【ゴブリン・プリンセス】 ~TS姫様は冒険者なんて大っっっ嫌い!!~ 作:GR/フィルン
無数の炎撃は目潰しも兼ねていたのか、もうもうと立ち込める土煙の中、怯んだようにドワワゴゴンの動きが周りを警戒して縮こまり鈍くなる。
その隙にアレリアはメローヌにこの先の作戦を共有していく。
「方針を伝えるわ。貴女は前衛を張って被害を食い止めなさい。私は突撃してドラゴンとワイバーンを殺すわ」
「姫様それは普通に二人とも前衛では?」
「そうとも言うわね。特にスラムとかまで足を延ばされたら問題だから必ずここで仕留めるわよ。後ろは任せたわ」
「了解しましたけど、それはやっぱり私は前衛とは言わないのでは。それとまさか防御も無しに突っ込むおつもりですか? その格好でそれは些か蛮勇が過ぎる様な」
メローヌがツッコミながらも冷静に指摘する。
さっきからアレリアは器用に走ったりしているが、召している物は特別なお茶会用の豪華なドレスにヒールのついた綺麗な靴だ。なんなら小さいながらも各所に宝石まで飾られている。
当然そこに期待できる防御力はその生地の厚み分ぐらいしかない。
その当たり前の疑問にアレリアは自信満々に言い返す。
「まさか。防護ぐらいは張るわよ」
「そんなのがあるんですね。安心しました」
「ゴブリン魔法で行くわ。なかなか実戦で使う機会が無かったのよね」
「はい。周囲の避難は順調の様です。声が誰かに聞かれることはないかと」
さっと粉塵舞い広がる周囲を見渡したメローヌが告げると、アレリアが杖を縦に持ち目を閉じて杖先をコツンと自分の額に当てて詠唱を行う。
『グギャーウ!!』『ギャウ!』
「うへ。姫様の容姿から発せられる本気の魔物声、やっぱりキツイですね」
「煩いわね。仕方ないでしょ。こうしないと唱えられないんだから」
「まぁそれもそうで…………え゛?」
無駄話をしてる間にゴブリン魔法が素早く効果を現わしていく。
見る間の内にアレリアの腹部が服の下から押し上げられ、膨らんでいったのだ。また、左手の魔導書がアレリアの手を離れひとりでに浮き上がる。
姫用に仕立てられた豪奢なドレスは憐れ腰元から膨らみ、留めていた腰紐を含め各所が容易く裂ける。
貴重なアレリア用の本気ドレスの残機が一つ減った瞬間でもあった。彼女は元が細過ぎてコルセットをつけていないのは幸いだったが。
だが問題はそんなところではない。
魔法は二つ唱えられたが片方の地味な魔法など注目されようもないほどに、もう一つの魔法の変化は劇的であった。
「……姫様???」
効果が完全に発現する頃にはアレリアの小柄な体躯は、そのお腹にでっぷりとした丸い球状の物を孕んでしまっていたのだった。
何が起こるか知らなかったメローヌはいつもの無表情も忘れて目を点にしている。
「え? なんですかそれ? なんで突然ボテ腹に? え?」
「どうしたのよ。お腹は柔らかいし大事な臓器が詰まってるんだから優先して守るのは当然じゃない」
「いや、え、ドレスの上から見ただけだと分かんないんですけど、それお腹どうなってるんですか。まさか身体の内側から膨らんで? えぇ?」
「貴女にしては稀に見る困惑感ね。いい傾向だわ」
丸く膨らんだお腹を軽く抱えるように支えながらアレリアが満足げに頷く。どうやら彼女はいたって真面目にやっているらしい。
その見た目は破けたドレスと相まって犯罪的なまでに少女妊婦としか言いようのない、ひどいものであった。幼女妊婦と言われないだけまだマシだが、そこに大差はない。
困惑するメローヌに得意げに語るアレリアの言によればこれは防御魔法らしい。
即ち内臓の多大な損傷は容易に致命と成りうる為に最優先で守っているのだと言う。その為にお腹の上に球状の防護膜を分厚く張ることで守っているらしい。
球の中には白くて粘性の高い、衝撃に強い液体が詰まっているとのことだ。
なぜドレスの上から魔法をかけないのかは謎だが、一応理由はあるらしく、メローヌは主人の胎が本当に膨らんでしまったわけではない事に僅かに安堵した。既にメローヌは大分混乱している。
とにもかくにも突然ツッコミ側に回されたメローヌとしては言いたいことは沢山あったが、まずは従者として言わなければいけない指摘を入れる。
「それだけ分厚いお腹に比べて、頭の保護が無いのはおかしくないですか?」
「頭とか他の場所は不可視の薄い防護膜を張ってるから大丈夫よ」
「それでお腹を守ればいいのでは???」
当然の疑問である。
だがアレリアは自分の左頬をコンコンと軽い音を立てて右手の指の関節で叩きながら反論する。
「この膜程度じゃ破けたときにお腹を守るのには不安が残るからダメね。お腹のはちょっと重いから他だと重心が変わって動きにくいし」
「姫様のお口から、膜が破ける、とか言わないでいただけますか? そして姫様のどういう思考が、それほどお腹を守るのに固執させるんですか???」
「分からないの?」
「すごい全然分からないです。びっくりするぐらい分かりません」
メローヌの口調だけは半ば以上に呆れたような返しをアレリアは一笑した。
「ふっ。ナスラムならきっと分かったわね」
「いあ、無理だと思いますよ、いくらなんでも。どれだけツーカーのつもりなんですか」
「ツーカーってなによ」
「え、知らないんですか。ツーと言えばカーですよ以心伝心ってことですよ」
「あ、そ」
メローヌは今度ナスラムに確かめてみようと決意する。篤い信頼が高いハードルとなってナスラムへと課せられた瞬間であった。
無駄な時間をかけようとする侍女に見切りをつけ、アレリアは行動を開始しかける。
「バカな問答で時間を潰してる時間は無いわ。そろそろ目くらましも効果切れだろうし私は行くわね」
「いえ、それは姫様が余りにもツッコミどころ満載すぎるのがいけないんですよ。っていうかもっと色々突っ込まさせてください。今の姫様は何もかもが問題ですよ」
「知らないわよ。とにかくこれの方が重心も慣れてて動きやすいのよ」
「あー。ゴブリンは確かに餓鬼みたいに出張ったお腹してましたね。それなら少し理解できました」
今のお腹が膨らんだ体躯のアレリアは元々の小柄さと相まって、腹の丸く突き出たゴブリンの体形に確かにより近づいてしまったといえる。
前世での激しい戦いをそのバランスで戦い続けたというのならば、防御力より動きのバランス重視と言われた方がまだ理解は出来る。
アレリアの前世を知らないナスラムが彼女を理解できるハードルは更に一段高まったともいえるだろう。
「さぁ、この<ボテ腹アーマー>があれば安心よ。ドラゴンプラスアルファなんてぶっ潰してくれるわ」
「確信犯なんですか? 確信犯なんですね? 絶対にその魔法名は変えてくださいね」
「考えとくわ」
「これは間違いなく変えないやつですね。もうこの姫様はダメなようです」
大真面目にボケ倒す主人の言動に無表情に色々諦めながらメローヌも敵を見据える。
準備も整った二人は、ついにドワワゴゴンとの直接戦闘へと入っていくのであった。
さて。
漫才をしている二人は置いておいて、魔術や魔法という単語が改めて出てきたのでここで少し説明させて頂けないだろうか。
ダメな方はセリフが出て来る所まで読み飛ばして頂きたい。次話になりますけども。設定的な事なので大した話しでも無いので。
この世界には「魔術」も「魔法」もあり、それらは明確に区別されている。
端的に言ってしまえば、人が扱うものが「魔術」であり、魔物や魔族が扱うものが「魔法」である。
正式には「奇蹟」と呼ばれる神聖魔法を除けば、魔に属する法である「魔法」は、人の魂では御す事が出来ない。魔の物でない人間は、術をもって魔を使役する「魔術」しか使えないのだ。
そして魔術の行使には様々な物が必要になる。
触媒、魔法陣、呪文、杖。
実質的には願えば叶う魔法と異なり、人は魔術を顕現させる為に魔力と呼ばれる不可視の不思議な力に触媒で色を付け増幅し、魔法陣で整え、この世と自身に行使を告げる呪いを唱えて訴え、杖で行き先を示して、そうしてなんとか形を為していた。
その為に人間の魔術師は触媒と魔法陣をたっぷり乗せ書き込んだ魔術書と、指示棒としての杖を必要とする。
対してアレリアの本質は前世のゴブリンのままである。
彼女が人としての全てを受け入れ前世の全てを捨てた事は未だ無く、その魂は混沌の源泉たる魔に染まったまま変わらない。
故に彼女は魔法も使うのだ。
(つづく)
読んでいただきありがとうございます。
次回の投稿は明日の今頃です。
隠しテーマのノルマ達成1です。