渦中の人物達がそれぞれの行動を起こし、それぞれの思惑が絡まる中。
冒険者もそうではない者も神々も、その熱気が爆発するその瞬間を今か今かと待ちわびている。
少年に試練を化した女神が、少年の無事を月に祈るハーフエルフが。
彼等彼女等に近しい者達が様々な感情で繰り広げられる戦いの行方を見守ろうとしていた。
「もうすぐだ……」
一人の男神が豪奢な椅子に腰かけ、暗い部屋に差し込む月の光に目を細めていた。
その屋敷の部屋の中で男神アポロンはその瞳に狂気を孕み、月を見上げる。
ベル・クラネルが
その時、彼を知ったアポロンは少年を見初めたのだ。
アポロンは気に入った者を地の果てまでも追いかける。今までと同じように今回もそうなるはずだった。
その時機を窺いながら協力者を募っていたアポロンは少年が18階層で偉業を果たしたと報告を受けたその日、行動を始めることを決めた。
彼が都市外へと赴いたという話を聞き、帰ってくるその日までに全ての準備を終わらせ、待ち構えようとしていたアポロン。
そんな時だった。
『……アルテミス?』
天空から彼女の力を感じ取ったのは。
屋敷を飛び出した彼は空にある『弓矢』を一目見て、妹に何かが起きているとすぐに悟った。
だが、悟ったとしても彼は見上げることしかできなかった。妹がどこにいるかもわからず、たとえわかったとしても何をしようとも間に合わないとそれを見た瞬間に気付いてしまったから。
永遠に続くような長い時間が経ったその時、光の柱が遥か遠方の地で立ち昇った。
それが誰のものなのかは考えるまでもない。
アポロンは祈った。涙を流しながら妹のために、彼女を
そう、祈っていたのだ。あの日のアポロンは神々の例外から外れることなく祈っていたのだ。
ならば何故、今の彼はこのような状態に陥ってしまったのか────
「…………」
アポロンが机に拳を叩きつけた。
無意識に無意味な仮定をしていた思考を彼方へと追いやり、胸を焦がす炎へ意識を向ける。
男神には既に少年に向けていた身勝手な愛はどこにもありはしなかった。あるのは憎悪と憤怒。反転したかのような真逆の思いが男神の心を染め上げていた。
「見ていてくれアルテミス。この戦いで、きっと…………」
黒く染まった太陽が空に浮かぶ白い月へ誓いを立てる。
とある思いを覆い隠した彼を月の光が染め上げていた。
夜明け前の都市には肌寒い空気が漂っている。
日中の活気が嘘のように閑散とした街並みは高い市壁の影に隠れて薄暗い。
周囲には誰もいないその街の中で二つの影が顔を見合わせていた。
「この
「はい、わかりました」
東門の前にいるのはベルとヘスティア。
ベルは身軽な旅装を纏い、マントを羽織った格好で装備や
ヘスティアはそんな少年に心配の色を宿した眼差しを向けていたが、出かけた言葉を喉の奥で留め、大切な眷属に少しでも目の前の事柄に集中できるように笑顔を保つ。
「……じゃあ、行ってきます」
自分を心配する女神を安心させるように微笑み、ベルは都市の外へと向かおうとする。
都市の外へとゆっくりと歩むベル。外へと近付くほどに、彼自身が気付かぬうちにその双眸が鋭い光を宿していく。
敵のみを見据えようとしている少年の手を誰かが掴んだ。
「……? どうかしましたか?」
自分の手を握っているのが主神だとすぐに気付いたベルは振り返り、何か伝え忘れたことがあったのかと彼女の方を見る。
ヘスティアはしばし、何も言うことなく俯いていたが一つ息を大きく吐くと、俯いていたその顔を上げ、満面の笑みを浮かべた。
「君が凱旋してくるのを待っているよ。行ってらっしゃい、ベル君」
「……必ず勝ちます。見ていてください、神様!」
ふっと、鋭い光が彼女の笑みに和らいだ。
ヘスティアの手を力強く、けれども優しく握り返したベルは彼女に手を振って、都市の外で待っている
「……どうか、何事もなく終わってくれ……あの子達を見守ってくれ、アルテミス」
その姿が見えなくなるまで見送ったヘスティアは今は見えない空に浮かぶ月とそれを司る今は亡き神友に祈る。
敵対する二柱の神は奇しくも同じ女神を想い、祈ってしまうのであった。
中継地である町、アグリスに着いた僕は臨時のギルド支部の指示に従って行動していた。
明日に向けた準備を整え、軽く剣を振ろうと古城周辺に点在する廃墟へと足を向けた僕はそこで驚愕に襲われることになる。
「よう、ベル」
「ここにいらっしゃったんですね」
「…………えっ?」
聞き間違い、いやありえない。その声を聞き間違えるわけがない。
聞き覚えのあり過ぎる二つの声に勢いよく振り向く。
そこには二人のヒューマンと一人のパルゥムが立っていた。
「なん、で」
「こういうことだよ」
瞠目する僕の呟きに青年……ヴェルフが笑って上の服を脱ぎ去り、背中を見せる。
その背中に刻まれた恩恵は、僕やリリと同じもの……ヘスティア様の
それが意味するものに更なる困惑に襲われる僕にヴェルフと共にリリを挟むように立っていた命さんが追い打ちをかけるように口を開く。
「流石にこの場で見せるのは躊躇いますが、自分の背中にも同じものが刻まれています。これからよろしくお願いします、ベル殿!」
爽やかな笑顔で神様方が言うところの爆弾発言をする命さん。
ヴェルフと同じものが刻まれているということはつまり…………。
「……コ、
「おう!」
「はい!」
思わずよろめく。何のために、なんて聞くのは野暮だ。
間違いなく、二人とも……それどころか二人の神様とその眷属のみんなは僕とリリと神様、【ヘスティア・ファミリア】のためにこんなことをしてくれたんだ。
その行動はすごくありがたい、本当にありがたい。
だけど、同時に……なんでこんなことをしてしまったんだ、という思いが胸の内に芽生える。
ありがたいからこそ、みんなに甘えるわけにはいかない。
あの人と同質の存在が出てくるであろう戦場にみんなを向かわせたくない。
「……僕は、一人で戦うってあの日に言ったはずだよね。みんなの前でしっかり言ったはずだ。なのにどうしてこんなことをしたんだよ」
突き放すべく、なるべく意識して冷めた瞳と冷たい言葉を彼等に投げかける。
一言、二言と発する度に胸が酷く痛むが、みんながあいつらに傷付けられてしまうよりマシだ。
「確かに、言っていましたね。でも、言っていただけです」
「……え?」
「確かにあの日のベル殿は強い弱い、役に立つ立たない、そんなものは関係なく嫌な予感がするから
「俺達がいつそれを認めたんだ? お前のあの顔を見て、その言葉を聞いて、はいそうですか……なんて簡単に認めるわけがないだろ」
貼り付けていた表情が消えたのにも気付かず、思わず呆けてしまう。
いや、確かにそうだったけど! 答えを聞かずに出ていったのは僕だったけど!
「先に
「いや、でも、本当に危険なんだ! 今の僕でも安全とは言えないし、本当に何が起きるかわからないんだよ! もし、僕の予想が正しかったら……」
……死んでしまうかもしれない。
現実になることを恐れたのか、その言葉は声にならなかった。
考えただけで背筋が凍る。そんなことが起きたら僕はきっと耐えられなくなる。
「……お前が俺達を大事に思ってくれてるからこそ、俺達に頼らずにその危険な戦いに臨もうとしてるのはもう痛いほどわかってる。だけどな、ベル」
俯き、地面を見ていた瞳にヴェルフの影が映る。
彼の言葉にわかっているならなんでここに来たんだ、と声を荒げるその直前、ヴェルフの手が僕の肩に置かれた。
「お前が俺達を大事に思ってくれてるように、俺達だってお前のことが大事なんだ。そんな俺達がお前が死ぬかもしれない場所に向かうとわかってて何もしないでいられるわけがないだろ」
諭すような光を宿すその瞳に心が揺れる。
ヴェルフの言っていることは突き放すと決めた時点で理解していた。二人なら僕がどれだけ突き放そうとしてもついてくるって。
わかっていたから多少強引な手段を取ることになっても絶対に突き放すと決めていた。
「俺達も一緒に戦わせてくれ。頼りないかもしれないが……俺達にもお前を守らせてくれ」
なのに……心が揺れる。突き放すための言葉が出てこない。
だって僕は二人の声が聞こえた瞬間に安堵してしまっていたから。
ヴェルフと命さんが
「……っ、本当に危険な戦いになる可能性がある。命を落とすまでとはいかなくても大きな傷を負うことになるかもしれない。それでも────」
「くどいぜ、ベル。どんだけ危険だったとしてもお前と一緒に戦わせてくれ。お前の相棒としてお前の背中を守らせてくれ」
「怪我をすることよりも、死んでしまうことよりも、ベル様が傷ついているというのに見ているだけの方が辛いです。リリも貴方と戦わせてください」
「貴方は我々を救ってくださり、許しを与えてくれました。今こそ、その恩を返す時。この
みんなの瞳には強い意志が込められている。
こういう時の人は誰が何を言おうとも動くことはない。僕がそうだったからわかる。
彼等の言葉に甘えようとする僕の心をみんなに頼り、危険な目に遭わせてしまう不安が覆いつくそうとしているのを感じた。
だけどそれはそれ以上の感情……みんなが共に戦ってくれる安心感が振り払っていく。
もう、迷いはなかった。
「……ヴェルフ、リリ、命さん。僕と一緒に戦ってほしい。僕と共に、来てくれますか……!」
「おう!」
「もちろんです!」
「お任せください!」
僕が差し出した手に三人の手が重なる。
彼等の笑みに思わず胸が熱くなった。
「では、早速になりますが今の各々の状態を整理しておきましょう。それを見て明日の戦い方を決めていきたいと思います」
よろしいですか、と僕達に問いかけるその瞳に頷く。
まずはヴェルフが、次に命さん、その次にリリが。
持ってきた装備や
「……単純な戦力だけで考えるとやれることは多いですが、如何せん人数が足りませんね。リリは戦えないので実質三人……そういえばライラ様がヘルメス様が動いているとかなんとか呟いていたような……」
指揮を学んだというリリを中心に明日の
念のため、剣の柄に手を置き、その姿が見えるまで注意深く見ていると……その影が僕がよくお世話になっている人物のものだと気付いた。
「ここにいたのですね」
「リューさん!?」
腰まで届くフードのついたケープを来ているのは彼女ぐらいしか知らない。
フードを払い、整った相貌と空色の瞳を露わにしたリューさんに僕達が驚きを隠せないでいると僕達の質問を読んでいるかのように言葉を紡ぐ。
「ヘルメス様に依頼され、助っ人として馳せ参じました。微力ですが、力になりましょう」
微力だなんてとんでもない。リューさんはLv.5、それに甘えない都市最上位に踏み込む『技』と『駆け引き』、さらには
そんな人が味方になってくれるのは本当にすごく心強い……けど。
「ま、待ってください! リュー様が助っ人となってくれるのは非常に、いや本当にものすごくありがたいことなのですが、条件を満たしているのですか!?」
それだ、それが大問題だ。
助っ人の条件は都市外に籍を置いている【ファミリア】から一人。
リューさんの主神アストレア様は
条件を満たしていない可能性が高い、のかもしれない。
「そこは依頼を受ける際に私も質問しましたが、問題ないとのことです。ヘルメス様がそう仰っていたので条件は満たしていると考えてよいでしょう」
「ヘルメス様が……?」
それなら、大丈夫かもしれない。
ヘルメス様……神様がこういった催しの
ということはアストレア様はオラリオでよく話題に上がる神様なのに都市外に籍を置いているという不思議な状況にある……のかな。
「そ、それならば良いのですが……本当に力を貸していただけるのですか?」
「二言はありません。ただ、一つ条件があります」
リリの質問に答えたリューさんが僕に視線を向ける。
「あくまで私は力を貸すだけ。この戦いの決着は
僕を射抜く空色の瞳に静かに頷く。
言われるまでもないことだ。
「……必要のない確認でしたね。その顔が出来るのなら、力を貸す価値があります」
少し吊り上がっていた空色の瞳が和らぐ。
小さく笑みを浮かべたリューさんはリリの元へと歩むと二人で明日へ向けた『指揮』についての話を始めたようだった。すぐにそこにヴェルフと命さんが混ざる。
(……勝とう、絶対に。無事に終わらせて、みんなで帰るんだ)
沈む夕陽に目を細めながら、強く心に誓う。
僕を呼ぶリリの声が聞こえる。それに返事をして、僕はみんなの元へと走った。
シュリーム古城跡地。
『古代』の時代に築き上げられた防衛拠点の一つ。
ダンジョンの大穴を封じ込める『蓋』が完成する以前、モンスターの進行を食い止めるためにこういった防衛拠点が
「…………」
城砦の中で一際高い塔、玉座の間で団長であるヒュアキントスが月明かりに照らされながら物資を運び込んでいる団員達の姿を窓から見下ろしていた。
「他の奴らを働かせておいて自分は高みの見物とはいいご身分だなぁ、団長さんよ」
その背中に一人の男が言葉を投げかけた。
嘲りの色を乗せたその声にヒュアキントスが煩わしそうに振り向く。
「何故貴様がここにいる。さっさと下へ降りて物資でも運べ」
「なんで俺がそんなことをしなくちゃならねえんだ。偉そうな口利いてんじゃねえよ馬鹿が」
今は同盟……協力関係にあるとは思えないほどに険悪な雰囲気。
もう一つきっかけがあればこの時点で戦闘を始めてしまいそうな二者の睨みあいに彼等の近くで慌ただしく動いていた団員達も足を止める。
「……ヒュアキントス、ちょっといい?」
その最悪な空気を読まない女性の声が扉の方から届く。
睨みあっていた二者がそちらに視線を向けると呆れた顔をしたダフネがそこに立っていた。
「はっ、こんなとこでやり合ったって意味はねえわな。精々俺の足を引っ張らねえように頑張れよ、【
心底見下すような笑みを残し、男は玉座の間から去っていった。
険悪な空気は男が消えてもすぐには消えず、呪いのようにその場に残り、その場にいる彼等の精神を蝕む。
それを払うようにダフネが一つ手を叩き、大きな音を出した。
「ほら、手を止めないで準備を続けて。少しでも進めないと」
彼女のよく通る声に団員達は肩を揺らし、時々団長の様子を伺いながら動き始めた。
それを見たダフネは大きなため息を吐き、ヒュアキントスに視線を移す。
「気持ちはわからないでもないけど、少し落ち着きなさいよ。もうすぐ始まるっていうのにこんなところで争ってちゃ勝てないでしょ?」
「……ああ、わかっている。だが……一体何故アポロン様はあのような者と協力しろなどと……我々は信頼されていないのか……!」
気持ちを落ち着かせるように玉座に座ったヒュアキントスだったが、その程度で落ち着くわけもなく、肘掛けに拳を叩きつけた。
音を立てて崩れ落ちる肘掛けを横目にダフネはそんな彼に同情に近い思いを抱く。
ヒュアキントスが語った男達は彼女の目から見ても酷い者達だった。
対等の協力関係だというのに物資の運搬や城砦の補修などを行わないのは序の口。あちらこちらで勝手気ままに過ごし、気に食わないことがあれば他の団員にすぐに当たる。
彼等のせいで何本の
「あんなのでも実力はある。気に食わないのなら使い潰せばいいよ」
しかし、素行は悪いが実力がある。
特に先ほどまでこの場にいた
「……アタシは他のところを見てくる。あんたは
主神の采配に不服を抱き、主神の采配に不服を抱いてしまったそんな自分を嫌悪する彼の肩を叩き、ダフネは玉座の間を出る。
ここに来たのは先ほどの男が向かっているのが見えたからであり、本当は用はなかった。
城壁の補修の確認をすることにしたダフネが城壁の上に着くと誰かが彼女に近付く。
「ダフネちゃん……! 駄目、ここから逃げよう……!」
「カサンドラ……? ああ、また『夢』の話?」
暗い空の下でもわかるほどに顔を青褪めさせたカサンドラ。
あまりにも悪い顔色に一瞬心配の表情を浮かべたダフネだったが、それが『予知夢』の話だと気付くとすぐにうんざりとした表情を作った。
「そんなのに付き合ってる暇はないのよ。あんたもさっさと準備を────」
「……っ、駄目! あの人達を好き勝手にさせたら!」
今までと同様に一蹴しようとしたダフネだったが、突然城壁から身を乗り出したカサンドラに困惑した眼差しを向ける。
この子にしては大きな声を上げたな、と彼女が身を乗り出した城壁の下を見たダフネはその瞳を大きく見開き、勢いよく彼女を押し倒した。
「ダ、ダフネちゃ」
「黙りなさい……!」
自分の下でまた大声を上げようとするカサンドラの唇に人差し指を当てて黙らせる。
口を閉じたのを確認したダフネは補修が終わっていない城壁の穴からその下を覗いた。
(……あいつら、一体何を……?)
見えたのはゴーグルの男と共にいた冒険者達の姿。
周囲を注意深く見渡しながら、眼鏡をかけた男を中心に何かを話しているがその声まで聞き取ることは出来ない。
(何かを運んでる……いや、もう運び終わった?)
微かに見える物資を運んでいないにしては汚れている服や腕に汗と疲労が滲んでいる顔。
確定とまでは言えなくとも、そんな予想はつく。
男達が去っていくのを見送ったダフネは知らず詰まっていた息を大きく吐き、カサンドラに手を差し伸べる。
「あ、ありがとう」
「……カサンドラ、どんな『夢』を見たのか聞いてもいい?」
目の前で片目を大きく見開いたカサンドラを見て、聞く必要はない、と何かに意識を奪われそうになりながらダフネは彼女の言葉を待つ。
「え、えっとね……炎の大壁が月の光を纏った白兎を守って、それから……星が降り注いで、城が押し潰されて、私達の何もかもが引っ掻き回されて……うう……」
誰にも信じてもらえない『夢』が信じてもらえる。
それを意識しすぎたのかカサンドラは支離滅裂な発言を繰り返してしまった。
話が繋がらず、やはり信じる価値はないのか、どうして信じようと思ったのか、と頭を過ぎる考えがかき消され、ダフネはもう一度その『夢』を一蹴しようとする。
「それと……『花』が、咲くの」
「……っ、もういいわ」
そこが今の限界だった。
それ以上踏み込むことは出来ず、ダフネはそれを一蹴した。
自分の返答に嘆きに暮れるカサンドラを置いて、彼女は踵を返す。
「あ、ああ……このままじゃ、みんな……殺されちゃう……」
震える唇が紡いだその言葉は誰にも届くことなく、風の中に消えていった。
都市が賑わいを見せている。
待ちに望んだ
今日ばかりはほとんどの冒険者達が休業し、酒場に詰め寄り、何とか休暇を得た都市の労働者達、一般市民も大通りや
『あー、あー! えーみなさんおはようございますこんにちは。今回の
こちらも多くの人が集まっているギルドの前庭では仰々しい
『解説は我らが主神、ガネーシャ様です! ガネーシャ様、それでは一言!』
『────俺が、ガネーシャだ!』
『はいっありがとうございました!』
実況者イブリの横で象の仮面を被った男神、ガネーシャが吠えると観衆は一斉に喝采を送った。
わざわざこの催しのために他地域の者が足を運ぶことはざらにあり、都市と連携する商人達はそこで入場料を取り、ギルドは都市の力を見せつけると同時に有望な冒険者を都市へと引き込む。
そして何より、
「盛り上がっとんなー」
ロキが窓に顔を押し付け、眼下で盛り上がる観衆達を見下ろす。
白亜の巨塔『バベル』三十階では誰よりもこの催しを楽しみにしていた多くの神々がこの場に赴いていた。ヘスティア、アポロン、両神も同様だ。
ここにいない神は興味がないというわけではなく、酒場で子供達に混ざって賭け事に興じている者もいれば、ホームで眷属達と共に見守る者と他にも様々いた。
その中に主神に同行させられた一人の子供が居心地悪そうにしていたが、それを主神であるヘルメスが笑い飛ばす。そんな
「頃合いかな……それじゃあ、ウラノス。『力』の行使の許可を」
『────許可する』
ヘルメスが何もいない宙に話しかけると数秒を置いて、応える声。
重々しく響き渡った神威のこもった宣言を聞き届けた都市中の神が一斉に指を弾き鳴らした。
瞬間、街角や酒場、虚空に浮かぶ『鏡』が出現する。
下界で行使が許されている『
色めき立ち、一気に盛り上がる観衆に実況が改めて
「もういいかァー!? 賭けを締め切るぞ!」
実況の声が外から届く数多くの酒場の中では商人と結託した冒険者による賭博が行われていた。
ヘスティア派とアポロン派、どちらかへの勝利に大金を賭けた冒険者達は酒を片手に『鏡』に視線を注ぐ。
「アポロン派とヘスティア派、二十五対一ってところか……」
「ヘスティア派の
ある酒場では想像よりもヘスティア派に賭ける者が多いことに胴元の冒険者達が不思議な顔を浮かべ、またある酒場では────
「なんだよ、アポロンに賭ける奴しかいねえじゃねえか」
勢力状況的にどう考えても有利なアポロン派にしか賭けてこない冒険者達に胴元がつまらなさそうな表情を浮かべていた。
しかし、つまらねえ、と愚痴る胴元の前に一人の冒険者が金貨が詰まった袋を叩きつける。
「────『兎』に十万!」
モルドである。
周囲の客から大笑いを浴び、狂ったのかと馬鹿にされ続ける彼はそんな者に目を向けることもなく、椅子の上で両手を組んでふんぞり返る。
都市中はどこを切り取っても盛況の一途を辿っていた。
「…………」
「…………」
唯一盛り上がっていないのは二柱の神だろう。
離れた席に座る二人はほとんど動くことも喋ることもなく、目の前の『鏡』に集中している。
その姿にはさしもの神々も茶化すことは出来ず、遠目から見ることしかできなかった。
『それでは、間もなく正午となります!』
実況者の声がはね上がる。
都市中の観衆のざわめきが波のように広がった。
冒険者達が、酒場の店員達が、神々が、全ての者の視線がこの時『鏡』に集まった。
『
号令の下、大鐘の音と歓声とともに、戦いの幕は開いた。
単純なものになりますが、助っ人の条件についての詳しい話は次話以降に書かせていただきます。
ここまで見ていただきありがとうございました。
これからもどうかよろしくお願いします。