あまり進んでいませんがどうぞ。
月の光に照らされて剣を振るアイズちゃんはとても綺麗だった。
ただその剣は昼間に見たものと比べるとかなり荒々しい。
昼間に見たものは踊りのような綺麗な動きだったけど、今アイズちゃんがやっているのは踊りなんてそんなものではない。まさに敵を倒す……殺すことに特化した『剣技』だった。
結構離れているのに風を斬る音が聞こえるほどアイズちゃんの剣の振りは鋭く速かった。そんなアイズちゃんに言葉が出ずにただ見つめているとその視線に気がついたのかアイズちゃんがばっと勢いよくこちらに振り向く。
「…………ベル?」
「あ……ごめんね、邪魔して」
ぼくの姿を見てアイズちゃんが目を見張る。
ぼくがこんな夜に起きているとは思ってもいなかったようだ。ぼくもなんで起きているのかわからないから当然かもしれないけど。
「…………寝れないの?」
「ううん、なんか目が覚めちゃっただけ……その、アイズちゃんは何してるの?」
ぼくがこんな夜に何をしているのか聞くと少し黙った後に罰が悪そうに、
「少し、鈍っちゃってたから……勘を取り戻したくて……」
と結構すんなり理由を教えてくれた。
「そうは見えなかったけど……」
「ううん、こんなんじゃダメ……こんなんじゃアイツは殺せない……」
“アイツ”
アイズちゃんがそう言った時、何もしていないはずなのに周囲の温度が下がったような気がした。
その言葉に込められていたものはぼくみたいな子供が言う嫌いなんて優しいものじゃない。
多分だけど……『憎悪』ってやつなのかな……
そんな感情を露わにしたアイズちゃんを、ぼくは初めて怖いと思った。
「で、でも! ちゃんと休まなきゃダメだよ! リヴェリアさんも言ってたよ! 休める時はちゃんと休まなきゃダメだって!」
「ちゃんと休んでるよ……それにもう少し振ってからまた寝るよ」
それを最後にアイズちゃんは再び剣を振り始める。
その後にも何度か声をかけたけどまるで聞く耳を持ってくれなかった。
結局先に根を上げたのはぼくでアイズちゃんを置いて先にベッドに入ってしまった。
そしてそのまま僅かに聞こえる剣を振る音を聞きながらぼくは睡魔に逆らえずにもう一度眠りについた。
「………………」
次の日の朝、いつも通りに目覚めて辺りを見回す。
おじいちゃんの姿は隣に無く、リヴェリアさんもいない。そしてアイズちゃんの眠っていたであろう場所に目を向けてぼくは思わず顔を顰める。
夜の暗闇でなんとなくでしか見えていなかったが、あの時起きた時と比べてもベッドの上にある毛布などは一切動いていなかった。
アイズちゃんは結局あれ以降もずっと剣を振っていたようだ。
「リヴェリアさんは……知ってるのかな……ううん、知ってても知らなくても教えておかなきゃ」
今のベルが最も頼りにしているのは祖父である。
だがアイズに関するものならばアイズにとっての母のような存在であるリヴェリアと話した方が良いに決まっている。
「……とりあえずリヴェリアさんのとこ、行こ……」
部屋の外からはいい匂いが漂ってきている。
今ここで考えても無駄だと判断して、その匂いに引き寄せられるようにベルは部屋を出ていた。
「……ベル、何か聞きたいことがあるんじゃないか?」
朝食を終えて今日もぼくはリヴェリアさんに教えてもらいながら勉強をしていた。
しかし始めてから数分後、リヴェリアさんがそんなことを口にした。
「昨日に比べてもかなり集中力が落ちている。まだ始めてからたった数分しか経っていないにも関わらずにな…………何かあったのだろう? 話してみなさい」
ぽんっとリヴェリアさんの手がぼくの頭に触れる。
子供をあやすような口調がちょっと恥ずかしいけど思わずすんなりと話してしまいそうになる。
───隠すようなことでもないし気になって仕方がないなら聞くしかないよね。
「リヴェリアさん、実は───」
ぼくは昨日……数時間前に目にしたアイズちゃんのことについてリヴェリアさんに話した。
リヴェリアさんはぼくの話を静かに最後まで聴き、目を少しの間伏せ、ポツリと呟く。
「ここに来てからは見なくなったと思ったのだがな……」
「えっ?」
思わず聞き返すけど微笑まれるだけでもう一度は言ってくれなかった。
ただリヴェリアさんの反応を見るにアイズちゃんの無茶は今までもあったみたいだ。
「そういった無茶な行動はここに来る前からずっとだ。あれでもかなり落ち着いた方なんだぞ」
その話を聞き、思わず眉を顰める。
ぼくが見たのはまだ一度だけ。それでもぼくからしたら深夜からずっと剣を振り続けて、朝になってもまだ続けているなんて考えられない。
アイズちゃんの規格外の動きを見たらあれぐらいどうってことはないのかもしれないとは思う……だけど───
「…………」
「……お前はやはり優しいな」
────優しくなんてない。ぼくはただ好きな女の子が無理をしているところを見たくないだけで……
「そんな暗い顔をするな、お前は優しい子だよ。どんな考えがあったとしても出会って間もないアイズをそんなに心配してくれているんだ……その優しさは忘れてはいけないぞ?」
少し時間を置いてぼくはこくりと頷く。
話は少し逸れてしまっているけどこのリヴェリアさんとの約束は大事なものだと思ったからだ。
「そうだな……あまり私からは話さないと決めていたが……ベル、こっちに来なさい」
そう言ってリヴェリアさんはぼくに手招きをする。
大人しくそれに従って付いていくとリヴェリアさんがソファに座り、隣を軽く叩いて座るように促してくる。
「少しだけ、お話をしよう……アイズのことだ」
ギュッと唇を結び、目を見張る。
昨日は話してくれなかったというのに急にアイズちゃんの話をしてくれることに驚く。
「とはいえあまり詳しいことは話せない。あくまで表面の話だけだ……それ以上踏み込みたいならアイズが話してくれるような存在になってくれ」
リヴェリアさんは申し訳なさそうに、けれども少し期待したような表情でそんな事を言う。
この話は例え深く踏み込んでいない話だとしてもアイズちゃんの事をまだ全然知らないぼくにとってはとても助かる。
ぼくは少し駆け足気味にリヴェリアさんの隣に座り、じっと目を見つめる。
「……さて、まずはどこから話すべきか……そうだな、では──」
そうして話してくれたのはリヴェリアさんとアイズちゃんが出会ってからアイズちゃんがリヴェリアさんに心を開いてくれるまでの話。
そしてアイズちゃんが抱える『闇』についても少しだけ話してくれた。
「アイズが強さを求める理由……それはあるモンスターを倒すためなんだ」
「モンスター……アイズちゃんでもあんな風に頑張らなきゃ倒せないんですか?」
初めて会った時の事を思い出す。
あの時かろうじて見えたのは牛の怪物を切り裂く銀の光。
あの時のアイズちゃんは間違いなくぼくにとっては“英雄”であり、今となっては憧れの存在だ。
そんな人が負けるだなんて考えられない……いいや考えたくない。
「ああ、間違いなく勝てない。今戦えばどんな手段を使おうとも一つの傷も与えられる事なくアイズは死ぬ。それほどアイズが倒そうとする相手は強大なんだ」
けれどもリヴェリアさんの言葉がそれを許さない。
アイズちゃんの事をよく知っているリヴェリアさんの言葉は誰よりも説得力があった。
「話せるのはこれぐらいだな。これ以上はアイズの顰蹙を買う……いや、あの子は気にしないか」
「ありがとうございます……リヴェリアさん」
話が終わり、リヴェリアさんが立ち上がりこちらを見つめてくる。
けどぼくはその目を見ることができなかった。
そんなぼくを見てリヴェリアさんが苦笑したような気配を感じた。
「今日の勉強は無しにしよう。そんな状態でしてもあまり身にならないだろうしな……アイズには私から言っておく。無理をしている姿を見たくないのは私も同じなんだ。だからそんなに一人で深く考えるな、ベル」
用意してあった勉強道具を片付け、リヴェリアさんは外に向かう。多分アイズちゃんのところに行くのだろう。
リヴェリアさんが話した方がアイズちゃんも納得してくれる……当然のことだ。
ぼくがアイズちゃんの事をよく知らないのと同じでアイズちゃんもぼくのことはよく知らないんだ。そんなぼくに何かを言われても大して心には響かないだろう。
でも、そうだとしても───
「何か……ぼくにできることは……」
アイズちゃんのために何かできる事をしたい。けど何をしたらあの人の助けになるのかわからない。
そうやって考えを巡らせているうちに昼、夕、そして夜とあっという間に時間は過ぎる。夜になったことに気づいたのは畑仕事を終えて帰ってきたおじいちゃんに話しかけられたことだった。一度も外に出てこなかったぼくに不思議そうな顔をしていた。
結局考えを纏めるどころかいい案も何も出ずに今日は終わる。
だけど何かに誘われるように夜の闇の中、ぼくは再び目を覚ましていた。
読んでいただきありがとうございます。ここで少し報告させていただきます。
活動報告にも書いたのですがリアルの関係であまり執筆と投稿ができません。できてもあまり良い出来にはなりません。
極力早く投稿できるよう努力していきますがそれでも遅くなります。申し訳ありません。
今回のような繋ぎの話はなるべく無くしていきますのでどうかよろしくお願いします。