【ゴブリン・プリンセス】 ~TS姫様は冒険者なんて大っっっ嫌い!!~   作:GR/フィルン

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7-6 「ん……? この金粒の持ってる魔力って」

 

「ん……? この金粒の持ってる魔力って」

「それに気付かれましたか! 流石は姫さまに御座います!!」

「ひぇゃぁっ!? っ! 急に後ろに来るんじゃないわよ!」

 

 それまで喋りに夢中になっていたはずのエーデルが突然真後ろに現れ、耳元で大声を上げる。

 驚いたアレリアは振り返りざまに回転力のついたフックで腹を殴りつけ、その長身を吹き飛ばしたのだった。

 

「グェッ」

 

 ドガラガラッと色々な物を巻き添えに吹き飛んだエーデルは、素早く立ち上がると興奮気味に話を続けた。

 

「ふーむ。魔術師でありながらこの膂力、感服致しました。いえ今はそちらで御座いますね。それこそが私の研究を前に進めた奇跡の一瓶で御座います」

「これが? お前が作った金の粒だと言うの?」

 

 小瓶を揺するとジャラッと重めの音が鳴る。

 それを見つめるアレリアの表情は思うところがあるのか、含みのある訝しげなものだった。

 

「いえいえ、それは収集によって得た物に御座います。手に入れましたのはなんとそう! ゴブリンの腹からだったので御座います!」

「……これが、ゴブリン達のお腹からねぇ」

「不思議で御座いますよねぇ。私めも最初は結石の類なのかと思いかけてしまいましたが、それにしては不審な点が多く御座いました。なにより持っている魔力の異質さが私めには大変興味深い内容だったのです」

「形は、様々ね」

「そうで御座います! そしてご覧下さい!」

 

 ドボッと解剖途中の手近な赤いスカーフを付けたゴブリン死体の丸い腹に手を突っ込むと、素早く中から小さな黄金の粒を新しく取り出した。

 それは仄暗い室内で蝋燭の灯りを受け、ギラリとした濃い輝きを放っていた。

 

「見られますでしょうか、感じられますでしょうか。ご覧下さいこの魔力の波長! おどろおどろしくも濃厚なゴブリンの魂の血液とも言うべき魔に染まった暗い力が黄金に移っているのです!!」

「見せてちょうだい」

「ご覧おなり下さいませ」

 

 そのまま差し出されたまだ血の滴る黄金小粒を手に取ってアレリアはソレをマジマジと観察して確かめる。ドレスに合わせた手袋が血の赤に染まるが姫君は意に介さない。

 

「……本当ね。黄金に魔力が宿る事は知られているし、魔導具の素材としても汎用性の高いものだけど、この濃さは間違いなく目を見張るものがあるわね。ただのゴブリンから得られた素材としては格別だわ」

「流石は姫さまで御座います! そうです、これは素晴らしい発見なのです! しかしぃ、コレを素材として使うのには些か問題が御座いまして。死体から取り出すと急速にその蓄えていた魔力を喪ってしまい、ほとんど普通の金粒へと少しすれば戻ってしまうので御座います」

「ふぅん」

 

 エーデルの言う事を確かめるように手元の小瓶を見れば、そこに残されている魔力残量は普通の黄金から感じられるものとそう大差はなかった。その質を除いて。

 手元で遊ぶように小瓶を鳴らしながらアレリアは気付いた事を指摘する。

 

「でも。当然それだけじゃないわよね」

「ははぁ。これは本当に感服致しました。どこでそれをお知りになられたのでしょうか」

「私は姫よ。それぐらいの伝手お前に知られなくたって簡単に作れるわ。ゴブリンの死体の魔力が黄金に移る現象には驚いたけど、黄金自体の出元も十分に特殊なものみたいね」

「左様でございます! では姫さまの得られましたその正答。私めにご教授いただけますでしょうか」

 

 カランカランと一層愉し気に枯れた声で笑いながら、エーデルが覗き込むように身を寄せて聞いてくる。

 そんな長身痩躯の呪術師を睨み返しながら、アレリアはきっぱりと言い切った。

 

「賢者の石」

「感服致しました」

 

 手を胸元に当て腰を折り、アレリアの背よりも低くまで深々と頭を下げるエーデル。

 その頭を見下ろしながら王女は鼻を鳴らす。

 

「ふん。試験はもう十分だわ」

「いえいえ。まさか一目でその答えに辿り着かれるとは恥ずかしながら予想だにしておりませんでした。流石でございます姫さま」

「あらゆる物質を黄金に変えると言われる究極の錬金術、それが賢者の石。自然物から溶かし固められた普通の黄金がこんな異質な魔力を纏うわけないもの。自ずと答えは出るというものだわ」

「改めて感服致しました」

 

 エーデルは頭を上げずにアレリアを褒めちぎる。

 

 賢者の石。

 それは今しがたアレリアが口にしたように、魔術の一形態でもある錬金術の極地の一つであった。

 用いる事で命じたあらゆる物質を唯一の例外を除いて、黄金に変じさせる事が出来る。

 

 古くは過去に栄華を極めた古代魔導時代に多く生産されたという被造物だ。

 遺跡やダンジョンから極稀に出土し、触媒として体積の数百倍の物質を黄金化することが出来る価値の塊。

 大粒の物は国家が緊急時用の財宝として隠し持つほどに高値で取引されており、ゴブリン災禍によって貧乏に転じるまではエレツ王国でも何粒かを所有していたほどのものだった。

 勿論それらの全ては借金の代わりに既に支払われてしまい、この国からは無くなって久しい。

 

 エーデルが驚いたのも無理は無い。

 

 根っからの魔術の徒であり、元特級冒険者として数多の財を抱えるエーデルであればいざ知らず。貧乏国家の箱入り姫君であるアレリア王女が賢者の石によって得られた黄金の実物を見たことがあるはずも無く、そのほんの僅かな魔力の質の差だけで由来を当てようというのは、今しがたアレリアがサラリと口にしたほど簡単な事ではとても無い話なのであった。

 

「魂に宿る魔力の移りが、黄金だからなのか、それとも賢者の石由来の黄金なのか。それが分け目になってるってことなのかしらね」

「仰られる通りに御座います」

「お前の見立ては?」

「賢者の石ゆえにで御座いましょう」

「ふぅん」

 

 エーデルが感嘆したほどの事実の深掘りを避けるように話を前に進めるアレリア。

 そこには当然のように理由があった。

 

 彼女は、いや、前世ではギギスという名を名乗っていたゴブリンロードという彼であった者は賢者の石を指輪として所有していたのだ。

 賢者の石で作った黄金から出来た粗末な王冠を被り、自分達で織った麻のマントを羽織り、小指に指輪を嵌め、節くれだった杖を待ち、人に災禍を齎した小鬼の王。

 それがかつての姿であった。

 

 人に憧れた者として、戯れに人と契約の真似事を交わし、その対価として人から渡された賢者の石。

 渡された時にその証左として変えられた黄金から感じた魔力の質と、今手元にある黄金の粒から見えてくる質とは完全に一致したものだった。

 自らの頭に被っていたのだから覚えている。

 その感覚は疑いようも無いほどに同じ物で、アレリアがその被造物を間違えようはずも無かった。

 

 そんな過去を悟られぬように彼女は話しを続ける。

 

「面白いわね。賢者の石といえば、偉大な遺物の一つとして財宝としての価値を確かなものにしていたけれど、ただ黄金が作れるだけの事に古代人達がどうして莫大なコストを掛けてまで心血を注いでいたのかは長い間不明とされてきたわ。別の何か本来の用途があったとすれば納得もいくわね」

「左様で御座います。そしてこの発見こそが私めが求める輪廻転生へと繋がっていると見込んでいるので御座います」

「生は人の極限たる執着だわ。現世で満ち足りるを知れば生への固執さえからも人は解放されると教会は説いているけれど、現実にそんな充足などあるわけもないわ」

「満たされきるなどあり得ぬままに人は傷つき老いていきます。誠に現世とは苦行に他なりませぬ」

 

 探究心からの興味に強く惹かれているアレリアに対し、先程から頭を下げたままのエーデルの顔は悲哀に満ちたものだった。

 やがてブルブルとその長駆を震わせると、ガバリと顔を上げて声高に叫ぶ。

 

「であればこその輪廻転生なので御座います!!」

「うぉっ」

「もうちょっと可愛い声を出してくれますか姫様」

「隆盛を誇った古代人とて現世地獄の苦痛は耐えきれなかったはずで御座います。ゆえに来世へと夢を託す輪廻転生こそ彼らにとっても悲願であったと、私めはそう見込んでおるのです」

 

 唾が飛びそうな至近距離で熱く語るエーデル。

 かなりの不敬であった。

 アレリアは思いっきり眉をしかめながら、メローヌにこの不敬もメモしておくように指と目線で指示する。

 

 気配を殺し静かに状況を見守っていたメローヌは、命じられた通りに帳面にメモを取っていく。表情は相変わらず変わらないが侍女の機嫌は不思議と良さそうであった。

 

「是非とも御照覧くださいませ姫さま! 私めはいずれ必ずや輪廻転生の真理に辿り着き、この世を来世への希望溢れる笑顔で満たしてみせましょうぞ!」

「そして証明しきった後の最初の実験台は自分が請け負って、それまでは絶対に死ねないから不死になったと、お前はそうほざきたいわけね」

「まったく然りで御座います。その為には私めは己の出来るあらゆる事を為す所存に御座います。そう。いかなる事でも。ありとあらゆる、如何様な事でも! クヒヒッ、ヒヒッ、ヒハハハハッッ!!!」

 

 そのまま自分の世界に入り、奇天烈な高笑いを上げて己の思考に耽溺してゲタゲタと笑い続けるエーデル。

 

 それきり会話の成立しなくなった王宮筆頭術師をおいて、アレリアはエーデルの居室を離れる。

 残念ながら小瓶は持ち帰らせてはもらえなかったが、その他のいくつかの魔術触媒はうまいことせしめての帰還。

 

 失った物は無く、得た物は多く。

 殺しこそ出来なかったが、実に十二分な成果であった。

 

 エーデルの居室を離れた後、王城内を歩きながらアレリアはボソリと呟くように口を開く。

 

「赤いスカーフ、金の粒、そして首都への執着。……本当に、愚かね。そして可愛い子。やっぱり私が導いて上げなくちゃダメみたいだわ」

「なんの話ですか?」

 

 うっすらとした笑みを浮かべるアレリア姫にメローヌが首を傾げて問いかける。

 

「ピースが揃ってきたという事よ。エーデルの話しも興味深くはあったけど、知るべきことを知れたわね。お陰でこれからが楽しみだわ」

 

 こうしてアレリアは狂気の呪術師エーデル・イーとの久々の邂逅を果たし、彼女自身もまた先を見据えて嫣然と微笑むのであった。

 

 

(続く)

 

 

 次回、『竜食祭』




読んでいただきありがとうございます。
次回の更新は明日の今頃です。
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