【ゴブリン・プリンセス】 ~TS姫様は冒険者なんて大っっっ嫌い!!~ 作:GR/フィルン
「アレリア・オルトナー姫殿下のご入場です!!」
さほど広くはないアレリア用の謁見室に兵士の声が響く。
部屋の中程に待機していた数名の者たちがその声を聞いて膝を突きこうべを垂れる。
彼らはマントを羽織った動き易い格好をしており、いかにも冒険者といった風情の者達であった。
彼らより何段か高く上げられた上座とつながる扉が開き、そこからアレリアが現れる。
カッカッカッと威勢よく歩いて自らの椅子に近付くと座る前に、僅か椅子の背に手を当ててボソリと誰にも聞こえないように呟く。
「そうだわここの椅子は売ったんだったわね……」
かなり残念な背もたれ付きの木の椅子は白いシーツを被せただけの座でなんとも言えない侘しさがあったが、授与式を開く為の資金にと元あった手摺りが猫の手になっているそこそこ立派な腰掛けは今や何処かの好事家のもとに行ってしまっていた。
結構なお気に入りであった為に残念がるアレリアだったがそれ以上は逡巡せず、どかっと不機嫌を表すように荒く椅子に座る。ぎしぃっと軽いアレリアの身体を受け止めただけなのに椅子がイヤな軋み音をあげたのに少しギョッとするが、これ以上椅子一つにかまけていられなかった。
「よく来たわね。顔を上げていいわよ」
「はっ」
それまで静かに膝を突いていた冒険者達が許しをもらって顔を上げアレリアへと視線を向ける。
その4人分の冒険者の視線に思わずうっと呻きかけてしまう。
人間は怖い。冒険者はもっと怖い。前世のトラウマがそう告げている。
なので、つい本能的に唸り声を上げ、威嚇をしてしまいそうな衝動を感じる事もあるが、アレリアとて過去が並のゴブリンであったわけではない。
王まで至った者の矜持として、そしてなんだかんだと言いながらも既に丸13年の月日を人間として過ごしてきた経験から、取り繕い方ぐらいは心得ている。
反射的に上がりかけた声をグッと堪え、なんとかそれほど動きには出さずに言葉を続ける。
「ま、ずは、おめでとう、と言うべきところね。冒険者風情の身分でまた私に謁見出来るほどの功績を上げたことを褒めてあげるわよ。えらいえらい」
喋りながら調子を取り戻したアレリアは尊大に上から言い放つ。
「うぇー、やな感じぃ」
「おい相手は姫様だぞ」
「相変わらず嫌われてるよねー。なのにそれでも来ちゃうウチらのリーダー頭おかしいわー」
アレリアの物言いにボソボソと文句を垂れているのは前1人後ろ3人の配置で並んだ後ろ側の女3人組であった。
逆に前に一人でいる男はなぜか今にも笑い出しそうであった。
「くー、ツンデレ姫様やっぱ可愛いー」
「ん、何か言ったかしら?」
「いえ、直答をお許し願えますでしょうかアレリア姫様」
「え、やだ」
男が笑みをこらえるようにしながらすっと上げた手の行方は、アレリアのにべもない拒絶でゆらゆらと彷徨ってしまう。
一瞬妙な沈黙が流れるが、今回は功績を評する場なのでこのまま追い返すわけにもいかない。
「……直答を、お許し願えますでしょうか?」
「はいはい。いーわよ」
再度の願いに仕方なくアレリアが許可を出す。体裁を取り繕う気があるのかすら疑わしいかなり雑な対応だった。
だがこれでよいのであった。
「まずは暫くぶりにお目通り叶いました事ありがとうございます。また姫様におかれましては王位継承権の授与を得られましたこと誠におめでとうございます」
「そーね。ありがとう。賛辞は素直に受け取っておくわ」
「そして何よりそのフランクな対応! 前回の俺の願いを聞き届けていただき感謝の念に堪えません!」
「一応褒美の扱いだものね。未だに信じられないけど。どうかしてるんじゃないの。本当はこっちだって威厳とかそういうのを示さなきゃいけないのよ分かる? この、ヘンタイ!」
「あぁ!」
「ロリコン」
「おうふっ!」
「ばーかばーかざーこざーこ」
「最高ですっ!!」
「…………はぁ」
先頭の男が身もだえる。同行の女子達は完全に引いていた。
前回彼らはワイバーンの群れを地方都市に被害が出る前に撃退したとして、アレリア姫直々の言葉を贈るほどに価値がある功績をあげていたのだった。正確には金銭だけで褒美を賄うのが辛かった王家の苦肉の策として、国民からその美しさと可憐さで人気の高いアレリア姫との直接の謁見の場を提供するという栄誉をもって報酬の一部にあてていた。
更にはその減らした報酬すら、お金の代わりに今後はフランクにむしろ粗雑に話しかけて欲しいなどと言うトンチキ極まる内容で要求され、あろうことか金銭を払わずに済むならと国の上層部によって了承されてしまったのが今の残念な会話の由来だった。
なお、報酬を謁見の栄誉に代えるのは実力ある同類の変態ばかりなので、メローヌ言うところのハニートラップとはつまりこういうお仕事ばかりなのであった。
ハッキリ言わなくても分かる、汚れ仕事だった。
「は~~~~~。やっぱり冒険者なんてクズばっかりだわ」
「否定は致しませんが、今回も俺達は成果を上げましたので、表彰いただければ幸いです」
「西の街道の盗賊団退治ね。確かにとても助かったわ。輸出品の護衛費が上がりだしてたから困ってたのよね。今の騎士団の規模じゃ街道全部はカバーしきれないし、まさか1パーティで倒しちゃうとはね」
「お褒めにあずかり恐悦至極です。ですが……」
「ん、なにかしら」
アレリアの言葉をありがたく受取つつも、どこか不満そうな男の物言いにアレリアが眉根を寄せる。
それだけで不敬に問うてもいい態度だが、貧乏ゆえに金銭を栄誉という何かでまかなっている側としてはそう強くも出れない。妥当な報酬を払ってくれと言われても、その僅かな予算も既に街道の修繕費やらなにやらにあてられてしまっているのだ。
そんな男冒険者が真面目な顔で続けた言葉はさらに力の抜けるものであった。
「褒美の言葉は罵倒でいただければと思います。なんでしたらセリフを書いてきましたので、こちらを読み上げていただいても」
「やだもうほんとこいつ」
控えていた侍女のメローヌ経由で恭しく渡された西方語で書かれたメモを見て、アレリアは更に顔を嫌そうに歪めるのであった。
「ええと、なになに。「ふーん、あんなちんけな盗賊潰した程度で褒めてもらえると思ってたの? ばっかみたい。雑魚雑魚冒険者がイキがっても……」って本当にこれ読むの? 私の頭がおかしくなったと思われない?」
「くっ、天然物じゃなくても本物の可愛いお姫様からもらえる生罵倒……っ。明日からもこれで生きていける……!」
「あ、いいのね。分からない世界だわ。後ろの子達も本当にこれで納得してるの?」
後ろで頭を抱えている三人組が流石に憐れになって話しかけると、直答を許された彼女たちは弱々しく答える。
「正直納得は出来て……、ない、ですけど、彼の決めた事なら……」
「普段はちゃんとしてて良い所もあるので、この時だけだと思うようにしてます」
「リーダー君本当にこれを生きがいにしてるんですよねー」
不満は言いつつも止める気はないらしい。どうやら彼女たちもそこそこ拗らせているようだった。人間14年目に過ぎないアレリアではまだ理解できない領域だ。
「そ、そう。よく分からないけど進めて良さそうなことは分かったわ。……これ全部読んだら報酬は何もいらないって書いてあるけど、本当にいいのよね?」
「「「はい……」」」
「不憫すぎるわ……」
これにはアレリアをしても同情せざるを得なかった。
(つづく)
今日も読んでいただきありがとうございます。
次回投稿は明日の今頃です。