リヴェリアさんとアイズちゃんが一緒にぼくたちの家で暮らすことになった。
ただ一緒に暮らしているからといって劇的に生活が変わったというわけでもない。
もちろん変わったこともある。その一つとして、
「ベル、起きてるか? 朝ご飯ができたから来なさい」
おじいちゃんが作ってくれていたご飯をリヴェリアさんが作り始めてくれたことだ。
おじいちゃんは、
「え? まじ? お前さん料理できんの? 女王様なのに?」
という失礼なことを言っていたがリヴェリアさんの料理はとても美味しかった。
ちなみにおじいちゃんは次の日の朝ご飯は抜きにされていた。
「おはようございます……」
「おはよう。ふふっ、寝癖が立っているぞ」
「あっ……」
顔は洗ったのだが寝癖に気づいていなかった。
少し笑われ、思わず顔が熱くなる。
「直してきても、いやいいか。後で私が直そう。一人でも簡単に直せる方法も一緒に教えようか」
「はい! お願いします!」
「わかった、じゃあ料理を運ぶのを手伝ってくれるか?」
「はーい」
朝ごはんの後に約束をしていつもリヴェリアさんが作った料理を配膳する。
これが暮らし始めてからのぼくの朝の習慣。リヴェリアさんが料理を作る時は一緒に配膳するのが日課になっている。
おじいちゃんは朝早くは畑に行っていて、アイズちゃんも朝早く起きて外で何かをしているらしい。いつもぼくが起きた時にはすでにアイズちゃんは外で何かをしている。
「これでいいですか?」
「ありがとう。じゃあ席についていていいぞ。もうそろそろあの二人も」
「たーだーいまー!!」
「ただいま……」
「噂をすれば……だな」
そう話しているとちょうど良く二人が扉を開けて入ってくる。
おじいちゃんは土と泥で結構汚れていて、アイズちゃんも汚れてはいないが髪が汗で張り付いている。
「帰ったか。とりあえず二人とも手を洗ってきて席につけ。ゼニス殿は下も変えて来い。アイズは汗を拭ってきなさい」
「ほいほい」
「ん……」
二人はそのまま洗面所と寝室へと歩いていく。その間にテキパキとリヴェリアさんと料理以外の準備も協力して準備を終える。
そこでふと気になったことがあったためリヴェリアさんに質問してみる。
「あの、リヴェリアさん」
「ん? なんだ?」
「ゼニスって……誰ですか?」
「……? 君の祖父の名前ではないのか? そう呼べと私は言われたのだが……」
リヴェリアさんが不思議そうな顔でぼくに聞いてくるがそんな名前初耳だ。
というか今思えばぼく、おじいちゃんの名前───
「……ぼく、おじいちゃんの名前教えてもらってなかったです……あと聞いたこともありませんでした……」
「……何をやっているんだあの神は…………まさかとは思うが偽名を考えるのを……」
「リヴェリアさん?」
「!! あ、ああすまない、なんでもないよ」
そうこうしている内におじいちゃんとアイズちゃんが部屋から出てきて席に座る。
ぼくはおじいちゃんの隣に、リヴェリアさんはアイズちゃんの隣に座る。
みんな揃ったところで食事の挨拶をして朝ごはんを食べる。
今日の一日の始まりだ。
朝食を終えてみんなそれぞれのやること、やりたいことに移る。
おじいちゃんは朝と同様畑に、アイズちゃんも同じく外に行った。
ぼくは───
「さあベル、今日も始めようか」
「はい! リヴェリアさん!」
リヴェリアさんに勉強を教えてもらっている。
一人でする勉強はそんなに好きじゃなかったけど、リヴェリアさんとする勉強はすごく楽しい。
そんなことを言うとリヴェリアさんは少し微笑んでくれた。
「知識を持つということは生きる上で重要になってくる。ベルがどんな道に歩もうと必ず力になってくれるはずだ」
というのがリヴェリアさんが教えてくれたこと。
ぼくにはまだよくわからないけどぼくよりもずっと長く生きていて、すごく頭がいいリヴェリアさんがそう言うのならきっと正しいことなんだと思う。
「……よし、少し休憩にしようか」
「わかりました」
勉強を始めてから少し時間が経ち、リヴェリアさんの一言で休憩に入る。
集中力が保たなくなる寸前でいつも休憩に入るのはぼくが分かりやすすぎるからなんだろうか。
そんなことを考えながらふと窓の外へと目を向けてみる。そこで目に入ったのはアイズちゃんが剣を振っている姿だった。
「リヴェリアさん」
「どうした?」
「アイズちゃんは何をしてるんですか?」
「ああ……あれは感覚を最低限忘れないようにするための訓練だ。少し前まではここの森や山でモンスターを倒していたみたいだが訓練にすらならなかったみたいだな」
リヴェリアさんの話を聞き少し驚いたけどあの怪物をあっさりと倒したアイズちゃんなら当然という結論に至る。
話はそこまでにしてアイズちゃんの動きを見る。
やっているのはただの素振りと目の前に敵がいると想定しているような動き。そのはずなのに目を奪われてしまう。
好きな子だから……とかじゃない。素人でもすごいとわかるその鮮やかな剣技がぼくの目を奪う。
「あの日からまた一段と腕を上げているな。あの子の目的を考えると良いことなのかもしれないが……」
「…………目的?」
じっとアイズちゃんの動きを観察しているとリヴェリアさんがそんなことを言う。
思わず聞き返してみるとリヴェリアさんは珍しく“しまった”というような表情をしていた。
「……うっかり喋ってしまったが私から君に教えるつもりはない。アイズにとってかなり繊細なことなんだ……すまない」
「い、いえ! 大丈夫です! そんなこと聞いてすみません」
「君が謝ることじゃない……もう休憩は十分だろう。そろそろ続きをしよう」
「はい!」
今も剣を振っているアイズちゃんに引き寄せられそうになるのを必死に抑えて机へと向かう。
そのまま勉強することになったのだが、あまり集中することができなかった。
リヴェリアさんはこんな日もあると言ってくれて怒らなかったけど次はこんなことがないようにしないと……。
結局今日の勉強は午前中いっぱいで終わり、午後からは自由にして良いことになった。
昼食はみんなそれぞれ済ませてリヴェリアさんはアイズちゃんの付き添い、ぼくはおじいちゃんと一緒に畑仕事をすることにした。
日が傾くまで働いて今日の仕事は終わる。ぼくはその間もアイズちゃんの目的が気になってしまっていた。
そしてそんなぼくに今日もまた試練がやってくる。
リヴェリアさんが作ってくれた夕食を食べ終えてぼくはおじいちゃんの隣で英雄譚を読んでいた。
正面に座っているリヴェリアさんも何やら本を読んでたみたいだけど栞を挟んで本を閉じ、スッと立ち上がりぼくの方へと近づいてくる。
ぼくは思わず体をピシッと固まらせるけどリヴェリアさんはそんなことに気づかずに口を開く。
「ベル、お風呂に入ろう」
リヴェリアさんのお風呂の誘い……これがまた試練となっている。
あの日のぼせてからぼくはリヴェリアさん、そしてアイズちゃんと一緒にお風呂に入っている。
最初の日はおじいちゃんと一緒に入ろうとして回避しようとしたけどおじいちゃんの、
『こんな美人にお世話になれる機会なんて滅多にないぞ? こういうのは子供の特権じゃからな、世話になっておけ』
という言葉で何の抵抗も出来ることなくお風呂へと連れて行かれた。
ちなみにそんなことを言ったおじいちゃんは覗きをしようとしてたけど覗き込んだ瞬間、リヴェリアさんに目潰しを食らって何も見えることなく外で悶絶していた。
「今日は一人で入ります!」
「そんなことを言ってまたのぼせでもしたらどうするんだ。今度は死んでしまうかもしれないんだぞ」
───逆にのぼせそうになっちゃうんだよなぁ……
そんなことを毎回考えているような気がするけどリヴェリアさんの本気で心配している顔を見ると何も言えなくなってしまう。
「……わかりました」
「良かった。さあ行こう」
結局今日もろくに抵抗できずにお風呂へと連れていかれる。
別に嫌というわけじゃない。ただこんな綺麗な人と毎日お風呂なんて入ってたらいずれとんでもないことが起きそうで不安になってくる。
この不安は数年後の未来、現実になることをこの時のぼくは知らなかった。
「覗くなよ? ゼニス殿」
「覗きはせん、覗きはな……代わりに今日は儂も一緒に入るぞい♡」
リヴェリアさんがおじいちゃんに釘を刺すけどおじいちゃんはまるで懲りずにそんなことを言う。
ここ最近ずっとおじいちゃんは覗きを試みている。その度にリヴェリアさんが制裁を加えているけどまるで効いていない。
その言葉を聞いたリヴェリアさんの表情が今まで以上に冷たくなる。
「ベルの手前だ。吹き飛ばすぐらいで勘弁していたが……やはりその程度では無駄なようだな」
次の瞬間、今まで感じたことのないゾッとするほどの冷気のようなモノがリヴェリアさんの体から迸る。
「【終末の前触れよ、白き雪よ。黄昏を前に
「詠唱!? 待て待て待て!! ここ家の中じゃぞ!? それは不味い!!」
「【閉ざされる光、凍てつく大地。吹雪け三度の厳冬───我が名はアールヴ】!!」
よくわからないけど何かとんでもないことが起きるということだけはわかる。
そうやってぼーっと見ていたぼくは顔を真っ青にしたアイズちゃんに引っ張られてリヴェリアさんの後ろの離れたところにいる。
「貴様以外を巻き込むようなヘマをする筈がないだろう? ……【ウィン・フィンブルヴェトル】!」
「うぎゃあああああ!!」
「お、おじいちゃ──ーん!!?」
極寒の吹雪がおじいちゃんのみを集中的に襲い、おじいちゃんを氷の中に閉じ込める。
何が起きているのか全くわからず、氷像と化したおじいちゃんとリヴェリアさんの間で視線を往復させているとリヴェリアさんがこちらに近づいてくる。
「ああああ、あの! ええと、何が起きて……おじいちゃん大丈夫なんですか!?」
「ああ、問題ない。かなり加減はしているしこの程度でそうか……死んでしまうのならもっと昔に死んでいる」
「おじいちゃん過去に何があったんですか!?」
さっきから情報量が多くて頭がこんがらがってくる。
リヴェリアさんが放った英雄譚に出てくるような魔法?も気になるしおじいちゃんの過去も気になる。
だけど結局その場で何も聞けることなく、ぼくはリヴェリアさんに連れられお風呂に入った。
お風呂で意を決してリヴェリアさんの魔法?について聞いてみたけど、
「今の君には必要ないことだが……そうだ、君が自分の未来を決めてその未来にあれが必要そうなら話してあげよう。だからといって焦って決める必要はないからな?」
と話を逸らされてしまった。
少しムッとなったけどリヴェリアさんがそう言うのなら仕方がない。
おじいちゃんのことも聞こうと思ったけど何故かじーっとこちらを見ながらアイズちゃんがすごい近くに来てその日のお風呂はそれどころではなくなってしまった。
あとおじいちゃんはお風呂から上がってみたら普通にソファに座ってお茶を飲んでいた。
今までもおじいちゃんの色んな姿を見てきたけど今日ばかりはおじいちゃんって本当に人間なのかなって思った。
そんな中々に大騒ぎな一日が終わり、リヴェリアさんもおじいちゃんも寝静まった深夜、ふとぼくは目を覚ました。
ベッドから身体を起こして寝ぼけ眼で辺りを見回す。ぼくの右隣ではおじいちゃんがぼくと同じベッドで眠りについていて、左隣にあるもう一つのベッドではリヴェリアさんとアイズちゃんが眠りについている……はずだった。
目を擦ってよく見てみるとリヴェリアさんの隣にいるはずのアイズちゃんが見当たらない。少し起きて待ってみても帰ってくる気配はない。
ぼーっとする頭を無理やり覚醒させて、暗い部屋を目を凝らして歩いてみるがやっぱりアイズちゃんは見当たらない。
おじいちゃんかリヴェリアさんを起こした方がいいのかもしれないと思い始めたその時、家の外から何やら物音が聞こえた。
その物音を確かめるため、恐る恐る家の扉を開ける。そこには────
月と星の光を浴びて剣を振る
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