【ゴブリン・プリンセス】 ~TS姫様は冒険者なんて大っっっ嫌い!!~ 作:GR/フィルン
王位継承権授与式の翌日。
清々しい気持ちでアレリアが目を覚まし、天蓋付きのベッドから降りて侍女達に着替えさせられていく。自室で朝食を給仕されながら一人で食べる間も彼女は一人ニヤニヤと楽しげであった。
そして朝食も終わり、気に入りの侍女であるメローヌだけを供としたところで高らかに宣言した。
「さぁ、惨劇の始まりよ! まずは式に来なかったエーデルの所に行って、不敬罪で縛り首にしてあげるわ!」
「ダメです。今日の予定はもう全部決まってますよ、姫様」
「え、嘘でしょ!?」
無慈悲なメローヌの言葉によって、アレリアの寝る前から考えていた「かんぺきなけいかく」だったはずの何かは朝一番から粉々に砕け散ったのであった。
~ 〇 ~
とりあえず姫様用の謁見室に向かいますとだけ言われ、しぶしぶそちらへと足を向けるアレリアの顔には不満の二文字しか書かれていなかった。
「どういうことなのよメローヌぅ。なんで今やこの国でお父様の次には偉い私が、自分の予定を自分で決める前に全部決まってるわけぇ?」
「口調が変なことになってますよ、姫様」
「そりゃ不貞腐れもするわよ。権利と責任渡したからってここぞとばかりに押し付けてくるのズルイと思わない?」
「押し付けたいぐらい仕事があるから、継承権もらえたんじゃないんですか?」
ぼやくアレリアに今日の予定表として侍女長から渡されているメモを見ながら、メローヌが雑に真理を突く。
「うぐっ」
思わずその薄い胸を押さえる翠の姫に別のメモを見ながらメローヌが追い打ちをかけていく。
「仕事は沢山ありますよ。国内外の賓客対応。貴族夫人とのお茶会。訓練目的の狩り。姫様がやってる慈善活動とスラム慰労もありますし。各地の視察に、治安対策、外交方針、輸出品打合せ、国内食糧分配案、作付け計画概略などの各種会議でも姫様にまずは参加してほしいと。もちろん日を分けてですが」
「死ねと言われてるのかしら?」
「期待の現れですね。やったね」
「やったね、じゃないわよ!? 抑揚ゼロで言われても反応出来るわけないでしょバカオーガ!」
げっそりしそうなほどの仕事の山を聞かされたアレリアの悲鳴が余人のいない廊下に響く。
だが、これでもまだ加減されているらしかった。
「まずは全体の把握らしいです。そのうち、国王様が担当している決裁の一部を委譲されることになったら書類捌きも増えますよ。がんばって」
「がんばって、じゃなくてね!? え、もしかして私って復讐に時間割いてる余裕とか全然ないの!?」
「王族に、あると思うな、自分の時間」
「軽率に詠みながら今世も地獄にするのはやめてくれる!?」
「私は言われたメモ読んでるだけですので」
「役立たずだわこいつ!」
アレリアが悲鳴を上げて嘆くが、一歩後ろをついて来ているのはただの伝言板に過ぎない板切れの様だった。いや、板切れにしては随分と豊満な物がついてはいるが。
聞けば向こう一ヶ月分くらいは慣れるまでという名目で既にびっちり埋まっているらしい。相談もされてないのは納得がいかなかったが、どうやら国王主体の計画的犯行のようで、その時点でアレリアに拒否権は無い。
その後はある程度自分で調整していけるとのことだったが、やらなければいけない事の総量はそう変わらないらしい。時間を作るだけでもそれなりに無茶が必要そうであった。
メローヌの持っていたメモの一つを見ながらアレリアは深いため息を吐く。
びっしり埋まった予定の合間にナスラムが持ってきた資料の有効活用もしなければならない。褒美とした奴隷対策の方は、幸い関連する会議にも参加させられるようなので打つ手はありそうだった。
「は〜ぁ。人間嫌いになりそうだわ」
「もう十分嫌いじゃないですか。何を今更」
「冒険者ほど嫌いなつもりはないわよ」
前世を通して人から受けた恨みつらみだけでは無い。
今世だって姫だなんだとチヤホヤされながらも、自分の仇はのうのうと生きているし、様々な不自由を課せられているのだ。
数奇な運命の結果としてアレリアが憧れであった人間の生を得るも、人間をまだそう好きになれぬのは道理であった。それでも前世の恨みにと全てを滅ぼす気になどはなれない。破壊と文化は対極にあると彼女は考えている。
そんな中で分かりやすい楽しみといえるものでいえば、人間の知識の宝庫である本を読む事と、ナスラムが持ってきてくれるケーキぐらいのものである。激貧を強いられている一王国民と比べれば遥かに良い境遇には違いないが、彼女は生粋の王であるので我慢させられている事実だけでもう不満たらたらなのだった。
それでも彼女は裁量権を得たわけであるから、後はアレリアの努力次第になる。
といった諸々を考えながら、アレリアはまだ渡されていない今日の詳細予定が書かれたメモを催促する。
「それで、最初の予定はなんなのよ。私の謁見室って事は賓客対応よね。誰なのかしら」
「さすが姫様話しが早い。それはですね」
もったいぶるように言葉を切り、スカートのポケットから小太鼓(肩掛け紐付き)を取り出してドラムロールを始めるメローヌ。マルチなポケットは侍女の嗜みである。
「ダララララララ」
「…………」
口でもドラムロールをするメローヌに、アレリアは呆れのあまりぽかんと口を開けてしまう。
「じゃん」
「もう何でもいいから早く言いなさいよ……」
「ハニートラップの、お仕事です」
「それは王女の仕事じゃないわよね!?」
なんやかんやで無表情ながらも楽しそうなメローヌを置いて、哀れな姫はそう叫ばずにはいられないのだった。
(つづく)
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