【ゴブリン・プリンセス】 ~TS姫様は冒険者なんて大っっっ嫌い!!~   作:GR/フィルン

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 ギザ歯で吊り目の緑髪ロング貧乳少女が国一番の絶世の美少女として誰からも称えられる美貌であるという幻覚を見ていますので、そういう幻覚でお願いします。かといって国民の目指す理想の姿というわけではないです。
 それと、いうほど一般ミーム的ゴブリンもTSライフもしきれないと思うので、許してください。

 冒頭の地の文は背景設定と状況説明みたいなものなので、読み難ければセリフがでてくる所までささーっと読み飛ばしてもらえればと思います。


1-1 エレツ、という借金まみれの貧乏国家がある

 エレツ、という借金まみれの貧乏国家がある。

 

 横に長い巨大なひし形をした広い大陸の南南西部にそこそこ広く肥沃な大地を抱え、以前には列強に劣らぬ騎士団を擁していた決して弱小などではない雄であるが、過去の災禍によって国は荒れ、他国への借金という形でその生産力を吸い上げられてしまっているどうにもうだつの上がらない現状がこの国であった。

 

 地政学的には悪くない。

 東には大陸自体を文化的に東西に分断している広大な〈分断山脈〉と呼ばれる山脈が隆起しており、北部には人を寄せ付けぬ鬱蒼とした森林が南北を分けるように居を構え、南側の奥地は大陸の南端と荒涼とした嵐吹きすさぶ土地だけがあり、住んでいるのは僅かな遊牧民ぐらいであった。

 ゆえに西側の国境を接するいくつかの国々さえ気を付けていれば国土を守れる比較的優位な地がエレツ王国であった。

 もちろん分断山脈にも北部森林にも魔物が住んでいて人を脅かすために、決して安心できるわけではないが、それでも国家としての体は維持しやすい環境であった。

 

 そんな安穏とした成長を約束されていたはずのエレツ王国が借金契約で首も回らぬ有様に陥ってしまったのは、全て15年前の〈ゴブリン災禍〉によるものが原因であった。

 

 人の分け入らぬ分断山脈の奥深くにて約五千にものぼると言われた異常な数のゴブリンが繁殖し、それを率いるゴブリンロード及びゴブリンジェネラルによってエレツ王国への侵略が行われ、国家は甚大なる被害を被ったのであった。

 もちろん人は無為無策であったわけではない。討伐隊は侵略の前より組まれていたし、特級冒険者という一般国民の一万人にも匹敵すると言われる強大な戦力も複数投入されていた。

 だが、特異な成長を遂げていたゴブリンロードはゴブリンという枠を超えた戦略的な知見をもってそれに抗し、エレツ王国主要部の南東を占める穀倉地帯を略奪し焼き払うという悪行を敢行した。

 最終的にゴブリンロードは穀倉地帯西部にある穀倉都市グレインヤードにて、ゴブリンによる都市蹂躙という最悪の事態を引き起こすその前に、後に〈防波の英雄〉と呼ばれることになる当時特級冒険者であった剣士レン・バーランドによって討たれ、同道した同じく特級冒険者の呪術師エーデル・イーと共におよそ五千におよぶゴブリン達もそのほとんどが討伐されたのだった。

 

 〈ゴブリン災禍〉の直接的な結果はそこで終わりを告げるのだが、災禍後の処理はとても以前を容易に取り戻せるようなものではなかった。

 都市が蹂躙されゴブリンが倍三倍に膨れ上がるという終末的事態こそ防ぐことは出来たのだが、国民の食卓に乗るべき麦等は農村の村々と共に全て焼き払われ、労働力である男衆も急遽の都市防衛にて女子供を守る為に駆り出され、そのほとんど全てが殺されてしまっていた。

 

 国の食料庫である穀倉地帯の大半が焼け果て、穀倉都市の働き手のほとんどを失ったエレツという国は、災厄の起こったその年の冬、食糧の決定的な不足によって国民全体に大変な悲劇を強いるという、大惨事が待ち受けていた。

 もちろんそれ自体は、穀倉地帯が焼かれた事が判明した時点から予測された問題であった為、オルトナー王家は国庫を全て開け、周辺諸国から国民を飢えさせぬ為の食糧を買うことで、民を支えようとした。

 

 だが、その対応は望まれた程の成果を出せぬままに終わってしまう。

 というのも、周辺諸国に対してはどちらかと言えば、近年は食糧を輸出しだしていたというのがエレツ王国の立ち位置であった。普段買う側である周辺の国々に、危急の事態とはいえ売る程の食糧がそうあるはずもない。ごく近しい友好国からは見舞いの品々が贈られたが、それ以外の国からは相当に足元を見られてしまう。多額の借金までしたというのに得られた物は、普段の十数倍の高値にて僅かな食糧がエレツ王国に届けられただけにとどまった。

 それでも国を切り売りしたり侵略を受けずに済んだだけ、国の首脳陣はよくやったと言える程の状況であった。

 

 結果として乏しい食料を求めて一気に国は荒れ、民は疲弊した。

 

 それが我らの主人公となるアレリア・オルトナー姫の生まれる前の年、今から15年前に起こった悲劇の内訳であった。

 

 

 ~ 〇 ~

 

 

「レン・バーランド、レン・バーランド、……はぁ、レン・バーランドめ……」

 

 カツカツカツと王宮の深い所を悩まし気に歩く少女の姿がある。

 先ほど王位継承権の授与式を受けたばかりのアレリア・オルトナーである。

 

 エメラルドのように輝く美しい緑髪を伸ばし、大きなツリ目がちの黒曜石のような黒い瞳。小さな口からは可愛らしい尖った歯が時折覗く。

 整った小顔は幼い時は愛らしく、育てば挑発的なツリ目ながらも国の誇りといえるほどの美姫となっていった。スラリと華奢な身体つきは庇護欲を誘うが、14という年のころの割には発育自体は身長もその他の乳尻太もものどれも控えめであった。

 総じて人嫌いや人見知りな面も見られたが、覚悟を決めた時の凛とした美しさは人をハッとさせるほどの迫力も併せ持っていた。

 

 幼少の頃より本をこよなく好み、知識を愛で、魔術にも秀でていた彼女は若くして正当な王位継承権を受け取るに至る。この国の王位継承権に順位は無く、ただ正当な王族の中から最も相応しい者が選ばれ、その者に次代の王権が約束されるという極めて重みのあるものであった。

 本来であればどんなに早くとも成人である15歳を待って与えられる王位継承権を一年早く与えられるというのは、それだけ彼女の優秀さを表しており、それだけ国家が切羽詰まっている証でもあった。

 

 そんな彼女が思い悩み考え込んでいるのは、先ほど授与式にて公然と自分に罵られながらもサラリとそれを躱してみせた騎士団長レン・バーランドのことであった。

 

「恋煩い、ですか?」

「違う!! 恨みの方!」

「あー」

「くぅぅ、あそこまでやれば絶対に怒ると思ったのにまさか顔色一つ変えないなんて。あれじゃぁつけ入る隙も無いじゃない!」

「だから姫様言ったのに。無駄に終わるって」

 

 憤慨する姫と付き従う侍女一人だけが、王女の部屋へと向かう廊下を歩いていた。

 

「そーだけど! でも何でも試してみるしか無いじゃない。ただでさえあの男と会える機会なんて滅多にないんだから」

「その結果が小娘みたいに軽くあしらわれて、大事な場所で自分の評判落としただけですよ? うぷぷ。姫様格好わるーい。あ、そういえば、本当に、小娘、でしたね、今は」

「メローヌぅ! 主人を煽らないででっていつも言ってるでしょう! 貴女は今侍女なのよ!」

「おっと、すいませんです。なにせ前世がオーガなもので」

「それとこれとは全然関係ないじゃないの……っ」

 

 ぶるぶるとアレリアは手を震わせるが、後ろに付き従うメローヌと呼ばれた侍女は表情だけは無に近いほど静かな上ながらもその態度は飄々としたものだった。ぴしゃりと額を打った動作は芝居がかってお道化ていた。

 前世はオーガと自称しながらもその身は貴族子女らしい綺麗な顔つきをしており、乱杭歯だったり鼻が剥けていたりも全く無い。

 

 メローヌ・アルディエンヌはアレリア付きの王宮侍女になる。アルディエンヌ子爵家にて存在を秘匿されるように育てられていたのをアレリアに見出され、貴族子女の務めの一つとして王宮に奉公していた。

 長い金髪をポニーテールに纏め、はしばみ色の瞳は鷹揚として主人の怒声を受け流している。歳は16だが身長はアレリアより頭二つ半は大きく、くびれた腹に比してその胸は包容力をたっぷりと持っていた。

 

 だが、その態度はとても侍女として相応しいとは言えぬほどに太々しかった。

 

「まぁまぁ姫様。ゴブリンだのオーガだのは忘れて、祝いの品が部屋に沢山ついてるはずなんでそれで機嫌を直しては?」

『言葉遣いが全然直ってないし、前世の事は口にするなと俺はアレほど言ったのに……』

「どうどう姫様。東方語が漏れ出てますよ。お里が知れてしまっては大変です」

「ぐ。分かったから貴女も気をつけて頂戴」

「おーけい。姫様」

「はぁ……」

 

 ひとしきり唸った末になんとか落ち着いたのか、深いため息と共に肩を落としてトボトボと廊下を歩くアレリアの様子には、先ほどの式典で見られたような威厳や圧力は感じられなかった。

 そこにはただ一人の運命に翻弄された生物がいるだけだった。

 

「憧れと現実がこんなに違うなんて分からないものね」

「そんなに憧れてたんですか。人間に」

「そりゃね。冒険者に殺されるまでの私の前世の目標だったわけだし、現実よりも理想が高くたって仕方ないじゃない?」

「はぁ。ところでさっき私は前世の話しはダメって、言われたばかりなんですが」

「私の部屋にしか繋がってない専用廊下のど真ん中で誰が聞いてるってのよ。ぼやくぐらいいいでしょ」

「わーぉ、りふじーん」

 

 先ほどのセリフを簡単に棚に上げる主人にメローヌがお手上げするが、傍若無人を地でいくアレリアは腕を組んで歩きながら首をひねってぼやき続ける。侍女であるメローヌは大人しく聞くしかない。

 

「大体。私はこの国の第一王女たる姫に生まれたというのに、全然贅沢させてもらえてないじゃない。おかしいと思わない!?」

「それはだって姫様、<ゴブリン災禍>でたんまりこしらえた借金があるんでしょう? 利子の返済を優先させられて搾り取られるように細々としか元本は返済できないって、教えてくれたの姫様ですよ。全部<ゴブリン災禍>が悪いんですよ、ゴブリンロードってやつが諸悪の根源ですって」

「ぐぅ。だってしょうがないじゃない! こんなことになるなんて思ってなかったんだから!」

「はぁ」

 

 きぃきぃと喚き声を鳴らしてアレリアが吠えるが、小さな彼女が地団駄を踏んでもそれは微笑ましい可愛らしさを見せるだけだった。

 とはいえ、自分に全ての元凶があることも理解しているアレリアは、過去を悔いたとて悔やみきれるものではなかった。

 

「あの時は村と畑を焼くのが最善だと思ったのになぁ」

「因果応報ですね。いよっ、ゴブリンロード様っ。人類の敵っ」

「メローヌぅ!! だから主人を煽らないでちょうだいってば!」

 

 表情乏しいままばっちり煽り倒すメローヌに再度アレリアが噛みつくが、その愛らしく叫ぶさまからは想像もできないだろう。

 彼女の前世がこの国に直接の不幸をもたらした悪鬼と罵られる災厄のゴブリンロード、その当人であるなどとは。

 

(つづく)




読んでいただきありがとうございます。
次回の投稿は明日の夕方ぐらいの予定です。
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