【ゴブリン・プリンセス】 ~TS姫様は冒険者なんて大っっっ嫌い!!~ 作:GR/フィルン
怒りは本物だ。
だが彼女とて前世で王を冠した存在である。
魔物の本能のままに猛ったところで目的は達せぬ事ぐらいよく理解している。
姫の立場である元ゴブリンが正統に彼らを責める為の、暴論なりとも論を称した武装であった。
「姫様。戦いは生存競争の常です。冒険者とギルドというのはその機会を誰しもに与えているに過ぎません」
「ふん。冒険者ギルドね。アレも気に食わないわ。国家間に跨る武装組織。忌々しい。いずれ私の国から追い出してあげるんだから」
吐き捨てるようにアレリアが言い切る。
レンとエーデルにさえ復讐できれば本当はどうでもいいが、遺跡荒らしなどをして過去の文明の形を壊してしまう冒険者は、建前上の理由としても何割かの本音においても充分に嫌うことが可能だった。
困ったように二人が嘆息する。
とはいえ、レンもエーデルも既にその籍は冒険者ギルドには無い。彼らは過去の貢献を持って貴族へと成っており、今の立場としてはよりアレリアに近い。
随分と興奮した様子だったが少しして気持ちを落ち着けると、気を取り直してアレリアは今日の原点に帰ってくる。
「ふぅ。まぁ、いいわ。話しを戻すけどとにかく冒険者の代役なんて私は認めないの。玉喰いはレン、貴方自身がやりなさい」
「……命令とあれば断れようはずもありませぬな」
仕方なくレンが承諾の意を返す。
隣でやり取りを聞いていたエーデルは愉快そうにクツクツと笑い、枯れた声で相方を揶揄した。
「ハハハ、姫さまに意見しようなどと不敬が過ぎましたな、レン」
「黙れエーデル。表面ばかり無様に取り繕いおって、矜持は無いのか」
「生まれも育ちも東方貴族の貴様と違って、俺は平民上がりですからなぁ。遥か昔に犬に食わせてしまいましたなそんな物は」
「だからこそだろうが。民から強者の機会を奪うなどと」
「ハイハイ貴方達。私の前でイチャつくのはそこまでにしておいてもらおうしから。マッチョのイケおじと痩せた陰気おじの喧嘩ップルに興奮できるほど私はまだ人間極めて無いんだからね」
パンパンと手を叩いて二人の口論をさっさとやめさせるアレリア。
この手の腐った知識はお茶会以降仲良くなりつつある貴族令嬢達からの差し入れ本の成果によって順調に育まれてしまっていた。「これも文化ですから」と言われてしまえばアレリアには読んで理解に邁進する以外の道は無い。
残念ながらまだこの文化を自分のものにはしきれていないが、いずれは十全に把握しきる予定である。
メローヌがこの場にいないのが惜しまれた。
「姫様。この男と衆道に堕ちるなど冗談でも止めていただきたい」
「おやおやつれないものですなぁレン。これほど長く連れ立っておりますのに」
「いい加減にしろエーデル。俺で遊ぶんじゃない」
「ハハハ、貴様は本当にからかいがいがありますな」
「レンが苦しんでるじゃない。その調子よエーデル。もっとそいつを弄びなさい」
「煽らないでいただけますかな姫様!?」
想定外の口撃に流石に動揺してレンが声を荒げてツッコミをいれる。
というか仲間であるはずのエーデルに刺されているようなものである。レンが憤慨するのも無理はなかった。
「くそっ。今日に限ってなんて悪趣味な。姫様もそのような品性に欠ける世界に囚われては王家の恥となりますぞ」
「どうかしらね。御令嬢達曰く、これも文化、なのだから理解しておかないと淑女たちに総スカンくらわされるかもしれないわよ」
「……そんなに浸透しているのですか薄気味悪い」
「ふん。貴方確か第八夫人を求めてほうぼう声を掛けているんでしょう。そんな無理解で愛想をつかされたりしないように精々気をつけるすることね」
気持ち悪そうに顔を歪めるレンを見ながら愉しそうにアレリアがレンを茶化す。
今日初めて知った弱点だが、これは中々に面白い見世物だった。
「大体、品性に欠けてるのはどっちかしらね。陞爵される前の伯爵家の本家筋だった正妻から第七夫人まで毎年孕ませて子づくりしてるそうじゃない。軍隊でも作るつもりなのかしらね。ケダモノぷりも大概にしてほしいところだわ」
「俺の強い才を次代に受け継ぐ。これは自然の営みにございますので」
「五月蠅いわよ。このクソハーレム野郎」
レンの戯言のような反論を即座に切り捨てる。
王家の直系に子供は2人しかいないのに、レンの子供は既に40人を越えているのである。いくらなんでもヤり過ぎであった。
そしてそんなレンに相応しいプレゼントをこそ用意してあげるのも主君の役目であるべきだった。
「というわけだから、レン。貴方は竜の睾丸を食べなさい。いいわね」
「うぬっ、失敗すれば不能のリスクとは。俺の類稀なる才を広められぬを良しとされるおつもりですか」
「年の数より子供の数が多いならもう十分すぎるでしょ。上手くいけば精もつくし、それに貴方の妻達がなんて呼ばれてるかぐらいは知っているでしょう?」
「はて。なんでしたかな」
レンがすっとぼける。
それをエーデルが横から刺した。
「貴様の奥様方の呼称は”乳牛”でしたなぁ確か。金の周りの悪いエレツ王国で食うに困らぬ生活が出来るとはいえ、家畜を冠した呼ばれとは。嗚呼、人間とはなんという醜さ。愚かさ。救済が足りませぬ。足りませぬなぁ」
「いくらなんでも可哀そうが過ぎるわよね!? この、女の敵! だから私が直々に不能になる権利をあげるのよ。むせび泣いて身に余る栄誉の中で溺れ死ぬといいわ」
なお、ゴブリンロード時代のアレリアことギギスにはもっと子供がいた。雌ゴブリンで作ったハーレムが育んだ親衛隊ゴブリン達である。つまりは、あまり人のことを言えた義理のないのがアレリアであった。
全て過去の<ゴブリン災禍>のおりに目の前の男達に殺されてしまっているが。
話しの流れのついでのような決め方であるが、レンが食らうのは竜の睾丸であると決まった。
アレリアからすればレンの才覚は実際とても高いと見ており、竜の力に負けてリスクを彼が負う可能性は低いと考えている。だが上手くいけば不能に加えて若干の弱体化も伴う。上手くいったとしても玉喰いのイベント自体は成功となるし、彼の強さには直結しない。精々種馬の精豪度合いがドラゴン並みにヤバくなるだけだ。その時は奥様方には諦めてもらう他無い。最初からどうしようもなかったのだ。チャンスがあっただけでも良しとしてもらいたい。
そしてもちろん彼の性獣度合いがどれほど高まろうとも、アレリアには何の関係も無い。
既に彼の息子を婚約者としてあてがわれているアレリアであればこそ、損の無い完璧な作戦であった。
しかも狙いはそれだけではないのだ。まだ内緒だが。
上手く目当ての物を食させる方向に導けたことにアレリアは内心でほくそ笑む。
そんなこっそり上機嫌となったアレリアにエーデルがヒソリと話しかけてくる。
「それで姫さま。わたくしめにはどのような部位を賜っていただける所存でありましょうや……」
「あー、そうね。貴方は竜の脳みそぐらいでいいんじゃないかしら。廃人なら不死も関係ないでしょ。早くヘソ噛んで死になさい」
「ははーっ。かしこまりましたーっ」
こっちは何でもよかったので適当に決めるアレリア。竜の知恵と言っても、のこのこ人里どころか王都に降りてきてはあっさりと狩られてしまった程度の知能の竜である。上手くいったとしても大してエーデルの足しにはならないと思われた。
それでもとても有難そうにエーデルがかしこまる。
無事に話しは決まったようだ。
「貴方達が思ったよりも素直で良かったわ。ゴネるならドラゴン出現の主因だった生きたゴブリンの王都内持込みの咎を理由に是が非でも舞台に立ってもらうつもりだったけど、無駄になって良かったわ」
「ん? それはもしや」
「我々は贖罪の機会を失ったのでは?」
アレリアの物言いに二人が眉をひそめる。
だが、そんな二人にもアレリアは構う事はない。
「はぁ? バカじゃないの? こんなのが罰になるわけないでしょ。聞くか聞かないかで酌量の余地を砂一粒分足すか、極刑まで罪を跳ね上げるかのどっちかしか与えないに決まってるでしょ」
「む、むむぅ。左様ですか」
「いやぁ清々しいばかりの暴君ぶり。感服いたしましたなぁ」
きっぱりと言い切るアレリアに二人は諦めた様相を示す。
随分な問答をさせられたが、どうやら最初から筋道は決まっていたようだった。
それでもう話しは終わりとばかりにしっしっと手を振って退出を促すアレリアに従い、レンとエーデルが立ち上がる。
素直にさっさと出ていくエーデルとは別に、退出側へと振り返り姫君に背を向けた姿勢でレンは最後に小さく問うた。
「ところで姫様。他の部位はどうなされるおつもりで? 肝臓は竜肝薬にするとありましたが、確か心臓は販売の目録に入ってはいなかったかと」
「……さぁね。お前には関係の無い話だわ。早く行きなさい。目障りよ」
「…………左様でございますか。それでは失礼いたします」
姫に一礼して騎士団長が退出する。
閉じた扉にアレリアは独り言ちた。
「ふん。私は見世物はごめんだわ」
その数日後、竜の心臓はいつの間にか保管のリストから消え、それとの相関性は分からぬが、アレリア姫は今話冒頭の通りに体調を崩したのであった。
(つづく)
読んでいただきありがとうございます。
次回から竜食祭の場面に戻ります。
次回の更新は明日の今頃です。