【ゴブリン・プリンセス】 ~TS姫様は冒険者なんて大っっっ嫌い!!~ 作:GR/フィルン
男冒険者が威勢よく続きを請う。
「ということで、さ、姫様! ぜひ続きを! 続きをお願いします!」
「あんたは少しぐらい後ろの子達に悪いと思いなさい、この唐変木っ!」
「おおふっ。心のこもったお叱りのお言葉肝に銘じておきます」
「ほんとに頼むわよ……」
様々な諦観に包まれながらアレリアが渡されたメモに再度目を通す。
どうやら冒険者のリーダー側のセリフもあるらしい。
ちょっとした寸劇めいた臭いがした。
「私は役者になるつもりはないのだけどもね」
「姫殿下の寛大なるご高配を何卒賜りたく、是非、お願いできればと存じ申し上げる次第に御座います」
「ここぞとばかりにどこで覚えてきたのかしらね、そんな言葉遣い……」
もういっそ不敬にしてしまおうかと思ったが、これでも国内ではトップクラスの実力を誇る上級冒険者パーティーであるし、国とすればアレリアの心労を除けば維持費もかからず実質タダ働きさせられる便利な戦力には違いない。
ここで望むとおりにしてあげれば次の戦果もまた実質タダで得られる可能性すらある。
逆に手討ちにした場合、最低でも本来の報酬の何割か程度は残った者に払わねば多少でも遺恨は残るし、何もかもを王権でごり押し出来るだけの力は今の王家には欠けている。こんな所で余計な不満の種を産むのも莫迦らしい。
そんな風にグラグラと頭の中で天秤を高速で揺すった結果、アレリアは茶番に応じることを決意したのだった。
「まぁいいわ! とっととこのおバカに褒美を与えて帰ってもらうことにするわ。ほらやるわよ」
「はい! ありがとうございます!」
「そうね。どうせやるならこないだ読んだ本みたいにしようかしら」
「また変な本読んでたんですか姫様」
なにやらついでにやろうとしているアレリアを見てメローヌがじとりと言うも、アレリアは華麗にスルーした。
立ち上がるとヒールを鳴らしながら男の元へと歩いていく。
「うぉ、姫様ちかっ、かっわ……っ!」
なにやら男冒険者が感動で震えているが、アレリアの関知するところではない。
「ひれ伏しなさい」
「はっ!」
男冒険者は片膝で跪いて見上げていた姿勢から、両膝をついて頭を下げる。
「もっとよ。額を床に擦り付けるまで下げなさい」
「ははーっ!」
「え、これあたしらも……?」
「あぁ、貴女達はいいわ。このバカの茶番に付き合わせるのは流石の私でも可哀想だって分かるもの」
「すいません。ありがとうございます」
複雑そうな表情をしながらもホッとした様子を見せる女冒険者達。
それでもどう見ても慕っているはずのリーダーが、目の前で無様なポーズを取らされているのを見せつけられる可哀想さまでは、アレリアにはどうしようも無かった。
そしてアレリアはヒールの足先裏でリーダーの額を押して顔を少し上げさせると、かかとのヒールを床につけてから爪先をリーダーの顎に引っ掛けて首だけを上に向けさせた。
「うっ……」
「ふん。憐れなものね。冒険者ごときがいい気味だわ」
「いや姫様ノリノリ過ぎます、どんな本読んじゃったんですか」
「なんか、悪役令嬢がどうとか?」
「よりによって、と言うしかないですね」
さしものメローヌも無表情ながらため息を吐きそうになる。
だが茶番は始められた。
「じゃ始めるわよ」
「くっ、よろしくお願いします」
アレリアは渡されたメモを片手に読み始めていく。
「ふーん、あんなちんけな盗賊潰した程度で褒めてもらえると思ってたの? ばっかみたい。雑魚雑魚冒険者がイキがっても、この程度で満足してるなんてほんとヨワヨワね」
「くっ、このメスガキが……っ」
「それでぇ、ダメダメお兄ちゃんは、……ってちょっと待って早くもツッコミどころが二つも出来たわ」
「お願いします」
つま先でリーダー冒険者の顎クイをしたままアレリアが膝に肘をついて顔を寄せ、ジト目で睨む。
近距離での可愛さにやられリーダーの心拍数は大幅にあがった。
「うっ、可愛いが過ぎる」
「誰がメスガキなのかしら? いい加減不敬で処すわよ!? それとなにこのセリフ、なんで私がアナタみたいな冒険者風情を「お兄ちゃん」なんて呼ばなきゃいけないのよ!!」
「そこは平に、平にご容赦を!! 様式美なんです! 靴でもなんでも舐めますから! なんでもしますので!」
「いやよ。汚い」
「お慈悲を何卒。これが俺の生きる糧なんです!」
「勢いで押し切ろうとしないでちょうだい」
足で顎クイされた顔を無理やり地面にこすりつける様な必死さでリーダー冒険者が懇願する。
余りの必死さに、アレリアも段々ともうなんでもいいやという気分になってくる。この茶番を早く終わらせる方がいいと思えてしまうのだ。
「いいわもう。問答するのも面倒だわ。最後までやってやろうじゃないの!」
「わーお姫様、案外流されやすい」
「黙ってメローヌ。不敬にするのも手間なの。分かって」
「はい」
軽く眉間を押さえるアレリアの心労は募るばかりである。
王族貴族のプライドよりも実利が優先されてしまう貧乏国家の憐れであった。
ざーっとメモに目を通してセリフを頭に入れると、更にいくつか無視できない言葉が目に入ったがいったん諦めて前に進めることを決める。
リーダー冒険者の顎をクイする足先に改めて力を入れる。
「仕切りなおすわよ」
「お願いします」
「ふーん、あんなちんけな盗賊潰した程度で褒めてもらえると思ってたの? ばっかみたい。雑魚雑魚冒険者がイキがっても、この程度で満足してるなんてほーんとヨワヨワね」
「くっ、このメスガキが……っ」
「それで? ダメダメお兄ちゃんはどれだけ頑張ったつもりなのかしら? 少しは成果もあったのよね?」
セリフに慣れてきたのか嗜虐的に笑いながらアレリアが足先を左右に振って、リーダーの頭をゆらゆらと揺する。
「うぐっ、俺たちは、四つもの盗賊団を壊滅させてここに来ているっ」
「四つ?」
それは聞いていた西の街道の盗賊団の情報と違っていた。
「そうです。奴らは実際には四つのグループが協力して連携しながら街道を襲っていたのです」
「どうりで首魁の正体が掴めなかったわけね」
「俺たちはそれを突き止め、奴らの各個撃破と、ついでに戦闘中に横槍を入れてきたゴブリンの群れを根城にしていた遺跡ごと吹き飛ばして来ました」
「ふぅん。やるわね」
何度か担当の騎士団が赴きながらも、なぜか全滅していなかった盗賊団を潰せたのは大きい。
好き嫌いは置いておいて素直に褒めていいぐらいには十分な成果だったが、リーダーはそれを望んでいないらしい。
仕方なくアレリアはメモに書かれた通りの言葉で彼を煽り倒す。
「ぷっ、その程度ぉ? 大の大人の冒険者が必死に頑張ってその程度なんだぁ。お兄ちゃんってよっわぁ。ざっこぉ。どうせイキがるなら」
そしてちらりとメモに目を落とすとそこには、「(お好きな依頼内容をお申し付けください)」と書いてあった。どうやら無理を押している彼なりの誠意らしい。変態としてはまだ自覚がある部類のようだ。変態であることに変わりはないが。
それを見て一瞬アレリアが思案する。
なんでもいいのならば頼みたいことは確かにあった。それは彼女やこの国にとって、とても役立つ価値のある依頼だ。
「そうねぇ。どうせイキがるなら、そう、見つけなさい。ゴブリン・ジェネラルを。私はそいつの行方が知りたいわ」
「ジェネラル、ですか。まさかあの災禍の生き残りといわれる?」
「そうよ。ロードの片腕として被害を助長させ、かつその死を誰も確認していない隻腕のゴブリン・ジェネラル。異常成長し特級難度にも比するそれがどこに今いるのかを見つける。その程度、大人の冒険者なら誰だって出来るのよね?」
足を引き、尊大に指をさし下ろして命令するアレリア。
ごくり、とその依頼の難易度を想定してリーダー冒険者の喉が鳴る。見つけるだけとはいえ上級パーティーでも1パーティーでは荷が重いと言わざるを得ないレベルの話だ。
だが、彼はその無茶ともいえる要求が姫の所望するところだと余すことなく感じ取り、ニヤリと笑みを浮かべて台詞を返した。
「……ふふっ、あんまり大人をなめるなよ。俺はメスガキのぬるいお願いなんかに負けたりしないっ。次も褒美をもらいにここに来るのは、この俺だっ!」
「あぁ、リーダーがまたヤバイ難易度のタダ働き宣言を……っ」
「いつか、いつか必ず彼の目を覚まさせるわ」
「生きる目標が続いて良かったねー、リーダー君」
後ろで女冒険者達の嘆きプラスアルファが聞こえる。
拗らせ女子達は置いて、アレリアはリーダー冒険者の言葉に満足した。
「いい返事ね。その気概なら不敬な口調も不問にしてあげるわ。但し、倒さなくていいわ。居場所を見つけるだけ。私はそいつに用事があるの。死体が欲しいわけじゃないわ、間違えないことね。それと、他言は無用よ」
「お望みどおりに」
地面すれすれまで下げた頭を更に下げて床に擦りつけ、リーダーが平伏する。
金払いの厳しいこの国で冒険者を続けていく事は、他の国でやるよりもメリットが少ない。
だが、ちっちゃくて可愛いお姫様から罵倒されながら依頼が直接貰える国など他には無い。このリーダー冒険者が生きていくべき国はこのエレツ王国以外には無いのであった。
アレリアがメモを見ると最後に「(終わりましたら、最後は死なない程度に思いっきり蹴ってください)」と書いてあった。
呆れから深い深いため息がアレリアから溢れる。
(つづく)
読んでいただきありがとうございます。
次回の投稿は明日の今頃です。
評価・お気に入りありがとうございます。