【ゴブリン・プリンセス】 ~TS姫様は冒険者なんて大っっっ嫌い!!~ 作:GR/フィルン
ご留意ください。
よく晴れた昼下がり。
二つの人影がそこそこ立派な一枚扉の前で佇んでいた。
二人はコソコソと何かを話し合っている。
「メローヌ。貴女は知らないでしょうから教えてあげるわ。最もスマートな処刑方法というやつをね」
「はぁ。またどっかの本で読んできた胡乱情報に踊らされてるんですね。おいたわしや」
「ちょっと? 貴女にも少しは敬意ってものを覚えて欲しいんだけれども?」
「それならせめて、姫らしい行動を少しは取れるようになってから仰っていただけますでしょうか。今とか」
「姫らしくないかしら?」
「無いですね。無さすぎですね」
城の中、国の筆頭術師の部屋の前にたむろしていたのは前の話の流れから当然と言うべきか、この国の王位継承者たる翠の美姫アレリア・オルトナーと、その従者である金髪ポニテ侍女のメローヌ・アルディエンヌであった。
さすがにコッソリ動いている自覚があるのか、アレリアの声も今だけは控えめだ。
呆れ返って言われた台詞にも構わず、手元の戦闘用の杖を取り出すと柄頭を回して剣身を引き抜き、静かに杖剣を腰溜めに構えた。
「よしっと。さぁ、行くわよ」
「え、いきなり抜剣ですか。心根が蛮族丸出しじゃないですか。人払いしておいたとはいえ正気ですか」
「私はいつでも正気よ」
「そいつは信じない方がいいやつですね」
「自分の正気ぐらい信じさせなさいよ! とにかく突入するわよ。エーデルが抵抗するようなら貴女も手伝いなさい」
完全に初手から殺す気のアレリアを見てメローヌは無表情ながらに嘆息する。
どうやら姫君のおっしゃられるところのスマートな処刑とは、国の中枢たる城内で白昼堂々に城の次期主人が暗殺紛いの凶刃を刑罰と称して宮廷筆頭術師に振るうことを意味しているらしかった。
やはり正気の沙汰とは思えない内容である。殿中でござる。これは違うか。
だが、アレリアはいたって本気らしい。
「大丈夫よ。人払いは充分だから見ている奴なんていないわ。それに罪状は十分だもの。殺した後で抵抗したとか適当に言えばいいのよ。所詮エーデルは魔術師。ドラゴン殺しを成し遂げた私が強襲すれば何かされる前に殺し切ることなんて余裕だわ」
「姫様。話は分かりましたけど、あんまり前振り長くしない方がいいですよ。ただでさえこれだけ勿体ぶって出てくるエーデル様が、初手死亡退場なんてあるわけないって誰でも分かる事なんですから。またしょうもない失敗しますよ」
「??? 貴女が何を言ってるのかさっぱり分からないわ」
「つまりですね。殺るならとっとと殺った方がいい、ということです。あれで口達者なエーデル様にまた丸め込まれてしまいますよ」
「!」
それを聞いてアレリアは目を開いて一瞬驚いた後、口角を上げてニッと笑った。
「至言ね」
その言葉で腹が決まったのか、彼女はそれまで掛けていた気配を隠しやすくする魔法を静かに解く。
空気が変わる。
同時に息を一つ吸い、右足を振り上げた。
そして、目の前の扉を勢いよく蹴破ると、室内へと転がり込むように荒々しく侵入したのだった。
「エーデル・イー!!!」
「おや、姫さま?」
突入に合わせてアレリアが誰何すると、のんびりとした様子の男が枯れた声で返して来る。
その呑気さに付き合わず素早く駆け込みながら腰だめに杖剣を構え、棒立ちでこちらへと身体を向けたローブ男に対して必殺の突きを繰り出すアレリア。
「ご機嫌よう! そして、不敬罪でくたばりなさい!!!」
剣先の狙いは誤たずエーデルの左胸元、心臓のある位置へと吸い込まれていき、ソレをそのまま刺し貫いたのだった。
「グハァッ!!」
「まだまだっ! これは国家騒乱罪の分よ!!」
貫いたままの両刃の剣を手首の返しでグルリと回し、そのまま両手でしっかりと柄を握り締めると、袈裟斬りの方向、左斜め下に向かい刃を滑らせるようにして腹を引き斬りながらその刃を振り抜いたのであった。
「せゃぁっ!!!」
「ゲホォッ! ヤラレタ──ッ!!」
「……やられたって言いながらやられる人とか現実で始めて見ましたね」
メローヌのボヤきはさておき臓腑を切り裂くアレリアの一撃は、研究室にもなっている雑然とした部屋中に主だった者の鮮血を撒き散らしたのだった。
その手応えにアレリアは快哉を挙げる。
「この斬り心地、やったわ!!!」
「えぇ、ホントですかこれ……」
いともあっさり切り殺されて床に死体として転がった英雄。ドラゴンをも易々と上回る騎士団長レン・バーランドと同格として呼ばれ、かつては国内最強の呼び声高かった現国王陛下よりも明確な上位の実力者として謳われた最高峰の呪術師エーデル・イー。
その彼はアレリアの暗殺紛いの蛮行によって成す術も無く崩れ落ちてしまっていた。
勿論あり得ない話しではない。
いかにドラゴンより強いと言ったところで、それはドラゴンを倒す事が出来るという意味であり、ドラゴンと同等の防御、耐久を誇るという事にはなり得ない。
最大の火力を発揮すれば究極的には複数のドラゴンさえ一度に葬るだけの力を持つ凶悪な呪術師であろうと、身体を鍛える事がその強さの相乗に繋がりにくい術師という実態からは逃れられない。
十分に油断をしているのであれば、防御力的な面から見た時にこの結果は充分に有り得てしまうことなのであった。
だがそれを信じられないのはメローヌだ。
勝ち誇り、高笑いを上げ、死体を踏んで悦に浸るアレリアと違ってメローヌは素直に今の状況を盲信する事は出来なかった。
英雄というのは伊達ではない。運と才能と鍛錬の果てに人は英雄を生み出す。
生み出された英雄は尋常ならざる運命を携えているのが常であり、並みではないのだ。
こんな、開幕5秒でモブのように殺れました。みたいな終わりを迎えるはずがないのである。
英雄の死はそれさえもまた劇的でなければならない。古より歴史がそう物語っており、それを覆す者がいるとしたら、その者こそは歴史をも覆す特異点ということになる。
いっそ衝動的とも見える様なアレリア姫の凶行がそこまでの異変に匹敵するのか。
メローヌはとても信じる事が出来ない。
ゆえに、警告を口にした。
「姫様。まだ油断なさらない方がよろしいかと」
「へ?」
間抜けな声がアレリアの口から転がり落ちる。
片足をエーデルの頭に乗せ、勝ちを確信したアレリアは完全なアホ面を晒していた。
「でも、殺したわよ」
「こんな簡単に事が成るとは思えません。何か見落としがあるはずです。警戒してください」
「ふっ。馬鹿ねメローヌ。私は勝ったのよ。確かにエーデルを刺し斬って殺したの。この感覚は幻覚でもなんでもない。現実だわ。楽勝よ」
「姫様。それ以上はいけません」
「この抜け作は敗北者なのよ。アレだけ私の不興を買って、危機感の欠片も無い。ついに馬脚を露したってわけ。殺されるに相応しいクソ雑魚だわ」
「ダメです姫様。調子に乗っては」
ぐりぐりと靴裏で死後の英雄を貶める。
メローヌが主人を止めようとする。侍女は今無表情ながらも真剣に焦っていた。
これ以上はいけない。
「調子がどうしたのよ。ここにはもう私と貴女の二人しかいないのよ。後は転がって床を舐める英雄の死骸だけだわ。冒険者上がり風情が調子に乗るからこうなるのよ! ざまぁないわ! 私が最強よ!」
「呼び寄せてしまいますよ! フラグを!」
「アーッハッハッハッハッハ!! この勢いでレンもぶっ殺してあげるわ! そして冒険者や奴隷なんて野蛮な制度を皆殺しにして、この国を文化の大輪が花咲いた大国に導くのよ! 今に見てらっしゃい!! アハハハハハハハ!!!」
「なんて恐ろしいことを……!」
ついにアレリアが高笑いをあげる。
メローヌは余りに見事なそのフラグの建て方に震えを感じ始めていた。
傲慢な姫君の笑いは死体の頭を靴で更にぐりんぐりんしながら最高潮に達し、遂には普段は絶対に使おうとはしない東方語まで漏れ出たところで臨界点を越えた。
『この世をありとあらゆる文化を想像して愛でる事しか出きない、俺には想像も及ばない俺好みの素晴らしい世界に変えてくれるわ!!』
「あーあーあー……」
そして妄言を重ねた姫君は、この後予定通りフラグを回収するのだった。
(つづく)
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