【ゴブリン・プリンセス】 ~TS姫様は冒険者なんて大っっっ嫌い!!~ 作:GR/フィルン
「それで今日は諦めたけど、さっきのはどういうカラクリなのかしら?」
雑然としたエーデルの居室兼研究室の最初の部屋をメローヌがざかざかと片付けて、なんとか落ち着けるスペースを確保したところでアレリアは椅子に座り、ボヤッと立ち尽くしていたエーデルを問い詰めるのであった。
ついでに顔についた血糊も綺麗に拭き取られている。ドレスにはまだ残っていた。のんびり話していては後でランドリーメイドは悲痛な叫びを上げる羽目になるだろう。
現実に何回も殺したはずがほんの少しの時間の後にはそれが嘘か霞のようになっている。
服は切れているので幻や幻覚の類では無い。
エーデルは魔術師であるから何がしかの魔術によるものだとは思われたが、アレリアにはその正体を突き止めることは出来なかった。
「それは流石に申し上げることは出来ませぬゆえご容赦を願いますなぁ」
「じゃあ刑罰をそれにしたら話さざるを得ないんじゃないかしら?」
「ふむ。では、それもお断り申し上げましたらどうなりましょうや?」
「もちろん抗命の罪で縛り首……、死なないわこいつ!」
「ハハハ」
「追放も名誉剥奪も財産没収もこいつの命に比べたら価値が無いし、え、詰んでる? 詰みなの? うぬぬぬぬ」
頭を抱えて懊悩するアレリア。それをエーデルは穏やかな視線を向け、枯れた声で笑って見ていた。
しばらく悩んでいたアレリアであったが、途中でなにかに気付いたのかポンと手を打った。
「あ、そうだわ! これならどうかしら!」
「ほう。どのようになされるおつもりで御座いましょうか」
興味深げにエーデルが尋ねてくる。
姫君は自信満々に腰に手を当ててふんぞり返って言い放つ。
「まずやっぱり申し付けるわ。罪の償いの一環としてお前の不死の秘密を教えなさい!」
「御身自らの御裁可を頂き恐悦至極に存じますが、不敬を重ねて失礼させていただきますと、回答はお断り申し上げます事にてお願いつかまつります」
「あぁ、腹立つわこのエセ敬語。ともかくお前は元の罪を清算しないまま償いの機会も放棄したわけだから、罪を増やしたわね!」
「おっしゃられる通りにございますな」
「これを幾らでも繰り返せばお前の罪を際限なく増やす事だってこれで出来るわけよね! 償いきれない罪の地獄に堕ちるといいわ! これこそ罰が罪を呼ぶ「罪罰ロンダリング」よ!」
「姫様なんて?」
トンチキな事を言い出した姫君に、後ろで聞いていた侍女が反射的に聞き返す。
だが当たり前のようにその疑問はスルーされ、自分の考えに有頂天になったアレリアは楽しげに言葉を続ける。
「この手法があれば、お前の死罪相当の罪を残したまま新たな罰を課すことだって出来るわ! 私の言いたい事は分かるわね。過程は省いて結論だけ言うわ。私がこれから言う罰を受けなさい」
「拝聴させていただきましょう」
恭しくエーデルがこうべを垂れて、跪く。
その下げられたエーデルのつむじを見ながら、アレリアは新たな沙汰を下す。
「ひと月後の竜食祭。知ってるわね」
「もちろん聞き及んでおります」
「あれの開催に関わる全ての費用をお前が負担しなさい」
「はい。確かにその罰、受けさせていただくように致します」
「やった! これで幾らでも派手に出来るわね!!」
「え、いや。え?」
快諾したエーデルを見てアレリアがガッツポーズを取る。
先程までと違い素直に頷いた筆頭術師と、思ったよりも半端な罰を下した王位継承者を交互に見て侍女は疑問の声を上げた。
「あのー。質問してもいいですか?」
「いいわよ」
「なんでエーデル様はこの内容には素直に頷いたんですか? そして姫様はお金が欲しいなら単に全財産の没収を命じれば良かったのでは?」
素直なメローヌの疑問にエーデルは立ち上がって顎に手を当てると心底意外そうに呟いた。
「おや、これは異な事を。私めが姫さまより直々に下された下知に抗命する事を信条とするような無頼の徒などと思われようとは心外で御座いますね」
「ついさっきお断り申し上げますって言ってたばかりですけどね。あと、下知じゃなくて処罰ではないでしょうか」
「ハハ。理由なき抗命など反逆者の行為ですよ。出来得るならば私めはこの国にいさせていただきたいですからね。罰は罰として粛々とそれを贖うのが筋ではございませんか」
キッパリと言い切る呪術師エーデル・イーの面の皮は相当に分厚かった。
そして、ツラツラとメローヌに答えるエーデルのセリフにアレリアがすかさず茶々をいれる。
「じゃあ、処罰の代わりにお前の不死の秘密を教えなさいよ」
「ハハハ。お断り申し上げます」
「はいギルティ。よし、これでまた罪が増えたわね。このシステム楽でいいじゃない。次は何してもらおうかしらね」
「これは参りましたなぁ。感服致しました」
「なんか楽しそうに見えるのが半分蚊帳の外の私からするとちょっとムカつきますね」
やり取りされているのは王権からの直々に課されたペナルティと、それを食い気味に拒否することで罪を重ねる不逞行為の応酬であった。
あまりにも平然と行われるトンチキに、さしものひょうきん侍女もささくれ気味の声音で主人に問う。
「姫様。そんなにエーデル様を罪まみれにしたいほどお嫌いなら、いっそ追放とか投獄とかされてしまった方がいいのではないですか?」
「はぁ?」
「おや、それは困りますなぁ」
エーデルは顎をさするがアレリアは即座に難色を示した。ドンッと机が鳴る。
「嫌よ!! 私はコイツに死を迎えさせたいのよ! 追放なんてして、どこともしれないこの世でのうのうと生きてるなんて考えたら気が狂いそうだわ! 絶対にコイツは私が殺すのよ。もちろんレンもだわ。冒険者上がりのコイツらに未来なんて絶対見させてあげるものですか」
「ハハハ、いやぁ、嫌われたものですなぁ。ここまで正面きって嫌って頂けるとはむしろありがたいぐらいでございます。感服致しました」
「何にさっきから感服してるんですかね、この感服おじさんは」
「あと投獄は冷飯食らわせるのに悪く無いけど、口では何を言っても結局コイツらは自分本位だもの。どうせ飽きたとかなんとか言って実力で逃げ出してどっかに行くに決まってるわ。冒険者に戻ればどこでも生きているなんて本当に忌々しい話しだわ」
「はぁ。いらん苦労背負ってますねぇ」
笑うエーデルに平坦な声音のメローヌ。
その二人の前でアレリアは机をドンドンと叩き、怒りを露わにするのだった。
(つづく)
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