【ゴブリン・プリンセス】 ~TS姫様は冒険者なんて大っっっ嫌い!!~   作:GR/フィルン

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8-2 「やっぱ殺すわ!!!」

「やっぱ殺すわ!!!」

 

 出た結論は変わらなかった。

 メローヌは流れるようにツッコミを入れる。

 

「いや、変わんないんですか。なんというか無駄な会話でしたねここまで」

「だってじっくり考えたんだけどやっぱりアイツらむかつくのよ。殺さなきゃ気が済まないわ」

「ちょっと弱ったぐらいじゃなんも変わらないぐらいにいつも通りですね」

「それに私がここで人間の姫でいることに収まったら救われないじゃない」

「誰がですか?」

 

 化粧は終わったし、だんだん興奮してきたのか血色がよくなりだしてきたアレリアを見てメイドはそろそろ移動してもらいたいな、などと思いながらも止まらなさそうなので言葉の続きを伺う。

 

「ゴブリン達よ」

「はぁ」

「あの子達は粗雑で苦しく貧しい生活を今も続けているに違いないわ。エーデルの所にあった死体を見て分かったけど、食事はまぁまぁちゃんと取れてそうだったわ。服は私が教わった麻服の編み方が継承されてるみたいだから、不潔なボロ布しか着る物がないなんてことは無さそうね。地べたで直に寝てる子達特有の腰の曲がりも少なかったから寝床の改善もうちの子達は継続して出来てるみたいね」

「はぁ。良かったですね?」

 

 アレリアがいかにも辛そうな表情をしながら、死体から検分した現在のゴブリン達の状況を指折り数えて分析する。

 だがその内容はあまり重そうには聞こえず、メローヌは首を傾げた。

 

「あれ、確かにそうね?」

 

 言われてアレリアも首を傾げる。衣食住の改善が出来ているのは大きい。

 

 姫君とメイドは二人して首を傾けてしまい、二人の間には沈黙が流れた。

 

「……………………」

「……………………」

「あの」

「と、とにかく! 私にはゴブリン達を導いて、あの子達に豊かな生活を送らせるという王としての責務があるのよ!! その為にも私はゴブリンロードとしての矜持を貫いて私の復讐に決着をつけ、そうしてゴブリンという種族を豊かなものにするの! 分かった!?」

「はぁ、はい」

「気のない返事!!」

 

 適当に相槌を打つメローヌにアレリアはバァンして叫ぶが、メローヌとしても困ったものだった。

 仕方なく無表情のまま指摘する。

 

「そう言われても、私も聞き手として感情の着地のさせ方が分からない会話を展開されると反応のしようがですね」

「まとまってない話しして悪かったわね!? こんな時ばっかり正論吐いて貴女はもう! うっ、ゴホッ、ゲホーッ、ゴホッ」

「ほらほら姫様あんまり興奮するから。体調悪いんですから無理しないでください。城内でも皆んな心配してるんですから」

「ゴホッゴホッ、んんっ」

 

 強めに咳き込むアレリアの背中を撫でながらメローヌが周囲も王女を気遣っている事を告げる。

 少しして、咳が落ち着いたアレリアは丸めた背をさすられながらメイドに聞く。

 

「噂に、なってるのね。んっ」

「流石に抑えきれてませんね。鬼の霍乱とか言われて」

「……私この国で結構大事にされてるお姫様のはずよね?」

「それはもう敬愛されまくりですから」

「なぜかしら信憑性が薄そうに聞こえるわね。それよりその話ってお客達には」

 

 すかさず答えてくる無表情顔を胡乱げに見つめて、背を伸ばしながら気掛かりを確認する。

 打てば響くように声が返ってくる。

 

「もちろん絶対伝えないようにと緘口令が敷かれてますよ。現王クタリヤ様の名前で皆んな口止めされてます」

「ま、そりゃそうよね。悪いことしたものだわ」

「自覚があるなら健康管理はご自身でキチンとお願いしますね。私もメイド長に大分怒られたんですから。専属メイドとして何を見てるんだって」

 

 アレリアがまっすぐ立ったのを確認したところで、メローヌは部屋の出支度を整えつつラフにぼやく。

 一見気弱に見えるがメイド長は怖いのである。メローヌが来てからは基本的に彼女だけが姫君の世話をするようにとアレリアの我が儘によって言われており、今日も別室で裏方的な諸作業と監督に追われているメイド長が特別メローヌに”手厚い”のは致し方のない事であった。

 

「そう。大変ね」

「わぁ、冷たい」

 

 しかしアレリアの返事はにべもないもので、その傲慢そうな素振りは弱っている気配など微塵も感じさせずにいつも通りであった。

 下らない会話であったが気付程度にはなったようである。メローヌはその結果に無表情のまま満足して主人の後ろにつく。

 

 それを横目で確かめてから高らかにアレリアは言い放った。

 

「さぁ! ここからが第一歩だわ! アレもコレも忙しくなるわよ!」

 

「不安になるので突然最終回みたいな事を言うのやめて頂けますか?」

 

 応じる声は気持ちの良い承諾では無く茶々入れだっだ。

 

「何の話よ。ホントにこれから色々やっつける為に動くんだからちゃんとついて来なさいよね。晩餐会から仕掛けていくわよ」

「なるほど祭りの主催者が謀略側系ですか。そして私はそれに加担する側と。頑張りますね」

「その意気よ」

 

 メイドの返事に気を良くするとアレリアは決意を示すように自室の扉に自ら手を掛け、意気揚々とその足を踏み出したのであった。

 

 

 〜 ◯ 〜

 

 

 無事に午後の二件分の打ち合わせを終えて、竜食祭にアレリアはのぞむ。

 

 広い広いホールに細長いテーブルがズラリと並べられていた。

 最も下座側の壁には大時計が一つドンと置かれて時を刻んでいた。エレツ王国の王宮に唯一残っている最後の大時計である。高級品ゆえに大事に管理されていたが、今日はなけなしの見栄としてこの大ホールに運ばれていた。

 縦につながる様に置かれた長台には各国の王侯貴族が向かい合わせに座り合う。

 

 先の一番奥には主催者ということで、エレツ王国の王家四名が列席者達と同じ横向きで並んでいた。

 

 多少、大陸南西諸国群の賓客達を迎えるには密度が濃いようにも感じるひしめき様であるが、これは致し方ない。

 竜食祭は竜肉の解凍からの鮮度や保持魔力的な都合から、僅か3日の内に招待した全ての客に竜肉を供せねばならないのだ。二日目三日目は昼食会でも振る舞われるが、そこにはやはり格や見栄というものがあり、三日目よりも二日目、二日目よりも一日目、昼食よりも晩餐、ともなればこの混雑ともいえる盛況ぶりも残念ながら当然と言わざるを得ないところであった。

 

 なお、竜食で得られる力には限りがある。

 本質的には素質を食うと言われる行為であり、食べた量は然程の差にはならず、その竜を『食べた』という事実が個々人の素質を底上げて更なる力をそれぞれの人間へと齎すのであった。

 ゆえに数多くの竜を食らう事には意味はあっても、一匹の竜の全てを食べる事には腹が膨れる事と希少部位食によるメリットデメリットの全てを享受出来るぐらいしか意味が無いのであった。

 

 なんにしても人は集まれば良く喋るもので、各々の国ではやんごとなき方々も今はお互いの情報収集や様子伺いも兼ねて近しい席の者達と積極的に会話を繰り広げホールは結構なざわめき様を呈していた。

 

 この会話もそんな中の一つだ。

 

「そういえば聞かれましたかな。なんでも神の一柱がまかしこられているようですよ」

「おやそれは目出度い。ちなみにどちらのかはご存知で?」

 

 向かい合った煌びやかな貴族同士が朗らかに話し合っていた。手元にはエレツ王国産のワインとメインの前の簡単な前菜が置かれていた。

 

「なんでも、噂によれば「主神」ではないかと」

「なんと。万世の母たる?」

「そのようですよ。神々の中でも珍しい褐色の肌とのことでしたから」

「それはそれは。強力な次代の擁立といい、エレツ王国はここにきて祝福されておりますな」

 

 神の顕現を貴族達は讃える。

 

 この世界において神とは強大で偉大でありながらも、案外その辺にいたりする存在である。

 数こそ当然のように極々少ないが現世でそうと知られずに暮らしているものも多く、実は友人が強大な神の一柱であったなどという笑い話もあるぐらいである。

 

 神界なる場所もあるらしいがそれは次元の離れた人には手の届かない何処かなどではなく、物理的に人間では行くのが困難なだけで世界的には繋がりのあるどこか遠い場所であるらしかった。

 

 なのでこんな軽口も出たりするのだ。

 

「いやぁ、竜食楽しみですな。これで私も神界に少しは近づけますかな」

「ハハハ、大きく出ましたな。それならば私も神界を目指せるようにしっかり竜を食らわせて貰わねばなりませんな」

 

 神界に辿りつければ神になれる。

 それは誇張でも比喩でも無く厳然とした事実であった。

 

 即ち、神界にその身で至れる者は神に等しいという意味であり、翻ってみればこう言えるのであった。

 

「人の身に生まれ英雄となり、その極地として神に為る。憧れますよなぁ」

「最も強き者と言えば神ですからなぁ、敵うならお手合わせ一度願いたいものですな」

 

 顔を合わせて貴族達は笑い合う。

 

 そう。この世は力こそが支配する世界である。

 そして人の力に際限が無い世界でもある。

 才能と鍛錬と運の積み上げによって人は英雄を生み出し、それでも個の圧倒的な力によって世界が荒れたりはしていない。貴族制度などという統治体制を取りながら大きな戦争に明け暮れる地域も無く、なんならこうして貴族が一堂に会するような場を設けられるのも全てこの理由によるものであった。

 

 神の存在。

 

 君臨すれども統治せずをモットーに人の世の上位に位置する絶対者達。

 比較的善性に拠った主神の莫大な力に支配された神々は、余りに人の世が荒れた時には気紛れに介入してきたりしなかったり、もしくは些細な事で過剰に絡んできたりこなかったりを繰り返してきた。

 

 そうして人々は力が正義と知りながらも弱者を安易に虐げる事を是とせぬ世を作り上げてきたのであった。自分達もまた弱者の部類だと思い知り、明日は我が身だと理解するが故に。

 

 まぁ、なんにしてもこれはこの世の理の話であり、竜食祭の今にはあまり関係が無い。

 諸国王侯貴族達がめいめい盛り上がっていたところで、下座の先に置かれた大時計がボーンボーンと深い音で唸り、時を知らせる。

 

 時間だ。

 

 

(つづく)

 

 




読んでいただきありがとうございます。
連載始めてから一か月になりました。皆様のおかげです。
そろそろ書いたストックがなくなるので、続けられるかどうかがこの先正念場です。

次回の更新は明日の今頃です。
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