【ゴブリン・プリンセス】 ~TS姫様は冒険者なんて大っっっ嫌い!!~ 作:GR/フィルン
ふにふにと柔らかく緩い楕円を描くその耳はかつてと違いきちんとそこにあった。たまに強く過去を思い出した時につい撫でてしまうのだ。そこにあった切り口をなぞる様に。
「あの時は本当に無茶したものね……」
「回想からお帰りなさいませ姫様」
「あぁ、うん。でもまさかかつて見たあの巨大な城に住めることになるとは思わなかったわねぇ。いつかあんな城を建ててやるなんて思ったものだったけど、結局自力ではダメだったものねぇ」
「あ、まだ大分帰ってきてませんねこれは」
遠い目をしてこれから帰る自分の居城を眺めるアレリアはまだ感傷に浸っているようだった。
「こんなに長く思い出に浸っているなんて、今日のお茶会はそんなに辛かったんですね姫様」
「えぇ、そうね。そう思うと懐かしいわ。向こうの城壁破りのスラム街はたまに行くけど未だにあのままだものね。こんな財政状況じゃ改善なんて出来ないし、まだまだあそこも手を加えられないわね……」
「ダメですね全然聞いてませんね。重症ですね」
メローヌがお手上げして主人を現実に連れ戻すのを諦める。
しかし、アレリアが更にボンヤリしようとして耽りかけた所で、現実は非情にも彼女を弄ぶのだった。
「あのスラム街には過去の私みたいなゴブリンがまたいたりするのかしら、いいえそんな事は無いわね。王都にゴブリンなんて普通に考えたらあり得ない事だわ。人間側から見れば分かるもの。どうやって入り込むっていうのかしらね。ふふ。そうそうゴブリンなんて街中に出るわけ……」
そんな彼女に現実が襲い掛かる。
「きゃーっ、街中にゴブリンよー!?」
「ぇ゛?」
アレリアの妄言をぶち破る様につんざく悲鳴が響き渡る。
その恐ろしげに震え上がった嘆きはかつて自分が見つかり叫ばれたものと全く同じであった。
急に騒然とし始めた周囲に驚くように馬がいななき声をあげ、馬車が止まる。
「おっと」
「アレリア様。どうやらどこからか現れたゴブリン数体が発見され、貴族街内の店舗に人質を取って立て籠もっているようです」
「あー。ってことはあの死体の山でマジに死んだフリしてたのがいたのね……」
御者に確認を取ったメローヌが周囲の状況を告げる。
今朝方に見た騎士団内に積まれた死体の山の中に、まだ生きていたゴブリンが本当にいたようだ。
恐らくはそれらが機をみて動き出し、だが結局はいつかのゴブリンのように見つかってしまったのだろう。
なぜ真昼間に見つかったかは分からない。夜に抜け出し、昼に見つかったのかもしれないが詳細は今は分からない。
「誰も助けに行きませんね。たまたま近くにいた冒険者や兵士なんて者もいないようです」
「迷惑な話ね」
「姫様ここは姫様のお力を示す時では」
「いや、そんなわけないでしょ」
他人事風に反応していたアレリアにメローヌが告げるが、その進言を即座にアレリアは否定する。
「そりゃ王家の力は国家統制の最終暴力装置って位置づけだし、私は緊急時の戦闘も王家の一員として独断での行使が認められてるけど、私は嫌よ。たかだかゴブリン数匹潰すのに私の力なんてわざわざ使う必要もないわ」
「でもここは流れ的に、人質に取られた王都民の窮地を救いに、姫様のすごーい所を見せるいいチャンスなのでは? ここまで雑なツッコミとイキり芸ぐらいしかしてませんし」
真面目な会話のはずだが、隙あらばディスってくるのがこの侍女である。
これにはアレリアも目を尖らせて従者を睨み付ける。
「復讐者の私が面白苦労人ポジみたいなのやめてくれる?」
「自覚がありましたか」
「馬鹿言わないで。私の未来の称号はあれよ。<冒険者スレイヤー>な女王とかそういう誰にも恐れられるものを目指してるんだからね? とにかく、やばいゴーレムとかジャイアントワームとかワイバーンとか、それこそドラゴンなんかでも出たならまだしも、ゴブリン程度ならやらないわよ」
「そんなこと言って元同族殺しをするのが嫌なだけなんじゃ」
「べ、別に、雑魚ゴブリンの命なんてどうでもいいにきまってるじゃない! 私がゴブリンに求めてるのはもっと大局的な力なのよ! 見損なわないでちょうだい!」
「ツンデレなんだかそうじゃないんだか、分かりにくいフリやめていただいていいですか?」
「ボケで言ったつもりはないわよ!?」
などと言ってるところでアレリアは非情にも馬車を進めさせようと窓の外に腕を振る。メローヌも仕方無いかと諦める。
しかしそこで新たな騒ぎが起こった。
「うわー! ゴブリンに捕まってた女店主がヤケになって制御不能のゴーレムを呼び出したぞー!?」
「あら思い切ったわね」
「見ろ! ゴーレムを狙ってロックワームが地中から!!」
「なんて? 街中にワーム!?」
「大変だ! ワームを餌にしようと空からワイバーンが!!」
「上空にワイバーン飛んでたことがもう問題よねこれ??」
「きゃー! ワイバーンが更に上空から来たドラゴンに食べられたわ!!」
「(呆れて声も出ない)」
「姫様ツッコミのお仕事サボっちゃダメですよ」
「義務みたいに言うの止めてくれる!?」
ほんの瞬きほどの間に街中は大混乱へと陥ってしまう。
今や、ドラゴンの口から生えたワイバーンにしっかりと掴まれたロックワームの口から生えたゴーレムの両手に握られたゴブリン達がおたおたと震えており、その長く連なった何かがのたうち回って暴れてしまっていた。
「いやいやいやいや、こうはならないでしょ!?」
「なってるんだから、しょうがないですよね」
「首都防衛をきちんと見直す必要がありそうね……」
「こうなってしまえば、姫様の出番で異論はないかと思いますがいかがでしょうか。ゴーレムも、ワームも、ワイバーンも、ドラゴンまでもが出てしまいましたので」
「はぁ~~~、これは、やるしかないわね」
ここでドラゴンを冒険者に退治でもされてしまうことにでもなればまた報酬を用意しなければならなくなる。それがどこぞの変態どもの成果でもあったりすれば昨日の二の舞は避けられない。絶対にごめん被りたいところだった。
それなら自分で倒してしまって、ついでに素材も王家で接収してしまう方が良いのは間違いなかった。
「出るわ」
言う間に決意が固まったのか、常備している戦闘用の大型の魔導書と大ぶりの杖を手に取ると勢いよく馬車を飛び出していく。
外では連なったドラゴンワイバーンワームゴーレムゴブリンが待ち構えていた。
「やってやるわよ。何か既にわけわかんないモンスターになってるけど構わないわ! かかってきなさい略してドワワゴゴンね! 私の杖の燃えカスにしてあげるわ!」
「かくして済し崩し的に始まった街中でのモンスター戦。果たして姫様はどのような勝利を収める事が出来るのでしょうか」
「メローヌぅ!! 変なナレーションかましてないで手伝いなさい! こういう時の為の戦闘侍女でしょ!」
「おっとそうでした」
後ろで見学の姿勢に入ろうとしていたメローヌが、言われて思い出したとばかりに侍女ポケットから武骨な長いモーニングスターをぞるりと取り出すと、肩に担いでどっしり構えながら相手を見据える。
「見せてあげましょう。元オーガが放つ必殺の侍女力を」
「私より目立つのはやめてちょうだい」
「てへぺろ☆」
「際限なく似合わないわ」
無表情侍女のテヘペロには指で決めたポーズだけで、舌出しもウィンクすらもついていなかった。
こうして強制合体モンスタードワワゴゴンとアレリア及びメローヌの熱い戦いの火蓋が、ここに切って落とされたのであった。
(続く)
次回、『バトルシーン』
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