ふたりきり惑星再生   作:小沼高希

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050: 斯くして二人は大洋を覗く

久しぶりに戻った肉体は、エッフィが思ったよりもきちんと馴染んでいた。

 

「こうやって会うのは久しぶりだね」

 

腕を意識しないと動かせないというのは、あるいは口を動かさないと言葉が出ないというのは不便なものだ。とはいえ、この光景を見るなら生身が良かった。それに、久しぶりにピオの腕の中にいられるというのもある。

 

「ええ。ただ、本官はかなり機体が変わりましたが」

 

そう言うピオは、最初の頃のスカートより一回り小さいものを装着していた。全身の部品をオーバーホールし、処理系や表情用のアクチュエータなどはまるごと取り替えてある。

 

スカートは小型の統一力場特異点を利用することで簡単な移動とちょっとした跳躍航行を可能としている。とはいえこれ自体は完全にピオに割り当てられた余剰資源を使って作った道楽的産物であるが。

 

「でもまあ、ピオも自分の目で見るのはいいものでしょ?」

 

「……ええ」

 

エッフィを抱えたピオの眼下に広がるのは、青い海と白い雲。ところどころに見える黒い染みのようなものはアニモの有機体だ。

 

「こうやって見ると、星ひとつがまるごとアニモなんだってわかる気がする」

 

「今や星ひとつではありませんが、ね」

 

嫌気性のアニモたちは、自己を改良し酸素非発生型光合成能力を得たことで液体の水さえあれば比較的簡単に居住可能惑星を増やすことができる。酸素を作らなければならなかった地球化(テラフォーミング)に比べれば、アニモたちのやったことはそう多くはない。

 

磁場衛星が入れ替わりで恒星から吹くフレアやコロナ質量放出を食い止め、惑星からの大気の散逸を防ぐ。それと同時に地上の炭酸塩を二酸化炭素として分解し、温室効果によって液体の水が存在できるほどの温度と気圧を確保する。

 

とはいえ、それは大規模になったアニモであっても困難な事業だった。時折ピオやエッフィの援助を受けながら、数百回ほど惑星が公転を繰り返すほどの時間をかけておおよそ形が完成する、というほどだ。

 

また同時に、宇宙資源の活用も行われた。この惑星系にも小惑星群は存在し、そこを拠点とした採掘と惑星軌道制御のための施設が多く作られたのだ。

 

アニモが有機体と情報のやり取りで存在を維持しなければならないために独立性が低いことを補うため、孤立して動ける新しい存在を作り出した。空間そのもので情報処理を行うそれらは、宇宙を住処とし徐々に増え始めている。

 

「多分、あの子たちもアニモを超えていくんだろうね」

 

そう言ってエッフィが仰ぐのは恒星の光を反射して輝く円盤。その距離を考えれば、恒星サイズの物体であることがわかるだろう。

 

とはいえそれは非常に薄い膜を遠心力と重力制御で伸ばしているものだ。受け取ったエネルギーは外周を使った加速器で特異点に変換され、アニモたちやその後を継ぐ存在たちにエネルギーを提供している。

 

「恒星の出す光全てを使うほどにまでになれば、星団を自在に渡り歩く事もできるでしょう」

 

エッフィの記号的技術は、アニモたちによって独特の発展を遂げた。惑星の配置を調整することで星系全体に流れを作り出す方法は、惑星規模の認識を持ったアニモたちでなければなし得なかったことだ。実際のところ、初期にエッフィやピオが考えていた案以上にそれは複雑なものだった。

 

今の時点で、介入は恒星規模にまで進んでいる。星団の並びを変えるという所業も、今であれば不可能ではなくなったのだ。

 

「ただ、そうすると私たち以上の何かに触れるかもしれないよね」

 

エッフィの言うように、長期の観測と多くの測定が奇妙な事実を示していた。銀河の星の並びや銀河団、さらにその上のスケールの超銀河団やまたさらに複雑な繊維状構造などを包括する記号的意味付が可能となったことにより、そのレベルで宇宙を認識している何者かの存在が示唆されるようになった。

 

また、ピオやエッフィ自体の存在もアニモたちにとっては非常に重要な示唆を与えていた。平行世界を繋げる力を持つ何らかの意思の存在がほぼ確実に存在することは、宇宙の意味的認識を決定づける可能性が高い。

 

それに介入し、大いなる観測存在となる試みも進んでいる。まだまだアニモにもその先にも謎は満ちており、やるべきことのリストはなかなか短くならない。

 

「こう考えると、人間って小さかったよね」

 

「多くの制約がある生命だったのでしょう。もしかしたら、ここに繋がることもあるかもしれませんが」

 

因果の操作により、二人の縁を辿るようにもとの世界の方向に相当するものの知識は深まっていた。ただ、どのようにしたら渡ることができるのかは全くの未知だ。物理法則の階層を突き抜けることで可能という理論も出てはいるが、それを実現するためには銀河一個程度の質量を丸ごと特異点にするほどのエネルギーが必要だ。

 

あるいは、銀河系の超大質量重力特異点がそのためにあるのかもしれない。この仮説が正しければ、人類やその後継たちは余波のおまけで生まれた存在ということになる。

 

「……でも、馴染めるかな」

 

「我々も、後継者たちからはよくわからない存在として扱われているでしょうからね」

 

「そうは言っても私たちはあの人類が作り出したものなんだよ?こと戦争とか、あるいは政治みたいなものにおいてはまだ私たちよりも追いつけてないし」

 

「個の集合である以上、得手不得手があるだけだと思いますが……」

 

「そういうこと言わないの、私たちが創造者だって言われるように、私たちにも創造者がいるんだから」

 

そう言ってエッフィはピオの腕の中で姿勢を整える。中軌道を廻る観測・実験・通信設備複合体の外壁に立った二人の眼下で回る大地は、既にある程度の距離を進んでいた。




活動報告にあとがきというか今まで書いて思ったこととかをメモみたいにしておいたので気になった方はどうぞ。

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=301528&uid=373609
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