【ゴブリン・プリンセス】 ~TS姫様は冒険者なんて大っっっ嫌い!!~ 作:GR/フィルン
竜食祭の準備に向けた会話は進む。
「正直お金とかいう制度って最悪だと思ってたけど、稼いで自分たちの生活を豊かに出来る手段なんだと思えばまぁまぁ悪くないわね」
「貨幣制度は人類発展の一助だから廃止なんて無理だって。まぁ借金漬けのこの国生まれじゃそう思っても仕方ないとは僕自身そうだし分かるけども」
「お金が家や財宝にも食料にも換えられるなんて不思議な感じだわ。お金自体は大して何も出来ないのに」
「そんな根っこに疑問を持つ人はそうそういないと思うけどね。君の独特の感性かな」
「んー、まぁそうかもね」
元魔物ゆえの野生からの違和感とは言えない。
適当に誤魔化しながら本題に入っていく。
「それで、貴方を呼んだ理由なんだけど」
「あぁ、ここまで随分長かったね。なにをしたらいいのかな?」
「幾つかあるわ」
「ほいほい」
そう言ってアレリアが項目を指折り数えながら列挙していく。
冷めた紅茶をメローヌが取り替える。
「まず各国貴族への招待状の作成ね。討伐者だし私の名前で出すわ。筆跡真似られるでしょ?」
「うん出来るよ。可愛く書いておくね」
「お願いするわ。凍結魔術陣で保存しておける期限からしたら一ヶ月後ぐらいになるから、それでよろしくね」
目を細めて微笑みながら言うナスラムにアレリアはニコリともせず返す。
事務的すぎる色気の無さにナスラムはため息を吐いた。
そんな婚約者の様子に全く構わずアレリアは話しを続ける。
「それと竜食祭の催し物の内容も相談したいのよね」
「好きにやったらいいんじゃないの? アレリアの戦果でしょ」
「まぁそうだけど、ナスラムのアイディアは一考の価値があるわ」
「それは……、光栄だね」
「主に考えてるのは、メインの竜食パーティーと、販売する武具魔導具類の中身と売り方、戦力誇示のデモンストレーションに観光客誘引用の王都全体での祭りね」
数えていくと色々ある。
思ったよりも大規模になりそうな動きにナスラムが軽く驚く。
「全然時間が無い割には随分大々的にやるんだね。この財政だしこじんまりやると思ったよ」
「迷ったんだけどさすがにね。ここんとこ税金もキツめじゃない? 奴隷落ちの数も多いし、民衆に不満が溜まってるのはあっちこっちから来てるのよ。ガス抜きにはちょうどいいと思ったのよね」
「へぇ」
「なによ」
「いや、意外だなと思って」
純粋な驚きからナスラムがそう呟く。
アレリアは彼のその驚きをすぐには理解出来ない。
「ん?」
「君、民草の笑顔とか気にするタイプだったんだ」
「はぁ!? 人のことを何だと思ってるわけ!?」
「わがまま自由で、父上とエーデルさん絶対殺したいレディかな」
「祭りの催し物は貴方が断頭台で盛り上げてくれようってのかしら??? 処刑人の役なら喜んでやってあげるわよ」
あんまりな物言いに楽しげに語っていたアレリアの眉が怒りの形を取る。
とはいえ、これぐらいはいつもの軽口の範疇だ。
存外に広いアレリアの懐に感謝しながらナスラムは割と好きにものを言わせてもらっている。
「あはは、ごめんごめん。ただ素直にそう思ったからさ」
「まぁ、趣味の遊びみたいなものよ。なんていうのかしら、悪くないのよね。私の支配する民達が笑顔で私を称えてくれるのを受け取るのが。知らなかった事を知って、持っていなかった物を手に入れて、腹ペコじゃなくてお腹いっぱいで、命が脅かされずに生きていける事に安堵して」
「アレリア……」
「そういう満たされた実感としての笑顔が嫌いじゃないのよ。媚びた笑顔は気持ち悪いだけだけど、自分が支配してるんだからついてきて良かったぐらいは思わせてあげたいじゃない。現状じゃあ大分遠いけどね」
苦笑しながら脳裏に浮かぶのは一から作り上げたゴブリンだけの険しく山脈深い谷底の国だ。
朽ち果てた廃墟だけがあった山奥のジャングルを切り開き、自分の土地へと変えていった。
苦しい日々が続いたが、ある日運の悪い山脈越えの旅人達を捕らえてから人の知識を得て、状況は改善していった。
食が豊かになり、寝床が快適になり、病気にかかるものが減り、子分のゴブリン達の笑顔は増えた。当時は彼だったゴブリンロードはそれに強い充足感を覚えたものだった。
その気持ちを同じ民草であるという括りから、人間の民たちへと向けることは出来なくもない。文化を生み出せるという点で人間は認められるし、ゴブリンと同じ様な扱いで庇護の愛を注ぐ事までは出来ないが、ゴブリン達の代わりとして暇つぶし程度に面倒を見るぐらいは趣味の範疇だと思えば許せた。
冒険者だけは別だが。
それは彼女の根っこにある人間への感情が嫌悪より憧れが強いゆえかもしれなかった。
そうしてかつての子分共だったゴブリン達を思い出しながら、普段滅多に見せることの無い優しい顔をするアレリア。そんな顔に思わずドキリとして頬を赤らめ、彼女をじっと見つめてしまったのがナスラムだ。
妙に静かになった二人を眺めながら、それまで静かにしていたメローヌが小さく感心する。
「これがいたいけな少年が悪女に騙される瞬間ですか、勉強になりますね」
雰囲気は台無しになった。
〜 ◯ 〜
「後は竜食祭に集中したいから他の会議に出るのを手伝って欲しいのよね」
うつ伏せに大の字で床に転がっているメローヌを置いてアレリアが話しを続ける。なお他の侍女達はメローヌが帰ってきたので皆他の間へと下げられている。
いくつか方針を話し合い、進められそうな書類をお互い書いている中で議題がそちらに振れた。
「いいの? 継承権持ちの仕事だよね」
「大丈夫よ。代理人の任命権は私にあるから。お父様に相談したらナスラムなら良いって言ってくれたわ」
「それは身が引き締まる思いだね」
この裏で王から相談を受けたレン・バーランドの後押しがあった事は想像に難くない。
アレリアとしてはナスラム自身の能力も加味してそうなるであろことぐらいは折り込み済みであった。
「暫くは一緒に会議に出て、任せられそうなのはそのまま振ってくわ。書類捌きも出来るだけお願いね」
「王宮に僕の部屋が欲しくなるね」
「後宮の名残なら空いてるけど使う? お父様はお母様にベタ惚れ過ぎてずっと同室だから使う見込み無いし、私も貴方以外まで囲うのは面倒だから当面空き家よあそこ」
「あー、じゃあ使わせてもらおうかな」
「20年以上ほったらかしらしいから修繕と掃除はよろしくね」
「うわ、仕事増やされた。アレリアひどくない?」
ここぞとばかりに不良物件まで押し付けてくるアレリアにジト目を向けるナスラム。
だが、アレリアはどこ吹く風だ。
「ほほほ。何のことかしらね。好きに使っていいし、やる気の出る話しはもちろんあるわよ」
「ん?」
「会議。奴隷関係と国境処理関係のは全部任せるからやりたいようにやるといいわ」
「! あぁ、悪いねアレリア。まさか自分で手綱を握れるとは思わなかったよ。丸投げっぽい感じだけど」
「まぁ細かい事はいいじゃない。私の名前は好きに使って構わないのよ」
気安くアレリアは言う。
ナスラムはいつも通りの婚約者に苦笑いしながらも喜んでその任を請け負う。
だが話しを聞きながら彼には疑問が浮かんできた。
「なんか、僕に回し過ぎじゃない? 竜食祭除いてもなんか他の事考えてない?」
「あら察しがいいわね。分かりやす過ぎたかしら」
「んー、さすがにね」
気安い会話の合間でアレリアが爆弾を投下してくる。
何気なく。
自然な様子で。
「エーデルを処刑するのにかかる手間を捻出する時間が欲しかったのよ」
「そう……」
「え?」
(つづく)
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