【ゴブリン・プリンセス】 ~TS姫様は冒険者なんて大っっっ嫌い!!~ 作:GR/フィルン
今度は読みやすさを少しは意識してるのでお付き合いいただけたら嬉しいです。
「これより! エレツ王国が第一王女、アレリア・オルトナー姫殿下の王位継承権授与の儀を執り行います!」
厳かな静寂に響き渡る声の中で、目を閉じた緑髪の美しい少女は遠い過去に想いを馳せる。
ー覚えているー
『実り始めた充足の日々があったことを』
開かれた双眸が黒い瞳の輝きを放ち、前を見据えると壇上に立つ国王がこちらをしっかと見つめている。
「おめでとうアレリア。これからはお前にも王族の責務を果たしてもらうぞ」
「はい、父王様。これより私は正式な王族の一員として力を尽くし、この国を導く者へと成ります」
父であるクタリヤ・オルトナーの前でこうべを垂れ、アレリアは決められた字句をその通りに宣誓する。
ー覚えているー
『かつて己が支配していた民草たちがいたことを』
「今日だけはこの玉座に座るが良い。そして何れ来る治世の時を見て、その知恵を研ぎ澄ますのだ」
「はい。今日という場をお借りし、この身の昇華の糧とさせていただきます」
腰を上げ玉座の後ろへと立つ父王の元へと段を昇って歩き寄り、父に一礼したのちに背を向け、王の間に居並ぶ家臣達へとツリ気味の黒目を向ける。
-覚えているー
『目指した繁栄も安寧もほんの僅かの間しか手元になかったことを』
「次代の王の継承を約束されたアレリア姫殿下に臣下一同忠義を尽くさせていただきます! 一同、礼!」
「「王位継承権を得られた事、誠に御目出度う御座います姫殿下!!」」
大臣の言葉に合わせて王の家臣達が貴族達が一斉に玉座に座った姫君へと腰を曲げ、祝福の言葉を告げる。
-覚えているー
『焼け尽きた自分の国の荒れ果てた景色を』
「アレリア、これが王の景色だ。覚えておけ。そして導く者へと成れ」
「はい。お父様。私は誰にも負けぬ王となりましょう」
「誰にも負けぬ、か。お前が嫌うものは知っているつもりだ。だが私はお前の熱意を誰よりも買っているのだ。道を誤るなよ」
「もちろんです。お父様」
家臣たちが面を上げ、万雷の拍手を送る中で父と娘が為政者としての言葉を交わしあう。
少女に浮かぶ硬くも決意に満ち満ちた顔に父王は思わず苦い顔をしそうになるがここは祝福の場だ、僅かに頬を歪ませるだけで王は外向きの笑顔を絶やさなかった。
-覚えているー
『自分たちに刃を向けたのが何者であるのかを』
「それではこれより我が国を支える官職貴族達より姫殿下に改めてご挨拶をさせていただきます」
進行役の大臣の言葉により決められた順番に沿って国を支える者たちが列をなし、それぞれ言葉を交わしていく。
寿ぐ言葉に硬い表情ながらも丁寧にアレリアは言葉を返していく。
だが、そんな中である人物の番が回ってきたとき、周囲を含めた空気は緊張を孕んだものへと一変してしまう。
-覚えているー
『自分の心臓を貫いた大剣の灼けるような冷たさを』
「この度は王位継承権を得られたこと、誠にお慶び申し上げます」
「レン・バーランドね」
「はっ! 美しく聡明で誠の淑女である我らの姫に、我が剣を捧げます」
「…………っ」
壮年黒髪の王国騎士団長が背負っていた儀礼用の大剣を恭しく捧げ持ち、膝をつく。
それに対して、それまで緊張を滲ませながらも言葉は穏やかに家臣たちと接してきた王女の顔が苦々し気な顔へと露骨に変わる。手が自然と左耳の無事を確かめようと上がってしまう。
-覚えているー
『弟の腕から流れる血しぶき、斬られた耳の痛み、殺された家族や仲間たち、告げられた侮蔑の言葉』
「おのれ……ぬけぬけと……っ」
「ん、今、なんと……?」
「黙りなさい。レン・バーランド。私は、お前が嫌いです」
「……承知しております」
それは王国重鎮の誰しもが知る確執。だが、その本当の理由は誰も知らない。悪口を投げつけられている騎士団長当人でさえも。
父王もアレリアの後ろで片手で頭を抱えてしまっているが、まだ止めることまでは出来ない。
家臣達は小さな声で今日という日でさえ起こってしまった王宮の頭痛の種にため息を吐く。
「このような場でも姫様は抑えられませなんだか」
「本当にどうして……。彼と筆頭術師殿にだけあれほど手厳しいのか」
「あれさえなければ可憐でありながらも理知溢れる素晴らしい姫様であらせられるのに」
囁きあうような声など聞こえない。
-覚えているー
『悪鬼のような黒髪の冒険者の、悪夢のような笑みを』
「かつては冒険者にその身をやつし、ゴブリン殺しの成果だけで騎士となり、遂には騎士団長まで登り詰めた者よ」
「はっ」
「私は冒険者が嫌いです。醜く愚かで真に野蛮な者達。それを出自に持つお前と私が相容れる事はありません。よくよく忘れないことです」
「はっ。しかと胸に刻み、忠義を尽くさせていただきます」
「……ちっ。忌々しい」
公然での侮辱に激昂でもしてくれれば、いかようにでも揚げ足を取って討ち捨てる事もできようが、騎士団長は姫のそうした意図を見透かしているのか、臣たる態度を崩さずに言葉も所作も恭しくあり続け、その場を辞していった。
「……ヒヤリとさせられましたな。姫様の冒険者嫌いにも困ったものです」
「まったく。かの御仁がいなければ、この国はあのゴブリン災禍にて滅びていたかもしれないというのに、どうしてあれほどまでにお嫌いになられるのか」
「強きを貴ぶこの世で武を示し、王位継承者に息子を婚約者としてあてがうほどに成功している騎士団長殿にもよもやこんなつまづきが訪れるとは、まったくこの世は分からないものですね」
「ほんとうに」
ざわめく家臣達を前に流石に度の過ぎたやり取りが為に王に諫められた王女は、元の落ち着いた表情を取り戻し、家臣たちの続く祝福の言葉に応じていったのであった。
-覚えているー
『彼の者に災いあれと呪った魂の慟哭を』
王女の脳裏で黒髪の冒険者と騎士団長の面影が重なる。
(続く)
次回、『王女アレリア』
気にしていただき、読んでいただいてありがとうございます。
次回の投稿は本日21時頃です。
しばらく日に複数回の投稿をさせてもらうと思います。