可愛いヒロイン達と友達になって仲良くしたい! と。
【Fantia】にも公開中。
「わっかな~♪」
「ひゃぁ!」
可愛らしい悲鳴が教室に響いて視線が集中する。私が彼女、
「あ、あんたねぇ!」
「今日は純白の白か。良いね、うんうん」
「人のパンツを見て勝手に納得してるんじゃないわよ!」
顔を真っ赤にして怒る若菜。そんな姿が一瞬、一枚の絵に変わった様な気がした。元々、そうだったんだ。だけど今、その絵は現実になって意志を持ち、動いている。ちょっとした感動と好奇心が、私の中で湧き上がる。
「あっははっ! 可愛い~!」
「~~~~っ!」
「あ、やば」
「咲綾ぁぁ!」
声にならない怒りを溜めて、今度はその怒りから若菜の顔が真っ赤に染まる。これは不味いと教室を逃げる様に飛び出せば、私の名前を叫びながら追いかけて来る。これは朝のHR前に起きた出来事。もう周りからしても何時もの光景で、そこに私がこうして居られる事が嬉しかった。
私はこの世界が元々、ゲームだと知っている。前世の記憶、とは少し違うかな。だって私は前の人生を覚えている訳では無いから。この世界がゲームだという記憶がある日突然頭の中に流れ込んできたってだけ。それも数年前、中学生として入学する直前の出来事。
内容も断片的だった。ゲームの内容はほのぼのとした日常を男子生徒が謳歌する話。幼馴染、義妹、転校生と三人のヒロインが居て、誰かと結ばれるか誰とも結ばれないか、そんな男子高校生の青春を体験出来るお話。
どうして私の頭にそんな事が流れて来たのかなんて分からない。正直、最初は勝手に思いついた妄想かもって思った。だけどヒロインの1人、幼馴染の姫宮 若菜が入学した中学校のクラスメイトに居ると気付いて、自然と主人公の男子生徒が誰かも分かって、この世界の事実に気付いた。
「ま、そんな事はどうでも良いんだけどね~」
この世界がゲームの世界だったとして、私には何の関係も無い。もしお話の中で誰かが死ぬとかになってたら焦るけど、そんな事にはならないっぽいし。けど私に何の影響も無かったかと聞かれれば、その答えは大きく影響した、だ。
「今日も可愛かったなぁ」
流れ込んできた情報で知ったヒロインの顔。ゲームの中で主要人物になるくらいだから、当然と言えば当然だけど、三人とも凄く可愛かった。元々顔面の偏差値とかはみんな高いんだけど、彼女たちは桁違い。
私は可愛いが好きだ。猫でも犬でも動物は勿論の事、赤ちゃんや可愛いに該当する存在が好き。だから下心満載で近づいた。最初に接触出来たのは幼馴染ヒロインの若菜。クラスメイトって事もあって、私から沢山話し掛けて、中学デビューと同時に友達となった。
ヒロインには当然、それなりの過去がある。主人公を好きになる動機も。だけどそれが何かまでは、私にも分からない。それに若菜が主人公を好きになったって、別に私は構わない。結ばれれば確実に幸せな未来が待ってるだろうから。その場合、他のヒロインがどうなるかは流石に分からないのが不安だけど。
さて、そんな若菜や義妹ちゃん、何時か未来に現れる転校生の事を知った私はある目標を作った。私の存在はゲームの中で全く出て来ないその他大勢の一人だろうけど、そんな事は本当にどうでも良い。ただ私は、可愛いヒロイン達と仲良くなりたい。今日の様に親しくなって、友達として一緒に過ごしていたい。それが楽しく、幸せな時間だと思えているから。
「っと、そろそろ戻らないと不味いかな」
流石に怒った若菜もそろそろ教室に戻っている頃だと思う。HRを超えて最初の授業の準備となったら怒っている時間も無いだろうし。あ、でも今日は若菜にお願いしようと思ってた事があったんだった。何とか怒りを鎮めないと……。
放課後、あたしは昔から一緒だった幼馴染と中学の頃から友達になった咲綾の三人で帰り道を歩いていた。咲綾がこうして一緒に帰る事は別に珍しい話じゃない。だって、途中まで帰り道は一緒だから。あたしが仲良くなってからは頻繁に途中まで一緒に帰ってる。
でも今日はお願いされてまで一緒に帰宅する事に。一瞬過ぎった不安。あたしと一緒になってまで帰る理由は幼馴染が居るから。となれば当然、狙いは幼馴染。まさか、咲綾はこいつの事を? いや、それは無いか。だって咲綾の狙いは確実にあの子だから。
「ねぇねぇ、今日
「あぁ? 別に構わねぇよ。アイツも喜ぶだろ」
「ほんと? やった!」
「あんた、渚ちゃんの事が本当に好きね」
「そりゃ、可愛いもん。良いなぁ~、あんな可愛い子が義妹になって」
本当に羨ましがってるのが見るだけで分かる。咲綾は昔っから可愛いものが大好きだって言ってるから、渚ちゃんもそれに含まれてるみたい。あ、あたしも可愛いってよく言われる。悪い気はしないけど、公衆の面前で褒められると流石に恥ずかしいのよね。
「……」
「まだ渚ちゃんとは上手くいってない訳?」
「あぁ。もう一年経つってのにな……」
物憂げな表情で茜色の空を見上げる幼馴染。ある日、両親の再婚で出来た義妹とはまだ上手くいってないらしい。仲が悪いって訳じゃ無さそうだけど、会話は殆どないみたい。しかもその両親は外国へ行っちゃって、幼馴染と渚ちゃんは家で二人っきり。
「だから、有栖が来る日は俺も楽なんだよ。アイツ、有栖には懐いてるからな」
あたしよりも義兄に当たる幼馴染よりもあたしの友達、
『可愛いは正義で、守るべき対象で、愛でるべき存在なんだよ!』
男子生徒数人を前に堂々と言い切った彼女の背中を今でも鮮明に覚えている。中学生の多感な時期に起きた男子の意地悪。その時あたしを守ろうとしてくれた、彼女の背中を。ずっと、彼女は変わらない。可愛いが好きだから、渚ちゃんを愛でてるだけ。
「到着っ! ほらほら、早く鍵開けてっ!」
「急かすな。……ほら」
「渚ちゃ~ん!」
「開いたぞ……って、もう入ってやがる」
「はぁ~、ほら。あたし達も行くわよ」
今、咲綾の頭の中には渚ちゃんを可愛がる事しかない。彼女らしい姿が微笑ましくて、でもちょっとだけ……ちょっとだけ、妬けてしまう。
『渚ちゃ~ん!』
玄関が開いた音。聞こえて来る聞き覚えのある声。私がこの家へ来て、お母さんよりも、新しいお父さんよりも、一緒に暮らすお兄よりも聞きたい声。咄嗟に部屋を飛び出して二階から階段を駆け下りると、玄関に見える見覚えのある高校の制服を纏った女の人が一人。
「来ちゃった♪」
「っ!」
「うわぁっとっと!?」
外の明かりに照らされて少し暗い中で、笑顔を浮かべながら告げる咲綾さん。思わずその駆けていた足のまま飛び込むと、驚きながらも受け止めてくれる。身長は普通なのにお母さんのよりも大きくて柔らかい。私を受け止めてくれる咲綾さんに抱かれて、包み込まれると幸せな気分になる。
有栖 咲綾さん。お兄の同級生で、幼馴染の若菜さんのお友達。私がこの家に来たばっかりの頃、お兄との関係が難しくて、周りの事も何にも分からなくて、新しい学校にも馴染めなくて、数日で私は部屋に閉じ籠ってしまった。
『時間が解決してくれる事を願おう』
扉越しにお兄はそういった。お母さんも帰って来なくて、それこそ私はずっとこのままだと思ってた。
そんなある日。私が数日で作り上げた壁を意図も容易く壊してきた人がいた。それが咲綾さん。
『妹ちゃんを見に来たんだけど……閉じ籠っちゃったの?』
『あぁ。だから今回は諦めて……有栖!?』
『お邪魔しま~す!』
人の事なんて考えない、自分中心で身勝手な人。強引に私の部屋へ入って来て、しかもお兄が入らない様に入ってすぐに扉を閉めてから物で塞ぎ始めて、最初私は怖くて必死に部屋の隅へ逃げていた。仕方ないと思う。あんなの、怖いに決まってる。
『だ、だれ……?』
『か、かか、かかか』
『……か?』
『可愛い~~~~っ!』
『ひっ』
一瞬だった。私は何時の間にかその人に抱き締められて、大きな胸に顔を不可抗力で埋めさせられながら頭を撫でられ続けた。最初は怖くて固まっていた身体が徐々に危険が無いと分かったらどんどん警戒心が薄れて行って、抱き締められる時間、お母さんの事を思い出して……気付いたら私は眠ってしまっていた。
目が覚めてもその人は部屋にいた。もう入り口を塞ぐ物は退かされていて、お兄達も入って来れる状態。そんな状況で目が覚めた私に放った一声。
『何かを不安に思うなら、周りを頼って良いんだよ。君のお兄さんにも、ね。血の繋がりが無くたって、ちゃんと家族にはなれるんだから』
まだ引き籠って数日で事態は深刻化はしてなかった。咲綾さんが帰ってから、私は部屋を出て……それからもう一度学校にも通いだした。風邪が長引いて休んでいただけだって伝えたら、心配してくれるクラスメイトが居て、馴染めたとは言えないけど通学は出来る様になった。
「お兄」
「急だったんだよ。分かるだろ」
「……うん」
「何の話?」
「渚ちゃん、あんたを呼ぶ時は予め教えておけって何時も言ってるのよ」
「そうなの?」
「おもてなしの準備、するから」
「おもてなしかぁ。今のがそうかな? はい、ぎゅー!」
「違う。でも、ぎゅー」
別に、準備なんて殆どない。でも咲綾さんが来る時は知っておきたいだけ。お兄の様に家族じゃないけど、私にとってお姉みたいな存在だから。お母さんとは別に安心出来る、心の拠り所だから。若菜さん? 確かにお兄の幼馴染で、お姉としてはこっちの方が近いけど……。
「? 渚ちゃん?」
「…………あげない」
「んなっ!?」
何を、なんて言わなくても伝わる。それに雰囲気で分かる。若菜さんは私と同じ、咲綾さんの事を。何があったかなんて知らない。だけど若菜さんは咲綾さんを友達以上に思ってる。咲綾さんは私のお姉、絶対にあげたくない。
「そ、そろそろ離れない?」
「……いや」
「でも、咲綾もずっと抱き着いてたら辛いに決まって」
「別に辛くないよ? ねぇ~?」
「ねぇー」
「あ、そう……こいつらぁ」
若狭さんは大分苛立ってる。大体理由は分かるけど。学校じゃ一緒に居られるんだから、偶に家へ来る時くらいは私が一人占めしたって罰は当たらない。咲綾さんが私のお姉になったら別……?
「私のお姉……つまり、お兄の……?」
「ん? 渚ちゃん、何か言った?」
「……何でもない」
咲綾さんがお姉になる。つまりそれはお兄のお嫁さんになるって事。お兄と咲綾さんが一緒に? それは、駄目。だって、だって咲綾さんは私のお姉だから。私だけのお姉。他の誰のモノにもなっちゃ駄目。でも、そうしたらどうやって。
『血の繋がりが無くたって、ちゃんと家族にはなれるんだから』
そう。血の繋がりが無くても家族には成れる。別にお兄と咲綾さんが一緒にならなくても、きっと他に方法がある。例えば私と咲綾さんが、結婚……すれ、ば……。
「咲綾さん」
「ん~?」
「結婚、しよ? 私と」
「……はい?」
「はぁぁぁ!?」
「お前ら、何時まで玄関に居るつもりだよ」
転校生がやって来る時期って何時だったかな? 少なくとも話の最初から居るだろうから、ピッタリなのは春頃?
ちょっとツンツンした幼馴染。無口で少し気まずい義妹。そしてクールでミステリアスな転校生。恋仲になったら順々にツン甘な幼馴染、積極的な義妹、クーデレ彼女になる。悲しい物語では無いから、どれも良い笑顔を浮かべている筈。
転校生が主人公と仲良くなる切っ掛けは……覚えてない。取り敢えず私は転校生が来たら真っ先に学校の案内とかをしてお近づきになる! 最初は孤高で馴れ合わないって感じの筈だから根気は必要だと思うけど、絶対に諦めないで友達になる! そして可愛い子達と最高の青春を!
「今日は私と帰りましょう? 咲綾」
冷たい雰囲気を醸し出しながらも見惚れる程の笑みを浮かべた彼女が私の手を取る。
「ちょっと! 咲綾はあたしと帰るの!」
それを遮る様に親友とまで言ってもらえる間柄になった若菜が割って入って来る。
『咲綾さん……聞いてる? 今日は、家に来る……よね?』
片手には渚ちゃんと繋がった電話。家へ来る様に催促されてるんだけど、実は毎日。
「咲綾」
「咲綾!」
『咲綾さん』
「あ、あはは。えっと…………どうしよう、これ」
――――――好きなヒロインと仲良くしたかっただけなのに