【ゴブリン・プリンセス】 ~TS姫様は冒険者なんて大っっっ嫌い!!~   作:GR/フィルン

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5-5 『くっ! こんな愚かなっ!』

『くっ! こんな愚かなっ!』

 

 ドラゴンにしても一か八かの賭けが過ぎる手段である。アレリアを潰せるかもしれないが、逆鱗に刺さった杖剣を自ら押し込める可能性が高く、上策とはとても言い難い。

 だがそれでもこの状態でアレリアを止めるならば有効な作戦には違いない。

 アレリアは唯一逃げ道のある頭側へと急いで這い登っていくがドラゴンが上体を倒し切る方が早かった。

 

『ぷぎゃっ!?』

 

 ずずぅぅぅん、という鈍い地響きが鳴って大地が僅かに揺れる。

 

「あー、姫様?」

 

 メローヌが少し離れた場所から声を掛けるが、既にアレリアはドラゴンの下敷きになっていたのであった。

 

 だが直後にアレリアの声が響く。

 

「メローヌ!! ぶっ叩きなさい! 上から下! 頭の後ろ、首筋よ!」

「っ! りょっ」

 

 チラチラと状況を見ていたので逆鱗に刺さった杖剣の事はメローヌも見ている。

 恐らくそれを押し込めてトドメを刺せということなのだと察したメローヌがついでの一撃でワームを絶命させると駆けて飛び上がる。

 

「っすぇぇぇぇぇいぃぃぃ!!!」

 

 ドラゴンの下でアレリアがどうやって生き延びているかは定かではないが、先程の声は充分に元気のあるものだった。

 メローヌがダメ押しをしてもなんとかなる算段がきっとあるに違いない。主人をそう信じて声だけは気合の入った渾身の一撃をドラゴンの首筋に叩き込む。

 

 ドゴォンッ!! 

『GUWAAAA!!!』

「ふぎゅっ」

 

 痛烈な一撃はドラゴンの身体を地に打ち付け波立たせるだけに留まらず、放射状のヒビを石畳に深く走らせるほどの強烈なものだった。

 同時に聞こえたアレリアの小さな悲鳴にメローヌは少しだけ嫌な予感がする。

 

「あー、姫様? 生きてますか? もしもーし?」

 

 ドラゴンの首元からは赤い血の流れが一筋すーっと流れていく。

 

「ひ、姫様。まさか無策だったなんてそんな間抜けな……。ん──ー、よしっ。プリンセスに転生したゴブリンの復讐譚はここで幕切れって事ですね。悪は滅びるあっけない最期でした。ちゃんちゃん」

『勝手に殺すなこの駄侍女ぉ!』

 

 居た堪れなくなりさっと切り替えて締めに入ろうとしたメローヌにアレリアが東方語で怒号を浴びせる。

 

『こっちは念入りにトドメを入れてたとこなんだよ』

「あ、普通にピンピンしてそうですね良かった」

 

 メローヌは終わったと思っていたがアレリアはまだ油断せずに何かしていたらしい。

 見るとドラゴンの身体の下からブスブスとした煙が上がっている。

 

「もしかして雷術で焼いてます?」

「そうよ。逆鱗に刺さった杖剣に足を伸ばしてそっからね。どう? 死んでそうかしら」

「あー、ちょっと見てきますね」

 

 ひょいひょいと頭の方に見にいくと流され続けた雷撃が十分以上だったのか、その瞳を白く濁らせてドラゴンは絶命していたのであった。

 時折ビクリと跳ねるが恐らくは電気の刺激によるものだろう。

 

「あー、バッチリぽいですよ姫様ー。もう目が真っ白ですもん」

「え、白!? 真っ白になってる!? 透明度とかもう無い!?」

「あ、はぁ。しっかり熱が通っててもうちょっと焼いたら良い焼き加減になりそうですけども。なんか間違えました?」

「やらかしたー!!? 透明な竜眼は魔導具の素材にバッチリだから高く売れるのに! 殺し過ぎたわ!」

 

 アレリアの悲鳴が聞こえる。

 なにやら失敗したようだが、侍女には関係のない事だった。

 気にせずドラゴンの下の潰れ饅頭に話しかける。

 

「何でもいいですけどそろそろ出て来ませんか? というかよく無事でしたね」

「あぁ、顎の下の隙間になんとか潜り込めたのと、支えが効いてたから特に問題ないわ。無事よ」

「支え? 杖剣ですか?」

「それなら杖頭残して剣身は全部埋まってるわ」

「あ、じゃあその隙間で生き延びてるんですね」

「身体の厚みが手のひらサイズなわけないでしょ!? どんだけ人のこと小さいと思ってるのよ」

「いやぁ姫様ならペランペランでも生きてけるのかなと」

「そんなビックリ人間がいるわけないでしょ。ボテ腹アーマーよ。これのお腹の厚み分で隙間作ってるのよ」

「あ、例のイロモノ魔法ですか」

「メローヌゥ!!」

 

 叫ぶ主人に素知らぬ顔をするメローヌ。

 実際アレリアの腹部にでっぷりと鎮座した球体防護膜は、全身の薄い防護膜と一体化している事で擬似的な外骨格めいた強度をなしており、上からの質量攻撃に対してもそれを腹で受け、防護膜を通してその圧力を地に押し付けることで中のアレリアへの被害を受け流し切っていたのだった。

 

「今抜けるわ」

「ほーい」

 

 当然腹でドラゴンの頭を受け支えている為、退かさない限りは本来手足を動かす事ぐらいしか出来ないがそこは自身が作った魔法である。解除は簡単なことだった。

 

『ギャ』

 

 ボチュっという音が鳴ると少し浮いていた竜の頭部が僅かに沈み、ぐたりと地につく。

 そのほんの短い間にアレリアが竜の下からぬるりと現れて、カサカサと素早く鱗を掴みながらよじ登ってきた。

 

「ふぅ。これで万事オーケーね」

「いやなんで白濁の粘液まみれで出てきたんですか姫様。やば過ぎる絵面になってますよ」

 

 無表情に戻っていたメローヌが声だけで呆れてみせて主人の有様を指摘する。

 アレリアは球体防護膜の中に詰めていた衝撃吸収用の粘液でドロドロになっていた。

 

「ん?」

 

 二本足で竜の死体の上に立ったアレリアが自分を客観的に見てみると確かにこれは酷いものだった。

 ズタズタのボロボロに破れ裂けて既に服では無いボロ切れへと堕ち果てた元ドレス、下着さえもあちこち裂かれて白い素肌がほとんどまろび出てしまっている肢体、胸部も腹部の露出も街中の淑女としてはあり得ないレベルの変態的なオープンさだった。

 更には全身に走った裂傷から滲んだ血や土汚れ、身体中にベッタリとへばりついた白濁の粘液はもはや「事後」といっても違和感の無いほどに惨憺たるものであったのだった。

 

「ふむ。確かにそうね。これじゃオランジューヌ嬢のこと笑えそうにない有様ね」

「そんなぬるい話じゃないですよ。見られたら王家の恥レベルじゃないですか。事後プリンセス、略して事後プリとか呼ばれたらどうするんですか」

「勝手に略さないでちょうだい」

「とりあえずその辺から隠せる布を探してきますので事後プリ様はじっとしててください」

「はいはい分かったわよ。って、早速使い始めるのやめてくれる!?」

 

 急いで離れていく侍女をため息交じりにツッコミながら、特大の収穫となった獲物に寄りかかるようにして座り身体を休めるアレリア。

 

「ふぅ。流石にしんどかったわね。前世にはまだ届かないけど、それでもなんとか出来るだけの地力は付いてたみたいで良かったわ」

 

 ため息を吐きながらポンポンと力を失った竜体を叩く。

 

「とーはーいーえ。レンの実力はこの若いドラゴンよりも随分と上なんだものね。手柄を横取りされる前に仕留められたから良かったけど、これ以上の怪物を倒す算段を考えなきゃいけないんだから悩ましいわね。どうしたもんかしら……」

 

 頭をぼりぼりと掻いて思い悩みながらゆっくりと考えを巡らせるアレリア。

 やらなければならない事も、考えなければならない事も山ほどある。

 それでも今だけは口調とは裏腹に勝利の余韻にゆったりと彼女は浸かる。

 

「やれやれだわ……」

 

 前世でも経験の無かったドラゴンハントを成し遂げ、ひさかた感じていなかった心の充足を彼女はゆっくりと満喫する。

 

 その頭の中は既に今後の展開を考える事でいっぱいになっており、ドワワゴゴンのゴン部分となって翻弄されていたこの話の騒動の種のことなど全く残されてはいなかったのだった。

 

 

(つづく)




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