羽織る者、何に成る   作:かのん・まーれ

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忘れてた(天下無双)


戦闘訓練

「…ダメだ、何も聞こえない」

「おそらく、この光のせいだ。遮音の役割もある

俺も氷を張れない、気にすんな」

 

行くぞと轟は床から手を離し、足を進める。

障子も頷いて、共に上へと向かう。

目指すはターゲットの置いてある部屋である、つまりは最上階。自然とそこに置いてあることを2人は理解していた。というよりはこの訓練においてはそこが最も安全でセオリー通りだからだ。

 

(一手で終わらせるつもりだったんだが…)

 

轟は自身の個性、『半冷半熱』でこの戦闘は容易に終える予定だった。脅威の一手でビルの全凍結、その選択肢は多くの戦闘においては間違いではない。瞬間のビルの全凍結は無駄のない最良の一手だと言える。

 

だが、今回の戦いにおいては相性が最悪であった。ワックスのように塗り広げられビルの内外すべてを覆ったオベロンの光によって、最良は文字通り粉々にされた。

 

「轟、いざという時は俺が前に立つ」

「ああ、俺は後ろからお前の援護だ。お前なら俺の氷も粉々に砕けんだろ」

 

再度ビルの凍結などできるはずもなく、2人は策を練り直し、また上へ上へと登っていく。不思議な事に氷を張らせないという以外の妨害はなく、既に核が置かれているだろう頂上に近い階まで轟達は来ていた。

 

「…障子、確認したいことが一つある」

「なんだ?手伝おう」

 

 

 

 

 

 

「ここは…」

「…さっきの戦いで使われた部屋と似ている」

 

このビルの恐らくは最上階の一つ下の階に辿り着いた

6階建てのビルの5階、その部屋は飯田が麗日を待っていた部屋のように無駄なものはなく、身を隠せるような柱が4本生えているだけ

 

そして

 

「やっほ、早いね」

 

部屋の真ん中にはピンクの少女、芦戸三奈がそこにいた

ただ、オベロンの姿はなく隈なく探しても、そして障子の『複製腕』を使ってもこの部屋からは3人分の呼吸音しか聞こえない。つまり

 

「お前1人か」

「正解!ちなみにオベロンは個性を使って探しても、この部屋にいないよ」

 

上だよ上、と人差し指を上に指して彼女は笑った。

 

(俺が索敵ができる事がバレている…か)

「…数という力で既に負けてると思わないのか?」

 

「…ふふ、思わないね!」

 

芦戸はただ1人で2人を待っていた。そして彼女の発言から「やはり」と彼らは同時に確信を得る。オベロンは核爆弾の部屋で目標を守っていると。そしてその部屋に通じる階段は、芦戸の後ろにある扉の向こうのみ。彼女の役割はその門番である、と。

ならば、轟と障子が選ぶ策は一つだけ。障子は轟の前に立ち、『複製腕』を広げて轟の姿を見えないようにする。それは轟の手数を見せない様にするため、その後ろの轟からは冷気が流れ、部屋を少しずつ満たしていく

 

「通してもらう」

「手加減は…しねえぞ」

 

ただ押し通る。どちらか片方だけを先にゴールまで向かわせる。そんな簡単に物事は進まない。その確信が2人にはあった。

 

「「(必ず、何かある)」」

 

 

「かかってこーい!!」

 

 

 

 

芦戸が瞬いた直後、前に氷塊が現れる。まるで津波のように視界を覆っていく氷塊は更に上へ横へと広く拡大していく。

 

「はやっ!「ふんっ!!」わぁっ!!」

 

咄嗟に芦戸は後ろへ飛び去り、ひとまず回避。

そして回避した先を読んで迫る障子の腕は、咄嗟にしゃがみ更に後ろへと下がることで空を切らせた。

 

「…なんかコンビネーション良くない…?」

 

一先ずは、2人の攻撃を避けた芦戸も、轟と障子のお互いをカバーし合い、少しずつこちらを追い込む戦い方に警戒を強める

 

芦戸は呼吸を整えようとスッと息を飲み込む、吐き出

 

「…っ!?」

 

ーーーせない。途端、ゾクッと芦戸の背を冷やす。

冷気は未だ収まっていない、常に出し続けられている。

 

(でも、この嫌な予感は)

 

轟から溢れる極低の冷気を肌で感じたからではなく、おそらく直感からくるものだ、告げている

 

――――動け――――

 

あまりにもシンプルかつ、優先しなければならない危険信号。障子に砕かれ、轟から離れた氷がガラガラと音を立てて壊れていく。その音が聞こえないほど思考を支配したソレに芦戸は従い横へと飛び込む。その勢いのままゴロゴロとコンクリートを転がり、器用に体制を立て直す。

 

「…やっばぁ…!!」

「…無理か…!」

 

膝をついた芦戸が地面から視線を上げれば、細く、蔦のように伸びる氷が先ほどまで芦戸がいた地点へと伸びていた。

伸び方を見れば、足へと這わせそのまま捕まえる算段だったことは容易に想像ができる

 

なにより

 

「…はは…」

 

これまでの視界を覆う巨大な氷塊、障子の回避先を読んだ攻撃によって、意識を“氷塊”と“障子”に向けさせる。そうして捕えるための氷を警戒させない

という僅か数分、ここに来るまでの間に練られたとは思えない連携に芦戸は思わず笑ってしまう。

 

「連携力高すぎでしょ…赤白くんも氷を蔦みたいに個性使えるなんて…」

 

「あぁ、さっき覚えた…!」

 

 

 

……

…………

 

「どうする轟」

 

 

これから起こる戦闘とその対策について轟は思考を巡らせながら階段を上がっていた

きっと、芦戸は足元を追われれば飛び上がり、横へ、上へ飛び上がり、立ち位置を変えて躱していく

彼女は個性を使わずとも自分たちに劣らない、身体能力を把握テストで見せている。

そんな芦戸が周囲を巧みに動き回り回避するのに、床という支えがない状況では、必然的に捕えることは困難である、と

 

自分の手元だけを支えにして、空気中にある水分を氷結させて、操作するなんて繊細な技術を轟は持っていない

基本は氷を出すためには、地面や壁が必要になる。発生源は自分だが、氷を支えるための土台が必要だ。常に自分が触れている場所から氷を広げ巨大な氷塊、氷壁を作り上げる。

 

だが、既に手は打たれている。

ビルの外壁のみならず、内部にまでコーティングされている光。それは床や壁の役割を成しながらも轟への妨害としての役割を持っていた

 

轟が氷をある程度使えるのに対し、オベロンはこの光を自在に使える。この“ある程度”と“自在”の差はあまりにも大きい。オベロンの光は意味のわからない理屈で即座に氷を破壊するため、氷が広がる事がない。光が張られている土台は土台として機能しない。支えを用意することすら出来ないのが轟の現状であった。

 

「(…厄介だ。地面を支えにすると即座に根本を壊してくる…)」

 

また、さらに厄介なのは芦戸の個性である。

土台がないならば相手に直接触れ凍らせる、ことが芦戸相手には難しい。

 

この戦いにおいて、轟は支えなく氷結の個性を扱うことが強いられている。普段、地面や壁という支えが当たり前にある状況とは真逆の今、新たな手を用意しなければ勝利はない

 

だから、轟は考えた

 

地面に氷を設置できない?ならば、地面という大きな支えではなく、小さな支えから広げられるほど微細なコントロールができるようになってしまえばいい

 

“支えは何を?”

 

(自分の身体、1番は腕か)

 

“そのリスクは?”

 

(普通とは比になんねえ程の体温低下)

 

体温が低下すればパフォーマンスは落ちる、恐らくは障子の足を引っ張るだろう。だがそれは轟自身が得意としていた氷柱、氷塊、氷壁といった大振りな個性の使い方を封じられた時点で同じこと。パフォーマンスはすでに落ちている

 

(あとは…支えが脆い事だ。支えられる重量が限られている)

 

氷を支えるのは自分自身、コンクリートの壁や地面では無い人の身で支えられる重量などたかが知れている

 

だが、やらねば勝てない

 

求められているのはこの土俵に適応した戦い方

ならば

 

「やるにきまってんだろ」

 

無論、実行に移すのみ。まずは、いつものような巨大な氷を、自身の右腕のみを支えにして出す。

 

(右腕の表面、そこを地面に見立てて氷結させるイメージだ。意識をそこだけに集中させーーー)

 

「ーーーっ!?」

 

腕全体が冷気に包まれ、急速に氷壁が出来上がる。

それは普段と変わらないイメージ通りのものだ。ただ、その結果を引き出すための自身へのダメージに、冷気によるものではない震えが、僅かにあった。

その氷壁のデカさに応じて、轟の腕だけではなく、身体までも冷気が包み込む。また突然支えられる重量を遥かに超えたためか、地面に膝をついた

 

(く、そ…!!)

「轟!?ーーふんっ!!!」

 

轟の異変に気づいた障子によって氷壁は即座に叩き壊された。轟はそれに短く感謝を伝え、足元に散らばった氷を見つめる、何が足りない、何が間違っている、と答えを探るように

 

(なら)

 

と、少し深呼吸を挟んで、轟は立ち上がって冷気を手元の一点に集約させた。

 

(イメージは巨大な氷塊じゃない、芽のように伸びていく“氷の種”)

 

必要な集中力と、個性のコントロールに要する集中力は先ほどの倍以上に必要になる。

 

(だが、やる価値はある)

 

 

そして極小の氷を作り出す。あとは、細く伸ばすように周囲の空気を冷却していく。芽吹くように氷はスクスクと上へと伸びる。

 

(それだけで、捕らえられるかはわからない)

 

ゆえに、轟はさらに樹のように1から2、2から4と先を拡散させた。この冷たさに耐える事だけが重要ではなく、イメージもまた必要。まるで3Dプリントのように既にある頭にあるだけのイメージに沿うように下から凍るという結果を積み重ねていく。その難度は想像を絶するーーーが

 

(…手元があり得ねえほど冷たい、少しでも集中できなかったらすぐ壊れちまう)

 

ただ、それを轟は成し遂げる。手元にあった、たった一欠片の氷は今や薔薇の蔓のように細く長く、そして速く、ありとあらゆる方向へと拡散していく。天井まで延びた氷は光には触れず、だがまるで蔦が這うように延びていく

 

限界と悟り、轟が目を瞑るとボロボロと氷は崩れて地面へ散らばった

 

轟は巨大な氷を出すような大雑把なものではない、繊細で緻密な技術を手にした。荒削りで、習得したとは言い難いが、その感覚は轟の手に確かに刻まれている。

 

本来長い時間をかけて得る、あるいは極限の経験値によって体得する技術。溜めて放つーーーいずれ赫灼にいたるためのその一端に轟は触れてみせた

 

ーーーー

ーーー

 

「…ああ、こんぐらい余裕だ。次は避けらねえぞ」

 

それは嘘、まだ自由自在に操れないがこの虚勢だけでも相当な脅威となるだろう。轟は真面目な顔で氷を再び生成し始める

それを見た芦戸は冷や汗を流すも負けないという自信からか笑って体勢を整えて戦闘を再開した

 

「へぇ…ま!次はアタシの番だよ、行くぞー!!」

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

「こんなに長く、攻防が続くなんて…」

「おい芦戸は1人だぞ!?」

 

モニタールームの盛り上がりはピークに達してから変動していない、常に試合の変化を見逃さず生徒同士、オールマイトも含めて話し合いが行われていた。

四方八方に動く芦戸に、それを蔓のように、複数方向から氷が追いかける。手元から繰り出される自在な氷に芦戸の表情も回避をとるごとに険しいものへと変わる

 

 

「三奈ちゃん凄い…!2人の攻撃をずっと避けてる!!」

 

「…それだけじゃないぞ、皆。芦戸くんの立ち位置を見てほしい」

 

オールマイトの発言にモニターを注目してみれば、芦戸の位置は部屋の中央だった。

これまで回避をメインで立ち回っていた芦戸の位置が一切後退していないこと、そして轟と障子の位置が一切前進できていない事に一同は驚愕する。

 

「それは一体なぜかな?

はい、元気よく手をあげている飯田少年!!」

「彼女は避けているのではなく、攻めているからだと俺は思います!」

「よく見てるね!さすがだ!」

 

攻めてる?と一同の頭に疑問符が浮かぶがオールマイトは親指を立てて合っていると肯定をする

 

「回避ばかりしては追い詰められるのは当たり前、でもそうならないのは攻められるタイミングで攻めていることに他ならない。よく見てみるといい」

 

モニターの向こうでは、轟が一直線に氷を出し、それを芦戸が回避。そして、轟へと走る。反応が遅れた轟とテープを取り出した芦戸の間に障子が割って入る、そして離れ再び部屋の中央を陣取る

 

「分かっただろう?集中的な轟少年狙いだ」

 

繊細に氷を制御できているのは集中できているからこそ。

集中を崩せない轟の邪魔を障子はしない、下手な動きはできない

 

対する芦戸は、1vs2ではあるものの警戒すべき対象は

目の前の障子ではなく、その後ろの轟が出す氷

 

一度氷を避けてしまえば、次に攻撃がくるまでは早くないことをこの攻防の合間に学んでいた。

 

故に、その制御に集中力の大部分を使う轟へと攻撃する

彼にある選択肢は避けるか、障子に守られるかの2択しか存在しない。

 

どれだけ障子が前に出ようと、轟を狙うことで障子に守りをさせ、轟を後ろに下がらせることで自分は立ち回りやすく、相手に前へ進ませない状況を作り出していた

 

 

「…もし、考えてやってるんだとしたら彼女、相当頭切れるぜ!!」

「凄えな芦戸!」

 

「(でも、違和感が一つある。なぜ彼女はあそこまで動き回る…?2人を追い詰めるだけならそこまで…)」

 

 

「にしても、オベロンは何をしてんだろうな…?」

「確かに…」

「光の維持で手一杯なんじゃねえか?」

「確かに、もしもあの膜が消えたら一瞬で轟の独壇場だもんな…」

 

 

 

 

芦戸と轟達が戦う中

別のモニターの向こうでは蝶がパタパタと舞っていた

その中でも特に綺麗な青い蝶が一頭。

その部屋に残る無数の蝶を置いて、ふわふわと部屋からいなくなるように何処かへと飛んでいった

 

 

 

「……待て、オベロンどこだ。核の部屋に居ねえぞ!!?」

 

「「「「は!??」」」」

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

「おりゃー!!!」

 

再び冷気が拡散する、だが今度はそれに臆することなく芦戸は2人へと襲いかかる。

芦戸はその合間合間に確保テープを取り出して轟へと攻撃対象を絞り、勢いよく突撃して確保を試みる。

 

そのため

「捕らえたぞ!!」

とそれを阻む、障子に捕まりそうになる事もあるものの

「まだまだー!」

 

と捕まえられそうになれば酸を出す。その酸はオベロンが出している光すら貫通しうる濃度であり、それを見た2人は警戒を強め、即座に離れる。

そうして触れられない彼女によって幾度も同じ状況が作られていた

 

「どうしたの、そんなもん!!?」

 

(コントロールが…まだ出来ねえか!)

 

なぜ、そうなったか。それを轟は理解している

 

新たに得た技術。より精密に、その意識を持って個性を扱うことで、氷塊だけでなく、多様な手段で相手へ攻撃できるようになるモノ。

だが、それは未だ発展途上にも程がある。手にしたばかりの技術は集中力を酷く削り、自分への集中的な攻撃を許してしまう。不利な状況を生み出している大元でもあった。

 

 

(ーーなら!)

「わお!危ないね!!」

 

今はその手段を捨てる、いつか使えれば良い

 

即座に視界を塞ぐような氷壁が展開される。

笑みを浮かべた芦戸は、その場を力強く蹴り、遠く階段の手前まで回避をした。視界を上げた時には2人の姿は隠される。

 

「障子、いけるか」

「もちろんだ」

 

未だ彼らは階段の前から大きく動けていない。

時間もかなり立ってしまった。だからこそ決めるのはこの瞬間。

今しかない、とお互いに目線を合わせ、敵を見据えた

 

パラパラと散っていく氷の奥で、彼女はニッと笑った。「かかってこい」と言っているように笑みは挑発的。そして、姿勢は低く、確実に轟達の意図を察している。

 

ならば応えるしかない

 

障子の前に轟が立ち、これまでとは比じゃないほどの冷気が部屋に充満する。肌寒い、どころではなく本格的に身体は冷え芦戸も少し表情が固くなる

 

「…スゥ…」

 

一呼吸、そして

 

「っ!!!!」

「…やば!!?」

 

轟による最大出力の氷結は部屋を銀世界へ作り替える。光の膜のさらに上に重ねるように氷が張られているため、無論その氷はこれまでと同様に破壊される。

 

だが、それは理解している

 

「この一瞬があれば良い…!障子!」 

「ああ!」

 

その凍結によって生じた僅かな判断の鈍り、動きを止めてしまった芦戸を見逃す障子と轟ではなく、彼女が氷に気を取られた瞬間に障子は拘束具を持ち前へと駆け出した。

例え、反応が遅れようが本来であれば避けれるそれを彼女は避けることはできない。そして、同時に再び展開される銀世界。

 

「(左右が封じられてる…!?)」

 

それはこれまで轟が出してきた氷塊を遥かに超える密度のモノ。

 

「あいつの個性がどんだけ強かろうがこれなら数秒は保つだろ…!」

 

轟は何度も確認していた。まず初めの応酬。

ビルを全て凍結させた時、その瞬間の自身の氷が壊される速度は異常だった。

 

「(あの時はビル全体が目的だった。)」

 

故に硬度は低い。だから、轟は少しずつ個性の冷気を下げた。氷の硬度は温度に依存する。どこまで下げればオベロンの光に耐えられるのかを知らなければならない。

 

「(-1℃、駄目だ。

-30℃…足りない)」

 

下げれば下げるほどに、硬度は上がる。だが、自分への負担は計り知れない。オベロンの光に耐えつつ自分の身体の耐えられるギリギリを戦闘の中で探る。その間、芦戸の攻めは止まない。荒削りの技術、下がっていく体温。段々と轟は追い詰められる。しかしーーー

 

「(あぁ…)」

 

ーーーこのギリギリの戦いが基礎を知るための訓練だとよく言えたな、と轟は笑みを浮かべた。その時、轟は見極めた。氷がその場に保ち、消えず残り続ける限界値を。

 

「えぇっ!?氷消えないっ!」

 

 

「これでお前を捕まえて、上にいるオベロンを捕らえて終わりだ」

 

後ろへと飛び退く芦戸、それを障子は追い詰める

轟も続くように個性を使い、氷を再び使い始める

 

ああ、これで終わり

 

 

「アハッ!!」

 

 

笑顔を浮かべる彼女の勝利だ

 

 

「やっちゃえ、オベロン!!!!」

 

「…なに?」

 

パタパタ、パタパタと

芦戸の手元からきらきらと光る、眩い蝶が一頭

こんなビルに居るには似合わず、それが自然的なものではなく人為的ーーー及び個性で生み出されたものだと察するのは難しくない

だがそのあまりの突然さに轟と障子の2人は判断を遅らせた

 

“なんだ?”

“どこから”

“これは”

 

 

それが敗北を生む。

そう、勘違いをしてはいけない。

彼女は別に、1人で戦ってなどいない。ただ、前で戦っていただけに過ぎない。

 

彼らは、最後まで油断をせず

「これは2対2の勝負である」

そのことを頭からなくしてはいけなかった、意識を常にしておくべきだったのだ。

ーーー彼女を倒してオベロンの元へ向かう?

 

「それが、1番の間違いだよ」

 

「…あははっ!」

 

飛び退いた彼女は両耳を抑えて笑う 

それがまた彼らの判断を遅らせた。

 

(何で、こいつは耳を抑えてんだ)

(何を…)

 

ひらひら、ひらひら

 

轟も障子もただゆっくりと舞う蝶へ意識が吸い込まれる。まるで世界が止まったように、呼吸も忘れる。緊張の中で生まれた困惑のひと時があまりにも長く感じる。

 

だが、その蝶に見惚れているようではもう遅い。

最初から部屋は満たされていた、当たり前だと思ってはいけなかった。オベロンが用意したものは最後の蝶だけではなくーーー

 

「このビル全てを包んでいる光全てが僕の力だよ」

 

幻聴か、陽気な妖精の声が頭の中で反響した

 

青い蝶がゆっくりと床へと落ちる

羽はちぎれ、力無く、チリチリと音を立てながら

ああ、この落ちる蝶はさながら導火線を走る火だ。

ともすれば、今から起きるのは

 

(まずっーー!?)

「轟目を閉じっーーー!!!?」

 

「それでは、ご覧あれ」

 

そこでようやく彼らは辿り着く、これは誰の手によるものか。

轟は後ろへと下がり、障子が轟を隠すように腕を広げるが、間に合わない。

パチンと一つ、指を鳴らしたその瞬間、聞こえてきた声も目の前の彼女の輪郭を忘れさせるほどに

 

「なっ!!」

「くっ…!」

 

ーーー極光が2人を襲う

 

 

 

 

あまりにも強い光を観測したモニターの幾つかは点滅を繰り返し、そのまま黒い画面しか映さなくなった。

甲高い音がどこまでも響き、建造物すら揺らす。離れたモニタールーム内の物が震える

 

「なんだ!!この音!!!!」

「目がぁ!目がぁぁああ!!!」

「閃光弾…!?いや閃光蝶…!!?」

「どうでもいいよ!!そんなこと…!やばっ!」

「…モニターを破壊するほどの光なんて…!!?」

「音凄すぎて揺れてる!!!」

「ふざけた事しやがる…!!」

 

それを見ていた物全てが耳を抑える。目を抑える。

身動きが取れなくなる、一切の行動が許されなくなる

 

 

近くにいた彼らは、当然被害はモニタールームより大きい

 

「(目開けてるはずだ…聞こえもしねえ…くそ…!)」

 

視界は白一色、開けているはずなのに情報はなく、甲高い金属音がずっと脳裏に響く。あまりの膨大な量の光と音に身体は平常ではいられなかった。

轟は事実上身動きが取れない状態に陥った

障子も同じような状態へと陥るが、なんとか頭を回転させ『複製腕』で目と耳を生やす。周囲を見渡すと既に2人の相手をしていた芦戸は見つからず、この部屋には2人しかいなかった。しかし異変はそれだけではない。

 

「轟、轟聞こえるか…!」

「…手の甲にでも書いてくれ、慌ててんのは分かった…」

 

未だ衝撃から意識を回復できずにいる轟に指で文字を書くことによって伝える

 

「閉じ込められた」、と

 

周囲の光景は、さっきと異常なほど変わっている。

小さな部屋を全て満たし、自分たちを取り囲んでいる。パタパタ、パタパタと自由に周囲を舞う、100はいるであろう蝶達。その蝶達が自分たちを見張るように壁に、床に、宙にいる。これは、まるで虫籠の中。好き勝手にカゴに入れられた虫達が自分達を見ている。

何として?ーーーーー無論、エサとして。

幻想的というにはあまりにも遠く、異様で、不気味な光景。現実世界から急に切り離されたような恐怖は、戦意を喪失させるには容易い。

 

(この全てが先程の蝶と同じ…その可能性も…)

 

あまりの危険な状態に障子も目を瞑る。

これは封じられた、と

 

轟は氷を当てるも周囲の壁に張られた光と同じように蝶に弾かれる。無駄だと悟ったのか、冷気は収まり、その場に座り込んだ

 

「すまない、轟」

「…これは…いや、相手に上手くやられた」

 

 

「動かないほうがいいよ?何が起こるかわからないからね」

 

姿は見えない。だが、声はした。誰のものかは分かりきっている。一つ、思うことがあるとするなら

 

「…オベロン」

 

「やあ、久しぶり。この戦いにおいては初めましてかな?」

「にしても…すっごい光景…自分があそこにいると思うと、うわぁぁあ…」

 

オベロンと芦戸が自分たちの頭上にいる事だろう。

自分達が本来いる場所と、位置がずれている違和感がーー

 

「そういうことか…」

「……そのための酸か、嵌められたな…」

 

彼らは戦っていた位置からビルの入り口まで落とされていた。ゴールまで歩むにはもう時間はない。

 

「さて、オールマイト。彼らはもう何もできない、虫籠の中の餌だ。エサに選択権はないしーーーなら、僕らの勝ちでいいかい?」

 

「あ、ああ…!!勝者Eペア!!」 

 

熱狂止まないモニタールームでは今までとは比べ物にならない歓声が響き渡る。

 

「オベロン!!」

「ああ」

 

そして、パチンと一回、気持ちの良いハイタッチの音が響いた

 

「私達の勝ち!」

「僕らの勝ちだ」

 

 




轟くん強化パッチ入りまーす
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