体がふわふわして、なんだか心もとない。
というか、何も見えないし聞こえない。
と、そんな中、遠くから俺を呼ぶ声が聞こえた気がした。
なんとなくそちらに向かってみる。
そちらに行きたいと願うだけで、自然と体が漂って行った。
夢見心地というか、浮遊感というか。
何なんだろう、この不思議な感覚は。
呼ばれた気がした方へ向かってみると、やがて大きな光が見えてきて――
「こらこら、駄目じゃあないか。君が殺されてしまっては……君には重大な
………………何やってるんだこの人は。
そこは、すでに見慣れた白い部屋。
光を見つけて飛び込んだはずなのだが、なぜか目の前にはナナシがいる。
いや、なぜかというほどでもないか。
徐々に記憶が戻るにつれて自分の身に何が起こったのかを理解し始める。
――ああ、自分は死んだのだな、と。
俺が地球で女の子の身代わりになろうとして死んだ時はアクアが、異世界で凶暴なモンスターなどに殺されてしまった時にはエリス様が。
そして、いまだかつてない強敵である邪神ナナシとほぼ相打ちのような形になった現在はと言うと……
「いや待ってくれ、やっぱりおかしいぞ!」
「まだ混乱しているようですね。今あなたがここにいるのは何もおかしいことではないのです」
「それはそうだ、だって俺死んだんだもの。俺がおかしいって言ってるのはお前のこと!」
「…………???」
しばらくポカンとした顔で何のことかわからないという表情で、ようやく思考ができるようになったのか自分のことを指さして首を横にコテンと傾げる。
何で俺が間違ってるみたいな感じなんだよ。
お前さっき俺と戦ってただろうに、どうして俺が死んだ時に蘇生とか転生させてくれる女神ポジションに収まってんだよ!
魔王以上の何かだっただろうお前、さも平然とそこに座るな!
そんなツッコミをしようと思って声を張り上げる用意をしていたら……
「ナナシさん、正座」
「…………」
ナナシの忍び寄る影がナナシの肩を叩き、にっこりと怖いくらいに微笑んでそんなことを言った。
その影の正体とはものすごい怒気をその身に隠しきれてない銀髪の副団長――つまりはエリス様。
そんな圧をかけられたナナシは何か諦めたように目をつむり、すっと立ち上がるとエリス様にその席を譲り、なぜか切腹するような顔持ちで椅子の横に着座した。
そんなナナシを見たエリス様は深くため息をつきながら。
「まったく、私言いましたよね。反省し終えるまでしっかり正座してくださいって。私に相談もせず、皆さんに迷惑をかけて申し訳なかったと心から思えるまで正座していてくださいって言いましたよね」
「……」
「どうして貴女は誰にも相談せずにこんな大事を引き起こしてしまったんですか。一人で抱え込まず、誰かに相談してくださいと盗賊団の仕事の時にもいいましたよね。勝手に計画を実行されてもこちらの了承を得ない状態でやられては困るのでやめてくださいと言いましたよね」
有無を言わせない圧をエリス様から感じ取り、自分自身が空気になっていることを思わず忘れて黙りこくってしまう。
どうしてこういう状況になっているのだとか、俺の体は結局めぐみの爆裂魔法によってどうなってしまったのかだとか、世間の皆さんに多大なる迷惑をおかけしたうちのめぐみんの師匠であるナナシを生き返らせてくれるのかだとかを聞こうにも聞けなかった。
ここで質問しようならエリス様のやつが俺に飛んできそうでビビっているわけじゃない。
そんなことを思っているとエリス様が納得いってない様子ながらも俺のことを放っておくのは申し訳ないとこちらを向いて。
「コホン。佐藤和真さん、改めましてようこそ死後の世界へ。私こそがあなたに新たな道を案内する女神です。こちらで正座をしているのは信仰がほとんどゼロになった木っ端邪神なのでお気になさらず」
「いや気にするんだけども?」
「私としてはナナシさんに勝利を収めたあなたがどうしてあの戦闘後すぐにこの場所にやってきたのかが理解できないのですが――まあいいでしょう。あなたには、いくつかの選択肢があります。このままこの平和になった世界で赤子として生まれ変わるか、それとも平和な日本で赤子として生まれ変わるか、天国で平和に過ごすか」
「あの、会話してるようで実際のところしていないんですが? 無視しないでもらえます? というかこの中に俺の希望の選択肢がないんだが。あとアクアが生き返らせてくれるしそんな選択肢を提示しなくても……」
「それは無理かな。どうしてという顔をしておるが、汝、覚えておろう。自身の身に何があったのか」
正座を崩さぬままナナシは口を開く。
その言葉のせいでエリス様にチョップを食らわせられているが、俺はナナシの言葉の通りどうして自分が死んでしまったのかその原因について考え、うつむき……
改めて自分の体を見てみると、胸元から下が透明になっていた。
今までは天界に不慮の事故でやってきたとしてもこんなことにはなっていなかった。
そして思い出した、自分の身に何があったのかを。
「ああ、そっか。俺、めぐみんの勘違い爆裂魔法連打で、体を焼かれて……」
「ええ、お察しの通りだと思いますが、その、爆裂魔法を何度も受けて体の一部も残らず消失してしまったのです……だから、その、非常に申し上げにくいのですが……」
「ちょっとカズマ! 何めぐみんの爆裂魔法でやられちゃってんのよ! フレンドリーファイヤーなんてされちゃって、あんたの持ち前のあなたの幸運値はどうなっちゃったの逃げちゃったの!?」
「ア、アクア!?」
少しだけ泣きべそをかいたアクアが俺に体当たりを仕掛けてきた。
きっと、魔王討伐したことで天界に帰ってくることができたのだろう。
最近になってあんまり天界に帰りたいって言葉は聞いてなかったが、ここはアクアの故郷のような場所。
帰りたくないという気持ちは心のどこかにあっただろうし、帰ってこれて良かったじゃないかと声をかけたかったが当の本人であるアクアはそれどころではなさそうだ。
「幸運児高いなら爆裂魔法を一発食らって骨かなんか遠くに飛ばしなさいよ! せっかく私がカズマのことを生き返らせるって意気込んでみんなの士気を高めてたのにカズマさんがいなくなっちゃったせいでお通夜ムードなんですけど! どうしてくれんの!」
「どうしてくれんのってお前らのせいだろうが! なんで俺のこと爆発させたんだよ! 爆発なんて最低だよ!」
「だってだってしょうがないじゃない! カズマさんが勝つなんて絶対ありえないじゃない! 私たちは信じてたのよ、カズマがきっと負けてくれるって! きっと鮮やかにその命を燃やして時間稼ぎをして、それでめぐみんのあの怒涛の爆裂魔法で帰ってきたところを打ち抜きまくるっていうのがカズマの作戦だって思ってたのよ!」
「死ぬ事を計画に入れるバカがどこにいるか! そこは勝つことを願え! 何なんだ、俺のことをバカにしてんのか!? 変なところ信頼してんじゃねえ!」
いきなりやってきたかと思えばに大層失礼なことを言ってくる駄女神に負けじと言い返す。
そこ、俺自身が最初から敵わないって思いながら戦っていたとか言うんじゃない!
俺は最初から自分の可能性を信じていたぞ、絶対ナナシに一泡ふかせてやるって思っていたのに、負けると思われてたのは遺憾だ。
そんな俺たちのやり取りを見てナナシがなぜか唐突に吹き出す。
また頭のおかしいやつが狂いやがったかと一瞬身構えていると。
「いや大丈夫だ、すまない……ふふっ」
「お前がそんなに笑うなんて、今度こそ世界崩壊の始まりでも起こるんじゃないか? それとも何か、俺が死んだのがそんなに面白おかしかったか?」
「ふふっ……本当にすまない、違うんだ。まさか最後の最後までこの世界は運命にとらわれ続けているらしいと思ったら全てを作り替えようとしてた自分がなかなかに滑稽だったなと、思わず笑ってしまった――」
本当に一体何を言っているんだろうか。
元々おかしかったが、あくまでそれは演技の範疇だと思ってたのに、
俺はかわいそうな人を見る目でナナシのことを見ていると。
「ナナシさん」
「……はい」
もはや名前だけで反省を促すエリス様。
先ほどまで世界を滅ぼすとかいっていた邪神をこう叱りつけることができるのはこの人くらいなものではないだろうか。
あと強いていえばウィズとかくらいだろう。
先ほどまで元気に喋っていたナナシが静かになったことで一瞬の静寂が訪れる。
その時にふと先ほどのアクアの言葉を思い出す。
「……なあ、アクアの蘇生魔法じゃ、もう俺って生き返れないのか?」
「え、ええ、そうよ! だから言ったでしょ、骨の1つくらい残しておきなさいって。どうして人がケラーの肉片もなく消滅しちゃうのよバカズマ」
「なあ、エリス様。このバカクアが言ってることは本当なのか? なんか世界のバグを利用した裏技だとか、抜け道だとか……」
「ええ、蘇生を試みようにも、やはり元となる肉体が焼き尽くされていては蘇生は……」
「うーん、やっぱ本物の女神様が言うんだから間違いじゃないのか……」
「ねえ、私のことは信用しなかったのにどうしてエリスのことは盲目に信用するのかしら? 私だって本物の女神なんですけど、私のことを偽物扱いするんだったら雨の日に洗濯物を外にほしっぱなしで外出しちゃう天罰を与えるわよ」
「ほん、もの……? …………フッ」
「うわあぁぁぁあああぁああ゛っ!!」
アクアの主張を鼻で笑うことで一蹴りする。
そもそもその天罰は俺だけじゃなくて自分を含む一緒に住んでるメンバー全員にしない被るんだからな。
もう少し頭を使って天罰を考えて欲しいもんだ。
そんなことを心で思うも、やはり通常の蘇生魔法で生き返れないことを知ってなんとなく心の中でモヤモヤとした感覚――憂いが生じる。
『魔王を討伐したらどんな願いでも1つ叶えてくれる』
そう言われて送り出されたあの日の言葉が今でも有効ならば、俺が生き返ることなんて簡単にできるだろう……多分。
もし有効じゃなくなってたり、はたまた展開規定に反するとかで体のないやつを生き返らせること自体が禁忌だったら無理だろうが。
まあそういう時は「この世界の全部を俺のものに」とか言って、無理難題をふっかけてからまだマシかと思われるこの願いにシフトしていけばきっと大丈夫なはずだ。
だがしかし問題の本質はそこじゃない。
俺の元々の計画では、俺は生きてて、もしくはアクアの魔法で生き返れる状態で、死んでしまったナナシを魔王討伐の報酬で生き返らせるっていう算段だったんだ。
自分がいつも通りの蘇生で生き返れないと、元々俺が考えていた作戦が使えなくなる。
泣きわめき散らして騒々しいアクアのことを放っておき、俺はエリス様に向き直る。
そんな俺の心のゆらぎを感じとったのか、エリス様は一瞬くらい表情をしたが、すぐにその表情は優しいものへと変わる。
「カズマさんの憂いは存じております。実は、そこでご提案があるのです」
「提案?」
「はい。魔王……ではないのですが、世界を滅ぼしうる存在を討伐していただいた多大なる功績を持つ存在をそのまま転生させるというのは、何と言うか、粋な計らいではないので、別の選択肢を提案させていただきます。カズマさん、体を得て、もう一度この世界に降り立つ気はありますか?」
それを聞いたアクアはパアッっと顔を明るく輝かせる。
確かにまだ若い俺が天国っていうのはまだ早いし、記憶をなくして転生っていうのはなかなかに躊躇するところがある。
未練というのはなんか違う気がする、俺はまだもう少し、あのろくでもない世界でみんなと笑ったり泣いたりして面白おかしく暮らしたい。
天国とか転生とかっていうのはそれが終わってからでも遅くはないだろう。
何と言うか、何の面白みもない普通の回答になってしまうが……
「エリス様、俺をあのろくでもない世界を送ってください。せっかく世界を救ってみたんだ。周りの人が俺のことをどういう風にチヤホヤするか楽しみで仕方ないし、よろしくお願いします」
「全くどうしてあなたという人はふざけないと気が済まないんですかね……」
「すみませんがあんまり堅苦しすぎるは好きじゃない性分なもんで。副団長さんもそうでしょ?」
「確かに、その方が私たちらしいかもですね。……分かりました。それではあなたの選択、しっかりと聞き入れましたよ」
俺の迷いのない返事を受け入れてエリス様が嬉しそうに笑みを浮かべた。
もちろんアクアも俺がそうすることを分かっていながらも大層嬉しそうな様子でいた。
そして俺も計画を実行に移せることを心の中でにやりと喜び、こう言葉を発しようとして――
「さあ、そうと決まったら早くみんなのところに帰ってあげないとね! エリス、ちょちょいとはあれな力をあれして、お城にいるみんなのところへ送ってちょうだいな! きっと、突然消えた私を心配しているんじゃないかしら、早く戻ってあげないとね! カズマが生き返った祝いに宴会しましょう宴会!」
そんなことを意気揚々と言って浮かれているアクア。
しかし、それにエリス様は困ったように眉をひそめ。
「先輩、申し訳にくいんですが先輩はもう、こうして天界に帰ってきたわけですし、日本担当の先輩はこの世界に降りることは……そ、そんな目をされてもこればっかりは私にも……! あっ、やめてください! 先輩、パッドを取ろうとしないでください! ダメですよ、そんなことをされたってダメなものはダメなんです!」
「ちょっと聞きたいことあるんだが、エリス様のその胸ってやっぱりパッドなんですか?」
「それを今聞くことですか!? 何でカズマさんはそんなに余裕そうなんですか! そんなに余裕あるんだったら私のこと助けてくださいぃーっ!」
エリス様の胸に手を突っ込んで無理やり何かを引っ張り出そうとするアクアに全力で抵抗しているエリス様が顔を赤くしながら涙目でそんなことを言ってくる。
や、だって気になったんだもの仕方がない。
もしかしたらエリス様の胸の秘密を解き明かしたらば俺のあっちの世界での未練はなくなって昇天できるかもしれない。
そんなバカなことを考えているとエリス様に睨まれることがなくなったナナシはここぞとばかりに口を開き。
「ちなみだが、さっきまで現世にいた神様を転生特典として連れて行く……という算段を持っていたのだろうが、その場合、某より後から来た女神、詰まるところアクアが特典の対象となるのでな」
なんでこいつは俺の心を読んでくるんだろうか。
まあ今更か。
しかし、その言葉が本当なら困ったことになったぞ……
「あの、エリs…………おいアクア、そろそろそのパッドを早く回収してわちゃわちゃするの終わってくれよ! エリス様に話があるんだが」
「ちょっと待ってください! どうして私のパッドを奪う方向になっちゃってるんですか! あっ、ちょっ! 先輩、カズマさんに許可されたからって本気で掴みかかってこないでください! 別に免罪符でも何でもなあぁあああぁあああっっ!!」
「えぐっ、ぐすん……」
「ちょっと、いつまで泣いてんのよ。カズマにスティールされないだけありがたいと思いなさいな。真っ先にパンツが取られるわよ」
「ありがとうございますアクア先輩……」
「後でもう少し慰めてあげるから、私もエリスの管轄の世界に介入できるようになんとかしてみなさい」
「それはムリです……」
何でアクアに感謝してるんだろうこの女神様。
まるで俺がエリス様のパンツをスティールしようとしたのをアクアがパッドのみを取ることで阻止してたみたいな話し方じゃないか。
俺はそもそもスティールを繰り出そうとしてないし、やるならさっさとやってくれって意味でさっきの言葉を出しただけなんであって、決して邪な思いはないのである。
ないのである!(強調)
ようやく泣き止んだエリス様は涙を拭い、少し腫れたまぶたで気を取り直して俺の方を向くと。
「すみません取り乱してました……」
「取り乱してたっていうか、乱れてたっていうか……なんかこっちもすんませんした」
「いえいえ……それより、一体何の話をしようと?」
「ああ、それに関してなんですけど。俺がこっちの世界に転生した時にアクア――の代役を務めてくれた天使にこう言われたんですよ。『魔王を討伐した暁には、神々からの贈り物を授けましょう。そう。世界を救った偉業に見合った贈り物。……たとえどんな願いでも。たった一つだけ叶えて差し上げましょう』って」
「……どんな願いも、というのは少々語弊があるのですが、神界でも常識的な範囲であれば」
「その……神様を二人転生特典につけるっていうのはできますかね?」
エリス様は俺の言葉が予想外だったのか一瞬目を丸くする。
一方のアクアは、俺の願いが聞き届けられれば自分は天界からまたの世界に戻れるということを知り、俺の言葉を聞いて心の底から嬉しそうに、これ以上ないくらいにアクアが目を輝かせた。
……しかし、嫌な予想というものは当たるもので、ナナシが先ほど言っていたように、なんとかとんちを効かせてアクアとナナシの両方をあのろくでもない世界に連れ去ることはできなそうだ。
エリス様が残念そうに首を横に振る。
「もちろん、転生特典を改めて選ぶというのは可能です。先輩が特典から外れてしまったのでそれは可能なのですが……」
「やっぱり特典を2つ以上っていうのはちょっと難しいですかね」
エリス様がこくんと首を縦に振る。
だよなぁ。
薄々そうなんじゃないかっては思ってたんだ。
でもそうしたら俺はアクアとナナシのどっちか片方を選ばなきゃいけないってことになる。
悩ましい、実に悩ましいことだ。
俺が頭をひねって唸っていると、何を勘違いしたのかアクアたちが。
「ねえちょっと! もしかしなくても私とのじゃロリちゃんでどっちを連れて行くか迷ってるとかじゃないでしょうね! 別にのじゃロリちゃんが嫌いってわけじゃないけど、私とどっちを取るかって言ったらもちろん私を選んでくれるわよね!? 私たち二人の関係ってそんなものだったのかしら!?」
「そそそ、そうだぞカズマくん。某よりアクアのことを選ぶんだ。別に某との関係がアクアとの関係より薄いなどとは言っていないが、こちらの女神様を見てみろ。今にも泣きそうではないか」
「どうやって両方連れ帰るかを考えていただけなんだが……」
俺のそんな言葉を聞いてアクアはほっとしたような表情を浮かべる。
珍しくうろたえていたナナシは、自分のせいなのにもし自分が特典として選ばれてしまったら罪悪感が……とか思ってたのだろうか、額の汗を拭うような動作をし。
「しかしな、本当に某のことは気にしなくてもいいのだぞ? 今回の出来事に関しては過程に関しても結果に関しても、一切の後悔なし。故に反省もして――」
「ナナシさん」
「うっ…………は、反省もしていない! 今回の出来事に関して一番満足しているのは某だろう。神なら神らしく、天の国から見守ってやる」
「いや、反省しなさい!」「反省しろよ!」
何と言うか、不器用が不器用なりに俺たちに気を遣ったのか、胸をそらせてそんなことを言ってきた。
しかし反省していないのは本当のように感じ、マジで今回のことに関しては反省してくれと俺とエリス様は怒りをあらわにする。
しかし同時に、ナナシのことを生き返らせてやろうと思ってたのに、あの騒がしくてちょっと大変だが面白おかしい日常を構成していた1人がいなくなるのを思うと悲しみの感情がわいて出てくる。
「今回の出来事で犠牲となったのは某のみ。そもそもこうして意識を保てておるし、犠牲というほどの損害でもないがな。ちょっとばかし信仰心が欠如したせいで下界に降りることは叶わぬが、いつか信仰心が戻ったその日には肉体を手に入れまたあの世界に返り咲こうぞ」
そんな俺の悲しみをよそに何食わぬ顔で飄々としているナナシ。
ぬかに釘とはこのことか。
何も言っても聞かないと言わんばかりのその人に呆れてしまうが、「またあの世界に返り咲こう」という言葉を聞いてなんだか悲しみも怒りも何もなくなってしまった。
俺らしくもなくダンジョンの底であんな戦闘をして、あんなに辛い思いをしたのに、全く不思議なもんだ。
「エリス様、1人だけなら連れてっていいってことですよね」
「ええ、そういうことです」
「じゃあ俺は――」
俺が選択をし、転生特典と一緒にあの素晴らしい世界に帰ろうとした時、にやりとナナシが笑うのが見えた。
そして……
あんなことがあってから数日が経った。
あの戦いのせいで多くの設備が破壊されたり機能を停止したりしたが、紅魔族の皆々様のおかげですでに復旧済みという。
アイリスは自分のことを手伝ってくれた紅魔族の皆に感謝の言葉を述べたいと言ってたが、どこの誰に似たんだか「感謝の言葉など無用だ。我々は我々の任務を遂行しただけのこと……」とか言って魔法を唱え姿を消したのだ。
一応テレポートではなくてライト・オブ・リフレクションだったと言っておく。
俺としてはそんなことより、俺がエリス様と一緒に皆がいる王城に帰ってきた時、「まさかナナシを倒したのか!?」と驚いていた皆の顔が忘れられない。
「カズマはやるときはやるやつだと思っていた」とか言ってきたダクネス。
「私は信じていましたよ、きっと生きて帰ってきてくれると」とか言ってためぐみん。
……せめてしっかり俺の目を見てからそういう答え言ってもらいたいもんだった。
そう言いながらも俺の生還を喜んでくれたことに関しては嬉しくないことはなかったと言っておこう。
その後、めぐみんの爆裂魔法で一回死んだことを話し、なぜか転生特典として選んでいないのに光の柱と共にこっちに降りてきてしまった泣きじゃくるアクアに驚いたり、ダンジョンと天界で行ったナナシとのやりとりを打ち明けたり……
「どうして私を選ばなかったのよぉぉおぉおぉぉっ!!」とか。
「先輩はどうして勝手に降りてきちゃってるんですか!」とか。
「私の爆裂魔法で死んだなんて嘘ですよね!? それに師匠はどちらにいるのですか!?」とか。
「どうしてエリス様が一緒にいらっしゃるのだ!」とか。
「魔王討伐したら王族はその人と結婚するのが習わしなのですが……」とか。
……とにかく夜も寝れないほど多くの質問攻めにあったりしたが、そんな騒がしい日々もあっという間に過ぎ今日に至る。
そんな今日は先日の戦いが終戦し、それを受けて王族から国民に向けて声明をする日だ。
会場には厳かな静けさが漂っていた。
新たなる時代の幕開けを告げる重要な瞬間が今、始まろうとしている。
「皆の者、耳を傾けてほしい」
静寂を破るのは、国王の力強い声。
その声には、王の確固たる決意と覚悟が宿っていた。
この時のために、人類は長い月日を費やしてきた。
戦争の痛みを知り、和平のために戦ってきた。
その努力が、今日のこの瞬間を迎えることで実を結ぶのだ。
「長きにわたって続いた戦いは、ようやく終わりを迎えた。魔族と人族は互いに傷つけ合い、多くの命が失われた。家族を失った者、友を失った者……その悲しみは並々ならぬものであろう。決して忘れられぬそれは我々の胸に深く刻まれておる、魔族を恨み、殺すべきだ…………と。しかし、その時代は今日、今、この瞬間に変わる。第一王女アイリス、我が前に」
国王の言葉は、会場全体に響き渡る。
その一つひとつが、戦争の残酷さを思い起こさせるものであり、多くの者が黙ってうなずき、共に感じる痛みを共有していた。
しかし、互いを恨む時代はもう終わるのだ。
玉座に並ぶのは、新たなベルゼルグ王であるアイリス。
その前には、数多の身分を問わず国民たちが揃い、期待と緊張が入り交じった表情を浮かべていた。
荘厳な雰囲気に包まれた大広間が注目するのは、その国王がかぶっていた冠。
今日のこの場は、ただの儀式ではない。
人族と魔族が手を取り合い、新しい時代を迎える象徴的な瞬間だ。
王冠の継承式。
それすなわち王位継承を意味する。
長く続いた戦争が終わり、新たな平和の時代の幕開けを迎えるために、今までの王が、その地位を後継者たちへと譲り渡すのだ。
王冠を継承することで、アイリスは、新たなる王としての責務を担うことになる。
それは魔族も同じようだが、未だ復旧しない魔王城の修復に忙しいようでまだ先のことになるだろう。
アイリスが一歩ずつ一歩ずつ、玉座に進む。
彼女はベルゼルグ王国の王位継承者として、若くしてその責務を引き継ぐことになった。
長きにわたって王国を守り続けてきた先代王の背中を見て育った彼女は、まさか自分がこんな重責を背負うことになろうとは思ってもみなかっただろうが、決意秘めたその瞳は凜々しくあった。
そこにあるのはただの野心ではない。
王国と民を守るという強い責任感と、未来への希望が映る青の瞳だ。
「汝、ベルゼルグ・スタイリッシュ・ソード・アイリスは、ここに新たなる王として、私からこの王冠を継承する」
「……すべての国民のため、あらたな時代を切り開くため、そのお役目、頂戴いたします」
彼女の声は広間全体に響き渡り、その言葉には決意が込められていた。
玉座に置かれた王冠がゆっくりと彼女の頭上に乗せられた瞬間、会場は静かな感動に包まれた。
アイリスの姿は、ただの王族の娘ではなく、真のリーダーとしての風格を備えていた。
「この王国の民よ、私たちは長い間、戦争という苦しみを経験してきました。しかし、今こそ、その時代を終え、新たなる時代を迎える時が来ました。人族と魔族が共に手を取り合い、共に未来を築いていくのです!」
彼女の短いながらも意思のこもった言葉に、会場からは拍手が起こる。
その姿は、希望の象徴として皆の心に刻まれた。
しかし、一部の批判的な声もあるには違いない。
それはそうだ、今まで傷つけ合ってきたもの同士がいきなり仲良くしろなど、親しい人の敵だったかもしれない奴らとどうやって手を取り合えというんだと。
そんな決して言葉には出ない国民の声に対してアイリスは。
「私は……いえ、今後王位を継承するだろう私の友人である魔王の娘とともに、新たなる時代の王として、共にこの世界を導いていきます。」
ここで、彼女の声は少し柔らかくなる。穏やかながらも感謝の念が込められている。
「終戦に至るまでの道のりにおいて、家族を恋人を友人を傷つけられた方もいるでしょう。しかし戦いの時代は終わったのです、『名無しの神』の手によって。その存在は、誰もが知るべきものではなく、表立って賞賛されることもありません。しかし、その御柱のおかげで、今まさに私たちは外敵からの脅威におびえず学校に通い、職場で働き、何者にもおびえず人生を謳歌することができるようになったのです! 今まさに私たちが体感している平和は神様が与えてくださったのです」
彼女は軽く頭を下げ、敬意を表した。
名無しの神とアイリスは言っているが、王都に住まう誰もがその呼び方を聞いて1人の人物を思い浮かべる。
強力な結界で王都を覆い、魔王軍の進行を防ぐための兵器をもたらしたり、王女様の影武者をやっていたり……
それぞれの人々が思う役職は違うものの、その何も知れぬ人物は確かに存在しており、私たちに益をもたらしたのだと、会場の全員が同じように黙礼し、その名も知れぬ神に感謝を捧げた。
「今はお隠れになられたその方に、心からの祈りを」
言葉が終わると同時に、静かに祈りを捧げる者たちが続いた。
無言のうちに、それぞれが心の中で感謝の念を捧げたのだ。
その空気は、厳粛でありながらも温かさがあった。
アイリスはその瞬間を静かに見守りながら、続けた。
「今、私たちはその方の名の下に、訪れた平和をかみしめているのです。そしてそのお方は私たち人類だけではなく、私たちが敵対していた魔族に対しても同じように平和をもたらすため、人類と魔族、全てを敵に回し、2つの種族を競争するように持ち込んだのです。そんな偉大なる神の行動を無碍にできないないからこそ、私は魔族と手を取り合い、新しい世界を築くことをここに誓うのです。これからは、人族と魔族が互いに手を取り合い、共に未来を歩んでいく時代が訪れるのです。私たちの手で作り上げるのは、争いのない平和な時代」
彼女の言葉に、次第に感情がこもっていく。
それはただの理想論ではなく、確かな現実として人々に響いた。
「この新しい時代の礎を築いたのは、戦いではなく、希望です。そしてその希望をもたらしてくれたのが、今はお隠れになられた名無しの神です。私たちはその方の意思を受け継ぎ、この世界をより良くしていく責任があります。長きにわたり、戦いに身を投じてきた私たちですが、今はその時代を終え、新しい道を歩むことを決意しました。これからは良き隣人として、共に繁栄する未来を築いていくのです」
その宣言に、会場からは静かな感動のざわめきが広がる。
「共に手を取り合い、新たな世界を築いていく。人族も魔族も、互いに違いを尊重し、共に成長する。これこそが、私たちが目指す未来です。……互いを傷つけることなく、互いを支え合う時代となることを目指して、ここに王位と王としての責務の継承を宣言します。そして、もう一度、我らが主神エリス様の友人であらせられ、平和の礎となった名無しの神に、永遠の感謝と祈りを」
その瞬間、会場は静かに、しかし力強い拍手で包まれた。
それは、新たな時代の幕開けを祝うと同時に、失われた多くの命と、未来への希望を象徴するものだった。
こうして、ベルゼルグ王国の新王アイリスと、新たなる魔王となった八坂の娘は、人族と魔族が手を取り合い共存する未来のために、共に新たな道を歩み始めた。
長き戦いを終え、平和と共栄の時代が始まる。
その象徴としての王冠の継承は、この世界にとって新しい希望の灯火となったのだ。
「おお、さすがアイリス。我が妹ながら素晴らしいスピーチだ! お兄ちゃんは感動した、猛烈に感動したぞ!」
「カズマ、静かにしていてください。なんか向こうの王子様に睨まれてますよ」
「ねえねえ、どうして私のことを名無しの神とか言ってるのかしら? この戦いで一番頑張ったのって私よね? なんだかあの言い方だとのじゃロリちゃんが一番頑張ったみたいな話し方してるように聞こえるんですけど」
「みんな、本当に静かにしてくれ! クレア殿に切られたいか!」
アイリスの素晴らしいスピーチを聞きながらそんなやり取りをしている俺たち。
この国の第一王子とアイリスの護衛に目をつけられた気がしなくもないが、アイリスが平和な世の中を実現しましょうみたいな話をしてるのにいきなり切って来ようとはしないだろう。
俺は余裕を持って逃げるためにテレポートの詠唱を始める。
その間も、威厳を出そうと頑張っているも可愛らしい声に耳を傾け、最後の最後まで愛する妹の記念すべき日を脳に刻み込もうとしたが、「ちょっといいですか?」と邪魔してくる声が。
俺はアイリスの言葉を聞くことに集中したいので、しかしその少女のような声を無視するわけにもいかず、アイリスの方を見たまま後ろの子に話す。
「それにしても、さっきから名無しの神だとか言って、一体これは何なのですか?」
「何って、アイリスの王位継承式だろ。まあ実はその裏に別の思惑があるんだけどな」
「別の思惑?」
「そう。実はこれの式典、俺が考えたナナシ復活のための儀式……あっ、ナナシってのが名無しの神って呼んでるやつのことな」
「もしかしてお兄さん、その神様と知り合いなんです? それとも邪神を復活させたい邪教の類ですか?」
「いやいや、そんな危ないやつじゃないよ。ナナシってのは一応俺の恩人でな。というか聞いてたと思うが、人間と魔族の仲をなんとかするために体張りすぎて死んじまったんだよ。全く何やってんだか」
本当に我ながら何やってんだか。
とりあえず天界でのやり取りを思い出しながら、ウォルバクさんとかエリス様から助言をもらい、どうすれば復活するかを考え……
信仰心が集まれば、神様は神気を物質化し、この世界に顕現できるとのことで、今現在アイリスには信者を増やすためのスピーチをしてもらっているところだ。
大衆の前で王族という権威の象徴が話すことで、それが単なる与太話ではなく実話となり、人の思いが形となる。
だから俺もめぐみんの復活を願うその想いと大勢の人からの信仰心でナナシを復活させようとしていたのだが……
「ごめんな、お嬢ちゃんには何も関係ない話だったな!」
「確かにそうかもしれぬ。しかし汝らにとって大切な存在なのだろう? ならば某も祈っておいてやろう」
「おっ、ありがとな! ついでに信者になってくれるともっと嬉しいんだ、が……」
俺のすぐ後ろで祈りを捧げている少女。
口調に違和感を覚え見てみると、どこか見覚えのある金髪碧眼。
「嗚呼、遠く遠く遙か遠くの天の存在よ。見えていないのであれば某が居場所を示そうぞ。霽れた昊を轟かせ、想いよ届け」
皆さんは『中二病』という言葉をご存知だろうか。
思春期を迎えた中学二年の頃にかかってしまうと言われる、形成されていく自意識と夢見がちな幼児性が混ざり合って、おかしな行動をとってしまうという……アレだ。
今までマンガだけだった奴がいきなり英語の原書を読み始めてみたり、コーヒーの苦味も何も分からないのにブラックに拘ってみたり、自分には特別な力があると信じて、オカルト系におもいっきり倒れこんでみたり――
「『エクスプロージョン』ッッ!!」
とにかく、頭がおかしい、恐ろしくも愛すべき奴らなのだ。
私の中二心を『エクスプロージョン』ッッ!! 完結
本当に、毎週小説を書くことを癖づけるだけの小説だったのに気づけば160話超えており自分自身も驚いております。
長い期間、お付き合いいただきありがとうございました!
どっち!
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共栄