【ゴブリン・プリンセス】 ~TS姫様は冒険者なんて大っっっ嫌い!!~   作:GR/フィルン

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5-6 一方、王都の路地裏の何処かを走る矮躯があった

 一方、王都の路地裏の何処かを走る矮躯があった。

 

『ハァッ、ハァッ、ハァッ……! くソ。俺、どうしタラ。これジャ、使命果たせナイ』

 

 ドワワゴゴン状態から運良く逃げ出すことが出来た一匹のゴブリンであった。首に赤いスカーフを巻いて縛っている。

 他の兄弟達がどうなったかは分からない。

 死んだフリによってなんとか王都に潜り込む事が出来たが、動き出したところで簡単に人間に見つかってしまいあの騒動になってしまった。

 

 街を知らぬ彼は今がどこかも分からない。

 

 それでも言い渡された使命を果たす事だけを考えているが、並のゴブリンである彼に良い案は浮かばなかった。

 とりあえずはドラゴンから離れどこかへ行こうと路地裏をふらふらと進む。

 

『見つケル。宝。未来。俺達ノ』

『喋るゴブリンか。忌々しい』

『誰ダッ!?』

 

 いつの間に背後を取られたのか低い男の声がゴブリンと同じ東方語で聞こえてくる。

 咄嗟にゴブリンは振り返るが、その前に振り抜かれた大剣の腹がゴブリンへとぶち当たって彼を吹き飛ばす。

 十分に手加減をした一撃を放ったのは音もなく現れたレン・バーランド騎士団長であった。

 

 ドワワゴゴン出現の報を聞き、取るものもとりあえず急いで駆けつけはしたのだが、姫の護衛騎士から告げられた伝言で参戦は許されず周囲の索敵を行なっていた中での発見であった。

 もたもたしているようなら参戦するつもりだったが、逡巡する間も不要な素早い討伐だった。レンの内心には歓喜があったが、それとは別の忌々しい相手に彼はツバを吐く。

 

『グギャァ!?』

『ふん。その叫びが貴様らの本来の言葉だろうに賢しげに東方語などで喋りおって、知恵でもつけたつもりか。低能な魔物風情が』

『グギィ。なンデ、おマエ、俺達の言葉喋レル。そレハ、俺達の言葉。おまエガ、未来、カ?』

 

 聞き取りづらいカタコトながらも意思の疎通が見込める様子にレンは聞き取りを行うことを決める。

 

『お前達の頭は誰だ』

『頭……、ボスカ! ボスはグーギ様ダ!』

『誰だそいつは』

『グーギ様ダ! 強くテ偉イ! 尊敬スル!』

『ゴブリンか?』

『当たり前ダ! デカくてスゴイのがグーギ様ダ! グーギ様はスゴイゾ! 恐れ敬エ!!』

『話しの進みが遅そうだなこれは』

 

 レンが小さく嘆息する。

 長々と話し込んで誰かに見られるわけにはいかないので手短に済ませなければならない。

 

『お前達は全員が東方語を喋るのか?』

『東方語? 分からんガ、俺達の言葉を俺達が喋れるのは当たり前だロウ?』

『来歴を伝える必要が無いほど浸透していると見えるな。一部ではなく全体が喋ると想定した方がいいか』

『なンダ? ボスは人とは結局言葉は通じナイ、と言っていたがお前は話セル。でも殴ってキタ。お前は敵カ? それとも"未来"カ?』

 

 色々と話しかけてくるレンに対してゴブリンは警戒しながらも会話に応じてくる。逃げようと身を起こしたそうにしているが、先程のレンの一撃がキツくまだ立ち上がる事も出来ないでいるのだ。

 そんなゴブリンから投げかけられた言葉だったが、レンはまるで聞こえでもしていないかのように聞き流して己の質問を更に続けていく。

 

『ゴブリン・ジェネラルを知っているか?』

『ジェネラル? なんダそれハ?』

『そういえば分類はこっちの定義だったな。大柄なゴブリンだ。俺よりデカい。隻腕の、右腕しかないやつだ。たが恐ろしく強いはずだ』

『右腕! 大キイ! そレダ! それがグーギ様ダ! グーギ様を知っテル。やっぱりお前が"未来"なんダナ!?』

 

 レンの質問にゴブリンが激しく反応する。

 だがその返答はレンには推測のつかないものであった。

 

『そうかアレの名前がグーギだったのか。"未来"? なんのことだ。それを探してくるようにグーギとやらがお前に言ったのか』

『多分。そうダト、思ウ。俺だけじャナイ。全員言わレタ』

『多分とはどういう事だ。まさか言葉が通じないのか』

『そうじゃナイ。グーギ様は多分ニジャ様に言わレテ……』

 

 ここでゴブリンが歯切れ悪そうに顔を伏せる。

 その新しい単語にレンは眉根を寄せる。

 

『新しい指導者が現れた、という事か。厄介な。おい、まだ聞く事がある、答えてもらうぞ』

『ヒェッ、なんなんだオ前。”未来”じゃないカト思ってたケド質問ばカリ、お前本当は敵なノカ……? グーギ様は人間はコウカツでギマンに満ちてると言っテタ。もしかシテ……』

 

 言い淀むゴブリンに対し、レンの雰囲気が凄みを伴ったものに変わっていく。

 

『貴様の事情など知ったことか。喋る気を無くしたのか? それなら喋りやすい様にしてやるまでよ。幸いまだ五体満足だしな。痛みを味わえる場所はいくらでもある。さぁて、囀ってもらうぞ』

『ヤ、ヤバい奴だッタ! オレ、騙さレタ! ヤバイ! 助けてグーギ様!』

『勝手に喋っておいて良く言うわ。大人しく俺に全てを話すが良い!』

 

 ようやっとレンの危険性に気付いた間抜けなゴブリンが身体を引きずって逃げようとする。

 だが、初手の一撃の力加減はゴブリンの無力化に最適な強さで打ち込まれており、彼はまだ地を這うのが精々だ。これではレンからは逃げられない。

 

 だが、悲鳴を上げるゴブリンの頭をレンが笑いながら掴んだところで路地の外から声が聞こえてくる。

 

「おいっ、向こうから声が聞こえるぞ!」

「逃げ遅れた者がいたのか!? すぐに確認するぞ!」

 

 バタバタと兵士達が駆けてくる声が聞こえる。

 それを聞いてレンもゴブリンも顔を歪ませる。

 

『ゲッ』

『チッ、時間切れか』

 

 ゴブリンはもちろん更なる人間の増加に怯えてだが、レンもまた東方語で話すゴブリンの存在自体が秘匿したい情報である為、その発覚を恐れての舌打ちだった。

 

 レンのその次の行動は一瞬であった。

 

 油断なくずっと握っていた大剣を素早く振り上げると逆袈裟にゴブリンを両断する。

 

『グゲッ!?』

『残念だが仕方ないな』

 

 ドチャリと二つの肉塊が地に落ちて鮮血を撒き散らす。

 兵士たちが路地裏の角を曲がって顔を見せたのはそのタイミングであった。

 

「ここか! って騎士団長! 貴方でしたか」

「あぁ。何かあったか?」

「すみません周囲の安全確保に動いていたところ、聞き慣れない話し声が聞こえたと思って来た次第です」

「そうかこちらはゴブリンが一匹いただけだったな。だが他にもいるかもしれん。見つけ次第即座に声も上げさせずに殺すように徹底しておけ」

「はっ! かしこまりました!」

 

 兵士たちがそのまま路地奥へと駆けて去っていく。

 西方語圏であるエレツ王国内で東方語が分かるものなど一般には絶無に等しい。

 他に見つかったゴブリンが一言二言叫んだ程度ですぐに殺せばさすがにバレたりはすまい。

 

 レンは今しがた斬り殺したばかりの死体の後片付けをさせる為のメモを作りながら呟く。

 

『指輪の事までは聞けずか。まぁいい。ここ暫くの異変にジェネラルが関わっている事は確信出来た。ならば当初の予定通りあの死に損ないを見つけて速やかに殺すだけよ』

 

 獰猛な笑みを浮かべて笑うレン。

 

 エレツ王国の騎士団長であるレンが予算の少ない中でも積極的に進めているゴブリン狩り。その目的は15年前の<ゴブリン災禍>における生き残り、ゴブリン・ジェネラルを始末する事であった。

 そこには今しがたレンが呟いた指輪を探し求める目的も含まれていた。

 

『ただ気になるのはゴブリンの言っていた"未来"の正体か。大した事でなければいいが』

 

 若干の懸念材料に顎をさするレン。

 

 かくしてゴブリン・ジェネラルであるグーギを求めて、アレリアとレンの思惑が交錯する。

 アレリアは今世での部下として、レンは因縁のある討伐対象として。

 そこに狙われているグーギ自身の思惑も絡んでいく。

 

 物語は次のステージへと進みつつあった。

 

 

(続く)

 

 次回、『箸休め回』




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