【ゴブリン・プリンセス】 ~TS姫様は冒険者なんて大っっっ嫌い!!~ 作:GR/フィルン
長い攻撃が続いた。
半英雄の男は本当に息もつかぬまま暴れ続けた。
もし彼の暴風の如き暴れ狂いを誰も止める事がなかったのならば、既にこのホールにマトモな形を残した物は何一つ残っていなかったであろうほどの荒れ狂い様であった。
それらは全てアレリアの小さな体躯と一本の杖によって防ぎきられた。
時折苦しそうにしながらも一歩も下がらず、彼女は悲劇の半英雄にこれ以上の暴挙を許さなかった。
やがて男の猛撃にも一息つくような隙が出来る。
どれほどの者であっても無限に動き続ける事はできない。神でもなければそれはなし得ない事だ。
アレリアはその時をしっかりと待ち、我慢してみせた。
この場で求められる事を思えば、アレリアにはもっと圧倒的な勝利が必要だっただろう。
一目で分かるほどの実力を持った半英雄が際限なく暴れ続けるような見せ場を作るなど、許すべきでは無かったに違いない。
だが、そうは出来ぬほどに男は捨て身だった。何もかもを投げ捨ててただ暴れ続けるのは顔に涙の跡残る男。それをアレリアは圧倒しきる事は出来なかった。
ゆえに冷静さは失わず、耐えきる。
目の前の男が捨てた、言葉、振る舞い、衣服、装備、尊厳、魂。彼女の欲してきたそれら全てを人でありながら捨ててしまったその愚かさに、狂おしいほど怒りながらもアレリアの思考に乱れは無かった。
だから彼女は一瞬の遅れも無く動く。
「はぁっ!!」
男が見せた一息の隙。その瞬間を逃さずに長いスカートを翻しながら前蹴りを繰り出し、男を勢いよく吹き飛ばして再び大時計の残骸へとのめり込ませたのだった。
「げふぅっ!!」
「ふんっ。よくも暴れたものだわ」
流石に滲んだ汗を隠せず、杖を握った手の甲で額を拭う。
汗を払って格好をつけるが、それでも後方に控えたメイドは主人を茶化すのであった。
「執拗な大時計への攻撃。泣けてきちゃいますね」
「もう壊れてるんだから他が壊れずに済んでいいじゃない」
「R.I.P。大時計」
「暇そうでいい身分ね貴女。魔術書」
「はい姫様」
のんびりと観戦しているメイドから魔術書を投げ渡されると、左手で受け取り指でサッとページを開く。呪文が紡がれる。
「ボルーテラーズボルーテラーズ。稲妻の乙女よ。荒ぶる稲光の奔走をもって、かの者から四肢の自由を奪いたまえ!」
杖が錯乱男へと向けられる。
「大人しくしてもらうわよ。〈ショック・ボルト〉!」
バシンッと一条の雷撃が走る。
「ぐがぁっ!?」
起き上がりかけていた男が崩れ落ちる。
アレリアもここでようやく一息をついた。
「ふぅ。よくもまぁ暴れてくれたものね」
「終わりですか」
「どうかしらね。念の為もう少し痛めつけておいてもいいわね」
暫くは動けないはずだが、油断せずに確かめる様にしながら倒れ伏す相手に近づいていく。
だがその前にどうしても一言。
完全に無力化する前になんとしても吐き捨てておきたかった。
「なんて無様なの。人間なのに、人の身があるのにこんなゴブリンにも劣るような野卑な姿でいられるなんて。恥を知りなさい! 暴力だけで解決しようなんて、魔物にも劣る畜生まで堕ちたのねお前は」
「ぐぐぐぅぅぅ……」
一言では抑えきれなかった興奮がこぼれる。
魔術によって拘束され動けない半英雄の頭に杖先をグリグリと押し付ける。目の前の男にも理由はあるのだろう。今のアレリアには想像も出来ない悲劇もあったのかもしれない。
だが、彼女はそれを斟酌する事は出来ず、ただ己の強い想いから小さく言葉を漏らす。
「……人の誇りが、矜持が、賢さが簡単に捨てられるものならば。それさえも持てない魔物達はどうしたらいいのよ……。そんなの認められるわけ、ないじゃない……っ!」
ギリギリとギザ歯から歯ぎしりが鳴り、杖先が震える。
それでも次の瞬間には自分の立場を思い出すと、強い視線と共に周りにも聞こえるように言い放つ。
「さぁ、この場を乱した罪はその命で贖ってもらうわ! 覚悟しておくことね!」
「うぐぐぐぐっ、うがああぁっっ!!」
完全に男を封じるべく更なる呪文を紡ごうとしたアレリアだったが、その前に男が激しく痙攣するように震えながら吠え、その身を起こす。
拘束魔術は十分に威力を発揮していたはずだが、それを上回る瞬間的な高ぶりが四肢に僅かながら力を取り戻させ、男を立ち上がらせた。
すかさずそのまま掴みかかってくる男を目前にして、身長差から彼を見上げながらアレリアは冷静に呟いた。
「そう。お前にも、お前なりの覚悟があるのね」
狂気がキマりきった男の目の奥の、彼なりに持っていただろう芯の光をかすかに見て取る。
男がアレリアにガバリと覆いかぶさるようにして、その大きな両腕で姫君の細い首へと襲い掛かる。
「それなら」
そして、男の指が姫君の喉へと至る直前で。
ドッ、という音とも言うべき鈍い衝撃が走る。
男の手はそれ以上前には進まない。
「ここで死ぬ事が出来る、権利をあげるわ」
一瞬の内に仕込み杖から抜かれた両刃の白刃が半英雄の心臓を貫いていた。
男は胸を押さえながら再び崩れ落ちる。今度は二度と起き上がれない。
サッと血糊をメイドに拭わせて杖鞘へと剣先を仕舞う姫君に、それまで観衆だった王族貴族達から静かな、だが深みのある拍手が送られる。
終始冷静に対処を為した姫君への賞賛であった。
それを受けてアレリアは優雅にカーテシーを披露して一礼した後で片付けを指示し始める。
遠く壇上からはレンもエーデルも大きな拍手を送っていた。
だが、レンは手を叩きながらも不満を口にする。
「この程度でしたか姫様。竜の心臓を食らい、賭けに負けたのがこれでハッキリとしましたな。肉体の昂ぶり程度で破ける術しか打てぬとは失望致しました。その愚かさ、その身体で償っていただきましょう」
レンの悪意が今、アレリアへと向けられようとしたのだった。
(続く)
次回、『敗北回』
読んでいただきありがとうございます。
ということでストックが切れました。
次話はとりあえずは出来てるので清書するまで少しお時間いただければと思います。
その先がまったくなのが、問題ですね。
次回「敗北回」
次回の更新には数日お時間頂ければと思います。