「──クレア。お前、デカくなったな」
「え?」
果実を食べていた手を止めて、思わず振り返った先ではテレサが顎に手を当ててまじまじとクレアのことを眺めている光景があった。
「人間の数年は大きいと、知っていたつもりだったんだが……。毎日一緒にいるから、気がつけなかった。知っているのと実際に経験するのはまた別だな」
座ったままのクレアを後ろから抱きしめているテレサだったが、クレアの頭に手を当てて自分の胸の高さを比べている。少し間が抜けていて、なんともテレサらしくもない仕草にくすくすと思わず笑みが溢れる。
「な、なんだ。そんなにおかしいか?」
「ううん。違うの」
違うと言いながら、それでも笑いは止められない。
くすくすと笑い続けるクレアにバツの悪そうな顔をしたテレサが頬を掻く。
「まぁいいか。そろそろ次の街に着く。そうすれば、また宿にでも泊まって良いもの食わせてやるよ」
「テレサも一緒にね」
「ああ、一緒にな」
言い合って、花が咲くような笑みを浮かべるクレアと、なごやかに微笑むテレサの日常だった。
街にたどり着いたクレアとテレサを出迎えたのは妖魔とそれに襲われる少年。それを遠巻きに眺める町人たちという、悲惨な光景だった。
確かに悲惨ではある。
けれど、この世界ではありふれた珍しくもない光景でもあった。
これまでに何度も行ってきたように、クレアは外套を被ったままのテレサの裾を引っ張る。上目遣いのクレアの眼差しには信頼感が強く灯っていた。
だから、そんな軽い仕草だけで、テレサは『わかっている』と言うように微笑んでクレアの頭を優しく撫でた。
そして、その足を悠々と妖魔の前に進める。
テレサが手に握るのはクレイモア。
合わせて、払われた外套の下から現れた銀髪銀眼の美貌に周囲のどよめきが走った。
「まったく……せっかくこの街で落ち着こうと思っていたのに、お前のせいでだいなしだよ」
ともすれば、それは油断とも言える仕草と口調ではあったが、油断というのはそれを相手が突くからこそ意味がある。
テレサに限ってそれは、油断ではなく余裕と呼ぶのが正しいだろう。
「面倒ごとはゴメンだ。とっとと片付けるに限る」
まさしく一閃と呼ぶべき邂逅で、その戦いとも呼べない僅かな交錯によって妖魔はその身を半分に切り裂かれ、その身を散らした。
テレサが背にしまい込む、クレイモアの奏でる甲高い音色が呼水となったかのように、わっと歓声が周囲に溢れた。
その後に受けた思った以上の歓待に、以前よりは慣れたといえど、未だに目を白黒させるテレサだった。
「──久しぶりに、あんな歓迎されたな」
「ふふ、初めての時の、テレサのびっくりした顔も思い出しちゃった」
「ふん」
不機嫌そうに鼻を鳴らすテレサではあったが、怒ってなどいない。少し照れてるだけだった。
クレアにはそれがわかるから、なんの躊躇もなくベッドに腰掛けるテレサの膝に飛びついた。
「っと。たく、お前はいつまで経っても甘えん坊だな」
「へへ。テレサ、大好き」
「……私も、大好きだよ」
膝の上で猫のように戯れつくクレアの後頭部に、テレサは瞼を細めながら唇を落とした。