【ゴブリン・プリンセス】 ~TS姫様は冒険者なんて大っっっ嫌い!!~   作:GR/フィルン

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1-4 プレゼントと報告を受け取り

 プレゼントと報告を受け取り、ナスラムに楽に立つ事を許可したアレリアは悪戯気な顔を浮かべて目の前に立つ美少年を見上げて笑った。

 

「さて、主従ごっこはここまでにしましょ。それで、プレゼントはコレでおしまいなのかしら?」

「……全く、敵わないな。アレリアは欲張りだね」

「仕方ないわね。餌付けされちゃった身としてはさっきのプレゼントも嬉しいけど、いつものやつをとっておきで貰えるのも楽しみだもの」

 

 悪巧みの話しはここで区切りがつき、アレリアは唇に指をあて、その顔は現生を楽しむ為に純粋にほころぶ。前世がゴブリンでもお姫様を丸13年もやってきたのである。この程度の美少女ムーブはアレリアにとってはお手の物だ。

 いつもこの笑顔であればとナスラムは苦笑するが、それは望みえぬことだった。

 

「悪いけど持ってきてくれるか」

「はっ」

 

 勝手にアレリアを煽り倒すメローヌと違い、声を掛けられるまできちんと沈黙を保っていた自身の従者にナスラムは声を掛けると、持ってきていたもう一つのプレゼントを取りに行かせる。

 すぐに従者が戻ってくると、彼はひと抱えもある大きな箱を両手で捧げ持ってきていた。大の大人が腰だめに肘を当てても顎が見えなくなるほどの大きさである。

 その巨大さにアレリアが飛び上がって喜色を見せる。

 

「えぇっ!? すごいじゃない! ホントに!? ホントにあのサイズなの!?」

「勿論だよ。今回は奮発したからね」

「これは俄然楽しみになってきたわね!」

「姫様。食べる前からお顔がメシの顔になってますよ」

「メローヌちょっと黙ってて」

「お断りします」

「このオーガ!」

「ゴブリン」

「オーガ!」

「ゴブリン」

「だからそれやめなって本当に。最悪だから」

「……置いて宜しいですか……?」

 

 テンションが上がったのか侍女と遊び始めるアレリアにナスラムが苦言を呈するが聞き入れられぬまま、彼の従者が困惑した声を出したところでナスラムは小さく頷いて許可を出す。

 サロンテーブルの上に置かれる前に、メローヌが話しながら他の茶器をさっとどける。

 

「早く! 早く開けて! 中が見たいわ! 開けてちょうだい!」

「はいはい、お姫様。開けてくれ」

「はっ」

 

 従者が装飾された白い木箱についた上の取手を持ち、スッと上に上げるとガワだけであったカバーが持ち上がり、中身が現れる。

 そこから出てきたのは、三段にもなる豪華に飾り付けられた真っ白く塗られ色とりどりのフルーツでデコレーションされたケーキであった。

 

「〜〜〜っっっ!! 三段! 凄いわ! ケーキが三段になってるわ! こんなのまで作れるのね!」

「渾身の出来らしいよ。まったく。こんなの今回だけだからね」

「素晴らしいわ! 無茶を言った甲斐があったわね」

「あぁ、次は最高のケーキ持ってこないと顔も合わせないなんて脅してたの、無茶振りの自覚はあったんですね」

「え、ダメ元で言われてたの? 参ったなぁ頑張り過ぎたか」

 

 黒目をキラキラと輝かせながら喜ぶアレリアに、大分無理をしていたのか困ったようにナスラムが頬を掻く。

 なお今までで最高の物は、遠い異国から取り寄せたという茶色い豆を使ったチョコレートケーキのホールだった。その時は、アレリアは土を食べさせるのかと怒ったが、口に入れた瞬間に蕩けて崩れた。

 ナスラムが持ってきたケーキが外れたことは今まで一度も無い。否が応にも期待は高まるというものだった。

 

「細かいことはいいじゃない。上から食べるの? 下から食べるの? それとも取り外すのかしら」

「いやいや流石に外したりはしないよ。お姫様のケーキだから上から切ろうか。メローヌ、アレリアと僕の分を」

「はい。失礼しますね」

 

 ナスラムに言われ、メローヌは侍女として取り分け用の大きなケーキナイフとフォークを取り出すと、優雅な手つきでケーキの塔からケーキ菓子という宝石を切り出していく。

 貧乏国家とはいえ王族らしい最低限の品のある菓子皿に取り分けると、ささっと簡単に盛り付けていき、二皿分を速やかに作り出した。手つきは鮮やかでそこに何らの遜色も見られない技前であった。事前にケーキの内容を聞き、他の侍女達とタオルや積み木で沢山の練習をした成果である。

 出されたそれを毒見役の代わりといわんばかりに、ナスラムは先に一口食べる。

 

「うん、美味しい」

「そぉ。じゃぁ私もいただくわね」

 

 頬を紅潮させ、ドキドキとした期待に溢れながらアレリアがケーキを一掬い取り、口に運ぶ。

 

 パクリと口内に入れた途端、アレリアには華が咲いた。

 

「ん~~~っっっ。甘い! 甘いけど瑞々しい新鮮な味がするわ。取れたて切りたて搾りたてね! 最高だわ! しかもふわっとして重くなくて、口の中で溶けるようだわ!」

「王宮住まいで瑞々しい味なんてよく知ってるね。時間の経ってるのばっかりだと思ってたよ」

「ほらうち……、お金が……。料理長が畑を、続けててね……。最近の夏野菜なんて結構美味しかったのよね……」

「なんかごめん」

「姫様のガチの哀愁、笑えますね」

「メローヌぅ! いいからもっと寄こしなさい! 早く食べないともったいないわ!」

「はいはい姫様」

 

 気まずい空気が流れる中、メローヌだけが無表情ながらも楽しそうだったが、アレリアはすぐに気を取り直してバクバクとケーキを食べ始める。 すぐに新しい切り分けが必要になり、求められるままメローヌはケーキを切り出していく。

 最高の笑顔で頬張るアレリアにナスラムは苦笑しながら話しかける。

 

「ところでさ。僕ケーキ持ってくるのもう止めたいんだけど」

「(もぐもぐ)戯言なら聞く気はないけど?」

「ナスラム様。私も後でご相伴にあずかる予定なので、そういうご冗談はちょっと」

「いやいや、多少ぐらいには本気度あるよ。この国の現状でケーキを調達してくることの意味は分かるでしょ?」

「(もぐもぐ)それはもちろんよ」

 

 エレツという王国の今の特徴ですらあるのが、貧乏、ということだ。

 エレツ王国は農業国であり、その生産は堅調である。だがそれ以上に借金の利子含めた返済が厳しく、この国の家計は常にギリギリの火の車であった。

 災禍から15年も経ってるというのに、いまだに当時の借金の元金が9割以上残っているというのだから厳しさが伺えるというものだ。なお契約は利子から先に返さねばならぬ不利なものが結ばれている。

 一度大荒れに荒れた国土という負荷も大きく、現国王も有事に強いタイプではなかったこともあり、働けど働けど楽にならぬ日々は国民の心身をすり減らすには十分なものであった。

 

 それと比べてアレリアが今食べているのがケーキである。

 国のトップが笑いながら贅沢をしているなどと見られれば暴動すら起きかねない。いくら王女の毎度の頼みとはいえ、心優しい少年であるナスラムには、ケーキの持参というのは大変に心苦しいものがあるのだった。

 

「知ってると思うけど、今は王都ですらケーキ屋なんてものは無いんだよ。だからこのケーキだって、パティシエの雇用から原料の調達から、全部バーランド家で行ってるんだよ。民から搾った税金の残りでね」

「もちろん知ってるわよ」

「正直外聞悪くて辛いったらないんだからね。下手したら奴隷の違法売却益から出来てるよこれ」

「かもね。それに加えてにっくい貴方のお父上が、私を餌付けする為に王宮でのケーキの調理禁止を御父様から取り付けちゃうから、私は貴方からもらう以外にケーキを食べる手段もないってこともね」

「それはほら表向きは王宮でケーキなんて贅沢は国民が許せないって、重鎮たちも納得したわけだし」

「はんっ、体よく言いくるめられただけじゃないの」

 

 貴重に過ぎることが判明したケーキを熱心に食べながらアレリアはフォークを振って、今の境遇の不満点の大きな一つを告げるも、ナスラムは苦笑するばかりだ。

 ゴブリンだった前世で名前しか知る機会の無かったケーキという食の甘美にようよう触れられぬというのは、アレリアのレンへの殺意を増すのに十分なものだった。

 

「まったくもったいないことこの上ないわよね。この国の上質な砂糖は雑味が少ないから高級品って言われてるんですってね。その生産国の王女が満足に砂糖を舐めることも出来ないなんて、笑い話以下だわほんとに」

「借金返済の助けにはなってるんだから、大事だと思うけどね。……だからここで使ってる分も少しでも回せたらなって思ってさ」

 

 ポツリとそう呟いたのが本音だったのだろう。姫の機嫌を取る為にと父親からは盛大なのをやれと言われてしまった結果の大量消費に、彼自身は非常に心を痛めていたのであった。

 

 だが、それを聞いたアレリアはいたいけな少年の真剣な悩みを一笑に付したのだった。

 

(つづく)




読んでいただきありがとうございます。
次回の更新は本日夕方ぐらいです。
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