よろしくお願いします
「───しいの──ベル」
「羨ま──るな──ゼ──」
「…………ぁ……あれ……ぼく……」
「ん? 目を覚ましたか」
「え…………あ……はい……」
いつの間にか眠り? についていたぼくは、おじいちゃんの声とアイズちゃんと一緒にいた女の人の声で目を覚ました。
最初に目に入ったのは綺麗な緑色の髪をしたすごい綺麗な女の人。次にぼくの顔とその女の人の顔の間にニュッと現れたアイズちゃんだった。
「うわああああ!!?」
「…………驚かせちゃった」
突然想い人の顔が至近距離で現れ思わず飛び上がりそうになる。
だけどガクンと体から力が抜けて、少し浮いただけで済む。そのおかげでアイズちゃんにぶつからずに済んだ。
「おっと……急に起き上がるのは危険だ」
「は、はい……すみませ……ん?」
そこでようやく違和感に気づく。
なぜ少し隠れてこの人の顔がぼくの顔の真上にある?
そして左耳と後頭部に当たる暖かく柔らかいものはなんだ?
顔を覗き込んでいるのなら顔が真上にあるはずがない。
いつも座っているソファやベッドはこんなに暖かくない。
つまりこれは────
「……なんで膝枕……」
「ベッドに運ぼうと思いはしたのだが……いや、すまない私情だ。アイズが君の髪がすごいと教えてくれてそれが気になってしまったんだ。もちろん治療などは終えているが……迷惑だったか?」
「いえ! そんなことは……ない……です」
迷惑ではない。迷惑ではないのだがおじいちゃんの視線がすごく痛い。
その間に徐々に記憶が戻ってくる。確かお風呂でのぼせたんだったっけ。
「ごめんなさい……のぼせないようにって言われたのにのぼせて、迷惑をかけちゃって……」
「子供がそんなことを気にするな……ただアイズがいなければそのまま気づかれなかったかもしれないんだ。疲れていたとしてもそれは気をつけなさい……次からは私も入っておくべきか……?」
「?」
最後の方はよく聞こえなかったが優しい透き通るような声がぼくの耳に入ってくる。
それに少し遅れてぼくの髪を女の人のしなやかな指が梳く。
なんだかとても心地いい……。
「ほう……これは中々……」
「……ずるい……私も」
羨ましがるように見ていたアイズちゃんが我慢できないと言わんばかりにぼくの髪に触れる。
この日ほどぼくの髪がモフモフだったことに感謝した日はないだろうし、この日以上に感謝することもないと思う。
なんだかすごく得をした気分だったけど……
「おのれベルァアアアア!!!」
近くで違うナニカに変身しそうなおじいちゃんがいたから少し怖かった。
「羨ましいのうベル……あんな美人エルフに膝枕とかしてもらえて……性格はあれじゃが……」
「何か言ったか」
「何でもないです」
「あ、あははは……」
少年と神ゼウスは正面にあるソファに座っている。
その対面のソファには私とアイズが座る。
色々なことがあったがそれもようやくひと段落した。かなり遅れてしまったがまずは───
「……少年」
「あっ、はい!」
「色々あって遅れてしまったが、君の名前を君の口から聞かせてくれないだろうか?」
「わかりました! えっと、ぼくはベル。ベル・クラネルって言います!」
よく通るいい声だ。
少し表情に固さが見られるがこの歳の子供ならこんなものだろう。
「では、ベルと呼んでもいいか?」
「はい! 好きなように呼んでください!」
にこやかな笑顔をこちらに向けてくれる。
初めに会った時に比べればかなり心を許してくれたようだ。
「では次は私からだな。私はリヴェリア、リヴェリア・リヨス・アールヴ。君の呼びやすいように呼んでくれて構わない」
「リヴェリア……アールヴさ……うーん……じゃあリヴェリア……さんでお願いします」
「ああ、いいぞ」
少し迷ったような素振りを見せたものの結局はその呼び方に落ち着いた。
次にアイズにも自己紹介をさせようと思ったが、
「さっきお風呂入ってた時にしたから大丈夫だと思う……大丈夫だよね?」
「うん、大丈夫だよ!」
意外にも二人は済ませていたらしい。
だがそれよりもあのアイズが初対面のベルとかなり打ち解けていることに少し驚く。
気が合ったのか二人は会ったばかりだというのにかなり仲が良さそうに見える。
(仲が良いに越したことはない。このままアイズの良き友人になってくれたらいいのだが……)
「では、自己紹介はそこまでにして本題に入るとするか」
「あれ? おじいちゃんは?」
「儂は既に知り合いだから大丈夫じゃ」
「へーそうなんだ………だから殴られてたの?」
「まっ、そうじゃな」
「……本題に入ってもいいか?」
「あっ……ごめんなさい」
少し話が脱線しそうになったがすぐに私の話を聞く体勢に入ってくれる。
素直な良い子だ。
「では始めるぞ。本題とはまあ、私たちがここに来た理由のことだな」
ベルは話が逸れないようにするためか口を閉じ、その紅い瞳でじっと見つめてくる。
「ここに来たのはある女性に君のことを頼まれたからなんだ」
「女性……?」
「ああ……君は顔も名前も知らないだろうがな」
まだ話は始まったばかりだが、その話を聞きベルが目を輝かせてずいっと身を乗り出す。
その表情に少し戸惑うがなぜそんな目をしていたのかすぐにわかった。
「もしかして、ぼくのお母さんですか!?」
思わず言葉に詰まってしまう。
期待の眼差しを向けるまだ幼い少年に心が痛む。
「……いいや違うよ。その女性は君の母親ではない」
「……そう:ですか」
先ほどまでの明るい表情から一転、一気に表情が曇る。
「すまない、期待させてしまったな」
「……いえ、勝手に勘違いしただけなので……」
ゼウスから聞いた話だがベルが物心がついた頃には既に母親はこの世を去っていたという。
愛されているのは間違いない。だがそれでもこの少年は母親の愛というものを知らない。
…………アルフィアには特に口止めはされていなかったな。
「ベル、確かにその女性は君の母親ではない。しかしこれは気休めにしかならないことかもしれないがこれだけは言える」
「……何ですか?」
「
俯いていた顔が上がる。
表情に少しだけ明るさが戻ってくる。
「その女と私は非常に仲が悪くてな、顔を合わせれば毎回煽り合うような存在だったんだ」
「えっ」
仲が悪いというのは本当だ。煽り合う……というか口喧嘩に発展するのも本当だが毎回ではない。
だがそんな相手にアルフィアは───
「そんな私と犬猿の仲の女が恥を忍んで
「……それが……ぼくのこと……?」
こくりと頷く。
ベルにとっては名も顔も知らない相手だ。
そんな相手から愛を向けられても困惑するかもしれない……そう思っていたが、
「……そっか……そうなんだ……」
ベルは笑った。
ほのかに、しかしとても嬉しそうに笑顔を浮かべた。
「ぼくのことをかんがえてくれてる人……おじいちゃんとこの村の人以外にもいてくれたんだ」
「……ベル、やはり……いや、当然か……」
ゼウスが口を開いたが結局何もいわずに口を閉じ、優しくベルの頭を撫でる。
ベルは不思議そうな表情を浮かべていたがまた笑みを浮かべ、それを受け入れる。
「少し話が逸れてしまったな。もう単刀直入に言ってしまおう……ベル、しばらく君と一緒に暮らしてもいいだろうか」
「えっ……一緒に?」
「そんなに長い期間は居られないかもしれない。それに定期的に
困ったような顔をしてゼウスと私の顔を交互に見る。
「ベル、お前が決めなさい。儂はお前の意思を尊重しよう……しかしやっぱ儂はあの娘には信頼されてないのね」
「…………じゃあ、迷惑をかけるかもしれないけど……お願いしたい……です」
ベルは少し恥ずかしそうにそう言ってくれた。
まだ出会って間もないがそう言ってくれたことが少しだけ嬉しい。
「何度でも言うが迷惑だなんてそんなことは考えなくていい。いきなり心を開けとも言わん……ゆっくりでいいんだ。これからよろしく頼む」
「よろしくね……ベル」
「はい! よろしくお願いします!」
こうして予想以上にあっさりと私とアイズはベル、そして神ゼウスと共にこの家で暮らすことになった。
始まりはアルフィアに託された
しかしこれがこの先も長く続くベルと私たちの家族としての第一歩だった。
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今回のは少し読みづらいと思う部分があったと思います。もっと精進していきます。