【ゴブリン・プリンセス】 ~TS姫様は冒険者なんて大っっっ嫌い!!~ 作:GR/フィルン
エーデルに続き、またしても反応に困る態度を示され、アレリアは片手を額に当てて思い悩む。
ハッキリしていることはメローヌの分析からも見える通り、アレリアの思惑は失敗だろうということであった。
それを悟った計略失敗系姫君は即座に気持ちを切り換える。
「ちっ。仕方ないわね。もののついでとはいえ、ちょっとでも苦しんだら笑ってやろうと思ったけど、甘い考えだったみたいね」
「これは期待を裏切り申し訳ありませんな。このまま美味しく頂かせてもらうとしましょう」
「あぁ〜〜、もぅっ。癪に触る顔ねホント」
「大分引っ張った割には見事に山無しオチ無しの謎展開でしたね」
「メローヌ。貴女そのちょいちょい挟んでくる謎ワードなんなの?」
「素直な感想ですのでどうぞお気になさらず」
主従の会話を尻目にそのままサクサクヒョイヒョイとレンは竜の睾丸を腹に収めていく。
アレリアは吐き捨てるような気持ちでその様を見る。あまり露骨に悔しそうにしていると聴衆から不審がられるので少し顔を歪める程度だが。
「しかしこれは中々珍味と言うべき美味ですな。ねっとりとしていてコクがあって。姫様も一口いかがですかな」
そう言うとまだ口をつけていない反対側から一切れ切り出すと皿の上でスッと少し姫側にそれを寄せる。
「遠慮しとくわ。貴方の食いさしになんて手をつけるわけがないでしょ」
「おや、まさかビビっておられるので? もしくは玉喰いに耐えられないような心当たりでも?」
「なにを考えながらそんな不敬をほざいてるのか知らないけど、安い挑発はやめてもらおうかしら。あんまり舐めた事を言うようなら実力行使で黙らせてやってもいいのよ」
「はいはーい。御二方ともそこまででお願いしますねー」
パリリッとアレリアとレンの間に不穏な空気が流れかけた所で無表情メイドが間に割って入る。
すかさず、レンより分けられた竜睾丸の切れ端をメイドポケットより取り出したハンカチでサッと包むとそのまま回収してしまう。
「レン様お気遣いありがとうございます。こちらは姫付きメイドのメローヌが確かに預かりさせていただきましたので、後ほど姫様と相談させていただきますね。構いませんね?」
「かしこまった」
「はい。姫様もそれでよろしいですね?」
「ふん。まぁいいわ」
「はいどーも。全く。こんな場所で醜態なんておやめ下さいねホント」
一瞬険悪な空気になりかけたが、メローヌの素早い取りなしによって列席者達にそれほど違和感を持たれる前に場は収まる。これで前世がオーガなのであるから相当人間に馴染んでいるに違いなかった。
レンは実食に戻り、アレリアも彼らから一歩離れて二人の様子を観察するに直る。
とはいえ暫く二人を眺めていたが、目立った変化はやはり訪れないようだ。
アレリアは諦めた。
「はぁ。いいわもう。私にとってはつまらない見世物だったわね」
「といっても観衆と化したブルーブラッドな皆様方は大分関心されているようですよ」
「そう。じゃぁついでにご機嫌取りでもしてこようかしらね」
言うやアレリアはメイドを伴って壇上から降りていく。残された二人の英雄はまだ実食の途中だ。
騎士団長と筆頭術師から離れた姫君は列席する各国要人達に話しかけ、機嫌を伺っていく。
その様子を見ながらレンとエーデルは小さな声で話し合う。
「ふむ。姫さまの策はこれだけのようですかな」
「あの様子を見るに他の手はなさそうに見えるな。ずいぶん息巻いてらっしゃった割には手ぬるい事だ」
「まぁまぁそれは仕方無いではありませんか。直前になって一週間近くも倒れ伏されていたのですから、計画があったとしても実行する余力など流石にありますまい」
「違いないな」
噂になっていた姫殿下の病状を引き合いに出し、アレリアの行動を見定める。正直なんだか分からないままに命を狙われているのだ。二人ともにまだそれほど脅威には感じていないが、注意だけは当然欠かしてはいない。
そんなことを言いながらレンは睾丸食の後半戦へと入っていく。その表情にも動きにも淀みは無い。
それを見て自身は完食したエーデルが感心したように呟く。
「しかしよくソレを食ってなんの反応も見せずに済ませられましたな。私などは興奮で痺れてしまいそうでしたのに」
「その程度で済むお前も大概だが。まぁそうだな。やはり以前食っていたスレイプニルの睾丸の恩恵は大きそうだ。衝撃もあちらの方が大きかった。流石は神代の獣と言われるだけのことはあったな、その辺にいる程度の竜とはものが違ったようだ。お陰で恥を晒さずに済んだ」
「逞しい事ですな」
「うむ」
会話の合間にもぴしりとした姿勢のまますんすんと食べ進んでいくレン。
周囲からはその変わらなさにどよめきが続いている。パフォーマンスとしては十分だろう。ただ飯を食べているだけだが。アレリアの第一希望にも反しているが。
そしてまた一口を飲み込んだ所でレンがホールの大時計をチラリと見た。
「さて、そろそろ頃合いのはずだな」
「本当にやるのですかな? あまり勧められた手では無いというのに」
「元々が万が一の時にわやにする為だけの検証ついでの手段だ。死んでくれと言われた意趣返し程度になら構うまい」
「やれやれ困りましたな。禁忌にまで触れかねない事をしているというのに披露の場が意趣返し程度の認識とは。神の怒りが恐ろしくないのですかな」
エーデルが首を振りながらする忠告の合間にレンは竜の睾丸を食べきり、カタリとフォークとナイフを置く。
そして彼は獰猛に笑った。
「ふ。放蕩な神の気まぐれなどに付き合っていられるか。人を押し進めるのにようやく下地が整ってきたのだぞ。こんな所でやめられるものか」
「もっと穏便にこの世の理にアプローチしてほしいものですな。これだから冒険者あがりは短絡的でいけませんな。おっとこれは姫さまの口ぐせでしたな」
「貴様……」
「ハハハ」
「まぁいい。お前はお前のやり方でやるがいいさ。俺はこれだ。それに今回ので足がつくようなヘマなどしていない。あくまで場をそれとなく整えただけだ。気付かれるものかよ」
「自信家ですなぁ」
レンの笑みと共に語られた言葉にエーデルは閉口するも積極的に彼を止めようとする素振りは見せない。
理を問う者としてレンの実験の行く末自体には大いに興味を持っていた。
口元を拭きながらレンがアレリアを見据える。彼女はちょうどゴホリと咳を一つしていた。
「さぁさぁ。姫様は作られた半英雄にどう対処されますかな。そのお身体で」
レンの言葉と共に各地の王族貴族ばかりが集うこの大ホールに闖入者が轟音を鳴らしながら現れたのだった。
(つづく)
読んでいただきありがとうございます。
次回の更新は明日の今頃です。