル”

 おじいちゃんからも何度も呼ばれている自分の名前のはずなのに、何故か心に染み渡るように広がっていく。

 すごく身体が熱い。これが恋の影響……? 

 

「はい……あ、ぼくは何て呼べばいいの?」

 

「ベルも、好きに呼んでいいよ……?」

 

「……じゃあ……アイズ……ちゃん……」

 

「ちゃん…………ん、わかった」

 

 ただお互いの呼び方を決めただけ。それなのに心がすごく温かくなる。

 顔がニヤついてないか少し心配になる。心配しすぎたせいか顔がすごく熱い。

 あれ、というか……なんかアイズちゃんがいっぱい───

 

「ねぇベル、聞きたいことが……えっ?」

 

 そんなアイズちゃんの言葉とドボンという水音を最後にぼくの意識は途絶えた。




いつも感想やお気に入り登録、誤字脱字報告ありがとうございます。
読みづらいかもしれませんがなるべく読みやすいように書けるよう努力していきますのでどうかよろしくお願いします。
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