【ゴブリン・プリンセス】 ~TS姫様は冒険者なんて大っっっ嫌い!!~ 作:GR/フィルン
ドラゴンを起点とした鞭のようにしなる長大な一撃が垂直に上から襲ってくる。
「きゃーっ!?」
直撃こそ避けたが街路の石畳を捲り上げるようにして巻き上がった衝撃波で、まとめて吹き飛ばされるアレリアとメローヌ。
「ちょっと姫様。武闘派貴族を纏めるこの国の、五番目に強い実力者じゃなかったんですか」
「なんで貴女がそれを知ってるのよ! それとあんなわけわかんない合体モンスターを、人間との比較のくくりで並べないでくれるかしら!?」
「そんなこと言ってる間に落ちますね」
「くっ。『ギャウ!』そっと着地で!」
宙を舞う二人が地面に激突する前にアレリアが杖で魔術書を叩いてから地に向け、ひと声魔物のように吠えた後で呪文を短く唱える。
それと同時に周囲に逆巻くような颶風が起こり、合わせて飛ばされた人や物を全て優しく地へとおろす。轟音が鳴っていたお陰でアレリアの魔物声は周囲の巻き込まれた人間達には幸い聞こえていないらしかった。
「おぉ、さすが姫様得意の短縮詠唱。普通はそこそこ長い詠唱が必須なのに便利ですね」
「説明口調ご苦労様。さ、仕切り直しといくわよ」
「あいあいさー」
二人が立ち上がってそれぞれ武器を構える。
ドワワゴゴンは口から伸びるワワゴゴン部分をのたうち回らせながら油断なくこちらを見据えていた。
「メチャクチャ注目されてますね。なんででしょう」
「ドラゴンは光り物が好きだからでしょ。小さくても宝石をあしらったドレスを着た輝くような可愛いお姫様が、目と鼻の先のここにいるのよ。そりゃ次の獲物は私しかいないわよね」
「もの凄い自信でちょっと引きますけど、それどういう気持ちで言ってるんですか」
「一般的にはそういうものだって書いてあったわ」
「なるほど本の受け売りですか。浅くて安心しました」
「定期的に私をこき下ろさないと会話が出来ないのかしらねこの駄侍女は」
さらっと馬鹿にしてくる侍女の尻をスナップの効いた手で叩くアレリア。
しかしメローヌは無表情無反応に話しを進める。
「それで作戦は?」
「まずは避難からよ。さっきの急ならともかく、こんなに視線があったんじゃ短縮詠唱も出来ないわ」
「あー、ゴブリン語でがっつり叫んでるのなんてバレたらアウトですもんね」
「いくつか通常詠唱するわ。アレが来るようなら足止めして」
「かしこまり」
メローヌがドワワゴゴンに向かって長い侍女スカートを翻しながら駆けていく。
アレリアは敵を見据えながら左手に大きくて分厚い魔導書を構え、右手には彼女の腕までの長めで少し太めの杖を握る。そして手のひらで書を支えながら親指で素早くページを捲ると目当てのページに杖を当て呪文を唱える。大きな魔導書を保持出来るのは単純にその見た目にそぐわぬ力技である。
「ヘーイルマースヘーイルマース。風の幼な子よ。声を響かせよ、音を轟かせよ。我が声を広げあまねく民に私の語りを聞かせよ」
唱え終わった魔術に名を与える。
「ちゃんと逃げなさいよ。<ラウドボイス>」
完成と同時にアレリアの声が大きく響き渡るように広がりだす。
ドワワゴゴンはこちらに向かってゆっくりと進んできているが、その口から生えた長大なものが邪魔をしてその歩みは遅い。
時折左右に振ろうと揺するが、ゴーレムあたりの部分に接近したメローヌがモーニングスターをぶち当てて軌道を抑制しており、まだ最初の一撃以外は大きな被害は出ていない。貴族街の広い道幅が幸いしていた。
「あーあー、んっ、聞きなさい私の民たち。私はアレリア・オルトナー。貴方達が敬愛するこの国の偉大な王女よ。残念なことにドラゴンを起点とした危険な魔物が王都内に現れたわ。すぐに貴族街付近から逃げなさい。でも安心することね、こいつは私が倒すから。何度もは言わないわよ。いいこと? 巻き込まれて死んだりなんてしたらぶっ殺してやるんだから、覚悟して逃げなさいよ!!」
「姫様お口わっる」
威勢のいい啖呵のような避難勧告がアレリアの可愛い声で告げられる。
その拡声された声はうわんうわんとハウリングするほどに大きな声で響き、王都全体とはいかずとも影響のありそうな広い範囲の人たちに何が起こっているのかを端的に伝えたのだった。それだけを為して<ラウドボイス>の効果は直ぐに途切れる。
貴族街側なので人が少ないのは幸いだったが、戦力になりそうな貴族達の大半は今が秋の収穫を目前とした晩夏の時期もあって多くがアレリアの王位継承権授与式の直後には領地に帰っているのもあり、あまりあてには出来そうもないなとアレリアは考える。
「姫様!」
「言いなさい」
そこにさっきまで御者台で手綱を握っていた護衛騎士が注進してくる。
話しは今しがた脳裏に浮かんだばかりの貴族達のことだ。
「さきほどのお茶会に参加されていた方々より支援に入りたいとの連絡をいただきました! いかがされますか」
「話しが早くて助かるわね。もうすぐやってくるだろう騎士団と一緒に避難誘導をやってもらってちょうだい。直掩は不要だわ」
「かしこまりました!」
「貴方もそっちに回りなさい。ドラゴン相手じゃ荷が重すぎるわ」
「ですが、それでは護衛騎士としての盾の役目が」
「邪魔なの。分かるわね?」
「…………かしこまりました」
睨みと圧を効かせて黙らせる。
別に慮ったわけではない。本当に邪魔なのだ。今日の護衛騎士は持ち回りの担当なだけであるし、メローヌとは違い特に秘密の共有をした間柄でも無い。
使うというならば必ず使い捨てなければいけないが、アレリアの見立てではドワワゴゴンを倒すのに捨て駒が無ければ倒せぬというほどの困難は無い。
無傷というわけにはいかないだろうが、既に彼女の中で勝利への筋道は出来ている。
「おっとり刀でレンが来たって参加させちゃダメよ。あれは私の獲物だからね」
「えっ!? で、ですが、いかな姫様でもドラゴンを二人で倒すのは流石に……。上級までいっても1パーティでは倒せない、特級冒険者が必要な魔物ですよ!? ましてやあんな付属武器までついていて!」
「ごちゃごちゃ煩いわね。何も真正面から力比べしようってわけじゃないわ。要は殺せばいいんでしょ。私が飾りの王位継承者なんかじゃないって知らしめてやるから、安心して引っ込んでなさい!」
「は、はいっ!!」
護衛騎士を一喝して避難誘導の方へ行かせると、アレリアはメローヌが牽制し続けていたドワワゴゴンに少し近付き、次の魔術の詠唱を始める。
「サーリルダールサーリルダール。火炎の乙女よ。灯火を重ねて声に応じよ。我が眼前の敵を焼き滅ぼす弩となり加虐の一矢を放て。肉を炭に。血を炭に。生を炭へと変え、弾ける爆炎で我が敵を無数に穿て!」
十分な通常詠唱の時間をかけてアレリアがゴウゴウと唸りをあげるぶっとい炎の矢を右手に掴んだ杖先に形成する。
ガンガンと激しく揺れるゴーレムと打ち合っていたメローヌが、横目でチラリと炎術を確認したのを見てアレリアが叫ぶ。
「メローヌ! かちあげなさい!」
「あいさー」
アレリアの言葉を合図にメローヌがゴーレムを下から掬い上げるようにぶっ叩き、伸びたワワゴゴン部分を上へと跳ね上げる。うねりのタイミングを利用した見事な力の使いようだったが、純粋なパワー自体もその体躯には見合わぬ並外れた威力であった。踏み込みと踏ん張りの力強さに石畳がバキリと割れる。
「手始めはこいつよ! <ファイアーボルト>!!」
アレリアの杖から解き放たれた炎の矢は魔術の名に恥じぬ速度で目標へと飛びすさぶ。
ドワワゴゴンのドラゴン本体部分へと一直線に突き進むが、ドワワゴゴンも座してそれを受ける事はなく、ドラゴン口元のワイバーンを強く噛む事で跳ね上げられた勢いを殺し、その優れた咬合力で炎撃の進路を塞ぐように再びワワゴゴン部分を振り下ろした。ワイバーンは激痛で悲鳴を上げている。
だがその程度はアレリアの想定内だ。
「でしょうね。弾けなさい!」
合図と共に飛びすさぶ火弾がその途中で無数の小さな火矢へと弾け、その各々が小さな爆撃のようになってドワワゴゴンへと飛来していった。
『『MOGOOOOOO!!!?』』
ドラゴンやワイバーンやワーム部分へと次々に当たると、それぞれがうめき声をあげるドワワゴゴン。
先端のゴーレムやゴブリンはその攻撃自体は被弾してい無いが、暴れる根本に振り回されてとてもオタオタしていた。なお普通に既にボロボロである。
それを当然のように見ながらも、寄ってきたメローヌを前にアレリアは悔しそうな表情を浮かべる。
「ちっ。マズイわね」
「なにか予定外でも? 討伐は困難ですか?」
「いえ、進捗はまだ余裕よ。でもいちいち絵面がシュール過ぎて、私の真剣さがいまいち伝わり難いわ!」
「そんな微妙な所にまで気を配らないでください。見てる人ももういないのに」
どうやらまだ姫には余裕があるようだった。
(つづく)
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