【ゴブリン・プリンセス】 ~TS姫様は冒険者なんて大っっっ嫌い!!~ 作:GR/フィルン
腹いせもかねて望み通り以上にしてやろうかと思ったところで、一つ聞きたいことが出来ていたのを思い出す。
「そういえばゴブリンも潰したのね。気になることはあったかしら?」
「ん、ゴブリンですか」
「えぇ」
やはりアレリアとしては、前世の同族達がどうしているかは気になって仕方がない。
訊ねると、伝えるに値すると思える程度には気になったことがあるようだった。
「そうですね。規模は十数匹程度の雑魚ばかりだったので俺たちの敵では無かったのですが、なめし皮の鎧に錆の無い武器とやたら装備が良かったですね」
「ふぅん。装備がね」
全員が上級冒険者ともなればその実力は十二分に高い。
評価に反してただのゴブリンではいくら集まったところで物の数にもならないのは当然のことであった。
「噂では聞いていましたが、躊躇なく毒だ罠だ奇襲だとしてくる中で武器までいいと、今までと勝手が違って少し焦りますね」
「そう」
それを聞いて思わずアレリアがにまっと笑いかけてしまうが、なんとかすぐに真顔に戻す。かつて煮え湯を飲まされた冒険者達をゴブリンが少しでも苦しめているのかと思うと、少なからず嬉しくなってしまうのだ。
「それと驚いたのは死んだふりまでして欺いてきたことですね。今までも無かったことではないですが、仲間の死体まで併用してこちらが完全に警戒をしなくなるまでピクリとも動かないのは驚きましたね。統率が取れているのだと感じました」
「へぇ、怖いわね」
そこまでの手管は自身がゴブリンであった過去を持つアレリアの記憶にも無いものだった。喜ばしい成長があるようだ。
「はい。姫様には言ってしまいますが、正直そこで仲間が一人深手を負ったぐらいには危なかったです。幸い大事には至りませんでしたが療養中です」
「あぁ、それで今日は一人少なかったのね。お大事にと伝えておいて」
「寛大なお言葉ありがとうございます」
アレリアとてそう全てに無慈悲なわけではない。
ここに来れなかった者を労うぐらいは出来る。
「興味深い話だったわ。さてじゃぁ、歯でも食いしばりなさい」
「はいっ!」
話しは終わった。
あとは望み通り最後の褒美を与えて終わりである。
思ったよりも得る物の多い場だったので、アレリアの蹴り脚にも力が入ろうというものだった。
長いスカートにヒールの靴という動きにくさだが、腰をひねって右足を引き、十分な力がのせられるように構える。
「いくわよ」
「お願いします」
ぐぐぅっと力をこめてから足を跳ね上げる。
床を蹴るようにして反発した勢いも加えた細い少女の脚が、体幹のねじりと混じって男リーダーの左側頭部に直撃する。
「こっの、駄犬っっっ!!」
「ありがとうございまっっっぷろぇぇぇぇぇっっーーー!!!」
横方向にかっとぶ様に吹き飛ばされていくリーダー冒険者。
すぐにアレリアから見た左側で鈍い激突音が響き、そちらではリーダー冒険者が壁に激突して目を回して沈んでいた。
「ち、力強い高貴な一、撃……。大変ご褒美、です……。がくっ」
「「「リーダーっ!!?」」」
「ふぅ。すっきりしたわ」
アレリアは魔術師である。
当然その真価は発せられる魔法魔術にあるのだが、肉体の鍛錬も怠ってはいない。
戦士として同格のものと渡り合うのは難しいが、それでも普通の魔術師の枠を越えた動き程度は発揮が出来る。
今のように十分な溜め時間があれば魔力を肉体の強化へと回し、歴戦の戦士を吹き飛ばすことだって出来なくはない。
ゴブリン・ロードだった前世の時、ギギスという個体名を名乗っていた彼も得意は魔法としていたが接近戦も不得手ではなかった。人間一人分を片手で掴んで振り回すぐらいの芸当は出来るほどには膂力があり、小鬼の王を名乗りながらもその身長は成人男性を大いに上回る程の成長を為していたのだ。
それを思えば今の華奢で細い少女の身体だとて、肉体を強めることに否は無かった。とはいえ不思議なことに力は増せども見た目には反映されず、その上昇幅も望むほどではないのが、アレリアの悩みどころであった。
「ま、こんなものよね」
幸か不幸か男リーダーの命に別状は無い。特に手加減をしたつもりはないが、上級冒険者にもなれば無防備に頭で受けても打撃では気絶させるのが関の山、アレリアの目的を考えれば物足りなさを感じてしまうところである。
彼女の標的であるレン・バーランドもエーデル・イーも、一人打倒するのにこの上級者パーティーが死力を尽くしても3組は必要になる。二人まとめてとなればその倍では足りないし、それだけの数の上級者パーティーなどこの国には存在しない。
実力だけで倒すにはまだ遠い存在と言えた。
蹴った感触を確かめながら、リーダーを回収して退出していく上級冒険者のパーティーを見送る。
彼らが去った後、静かにメローヌが近づいてくる。兵士も退き、今はアレリアとメローヌの二人だけだ。
「お疲れ様でした姫様」
「ありがと。ま、思ったより収穫はあったわね。茶番だったけど」
面会の内容を頭で反芻しながらアレリアは満足げに頷く。
そこにメローヌがふと、といった風情で語り掛ける。
「言うほど冒険者お嫌いじゃないですよね、姫様」
「え、別に大嫌いだけど?」
「……そういうことにしておきます」
考えながらの返答なので素の気持ちなのだろうが、自覚は薄いらしい。
メローヌはそちらの話の深堀りは諦める。
「ゴブリン・ジェネラルを、かつての弟を探すんですね」
「探すわ。もう籠の鳥も終わったし、本格的に動くべき時が来たもの。あの子の打倒報告でも聞いていたら諦められたけど、どこにもその情報は無い。まさか倒した人間が誇らないとは思えないし、あの子はきっとどこかで生きているはず」
ぎゅっと、その前世と比べて随分小さく綺麗になった手の平を握り、決意を新たにする。
「あの地獄の蓋を二回開けたみたいな戦場からも生き残れたなら頼もしいわ。私のかつての弟、ゴブリン・ジェネラル、グーギを見つけて傘下に入れる。それが私の今世の覇道にも必須だわ。必ず見つけ出すのよ」
「人間になっちゃった姫様の、味方になるとは限らないですけどね」
「するわ。だって私の弟だもの。そしてあの子やゴブリンがゴブリンとしての文化を誇れるようにする。それが途中でリタイアしてしまったふがいない王の翌世の責務よ」
「王は死んでも王、ですか。難儀ですね」
皮肉っぽくメローヌが言うが、アレリアは意に介さない。例え生まれ変わろうとも彼女は自分の生き様を変えるつもりはないのであった。
「さ、とりあえずは目の前の一歩よ! 次の予定を教えなさい。やっつけてあげるわ!」
「午前中はこれだけですね」
「あら、ぬるいじゃない」
「午後は昼食のあと、城内での視察1件に会議が2件になります。どちらもめいっぱい時間取られてるので、自由時間は諦めてくださいとのことです。なお明日は午前から御夫人方とのお茶会です」
それを聞いてアレリアの顔が一気に嫌そうなものへと変わる。びしりとメローヌに突きつけていた指もへんにょりと垂れた。
「お茶会……。いっちばん嫌いなんだけど……」
「王妃様からのメモで、もう逃がさないから諦めなさいとのことです」
「辛い……。人間との雑談だけの腹の探り合い辛い。一番意味が分からないわ……。鑑賞してるだけなら楽しいのに」
「では、移動になります。いきましょう」
「もうちょっと姫である私をいたわってちょうだい!」
「もたもたしてるとお昼ご飯の時間がなくなりますよ」
「……行くわ」
食欲に負け、アレリアがトボトボと歩き出す。
今のアレリアにほんの前までの勢いは既になかった。
そこを弄るようにメローヌが先ほどの寸劇を思い出す。
「ところで姫様」
「なによ」
「ああいう被虐嗜好があるのも人間の、文化、なんですか?」
「私に聞かないで。だから冒険者は嫌いなのよ」
人の闇は深い。
(続く)
次回、『ゴブリンの話』
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