【ゴブリン・プリンセス】 ~TS姫様は冒険者なんて大っっっ嫌い!!~ 作:GR/フィルン
王都ガテドヨルール内に突如舞い降りたドラゴン、ワイバーン、ワーム、ゴーレム、ゴブリンという魔物達の襲撃は王位継承権を授与されたばかりの王女アレリア・オルトナー姫によって即座に鎮圧された。これによりほとんど被害らしい被害も無く事態は収束を得られたのであった。
とても喜ばしいことである。
だが大きな事が起こった後にはその後始末というのが付き物であり、為政者はそれを無視するわけにはそうそういかないのであった。
避難の解除、道路や家屋の補修、当直監視塔の査察、首都直上警備体制の見直し、これらに伴う書類仕事。
もっとも面倒な事ばかりでは無い。
アレリアは嬉々として事後処理の対応に加わっていた。
婚約者であるナスラム・バーランドがそんなアレリアの私室を訪ねたのはドワワゴゴン出現事件から少し経った後であった。
「来たよアレリアー。ドラゴンの実質単独撃破の功績おめでとう。遠征でいなくてごめんね。怪我は無い? 元気?」
「ナスラム! よく来たわね! 待ってたわよ! こっち来て!」
サロンに入りながら声を掛けるもアレリアの姿は見えず、代わりに奥の部屋から威勢のいい声が聞こえてきた。
どうも書斎の方にいるようで、ナスラムはそちらに行こうとするが、彼をここまで案内した侍女はなにか戸惑っていて、ナスラムを奥に招いていいかどうか決めかねているようだった。
その様子にナスラムが小首を傾げる。
「呼んでるみたいだけど、行かない方がいいかな?」
「あ、いえ、そういうわけでは……。あ……」
「あー、もうなにしてんのよ! 早くこっち来なさいナスラム!」
「あー! 姫様! いけません! そのお顔はいけませんよ姫様! あーっ!?」
瞬間的に我慢出来なくなったらしいアレリアが動き出す音がする。
ドタドタとした物音を鳴らしながら向こうで別の侍女の制止を振り切ったらしいアレリアが奥から顔を出した。
そしてその顔を見たナスラムは。
「ひっどい! あはははは、なにその顔酷すぎるよどうしたのさ! あははははは!!」
腹を抱えて盛大に笑ったのであった。
アレリアは瞬時にむくれた。
「五月蝿いわね。ちょっと三日ぐらい寝てないだけじゃ無い。たいしたことでも無いわ」
「いや大した事あるでしょ。目の隈も目つきもヤバいことになってるよ。ちょっとお姫様がしちゃいけない顔してる自覚ある? すごいよ?」
「そんなにすごいかしら?」
「すごいね。僕以外にその顔見せて無いよね? 幻滅されちゃうよ。せっかく可愛いって評価されてるんだから勿体ないって」
「そう。ナスラムが言うならきっとそうなのね」
「えぇ、姫様なんで急にそんな素直なんですかぁ……?」
ついてきたメローヌでは無い侍女の嘆きをよそに、手渡された鏡を見ながらアレリアがふむと小さく頷く。
顔に浮かんだぼってりとした隈に、さっきまで余程悪どいことでも考えていたのか普段以上に吊り上がった目つきと眉間の皺。
確かにそれはやんごとなき正当な王位継承者たる姫君のしていい顔などではちょっと無かった。
端的に言って悪人面である。
「湯浴みでもしてきたら? スッキリすると思うよ」
「そう? 確かに今ちょっと詰まってたところだけども。時間が無いのよね」
「その手伝いに僕を呼んだんでしょ? ちゃんと手伝うからゆっくり浴びてきなよ。なにで詰まってるのかは知らないけど一回リセットした方が案外上手くいくと思うよ」
「ふむ。それもそうね。それがいいわ。そうしましょう。侍女長! 湯浴みよ! 準備して!」
ナスラムの言葉にアッサリ頷いたアレリアが部屋に控えていたアレリア付きの眼鏡の侍女長に声を掛けると彼女は喜色を浮かべて喜んだのだった。
「あぁ。あんなに何度言っても一度も行ってくださらなかったのに。ナスラム様ありがとうございます。姫様から変な臭いがする前に入ってもらえて良うございました」
「アレリア。あんまり周りに迷惑かけるのは良くないと思うよ僕は……」
「それは仕方ないわねー。優先順位ってやつよ。今はナスラムが来たから順番が変わっただけよ。妥当でしょ」
「はいはいありがとう。でもその言葉はいつもの可愛いアレリアから聞きたいから湯浴み早く行ってきてね」
「分かったわ」
キツい悪人顔のまま二つ返事で頷くと侍女長の元に素直に向かっていくアレリア。
その様子に侍女長は感心仕切りだった。
「素晴らしい。さすが、流石ですナスラム様。もうずっと王宮にいてください……。本当に切実にお願いします。私どもが何を言っても姫様は聞いてくださらないのにナスラム様にだけはこんなに素直で……」
「なに世迷言言ってるのよ。疲れ過ぎなのかしら」
「あー、アレリアのはこの場合は僕が原因じゃなくて」
「え、全部ナスラムがいないとダメなんだから貴方が原因で間違いないじゃない」
「いやアレリア。それ意味が違うよ。誤解を生むって。あ、いや僕としては誤解の方が助かるけど意味が薄いし」
なにやらナスラムが顔を赤らめながらブツブツ言っているがその説明は侍女長にもアレリアにも通じてはいない。
だがその様子にピンと来たのかアレリアが手を打つ。
「あぁ、そういうことね分かったわ」
「そういう事だよ」
「え、あのすみません。私は置いてけぼりなんですが……」
慌てた侍女長に二人は同時に振り向くとどちらからとも無く自然と息を合わせる。
「「つまり」」
そして、こう言うのだった。
「「ケーキは最高の気分で美味しく食べなきゃ勿体無い」」
アレリアは嬉々として湯浴みに向かったのであった。
そして魔術を用いて急ぎ用意した風呂場で姫を丸洗いしながら侍女長は茫然とぼやく。
「お二人の世界が強過ぎて全然ついていけません……」
〜 ◯ 〜
しばらくしてからアレリアはスッキリとした顔で湯浴みから戻ってきた。
さっぱりと出来たお陰か気分も大分良さそうである。
「さぁケーキを食べたいわ! 早く用意してちょうだい!」
我が儘放題ではあるが、微笑ましく呆れ笑いを浮かべながらも侍女長は準備を始め、ナスラムは今日のケーキの解説を始める。
「今日のケーキは驚きだよ。彼の謳い文句まであるんだ」
「へぇ。聞かせてもらおうじゃない」
「曰く。千回分の感動を一口に籠めました、と」
「なるほどね????」
アレリアはさっぱり理解できないといった顔のまま頷いたのだった。
その反応にナスラムは苦笑する。彼もパティシエから聞かされた時は似たような返しをしたので身に覚えがあるが故の苦笑であった。
「菓子やケーキの世界は奥が深いね。彼も以前一度アイディアを聞いただけのケーキだったらしいんだけど、こないだの君の激励を聞いて奮起して作り上げたらしいよ。……まぁ、試行錯誤にかかった材料は屋敷の者達で美味しくいただきましたってところなんだけども」
「バーランド侯爵家に仕えるの最高過ぎないかしら。私もそこに住めないの?」
「無茶言わないでね。君に完成品を渡す為なんだから試作品まで食べたらメチャクチャでしょ」
「いっそ侍女で潜り込むとか」
「諦めてケーキ食べてくれる?」
しつこい婚約者を置いたナスラムのその言葉と同時にアレリアの前には小さく長方形に整えられたケーキが置かれたのだった。
アレリアの黒の瞳が輝く。
(つづく)
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