(にするはずだったもの。取り敢えず短編にしてみた。気が乗れば続きを書く)
ゴウンゴウンと換気扇の音が響く。
重力が下に向かってかかり、上へ向かって行っていることを全身で感じ取る。
最上階までたどり着くのに、もう既に一分もない。
私たちは両手に持っている銃に、新たな弾丸を装填した。
「姉ちゃん。弾ない、弾」
「ないわよ。予備あるでしょ、そっち使いなさい」
「けちっ。…………はぁ、割に合わないよね。この仕事」
「……いつものことでしょ。でもまぁ、今回ばかりはね……ほぼ使い捨てみたいなものだもの」
私たちは殺し屋だ。
銃を手にターゲットを撃って殺す、それだけの存在。
もう慣れっこの仕事、だったはずなのに。
全身が震える。
これは武者震いか、それとも──。
……ターゲット、それは私たちの同業者。
つまり殺し屋だ。
奴はこの裏世界では名の通った殺し屋だ。
依頼達成率は百パーセント、狙った獲物は必ず刈り取る。
綺麗な切断面以外の証拠を残さないこと、そしてその依頼の達成度から『
私の所属する組織では何度かこの手の依頼はあった。
『猟犬』を誘き寄せるから殺してくれ、と頼む命令が。
どういった理由でそんなことを頼むかはわからないが、結局のところ同業者。
殺せるに違いない……と、上層部は高を括ってたわけだが。
だが一度たりとも帰ってきた人はいない。
たったの一度たりともだ。
しかし組織は止まらなかった。
何度も殺し屋を送っては帰ってこないという始末。
だから私たちも送られた。
最も実績を上げている私たちが。
もし失敗すれば、辞めるつもりで送ったのだろう。
「……これで、最期かな」
「嫌なこと言わないで欲しいわ。もし勝てたら、解放されるってのに」
「あははっ。今更解放するって……ねぇ、もし自由になったら何したい?」
「……自由、か」
静かな時間が一瞬だけ流れる。
もう数十秒もしないうちに目的地へと着く、辿り着いてしまう。
私たちに自由なんて訪れないはずなのに。
ありえないはずなのに。
望んじゃ、いけないのに。
「私──」
それを言う前に、軽快な音ともにドアが開く。
私たちは息を殺して入口の影に身を潜めた。
向こう側から音はしない。
だがとても濃い、血の匂いが漂ってきていた。
「っ……」
姉の方を見ると、指と視線で合図を送ってくる。
──私が先行する。
それは……まさに、死にに行くようなものだ。
でも結局のところ、これはどっちかが犠牲にならねば進まない。
わかりきっていたことなのに。
姉が一歩、前に出た瞬間だった。
ドアの向こう側から一本のナイフが飛んできて、奥の方に突き刺さる。
それに反応して、即時に両手の銃を撃ち放つ。
奥から響く金属音、察した私はスモークグレネードを投げ込んで走り出す。
部屋を煙が充満して行く。
本来のものより遥かに強化されたものだということもあり、視界が完全に遮られてしまった。
それについては向こうも同じ、だが。
散々訓練されてきた私たちからすれば、鼻と気配でわかる。
相手がどこにいるかなど。
「っ!」
私たちは同時に二、三発、気配と匂いのした方に撃ち込む。
またもや響いてくる金属音に、警戒をしつつ壁際まで後退。
その瞬間、空気を切り裂く音が聴こえて、首を横に動かした。
すると今まで私の顔があった場所に、一本のナイフが突き刺さる。
すかさず、ナイフが飛んできた方に向けて、一、二発。
金属音は聞こえず、壁に突き刺さった音のみ。
だが地面を蹴る音が聞こえ、そこに向けて更に撃ち込み、弾切れになった片方の銃を投げ捨てる。
弾丸の残数はもう少ない。
ここに来るまでだいぶ使い込んだせいでもある。
でも、これで奴を仕留めなければ。
仕留めれなければ、私は、私たちは──!
銃を煙幕の中で前に向けた瞬間、空気を裂くような音が聞こえた。
いや……それ以外にも何か、切られている。
この、音は……血、肉……まさか……!!
「姉──!」
私が叫ぶ前に何かが飛んできて、咄嗟に避ける。
壁に当たって落ちたものは……これは、鞘?
「なん、で──」
その疑問はすぐに明らかとなった。
影が、煙幕の中で一つの影が恐ろしいほどの速度で、こっちに迫ってきていた。
咄嗟に銃を構え、二、三発ぶち込むが、奴が腕を振るって銃弾を
「くっ……!!」
更に撃ち込もうとしたが、その前に奴の腕が上に向かって振られる。
その瞬間、銃を持っていた右手が切り落とされた。
綺麗な断面と吹き出る血飛沫、私はその血飛沫で奴の視界の隙をつこうと、懐からナイフを取り出して動いた。
が、その前に左腕にも腕が振られる。
「ぐ、ぁッ……!!」
ナイフが宙に舞ったのをみて、私は壁を蹴って飛ぶとナイフを口に掴んで奴に向かって飛びかかる。
しかしそれよりも前に、一瞬で私の腹が切り裂かれた。
奴の持っていた刀によって。
「ぅ、っ──!」
声がでない。
だが、足はまだ動いた。
「ぃ、ねッ……!!」
最後の力を振り絞って、床を蹴って飛び上がるとナイフを蹴って突き刺そうと動く。
奴の最後の攻撃は大きく振り切った攻撃。
すぐに次の行動に移行できない、はずだった。
「は──?」
だが奴は振り切った姿勢のまま、私の目の前まで接近してきた。
そこでようやく、お互いの顔がわかる。
わかってしまった。
「あ、ぁ……」
奴も
「──ごめんなさい」
最期に聞こえたのは、そんな声。
震えるような、怯えるような、そんな声だった。
あー、血生臭ぇ。
女の子二人かぁ……はぁ、気分落ちるなぁ。
仕事とは言え殺す必要あんのかねぇ、これ。
「終わったか、『猟犬』」
「……終わりました」
俺の意思に反して、乖離した少女の声が口から溢れる。
「……流石だな。後の処理は任せてくれ」
「……はい」
俺は、いわゆる転生者だ。
前世はただの普通の、男だったんだが。
転生したところ何故か少女だったわけで。
それがどうしてか、色々と経験を経たのち、こんな殺し屋みたいなことしている。
その過程でどうやら俺は、色々擦り切れてしまったらしく、
精神的にね。
「……なぁ」
『おう?』
「
この通り。
前世の
二重の人格に分裂してしまったわけだ。
『目的は一致してる。お前は死にたいし、俺も死にたい』
「ああ。でも、お前の死にたいは、少し違うだろ」
『どうせ死ぬなら、悔やまれて死にてぇよなぁ。周り曇らせたくね? ね?』
「……もう、私、にはもうわからない。私自身の考えていることが」
『乖離しちまったからな、仕方ねぇ』
ビルから出てきた俺たちは迎えの車に乗る。
任務を終えた俺たちはただ帰るだけだ。
この世界での目的はただ一つ。
こいつはただ死にたいだけだし、どうせ死ぬなら俺は曇らせて死にたい。
取り敢えず、死にたいだけだ、俺たちは。
歪んでいるのはわかっている。
でもこの曇らせたいってのは元々だし、それを加速させたのはこの世界だ。
だからどうせ死ぬなら最高のタイミングで死んでやる。
それが俺たちの望みなのだから。