【ゴブリン・プリンセス】 ~TS姫様は冒険者なんて大っっっ嫌い!!~   作:GR/フィルン

29 / 42
7-2 高く響くアレリアの高笑いにも終わりがおとずれた

 高く響くアレリアの高笑いにも終わりがおとずれた。

 

『ウワハハハハハハハ! 、ハッ? ひにゃあぁ!?」

 

「そして復活のエーデル・イー! で、ございます!!」

 

「ひゃあぁ!?」

「あー……」

 

 ガバリとエーデル・イーがその身を起こす。何の前触れも無く。激しくローブを翻して。さも当たり前のように。

 その頭に足を乗せていたアレリアはころんころんと軽やかに転げていった。

 

「ふぎゃっ!?」

 

 そのまま、雑多な物の多い床で分厚い本に後頭部をしたたかに打ち付け、悶絶して転げ回った。

 床に溜まった埃やら塵やらが浮かぶように舞う。汚い。

 

「おごごごごごごご」

「おいたわしや姫様。フラグを順調に建築しすぎたばっかりにこの落差……。あれほど言いましたのに、間抜けすぎて面白くて最高ですね」

「労わるのか馬鹿にするのか、どっちかにしなさいよね!?」

「ヒャー! 姫様ざっっこwwwwww」

「メロ──────ヌ!!!」

 

 床に転がる主人を指差ししてくる無表情侍女の棒読み煽りでキレ散らかすアレリア。

 

 その近くでは二人の漫才を楽し気に見つめているエーデルの姿があった。

 ローブは斬り裂かれたままだが、その下の身体に傷は見受けられない。

 第三者が見る機会は少ないがいつも通りの様子の二人にエーデルは満足したのか、そのまま奥の部屋へと去っていこうとする。

 

「姫さまとアルディエンヌ子爵家御令嬢殿のお戯れはいつも楽しそうで御座いますね。何よりのことです。では私めはこれにて少し御失礼をさせていただきまして、研究の続きに掛かろうかと存じますので、御前御免つかまつります。ではでは」

「いや待ちなさいよ」

 

 芝居がかったセリフを枯れた声で吐き、さささ、と消えていこうとしたエーデルの首元にアレリアの剣が押し当てられる。

 さすがにこれを見逃すほどギャグの星にアレリアは生きてはいなかった。

 

「どういうことなの。確かに心臓を突き破ったハズだったわ」

「それでは今度は首をお斬りになられますか?」

「そうするわ」

 

 身長の低いアレリアの腕から斜め上へと伸びた杖剣は、背の高いエーデルの首筋にその剣先を当てている。

 

 突きつけられた男は、乱雑に伸ばしたぼさぼさの濃紫色で艶の無い髪。赤に染まる半分閉じられたかのような濁った瞳。不健康なほどに痩せてスジの浮いた青白い肌。顔に乗せられたヒビの少し入った眼鏡。

 猫背気味に曲がっていても大柄な男性より頭一つ抜けて大きな上背。細くも長いその身体をほつれの見える元は上等だったであろう分厚いローブが覆う。

 表情は常に暗く薄い笑みを浮かべており、端的にいって不気味さがある。

 

 先ほどから問題しか見えていないが、その口調は腰が低く無礼なほどに丁寧であった。

 

 アレリアはそんなエーデルの生白い頸部に当てた剣先を手首で返して鋭く首筋を切り裂く、そのまま腕を大きく振りかぶって勢いをつけた後、素早く振り下ろして古臭いローブごと彼の足を両断する。

 

「おっと」

 

 支えが無くなり崩れてきた所を、再び振り上げた大上段からの一撃をもってその素っ首を叩き落とした。

 

「ぐぇっ」

 

 足首が見えないほどの長いスカートを履いていても、その動きは洗練されており全く淀みは無かった。

 

「ふん! いかがかしら!?」

「かなり良う御座いますね。流れるような動きは大変良く鍛錬されており感服致しました」

「はぁ!?」

 

 だが、瞬きほどもしないうちに平然と立っていたエーデルにアレリアが目を剥く。

 驚きで反射的に彼を二等分にしたが、それでも呪術士は当たり前のように起き上がってきた。

 こうなれば返り血を浴びようと構わないとばかりにアレリアはやっきになる。

 その後、アレリアは散々にエーデルを斬り殺し、魔術まで大盤振る舞いして殺しにかかったが、遂に彼を殺しきることは叶わなかった。

 

 そして疲れ果てたアレリアが床に手をついてぜぇぜぇと喘ぐ中で、彼はローブをボロかすとしつつも五体満足でのうのうとこう言い放ったのだった。

 

「ふむ。心臓破りに断首、四肢裂きから焼き殺し、両断・金的・内臓潰しに頭蓋挽き。他にも諸々と。人体をよく勉強されておられますね姫さま。感服致しました」

「うそでしょ……」

「ところでこれらは刑罰としての死罪相当の断罪とのこととお伺い致しました。私めの不敬もこれで幾分か減刑されているかと愚考致しますが、御身のお考えはいかがでありましょうや?」

「っっ!!? こいつわざとっ!!」

「あー、確かにそうですね。用意してた不敬と騒乱罪準拠の罪状から考えられる刑罰の総量を、落とした首の回数が確かに越えてますね」

 

 慇懃ながらもしれっと言われた言葉にアレリアが血相を変える。

 その見解の正しさを補強するように、侍女は手元の罪状一覧表を確認しながら主人へと平然とそう告げた。

 

「貴女はどっちの味方なのよメローヌ!」

「強いて言うなら面白い事の味方ですが、今は姫様が法を根拠に動かれた結果で足元を掬われましたので、姫様がこれ以上無様にならないように正論をぶつけました。はい。あえて言うならば姫様の味方で間違い無いですね」

「こんなまぜっ返しが趣味のトンチキな味方とか絶対いらないわ……」

 

 アレリアが床に崩れたまま嘆く。

 そんなアレリアにエーデルは跪き手を差し伸べた。

 

「ささ、姫さま。ここの床は汚う御座います。折角のお綺麗なお姿が血と汗と汚れにまみれてしまっては部屋の主人として申し訳が立ちませぬ。どうかお立ちあそびくださいませ」

「全部が全部お前のせいなのによくもヌケヌケと……っ。お前もレンも本当に本当に心底ムカつくわ。絶対いつかぶっ殺してやるんだから……!!」

「ハハ。おそろしゅう御座いますな。姫さまからの劇的な真の断罪。心よりお待ち申し上げております」

「くきぃぃぃぃ。このうっさん臭い敬語もどきも聞いてて腹立たしぃぃぃい」

「まぁエーデル様のこの喋りは私もどうかとは思いますね」

「ハハハ」

 

 枯れた声でカカと笑うエーデルは、アレリアを立ち上がらせた後で着替えのローブをバサリと羽織り直し、体裁を整える。

 その間の姫君はギリギリギリギリと耳障りな歯軋りを鳴らし続けていた。

 

 だが、エーデルが居住まいを正したところで鼻息を大きく一つ鳴らして気を取り直すと腕を組み、居丈高にアレリアは言い放った。

 

「ノーカンよ!」

「はぁ」

「ここには私とお前と私の侍女しかいないわ! そして私は死罪相当の断罪を申し付けに来たけどお前はまだ生きている! つまり私が断罪を実行したという証拠は無いわ! よってお前の罪咎はいくらも清算されていないの! 分かったわね!」

「おあー、姫様また詭弁を振り回し始めましたね」

「ふむぅ。そういう事でしたら確かに私めがいかに抗弁しようと認めていただく事は困難にございましょうな」

 

 アレリアの言い草にメローヌはため息を吐き、エーデルは首を素直に縦に振った。

 それにアレリアは気を良くする。

 

「でっしょ! 口ではいくら言ったところで私の方が偉いのだから当然よね! 権力様々だわ! あははは!」

「あい畏まりました。それではこの上で私めをどのように処断されるおつもりで御座いましょうか。僭上ながら申しますと断頭台もあまり意味がありませんことはお含みおきくださいますよう願います」

「そうね。私はお前の命以外は特にいらないのよね。溜め込んでる財宝は欲しいけど、殺す手段が見つかった時に名目が無いと具合が悪いわね。いつチャンスが巡ってくるとも分からないし……」

 

 ぶつぶつとアレリアが思考を巡らせていく。

 静かにその様子を見守るエーデルの傍らで、展開が読めたメローヌは腕を回して肩をすくめる準備を進めていた。

 

「分かったわ! 今日のところは大分ぶった切れてスッキリもしたし、保留にするわ! でも忘れないことね! 私はいつでもお前の命を狙っているのだからね!」

「ははっ。御身の高配なる沙汰、確かに承りました。肝に銘じて日々を過ごさせていただきます」

「あーあ、結局こうなりましたか。やっぱり手強い相手でしたね」

 

 終始傍観者だった侍女は肩をすくめて二人のやり取りを見送ったのであった。

 

 

(つづく)




読んでいただきありがとうございます。
次回の更新は明日の今頃です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。