【ゴブリン・プリンセス】 ~TS姫様は冒険者なんて大っっっ嫌い!!~ 作:GR/フィルン
遡ることそこそこ。
まだ彼女が体調を崩す少し前、祭りの準備の期間中にアレリアは打ち合わせの一環として、レン・バーランドとエーデル・イーの二人を呼び出していた。
小部屋で跪き頭を下げる二人を前に復讐を胸に誓った姫君はその対象達へと静かに告げていた。
「私のために死んでくれないかしら、貴方達?」
令されたのは死の宣告。
だがそんな言葉にも二人ともが小揺るぎともせず、動じた様子は皆無だった。
「お戯れを姫様。どのような理路を持ってそれを差配されますでしょうか」
レンが静かに道理を問う。
「ハハハ。端的に死をご所望とは感服致しました。ですがまだその時では御座いませぬ故、平にご容赦の程を何卒お願い申し上げまする」
エーデルが枯れた声の胡散臭い敬語で断りをいれる。
当然とばかりの二人の言葉にアレリアは鼻を鳴らして不機嫌そうな口調で返す。たまには正面からお願いをしてみたがやはりダメなようであった。
「ま、そうなるわよね。だから趣向を変えて行くわ、貴方達、もっと強くなりたいとは思わないかしら?」
「それは義務のようなものですな」
「否がありようはずも御座いません事です」
二人がこの世界に生きる強者として当然の事と言えば、アレリアはニマァと口を笑わせながら悪意をもって続けた。
「そうよねぇそうに違いないわよね。だから私の望みと貴方達の望みとを両方叶える、素晴らしい催し物をすべきだと、そう思わないかしら」
強くなるのが望みとまでは答えていないはずだが彼女は構わない。腕を組み静かに問い掛ける。
「さぁ貴方達は何を食べて強くなりたいかしら? 虚弱の呪いにかかるかもしれない竜の心臓? 不能になるかもしれない竜の睾丸? 廃人になるかもしれない竜の脳みそ? それとも内臓から破裂するかもしれない竜の生肝臓がいいかしら?」
一つ一つを語る度に彼らに降りかかる悲劇を想像してアレリアの瞳が愉悦でキラキラと輝く。
なおメローヌはこの場にいない。置いてきている。彼女がいるとシリアスが維持できない可能性があったからだ。話も長くなってしまうし。
エーデルとだけ話していた時よりも言葉遣いに少しだけ距離があるのもメローヌがそばにおらず相手が二人という戦力的な不安によるものかもしれなかった。
竜とは偉大な自然の脅威である。
人は才能と鍛錬と運の積み上げによって際限無く成長する事ができ、強者を喰らう事で更に高みを目指す事が可能だがそれでも人の枠にいるうちは竜の全てを越える程に強くは無い。
竜肉程度であればいざ知らず、その力の凝縮されたる部位を身に取り込む事は大きな力を得る可能性と共に、逆にむしろ弱体化してしまう可能性との両方を秘めたギャンブル的な行為なのであった。
だからこそ見世物になるのである。
賭けに使う手札は己の資質。
英雄やその卵と呼ばれる者達が己の未来を占うかの如く、その身を賭け金にのせる。
英雄の数はごく限られる事や竜食祭自体が非常に珍しい事も相まって、それは名誉な催し物でありながら国家として英雄にリスクを命じる事が出来るかどうか、その国の指導力求心力を示す一つのバロメーターにもなっているのであった。
究極的には嫌ならばその国から逃げてしまえば良い英雄達にとって少なくないリスクよりも応じるだけの理由を示せるか、これはそういう駆け引きなのであった。
「確か、心臓はより単純な強化、睾丸は子孫の才覚向上、脳は竜の知恵、生肝臓は毒物薬物耐性、で御座いましたかな。いやぁどれも惹かれる物があり選びきれないことでございますねぇ」
「その言葉からするとエーデルは素直に応じるということでいいのね?」
「国の為、姫さまの為、私の為にまでなるというアレリア姫さまからの直々のお願いをどうして断ることなどできましょうや。竜の玉喰いなど滅多な機会ではありませぬ。指名いただき恐悦至極と申し上げさせていただく以外のどのような言葉も持ち合わせてなどおりませぬ。謹んで拝命させていただく所存です」
相変わらずの胡散臭い言葉遣いと共に、恭しくこうべを更に下げる王宮筆頭術師。
研究者らしい好奇心の示し方も見せつつエーデル・イーは嬉々として受け入れた。仕組みの分からぬ不死ゆえにデメリットを無視できるのか、単なる興味本位だけで乗り気なのか、そのちょっとウキウキとさえしている様子からは判別をつける事は出来なかった。
「そう。話が早くて助かるわね。それで? レン。貴方はどうするのかしら? 相方は頷いてくれたわよ」
「俺は……」
エーデルの口上を横で静かに聞いていたレンが問われて口を開く。
「いえ、私はそうですね。もちろん断ろうはずもありませんと申し上げたいところですが、些かもったいないのではと思ってしまうところです」
「ふぅん。どういう意味かしら?」
何か言葉を繰りながら返してくるレンにアレリアは腕を組んだ姿勢から頬杖をつくに変え、どっかりと座った椅子から膝まづく騎士団長を見下すような視線でその意を問う。
「どうというほどの事も無いですが、ご存知の通り私はこの国で敵になる者もいない実力を既に得ています」
「そうね。忌々しい事にね」
「はい。近隣諸国と比しても充分でしょう。神を目指すというのも一つの道かもしれませんが、私は折角の機会があるのならば、今はまだ下の者にそのチャンスを与えても良いのではないかと思っております」
「既に候補に当てがありそうな口ぶりね」
「はい。後輩にあたるまだ未熟な数名の冒険者達なのですが」
「は? 冒険者ぁ゛?」
レンがあてがうというのは冒険者だという。だがその単語を聞いた途端アレリアの声と表情に露骨なまでの怒気が浮かび、レンの言葉を遮る。
「なにを、言って、いるのかしら?」
「いえ、ですから」
「冒険者、冒険者、冒険者ですってぇ? よくもその口からそんな言葉を溢したものね!」
一気に機嫌を悪くし、自身の左耳をぎゅうぅっと強く握り締めながらアレリアが忌々しげに気炎を吐く。
彼女は冒険者が嫌いだ。
それでも、仕事とあれば直接面談し会話をする事だって出来る。
だがその原因たるは目の前にいる彼らが冒険者だった事であり、冒険者であった彼らに苛まれ続けたゴブリン生こそが呪いとも言うべき恨みの源泉なのである。
当然の感情としてレンとエーデルから出る冒険者という名詞こそが最もアレリアの怒りを刺激するキーワードであった。
レンの指導により育つ冒険者など第二、第三のレンに他ならぬと彼女は憤る。
そんな激変のアレリアに対してもレンは冷静に諭してきた。
「相も変わらずお嫌いでらっしゃるご様子ですね。職業に貴賎をもって接されては困りますと何度もお伝えしたはずですが。姫様?」
「そんな戯言が関係あるわけないでしょあんな野蛮者どものこと!」
レンの言葉を乱暴に切り捨てた。
レンとエーデルは最初の顔合わせの時から蛇蝎の如くアレリアに嫌われていた。
まだ幼少の頃、初めて引き合わされた時の一番最初の彼女の表情は「ぽかん」であった。だが、その後みるみるうちに顔には怒りの色が浮かび上がり、吠えるような叫び声を出してレンに掴みかかろうとした。
しかし、近くにいたメイド達によって小さなアレリアはすぐに抱き抱えられ、周囲の者たちの即座の判断により体調が優れない様子とされてそのまま彼女は退場していった。
それ以来、それ以来ずっとである。
その後アレリアは「冒険者が嫌い」だと誰憚る事なく言うようになった。
だから冒険者上がりのレンもエーデルも嫌いなのだと。
話の順序のおかしさは明確にあるが他に思い当たる事柄も無く、誰にも真の理由は推し量れぬまま後付けの理由こそが正として次第に認識されていった。
「文化文明の破壊者風情が一丁前に貴賎なしなどとはよく吠えたものね! 殺して奪う、壊して奪うが能ばかりの規律すら無い粗忽者どもをどうして私が愛せると言うのかしら!」
だからこれは、詭弁である。
(つづく)
読んでいただきありがとうございます。
竜食祭前のプチ回想は次回までです。
次回の更新は明日の今頃です。