二人の姫と出会った少年は英雄の道を歩む   作:Kkky

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鍛冶師との契約

「お前があの【未完の英雄(リトル・ヒーロー)】か!? 記録を塗り替えるどころか一月半で二つもLvを上げた世界最速兎(レコードホルダー)!」

 

「声大きいですって!」

 

 興奮した様子で周囲に聞かせるように話すクロッゾさんにもう少し声を抑えてほしいと頼む。周囲から色々な視線が刺さるのを感じるからもう遅いかもしれないけど。

 名乗ってもらった後、僕はクロッゾさんに少し話をしないかと誘われ、八階にある小さな休息所に来ていた。

 そこで色々話を……経営陣には評価はされているが粗末な扱いを受けてたとか買われた筈の作品が返品されたとか【ファミリア】の同僚は陰険な人ばっかりだとか、本当に色々聞いた。

 そんな中々上手く行かない鍛冶師生活で作品が売れたのは三回。そのうちの一回を購入し、かつそんな自分の作品を再購入(リピート)してくれそうな僕に興味を持ったとのことだった。

 

「今更だが、本当に俺より年下なんだな。お前の噂を聞いた時は何の冗談かと思ったが……」

 

「あははは……えっと、クロッゾさんの年は……?」

 

「俺は今年で十七だ。あとそのクロッゾって呼び方はやめてくれ。家名、嫌いなんだよ」

 

 クロッゾさん、とそう呼んだ時、彼の顔が少し歪んだ。

 嫌がる呼び方を続けるのもどうかなって思い、とりあえず名前で呼ばせてもらうことにした。

 

「じゃあヴェルフさんで。それで、僕に話って何ですか?」

 

「さん付け……まあいいか。話ってのはな……」

 

 そこで言葉を切って立ち上がったヴェルフさんは真摯な眼差しで僕を見下ろす。

 僕と僕の隣、お店から持ち出した鎧のボックスを彼は見た。

 

「ごちゃごちゃ誤魔化すのも誠意がないだろうし、単刀直入に言わせてもらうぜ。俺はお前さんを離したくなかったわけだ」

 

「僕を?」

 

「ああ。自分で言うのもなんだが、俺は武器も防具も他の同期よりいい作品(モノ)を出してる自信がある。がさっぱり売れやしない。購入直前になって返却されるらしい。全く解せない」

 

 武具の名称が原因な気がするけど……素人意見だし言わないでおこう。

 

「だが、そこにお前が現れた。俺の防具の価値を認めてくれた冒険者がな。あんな鎧の群れの中から俺の防具を探しに来てくれたお前は俺の顧客だ。違うか?」

 

「……ううん、違わないですよ。僕は貴方の防具を探していましたから」

 

 僕の心を見透かしてくるような瞳で見てくるヴェルフさんに頷く。

 あのお店に入った時点で探していたのがヴェルフ・クロッゾの作品だけだったのだから、僕はもう彼の顧客と言っていいだろう。

 

「客の奪い合いをしてる下っ端の鍛冶師からしたら本当に貴重でありがたいことなんだぜ? 冒険者の方から装備を求められるっていうのはな。神に、冒険者に、『認めてもらった』……今の俺達にこれ以上嬉しいことはないんだ」

 

 冒険者である僕にはわからない鍛冶師の苦労。

 確かに有名な人であれば武具を買っていってもらえるかもしれないけど、名が売れていない鍛冶師の場合はそれが難しい。冒険者も鍛冶師も繋がりが重要なのは同じらしい。

 

「それにあんな数ある鎧の中から『鍛冶』のアビリティを持っていない下っ端の俺の作品を見つけてくれて、挙句の果てにもう一度使ってみたいだなんて言われた日には……な? こう、グッとこみ上げてくるってものがあるだろう?」

 

 そこで初めて不敵でも兄のような笑顔でもなく、子供のような笑顔を浮かべてヴェルフさんははにかんだ。見ている僕でも嬉しくなってしまうほどにその笑顔から喜びがあふれていた。

 

「それにお前は俺にとって初めての『客』なわけだしな。最初の客は絶対に逃したくないんだ」

 

 先ほどの笑みとは一転、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた彼に対して、僕もまた笑っていた。

 もうこの時点で僕は彼に対して好印象を持っていたけど、どうやらまだ話があるみたいだ。

 

「じゃあこれからも顧客になってほしい……それを言う為に僕を誘ったんじゃないでしょう?」

 

 そう言うとヴェルフさんは目を丸くして、すぐにニヤリと笑った。

 

「もう察してたか、流石だな! じゃあ踏み込ませてもらうぜ……ベル・クラネル、俺と直接契約を結んでくれないか?」

 

 返ってきたのは予想通りの言葉だった。

『直接契約』とは冒険者と鍛冶師(スミス)が結ぶより強固な契約。

 冒険者は探索で手に入れた『ドロップアイテム』などを鍛冶師(スミス)の為に持ち帰り、鍛冶師(スミス)は強力な武具を作製し格安で譲る……そんな契約。

 その契約の冒険者側の大きな利点(メリット)は、特定の誰かを思って作られた武具は特別な威力を発揮するというコト。

 

「こんなこと提案しておいてなんだが、俺はお前に釣り合う鍛冶師ではないと思う。都市を騒がすスーパールーキーと未熟で武具もまともに売れていない鍛冶師。普通に考えたら釣り合わん」

 

 違う、と言うのは簡単なことだったけど、そんな失礼な謙遜はしない。

 少しむず痒くなりつつ、彼の瞳を何も言わないで見つめて僕は続く言葉を待つ。

 

「だが、俺は必ずお前に釣り合う鍛冶師になって見せる。他の誰よりも、主神(ヘファイストス)様でも敵わないって思わせるような武具を必ずお前に作って見せる。だから────」

 

 差し伸べられた掌を見つめる。

 名も知らぬ鍛冶師(スミス)が鍛冶の神を超えるともとれる発言をしたことに周囲から好奇の視線や嘲笑が集まるが、そんなもの眼中にないと、彼は僕の瞳だけをまっすぐに見つめてくる。

 

「俺と契約してくれ、ベル・クラネル」

 

 ……今の僕にそこまで期待して、覚悟を見せてくれる彼を前にして、断るだなんて男が廃る。

 緊張からか自然と顔が強張っているヴェルフさんの顔を見つめ、僕は力強く差し伸べられた手を握り返した。

 

「よろしくお願いします、ヴェルフさん。僕も貴方の期待に応えられるように頑張ります!」

 

「っ……ああ! よろしく頼む! 絶対にお前の期待は裏切らねえ!」

 

 ヴェルフさんのその手は炎が燃え盛る炉のように熱かった。

 繋がった手を周囲に見せびらかすようにすると、遠巻きに事の趨勢を見守っていた鍛冶師と思われる人たちが悔しそうに散っていく。ここで契約を結んだのは牽制も兼ねていたのだろう。

 

「正式な契約書は後回しにして、俺の我儘を聞いちゃくれねえか?」

 

「なんですか?」

 

「まず見返りとしてだが、装備を全部タダで新調してやる。これぐらいやらないと俺の我儘と釣り合いはしねえ」

 

 装備の新調が全てタダになるのはすごくありがたい。装備に使おうとしていた予算をそのまま道具(アイテム)に回せれば生存率もぐっと上がる。

 ただ、その見返りと釣り合う──表情を見ると釣り合ってるかギリギリって思っている?──のお願いとは何だろうか。

 

「で、俺の我儘だが……俺をお前のパーティに入れてくれないか?」

 

 パーティに参加したいという願い。

 僕は三人目の仲間が加わるかもしれないという思いの勢いのまま、その願いを了承していた。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「やってきたぜ、11階層!」

 

 腰に手を当てたヴェルフさんが自分の得物である大刀を担いで、快活に言い放った。

 その言葉通り、僕はヴェルフさん、リリと一緒に11階層へ来ている。

 昨日、契約を済ませた僕はその翌日からすぐに三人組(スリーマンセル)のパーティを組んでダンジョン探索を始めることに決めた。もちろんリリにも相談して。

 

「えっと、まずは『鍛冶』の発展アビリティを手に入れることが目標でいいんですよね」

 

「おう、よろしく頼む! 身内の恥を晒すようであれだが、あいつら、いざダンジョンに行こうとなると俺のことをのけ者にしやがんだ。信じられるか? おかげで同期に差を付けられちまった」

 

 ヴェルフさんがパーティに加わりたかった理由は『鍛冶』の発展アビリティの習得。【ヘファイストス・ファミリア】では事情は分からないけど、パーティに加えてもらえることが出来ず、Lv.1のまま燻り続けていたらしい。

 そのアビリティがあるのとないのとでは、生まれる武具の性能に天と地ほどの差が出来るらしく、そうなってくると直接契約を結んだ僕にも無関係な話じゃない。

 

「今調子良く話してるが、本気でお前には感謝してるんだぜ? 他派閥で、ほぼ赤の他人と言ってもいい俺をパーティに加えてくれたんだからな」

 

「装備を作ってもらう僕の為にもなりますから。それにこんなものも作ってもらっちゃったし」

 

 こんなものとは今僕が装備している新品同然の鎧だ。

 輝きを放つその鎧に僕が思わず、笑みを浮かべると隣から若干不機嫌そうな声が。

 

「別にベル様を責めるわけではないのですが、パーティメンバーを増やすのでしたら出来ればリリにも相談してほしかったですね。責めるわけではないですが!」

 

 そうやってじとーっと僕と僕の装備を見つめてくるリリに苦笑を返すしかできない。

 確かにリリから見たら、僕が装備で買収されたように見えちゃうかも……。

 

「……いえ、リリはちょっとだけ不満ですけど、別に問題はないですね。ベル様が懐に入れても大丈夫だと判断した方ならば信頼できる方なのでしょう」 

 

 そうなのですよね、と語り掛けてくる瞳に僕はこくりと頷く。

 ならいいです、と呟いて僕の隣に立ったリリはそれ以上勝手なパーティメンバーの追加に何も言わなかった。急なパーティの編入に申し訳ないという気持ちと同時に僕へ最大の信頼を置いてくれている彼女の姿に歓喜が湧く。

 

「……随分このチビスケに信頼されてるんだな、お前」

 

「チビではありません。リリにはリリルカ・アーデという名前があります!」

 

「おう、よろしくな、リリスケ」

 

「……まあ何でもいいです」

 

 小馬鹿にするようなヴェルフさんの呼び方に不満がありそうなリリだったけど、溜息を一つ入れただけで特に何も言わずにそれを受け入れる。

 反論してくると思っていたのか目を丸くしているヴェルフさんを見て、フードの中でニヤリと笑ったリリの顔を僕は見逃さなかった。

 なんだかんだ上手くやっていけそうかも……?

 

「あ、そういえばリリにはまだ紹介してなかったね。この人はヴェルフ・クロッゾさん。【ヘファイストス・ファミリア】の鍛冶師(スミス)の人だよ」

 

 出発前に話せなかった彼の名前を口にした瞬間、リリが弾かれたように振り向いた。

 どうしたの、と聞く前にリリが捲し立てるように話し始める。

 

「クロッゾっ? 呪われた魔剣鍛冶師の家名? あの凋落した鍛冶貴族の?」

 

 その反応にヴェルフさんが眉を顰め、口の形をへの字にする。

 ばつが悪そうなその顔にリリが再び口を開く前に、彼女を止めた。

 

「リリ、それ以上踏み込むのはダメだよ」

 

「あ……も、申し訳ありません、ベル様。それとクロ……ヴェルフ様」

 

「いいよ。大丈夫ですか、ヴェルフさん」

 

「ん、あ、ああ……すまねえな、ベル。助かった」

 

 ばつが悪そうな顔から一転、どこか呆然とした顔をするヴェルフさんに僕は首を傾げる。

 視線を彷徨わせながら、何かを言いたそうに口を開いては閉じてを繰り返すその姿に僕達が顔を見合わせていると、ビキリという音が耳に届いた。

 

「っ! リリ! ヴェルフさん!」

 

「はい!」

 

「あ、ああ!」

 

 即座に会話を切り上げ、臨戦態勢に入る。

 三者三様に構える僕らの視線の先でダンジョンからモンスターが産まれ落ちた。

 数体のモンスターが産まれ落ちても罅割れは止まらず、四方八方にさらに広がっていく。

 主に10階層から確認されている……僕はもう既に何回か経験している『怪物の宴(モンスターパーティ)』だ。

 

「多いな……なあ、どうす────」

 

「良かった。思ったよりも少ない」

 

「これ以上多くても大した問題ではありませんね。10階層へ続く階段もすぐにありますし、幸いこのルームでは霧も発生しません」

 

 いくつかの修羅場を越えたおかげか『怪物の宴(モンスターパーティ)』が発生したというのにすごく落ち着いていた。隣で何事もなくバックパックを背負い直しているリリはさっさと終わらせようというような顔をしている。

 唯一ヴェルフさんは動揺していたみたいだけど、僕達の様子を見たからかすぐに笑みを纏って大刀を構えた。

 

「うしっ、オークは俺に任せてくれ」

 

「ベル様は好きに暴れて大丈夫です。リリがヴェルフ様の支援(サポート)をします。あ、時折気に掛けてくれると嬉しいです」

 

「わかった。そっちは二人に任せたよ」

 

 ここに来るまでのヴェルフさんの戦いっぷりは十分背中を預けるに値するものだった。

 そこにリリが加わってくれるのなら、挟まれでもしない限りは大丈夫だろう。軽口を叩きながら戦闘準備を整える二人を見ながら、僕はそう考えた。

 そんな二人から視線を外し、腰に佩いた鞘から黒剣を引き抜いて意識を切り替える。戦いの火蓋を斬るように僕は敵の一角目掛けて走った。

 

『ヒィ────?』

 

 草原を疾走し、『インプ』の集団に突っ込む。

 射線上にいるインプが僕に気付いてももう遅い。

 左足を踏み込み、勢いよく剣を突き出す。黒槍となった疾走がインプの集団を引き裂き、その一突きで半数以上のインプが消し飛んだ。

 モンスター達がまるで呆然とするように立ち止まる中、その隙を逃さず、二度三度と剣を振るう。その度にモンスターの首や体の一部が飛んでいった。

 

(……やっぱりこの辺りのモンスターは相手にもならないな)

 

 少し速度を高めれば簡単に追い付かなくなる、剣を一度振るえば十のモンスターが灰に変わる、魔法を撃てば地形が変わる。 

 数分も経てば、自分から僕に向かってくるモンスターはいなくなっていた。

 ならばと自分から向かおうとしたその時、オークのものではないどこかで聞いたことのある大音声が耳に届いた。

 振り向くとそこでは白い大猿のモンスターに囲まれているヴェルフさんの姿が。

 

「あれは、流石に無理っ!」

 

 ここでの戦闘を魔法の連射という荒技で終わらせた僕は矢となって再び疾走。

 あれは確か『シルバーバック』。オークに近い力と速さを兼ね備えた厄介なモンスター!

 一体ならまだしも包囲された状態での突破は難しい。故に速攻を仕掛けたんだけど……

 

『ゴビャ────』

 

 ちょっと力加減を誤った。

 蹴り飛ばすことで弱らせて、ヴェルフさんの経験値(エクセリア)に変えようとしたのだけど、僕はシルバーバックの腹部を貫通して通り抜けてしまった。

 ヴェルフとリリだけでなく、残りの二体の銀猿の時までも止まる中、僕は買っておいた投げナイフを一体の目に投擲した。

 見事に命中したモンスターの叫び声にヴェルフさんがはっと動き出し、そのモンスターを斬り飛ばす。その間に残り一体は僕の魔法で吹き飛ばしておいた。

 そのままパーティを組んで初めての戦闘が終わる。何も言わないで僕を見てくる二人の姿にたじろいでいると、ふっとヴェルフさんが微笑して、

 

「やっぱいいもんだな。仲間(パーティ)ってのは」

 

 そう朗らかに笑ってくれた。

 出しゃばったかなと思っていたけど、あれで良かったみたいだ。

 この階層では物足りないと思ってしまう部分はあった。だけどその物足りないと思える程度には強くなったおかげで二人を助けられたのだとしたらそれで満足かも。

 そんなことを思いながら、僕も二人に対して笑顔を浮かべていた。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「なあ、ベル君。少し聞きたいことがあるんだけどいいかい?」

 

 ヴェルフさんとの初めてのダンジョン探索を最初の怪物の宴(モンスターパーティ)以降、特に問題もなく終えた僕とリリがホームに帰宅し、夕食やシャワーなどの諸々を終わらせた後の事だった。

 椅子に座っていた僕に神様が一つ、質問をしてくる。

 

「フレイヤ……えっと銀髪の女神と面識があったりしないかい?」

 

「銀髪の女神様……いえ、特には……」

 

 隣のリリに顔を向けてもよくわからないと首を横に振っている。

 銀髪っていう目立つ特徴があるなら僕とリリが忘れる筈はないけど……。

「それならいいんだ」と特段良さそうではない表情で言っている神様だったけど、特に踏み込みはしない。余程の事で確信があるのなら僕達にもきっと共有してくれてるはずだから。

 

「話は変わるけど、新しく加入したって言う鍛冶師君はどうなんだい?」

 

「すごい気さくな人で話しやすいです。あとLvは僕の方が上なのになにかと頼ってしまいそうになる頼もしさがあるというか……」

 

「そうでしょうか? ベル様の方がよっぽど頼りがいがあると思いますが……」

 

 リリの言葉に嬉しく思いつつ、神様との話を進める。

 神様直々に逃がしちゃダメだと言われたけど、元よりあの人を逃がすつもりはない。もうちゃんと契約も終わらせたし、絶対に。

 

「そういえばその子はヘファイストスの眷属(こども)なんだってね。これも何かの縁なのかな」

 

 そういえば……と今更になってそこに気付く。

 神様が働かせてもらっているヘファイストス様の眷属が僕のパーティに入ったのも何か不思議な縁というモノが働いた結果なのかも?

 

「ヴェルフ・クロッゾ君だっけ? 確かその子はヘファイストスが期待してるって言ってた子供の一人だったかな。欠点があるって言っていたけど、聞いたところそんなもの無くないかい?」

 

「…………」

 

「ベル君?」「ベル様?」

 

 二人の声にその欠点であろうものを知っている僕は無言を貫いた。

 

「その話は置いておいて、ベル様に聞いておきたいことがあるのですが……ベル様、クロッゾって知ってますよね?」

 

 話を切り替えたリリの言葉に僕はまた無言を貫こうとした。

 ただこれに関しては話しても大丈夫かもしれない。

 

「……うん、知ってたよ。子供の頃に教わったからね」

 

 お母さんに教わったからちゃんと知っている。

 記憶の片隅にあるだけだけど。

 

「やはりそうでしたか……では失礼を承知で聞きます。ベル様は魔剣が目当てでクロッゾ様と契約を結んだのですか?」

 

「違うよ」

 

 僕の答えなんてわかってるだろうに一応聞いてきたリリに苦笑を浮かべて即答する。

 僕の即答にリリはほっとしたような顔を浮かべて、すぐに謝罪の言葉を口にした。

 

「ベル様に限ってそれはありえないとわかっていたのに、聞いてしまい申し訳ありません」

 

「いいよ、大丈夫。そもそも僕が知っていることを隠したせいで疑問が生まれたんだろうし」

 

 それでその話は終わり。

 僕達のやり取りがよくわからないのか首をブンブン振って交互に僕達を見る神様に思わず笑ってしまいながら、僕はそんな神様にヴェルフさんの【ファミリア】内の評価を聞いてみた。

 そして、返ってきたその評価にリリと二人で思わず口を噤む。

 

「総括すると腕は確かだけど、何か訳ありの鍛冶師ってところかな」

 

 第一の衝撃が『鍛冶』のアビリティもなく、ヴェルフさんは魔剣を打てるという事。

 第二の衝撃がその魔剣を頑なに作らないという事。

 ただ、衝撃を受けたと言っても僕の魂を奪ったのはヴェルフさんの防具。その魔剣の事情については聞く前以上の興味は湧かなかった。

 

「さて、そんな事情を隠していると知って君達はどう思った?」

 

「はぁ……別になんとも。魔剣を売ればお金を稼げるのに勿体ないなと、少しは思いましたけど、本当はやりたくないことをしてお金を稼いでも気付かぬうちに心が痛むだけです」

 

 実体験からか目を細めてそう話すリリの髪を神様が優しく梳く。

 くすぐったそうにしながらも受け入れるリリに笑みを落とした神様は僕の方を見る。

 

「僕も特には。理由を自分から打ち明けてくれるほどの関係になれるように頑張りたいってぐらいです」

 

 それがヴェルフさんの隠し事だとしても僕にだって神様とリリに話せてない隠し事はある。

 誰にだって隠し事はある。それこそあの人達にだってきっとある。そんな隠し事を無理に詮索しようだなんて僕は思わない。

 

「……君達がボクの子供であることを誇らしく思うよ」

 

 そんな僕達を慈愛に満ちた瞳で見つめてきた神様は僕達をぎゅっと抱きしめてくれた。

 それを最後にこの話はここで終わる。少しだけその話とは全く違う他愛のない話をして、僕達はそれぞれの寝床に入り、眠りについた。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「あの、ヴェルフ・クロッゾさんの作品って、今は売られてないんですか? それとももう全部売れちゃいましたか?」

 

 その言葉を聞いて、俺は言い争いをしてるのも忘れてすぐにその方向を向いていた。

 そこには如何にも駆け出しと言った様相の白髪の少年がいた。

 冒険者というのは見た目で判断してはいけない存在だとわかってはいるが、自分に視線が集中したことに目を白黒させているその姿はお世辞にも強そうには見えない。

 

 だが、強く惹かれた。

 

 俺の作品を求めてくれる客と出会えたというだけでは説明が出来ないほどに体中の血が燃え上がり、胸が高鳴った。

 俺じゃない俺が喜ぶかのような……まるでもう二度と会えない筈の唯一無二の相棒に再会したような……そんな気分だった。

 

「え、ええっと、ヴェルフ・クロッゾ氏の作品をお求めで間違いありませんか……?」

 

 少年の前に立っていた店員が念のためか確認する。

 その質問に頷いた少年に正真正銘の歓喜が湧いた。思わず言い争っていたもう一人の店員に高らかに笑いながら自慢してしまう程度に俺は浮かれた。

 気まずそうに目を逸らす同派閥の店員を歯牙にもかけずに、俺は笑みを浮かべて名乗る。

 

「俺はヴェルフ・クロッゾ。今はまだ【ヘファイストス・ファミリア】の下っ端も下っ端の鍛冶師(スミス)だ。出来れば末永くよろしく頼むぜ、得意客(ファン)一号」

 

 この出会いが俺の環境を大きく変えるものだという事をこの時の俺は思いもしなかった。

 この少年との出会いが主神(ヘファイストス)様との出会いに匹敵する最高の出会いだったということをこの時の俺は微塵も思いもしなかった。




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