【ゴブリン・プリンセス】 ~TS姫様は冒険者なんて大っっっ嫌い!!~   作:GR/フィルン

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8-3 王侯貴族達はこの後の自らへの期待で

 王侯貴族達はこの後の自らへの期待で、顔を少年のようにワクワクとさせながら皆一様に静かになっていく。

 一つ高い段の上にある奥の大きな扉が厳かに開き、そこから台車に乗せられた非常に大振りに切り分けられた肉の巨塊が金髪ポニテメイドに運ばれて現れる。

 遠くの者たちにもハッキリと分かる威圧感をそれは力強く放っていた。

 

「おぉ」

「あれが……」

「素晴らしい焼き色ですな。これは期待が高まるというもの」

 

 みっしりとした肉の密度が放つ存在感に、場にいる誰もがその意識を圧倒させられる。

 死してなお、切られてなお、焼かれてなお、凝集された猛々しい生命力がそこに鎮座ましましていた。

 

 すっとアレリアが立ち上がり、高い段に置かれた竜肉の横へと赴く。

 居並ぶ各国の王侯貴族達へ自信に満ち満ちた顔を向ける。

 

 華奢な体躯をしていた。

 キツめの目つきながらも可憐な顔立ちをしていた。

 明るい色味の華やかなドレスを着ていた。

 そして、輝くように美しく汚れの無い翠の長髪で、丸く大粒な黒目を瞬かせ、ギザ歯をチラリと覗かせながら、彼女はニッと笑った。

 

 そのまま口上を垂れるかと思われたが、エレツ王国の姫は片手を上げると背後のメイドからすかさず渡された肉切り包丁を受け取り、肉塊へと刃を当てた。

 刃が通りきると、断面がしっかりと見えるように皆へと向けられる。

 

 諸侯の口からは感嘆の声が上がった。

 応えるように優雅なカーテシーを決めながら軽く頭を下げた。

 

「今宵、我らは竜を食す!」

 

 続けて幼ささえ感じるような甲高さでアレリアが声を張る。

 

「遠路はるばるよくぞこのエレツ王国までお越しくださいました。お招きに応じてくださり誠にありがとう……、などとつまらぬ口上を述べるつもりはありません」

 

 含みを持たせた物言いをした顔を見れば、その挑発的な吊り目は楽しげに歪み、口角はさも面白そうに跳ねていた。

 

「我慢出来ずに来てしまったんですよね皆様は。己の強さの糧を求めて。誰でも無く自分の為に。ただこの世界の強者として、更なる高みを目指す心を抑えきれないが故に!」

 

 ニマニマと一人一人を見定めるように笑いを隠しきれないような愉悦を込めて言い切る。

 それに対する王族貴族の面々は彼らもまた愉しげであった。意欲的な、野心的な、獰猛な笑みを隠さずその目をギラつかせている。

 

 アレリアはそんな彼らを見渡す。

 

「いい表情をしてるわね。流石は人の種を束ねる者達だわ。全てを得てなお止められない力への渇望。いいわ。与えましょう。私の竜の肉を! 食らうを認めてさしあげましょう! 今宵を神に祝福されし次の一歩と致しましょう!!」

「「おおっ!!」」

 

 アレリアの宣言に王侯諸侯が力強く応える。

 

 竜殺しの姫君は手ずから肉切包丁を振るって人の王達への餐を切り出していく。

 前世を小鬼の王と自覚する彼女であるが、魔物であるゴブリン族にとっての天敵である人間自体への忌避は憧れが上回っておりそれほど無い。文化文明を作れる人間をもてなす事は、この催事が金儲けであり自らの生活をより豊かにするものだと認識していれば嫌は無かった。

 これが前世の全てを蝕んだ冒険者相手であったならば、そうはいかなかったに違いないが。

 

 やがて列席者全ての前に竜肉のステーキが配られる。

 

 巨大な竜肉にもしっかりと火を通せる専用の竜肉焼き魔術によって調理された竜肉は見る者の食欲を魂から揺さぶる力の輝きすら放っているようであった。

 

 一仕事を終えたアレリア姫が再び声を張る。

 

「さぁ! 準備は整ったわ。ソースは各種用意があるからお好きなものを手近な者に命じてちょうだい。まずは塩だけで食べるのをお勧めするけどね。おかわりだってお好きなだけされるといいわ」

 

 控えた侍従達が一斉に礼を行う。

 

「悪いけれど毒見の手間は省かせてもらうわね。この場は竜殺しで主催である私アレリア・オルトナーと、見守りにこられた主神「イニーク・マァン神」との名と責任において守護されているわ。この場を乱すものは神への反逆者と見做して処されるので、皆様は安心してこのひと時をお楽しみなされることね!」

 

 高らかに神の祝福を告げる。

 

 各国の王族貴族達の目線は既にギラギラと目の前の竜肉だけに注がれ尽くしている。もはや細かい事など誰も聞いていないだろう。

 それを見てアレリアは笑って小さく嘆息しながら、今だけは誰よりも場の主導権を持つものとして、そこにいる全ての人間に力強い声で命を放つのであった。

 

「では者共。食ってよし!!!」

「「「いただきます!!!」」」

 

 荒々しい物言いだが、猛る食欲を煽る言葉としてはこれ以上ないものを持ってノーブルの皮を纏った獣達を肉食前線へと解き放ったのであった。

 

「んんん! 美味い!!!」

「素晴らしい! これが竜肉!!」

「10年前の焼き固められて時間の経った物と比べると肉の力強さが違いますな!」

「うおお! 美味い! 美味い! 品がなくて申し訳無いが吠えてもよろしいか!?」

 

 よく分からない許可が求められる。

 

「吠えても良し!!」

 

 即座にアレリアがそれを許す。

 

「有難い! おおおおおお!! うまい! うまい! うまいぞ──!!!」

「肉の力! 竜の力! 新たなる私ー!!」

「竜の肉繊維が解けて俺に溶け込んでくるのが分かるぞー!!」

 

 外聞など要らない。むしろ強者であろうとする事を欲する貪欲さこそが今この場で求められている事であった。

 力無き者に統治など夢物語に過ぎないと知るが故に。

 何人かは竜肉の力強さに負け担架送りになる者もいたが、食らった者のほとんどが己が血肉へと竜をその身に染み込ませていたのだった。

 

「ふふ。食らいなさい。この活力が人の文化文明を育む力になるに違いないわ。そしてその恩恵をいずれ私の子達にも……。ふふふ」

 

 もちろんアレリア姫がここで脳裏に浮かべるのは将来自分が腹を痛めて産むであろう人間の子供の事などでは無い。

 前世からの庇護を称する醜い緑肌の小鬼達だ。

 

 彼女には彼らこそがなにより愛しい。

 

 そうして満足げに竜食祭の盛り上がりを眺め、傍らの肉塊から得られた自分用の竜肉へとフォークを突き刺して口に運び、荒々しくブチリとそのギザ歯で噛みちぎった。

 

「んぐんぐ。こほっ。うん。良いわね。……さて、ついでの方もやっていこうかしらね」

 

 ひとしきり堪能するようにしてから飲み込むと、多少はしたなくも指で唇を軽く拭いつつその口角を悪意で歪める。

 

 アレリアの誰何の声が響く。

 

「騎士団長レン・バーランド! 筆頭術師エーデル・イー! 見せ物の時間よ! こちらへ来なさい!!」

 

 幼くも強い上位者の言葉が二人を立ち上がらせる。

 

 なおここまでずっと、国王であるはずのクタリヤ・オルトナー王は空気であった。次期をより大々的に広める為でもあるが、空気に徹しすぎるぐらいに空気であった。彼は力を持ちながらも心優しく、主張の薄い王なのである。この先も空気だ。

 

 竜肉を楽しみながら諸王侯貴族の歴々は感心したような声を上げた。

 

「ほほう。このタイミングでという事はアレをやられるのですかな」

「侮り難しエレツ王国ですな。かほどに国力を減じていてもアレを行える家臣をお持ちとは」

「呼ばれたのは〈防波の英雄〉を冠するお二人のようですな。見せていただくと致しましょう。エレツ王国の擁する英雄二人のその資質を」

 

 列席した者達は竜肉に夢中になりながらも、祭りの次の展開に興味を惹かれるように注目する。

 

 呼ばれた二人は壇上へと上がり、メローヌによってすかさず用意されたテーブルと椅子へと座る。

 レンもエーデルも特に変わった様子は無く、いたって平静な普段通りの様相を呈している。この後の事を知っても乱れる事のないどちらも流石の胆力であった。

 

 そんな二人の傍らに立ったアレリアが彼らを鼻で軽く笑うと、聴衆となった招待客達に向けて告げる。

 

「では皆さま。我がエレツ王国が誇る英雄二名による「竜の玉喰い」を、どうぞ御観覧くださいませ」

 

 再びの優雅なカーテシーと共に深く頭を下げ、アレリアは愉快そうに顔を歪めたのであった。

 

 

(つづく)

 

 




読んでいただきありがとうございます。
次回の更新は明日の今頃です。
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